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ICCサミット FUKUOKA 2019では、前回好評だったWORKSHOPシリーズの1つとして、「ブロックチェーン」のビジネス応用を参加者どうしで議論するセッションを予定しています。本レポートでは、そのプレ企画として東京で開催された「ICCブロックチェーン・ワークショップ」の模様を全2回でお届けします。(その1)はレクチャー編。世界で商用化が進むブロックチェーン・プラットフォームの数々を、IBMの高田充康さんに解説頂きました。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2019は2019年2月18〜21日 福岡開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
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【開催情報】
2018年12月4日開催
ICCブロックチェーン・ワークショップ Supported by IBM Blockchain
(場所:ラクスル株式会社)
【ご参加いただいた方々(五十音順)】
秋元 里奈 株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長
朝霧 重治 株式会社協同商事/コエドブルワリー 代表取締役 兼 CEO
石川 聡彦 株式会社アイデミー 代表取締役CEO
沖本 裕一郎 株式会社トクバイ 取締役COO
菊池 新 株式会社ナビタイムジャパン 取締役副社長 兼 CTO
柴田 可那子 寺田倉庫株式会社
高田 徹 Zコーポレーション株式会社 取締役 パートナー
手嶋 浩己 XTech Ventures株式会社 共同創業者兼ジェネラルパートナー
永見 世央 ラクスル株式会社 取締役CFO
堀 新一郎 YJキャピタル株式会社 代表取締役
吉兼 周優 株式会社Azit 代表取締役 CEO / デザイナー
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来年2月開催のICCサミットFUKUOKA 2019まで、残すところ3ヵ月となりました。
次回サミットでは、前回好評だった「WORKSHOP」シリーズ(レポート記事参照)を大幅に拡充し、計11個のテーマのWORKSHOPを予定しています。その中でもぜひ注目していただきたいのは、注目テクノロジー「ブロックチェーン」のビジネス応用を参加者どうしで議論するセッションです。
そこで本レポートでは、次回サミットに向けたプレ企画として開催された「ICCブロックチェーン・ワークショップ」の模様を全2回に分けてレポートしたいと思います。
前半では、ブロックチェーンのビジネス活用事例を、後半ではテーマ別のグループ・ディスカッションの模様をお伝えします。「ブロックチェーンのビジネス応用にはどのような事例があるの?」「当日参加したいけど、どんな内容なの?」といった疑問にお答えできればと思います。
興味はあるけどブロックチェーンがどのようなものかよく分からない、という方はぜひ、日本アイ・ビー・エム社が提供する以下の解説動画もあわせてご覧ください。
▶ブロックチェーンとは何か?(出典:YouTube IBMJapanChannel)
「ICCブロックチェーン・ワークショップ」の目的
今回のワークショップではまずはじめに、日本アイ・ビー・エムの高田充康さんから同社のブロックチェーン分野における立ち位置とともに、本日のワークショップの趣旨をご説明いただきました。
日本アイ・ビー・エム ブロックチェーン・ソリューションズ 事業部長 高田充康さん
高田さん「IBMがブロックチェーンの事業を開始したのはおよそ3年前。日本では、当初は証券取引所や地方銀行のコンソーシアムなどの金融業界が中心でしたが、2017年より金融以外の業種からの引き合いが強まっています。
後ほどいくつか事例をご紹介しますが、世界的にもいくつかのブロックチェーン・プラットフォームの商用化が進んでいます。
▶参考:【開催レポート】IBMのチーフ・デジタル・オフィサー、ボブ・ロード氏と、デジタルイノベーションの重要性について白熱討論!(ICCラウンドテーブル Vol.1)
本日のゴールとしては、そうしたブロックチェーン・プラットフォームを先行事例として、異業種の方どうしのディスカッションを通じて、新しいビジネスの可能化を探っていただければと思います」
ブロックチェーンを「食の信頼」に活用する取り組み
次に高田さんより紹介いただいたのは、米ウォルマート社とIBM社が構築した、食の信頼を担うブロックチェーン・プラットフォーム「IBM Food Trust」の紹介動画です。
▶Walmart + IBM ブロックチェーン導入による食品安全管理(出典:YouTube IBMJapanChannel)
ある食品に安全性への不安が疑われたとき、流通経路をいかに速やかにトレース(追跡)し原因を突き止められるかは、消費者の安全はもとよりサプライチェーン全体の経済に大きく影響を与えかねません。
そのトレース作業ははどれくらい大変なものなのでしょうか? 例えばウォルマートの店頭に並ぶ1パックのマンゴーが、一体どこの農場から来たものかをトレースすることを考えます。
従来のフード・システムでは、生産者・加工業者・流通業者がそれぞれ独自の食品トレーサビリティ(流通経路の把握)に取り組んでいるため、通常の追跡方法では約7日間を要しました。一方のブロックチェーンを利用したシステムでは、要した時間はわずか2.2秒。
「IBM Food Trust」は業界全体に拡がるプラットフォーム
「IBM Food Trust」では、ロット番号などの商品情報を入力するだけで、その商品の生産元となる農場から店舗までの流通経路をわずか数秒でトレースバックすることができます。
次に、実際のデモ画面を見せていただきました。
上記の画面では、「L520」というロット番号のサラダが、右側に表示された5つの農園の野菜、2つの倉庫、1つの製造メーカー、3つの流通業者を介して、15の店舗に出荷されていることが分かります。
「IBM Food Trust」は、ウォルマートのみならず、業界全体のプラットフォームとして利用されているとのこと。直近では欧州小売最大手の仏カルフール社や、マクドナルドにパティなどを提供する米ゴールデン・ステート・フーズ社の参画も決定していると、高田さんは説明します。
高田さん「大事なのは、これはウォルマートが単体で保有している中央システムではなく、ブロックチェーンの分散台帳技術を用いたシステム、つまり色々なところに台帳が分かれて保存され、参画する企業間で瞬時に共有されるもの、ということです。
先ほどのデモでお見せしたようなサプライヤー各社は、必ずしもウォルマートだけに商品を納入している訳ではありません。カルフールやイオンにも納入しているかもしれません。そこに、このシステムをウォルマートだけで利用するのではなく、業界で1つの大きなプラットフォームとして様々な企業で利用する意義があります」
参加者の皆さま(左から、Zコーポレーション高田さん、ナビタイム菊池さん、XTech Ventures 手嶋さん
蓄積されたデータから「付加価値」が生まれる
ここで、YJキャピタルの堀さんから質問が挙がりました。
堀さん「Food Trustの開発コストは、御社とウォルマートのどちらが負担されたのですか?」
高田さん「最初はウォルマートさんにも開発コストを負担いただき、運用・保守メンテンナンスのコストはIBMが負担しています」
堀さん「だとすると、ウォルマートにはどういうベネフィットがあって、その開発コストはどこで回収するのでしょうか?」
高田さん「まずウォルマートさんのベネフィットについてですが、例えばこのシステムをカルフールさんが使用した際、プラットフォーム料金を頂くのはIBMであり、ウォルマートさんには一銭もお金は入りません。
このトレーサビリティの仕組み自体は、ウォルマートさんはあくまで業界共通のプラットフォームとして割り切っていて、コスト回収の観点ではむしろ、『バリュー・チェーン上に蓄積する情報をもとにした付加価値の提供』に注目しています。
次のスライドは、プラットフォームへの参加企業が増えることでその価値が向上するということを示しています。
小規模・短期的には、トレーサビリティや証明書の共有といったものが使用者のメリットになりますが、データが蓄積するにつれ、鮮度管理の情報や消費者データなどの付加価値を得ることができます。
例えばゴールデン・ステート・フーズ社は、高級バーガー向けに提供される生のパティの温度管理や輸送管理を流通のポイントごとに行うことで、その商品価値を担保し、物流を最適化させることで競合に対する優位性を示しています。
またカルフール社は、同社が扱うブランド品の「価値」をどう消費者に伝えてゆくか?といったところにこのシステムを使用を考えています。今後はこのシステムに消費者アプリを連携させるというアイデアがあります。
したがって、ウォルマートにしても他の参画企業にしても、トレーサビリティの部分というのはこのブロックチェーンシステムの価値の「一階建て」の部分、すなわち共通の価値に過ぎません。
この一階建て部分をベースとして、二階建て、三階建ての価値を消費者や顧客企業に提供していきましょう、というのが私たちの提案になります」
サプライヤー側にとっての導入コスト・ハードルとは?
次のスライドでは、米国において2018年に発生した食中毒問題を受けて、ウォルマート社が同社に葉物野菜を直接納入するサプライヤーに対して2019年1月までのブロックチェーンの使用を要請する書簡を送ったことが紹介されました。
ここで、トクバイの沖本さんから質問が挙がりました。
沖本さん「生鮮食品のサプライヤーの人たちにとっては、ブロックチェーンへの参画はITのハードルが高いように思うのですが、どのように進めているのでしょうか?」
高田さん「最初は、ITリテラシーの比較的高い大手サプライヤーにお願いしているのだと思います。しかしそれでは限定的ですので、おっしゃる通りサプライヤーの方々にどのように手間をかけずにデータを入力して頂くかはこれから大事なポイントです」
沖本さん「もう1つ考えられるハードルとして、サプライヤーがプラットフォームに参加するために何らかのチャージは必要なのでしょうか?」
高田さん「サプライヤーの方々にデータを入力して頂く分には料金はかかりません。自社以外のデータを閲覧したり、自社の商品がどのように流通しているのかトレースするときにのみ、プラットフォーム代金を頂く仕組みになっています」
続けて、XTech Venturesの手嶋さんが質問します。
「ブロックチェーンである意義」を考える
手嶋さん「ブロックチェーンであることの意義について伺いたいのですが、IBM Food Trustのシステムは、『色々なサプライヤーがいて、それを誰もコントロールしていない中で、入力されたデータが改ざんされない』ということ以外に、ブロックチェーンである必要はあるのでしょうか?」
高田さん「何らかの中央システムを主体としない、いわば『色のついていないシステムである』というところが、概念的に大きなところです。
ブロックチェーンの大きな2つの特性として『分散台帳技術』と『スマート・コントラクト』というものがありますが、この特性を活かせる領域は次のようにまとめられます。
大事なのは、一企業が単独で利用したり、非常に強いガバナンスのもとで運用したりするのであれば、それはブロックチェーンである必要はない、ということです」
商用化が進む業界ブロックチェーン・プラットフォーム
次に、商用化が進むその他のブロックチェーン・プラットフォームをご紹介いただきました。
① 国際貿易のデジタル化・効率化を目指す「TradeLens」
IBMがデンマークに拠点を置く海上輸送最大手・Maersk社と共同開発する「TradeLens」は、国際貿易のデジタル化を目指します。
国際貿易における大きな課題は、手作業が中心の、時間のかかる、紙ベースの多工程にわたる取引きです。『TradeLens』では、輸出者から輸入者に至るまでの各ポイントでデータを入力、共有することで国際貿易のペーパーレス化を実現します。
TradeLensの効果はペーパーレス化に留まりません。
高田さん「ブロックチェーンで貿易の取り引きデータが可視化されると、荷主さんにとっても色々がことが分かります。
例えばコンテナの保管料金が時間単位で課金されていた場合、『3日保管したので幾らです』と請求書が来ても、それを検証しようがありません。本当は2日しか保管していないかもしれませんよね?
ある消費財メーカーさんでは、TradeLensの追跡機能を活用して貨物請求書を自動作成する実証実験を行い、そうした過払いの削減を実現することができました」
TradeLensでは、すでにMaersk以外の海運業者、港湾、税関、陸運業者を含める100を超える事業者が参加を進め、実証実験として世界中で100万件/日、累計2億5,000万件ほどのイベントを処理しているとのことです。
② 中小企業向け貿易マッチング・プラットフォーム「we.trade」
次に紹介されたのは、欧州の10以上の銀行が共同で立ち上げたプラットフォーム企業「we.trade (ウィ・トレード)」の取り組みです。
高田さん「『we.trade』は、中小企業向けにクロスボーダー取り引きのビジネス・マッチングを提供するプラットフォームです。
例えばフランスの酒屋さんが、ネットで見つけたベルギーのビールメーカーと取り引きをしたいと考えたとします。しかしどれくらい信用のある企業かお互いに分かりません。売る側からしてみればお金をもらってから商品を送りたいでしょうし、買う側からしてみれば商品が届いてからお金を払いたいと思います。
そこで『we.trade』では、欧州の各銀行が共通の台帳をもつことで本人確認をプラットフォーム上で行えるようにし、信用を担保するという仕組みを構築しています。契約はスマートコントラクトで自動執行されますし、取り引きデータも改ざんのできない形で保存されます」
課題は「正しいデータ入力」と「物理的な不正の防止」
このように食品、貿易、金融など多方面で商用化が進むブロックチェーンですが、「その単独利用には限界がある」と高田さんは語ります。
高田さん「ブロックチェーンでは一旦入力したデータを改ざんすることはできませんが、物流への適用ではそれが物理的な“モノ”とリンクしてくるので、データが正しくても、モノがすり替わってしまう可能性には対処できません。
そこでIBMでは現在、ワインなどの液体については物流のポイントごとでスマホカメラで商品を撮影し、その光学的な特徴をブロックチェーンに入力することで物理的な不正が行われていないか検出する仕組みを構築しています。
さらに、商品に1ミリ四方の“塩粒大コンピューター”を忍び込ませて商品の識別を可能にしたり(※)、薬剤のすり替えや服薬のトレーサビリティのための食用インクなどの実用化に向けた開発も行っています。
▶参照:世界最小!ブロックチェーンを物理領域に持ち出す、塩粒大のコンピューターとは(mugendai Sponsored by IBM)
これまで述べてきたように、ブロックチェーンのビジネス応用の技術的課題は、『いかに正しい情報を入力するか』、そして『モノのすり替わりをどう防ぐか』という、リアル領域における課題となっています」
実証実験が進むブロックチェーン・プラットフォーム
次に、実証実験段階のプラットフォームをいくつかご紹介いただきました。
① 医薬品在庫の薬局間取引きプラットフォーム
まず1つめは、日本での取り組み。今やコンビニよりも多いとされる調剤薬局ですが、その85%は個人経営の小さな店舗であり、医薬品の在庫が生まれても大手チェーンのように店舗間で在庫を融通できないという問題があります。
このプラットフォームでは、そうした課題を解決するために、ブロックチェーン技術で各薬局の医薬品在庫管理と薬局間の売買取引きを可能することを目指しています。
▶詳細は、にてブロックチェーン北海道イノベーションプログラム(BHIP)による解説動画 (YouTube)よりご覧いただけます。
② Car eWallet決済プラットフォーム
2つめは、欧州における「Car eWallet」という決済プラットフォームです。電気自動車や自動運転車の将来的な普及に見据えたとき、無人でのバッテリー充電に伴う決済シーンが考えられます。
そこでこのプラットフォームでは、自動車を1つの“ウォレット”に見立てて、自動車がパーキングに駐車したり、充電ステーションを利用したり、あるレーンを走行したりというのを自動でブロックチェーン上に記録し、そのデータをもとにした自動的な少額決済を可能にします。
③ 成績証明書プラットフォーム
ソニー・グローバルエデュケーション社が取り組むのは、ブロックチェーンによる成績証明書プラットフォーム「SGE Blockchain」です。
学習履歴・成績を正確に記録し、透明性と耐改ざん性を実装したこのプラットフォームは、成績証明書の改ざんが横行する諸外国から非常に注目されているとのことです。
④ デジタルコンテンツ管理・デジタル広告の効果透明化
さらに「SGE Blockchain」の仕組みは、デジタルコンテンツの版権管理にも利用されています。ソニーグループ共同のプレスリリースによると、電子データの生成者・作成日時などの事実情報を改ざん困難な形で登録、証明するとともに、過去に登録済みの著作物を判別する機能を有するとしています。
また、インターネット広告代理店のデジタル・アドバタイジングコンソーシアム社は、ブロックチェーン証明による日本初のデジタル広告の効果透明化の実証実験を進めています。インターネット広告市場においては、複数のプラットフォーム間で広告配信数のレポートに差異が生じるという課題が生じています。
同プラットフォームでは、DSP、SSP、3PASといった広告プラットフォームからのログデータ等をブロックチェーンに記録・共有することで、レポートの相互閲覧・数値差分の検証を可能とし、公明性を担保したデジタル広告の運用をサポートするとしています。
ブロックチェーンのビジネス適用「7つの前提条件」
最後にレクチャーのまとめとして、高田さんから「ブロックチェーンのビジネス適用を考える際の前提条件」を解説いただきました。
ブロックチェーンのビジネス適用では、冒頭のウォルマートの事例にあったとおり、一社だけの参加では意味がありません。高田さんは、この点が一番重要だと語ります。
さらに、入力するべきデータが入手できるか? そして「緩やかにリーダーシップ」を発揮するプレーヤーがいるか? という点は、この後行われたワークショップでも議論のポイントとなりました。
参加者の皆さまによるワークショップのレポートは、後半をご覧ください!
(続)
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/浅郷 浩子/戸田 秀成
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