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2月17日~20日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、2月19日のDAY2、カタパルト・グランプリの模様をお伝えします。各カタパルトの上位入賞者たちを中心に優勝を競うハイレベルなプレゼン・バトル、動画も合わせて、ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
▶ICCサミット FUKUOKA 2020 開催レポートの配信済み記事一覧
ここ最近、ICCサミットではカタパルトが次々と増えている。
はじめはスタートアップとリアルテック、そしてこのカタパルト・グランプリだけだったものが、2018年に始まった、ICC サミット KYOTO 2018のCRAFTEDカタパルトの成功を受け、毎回ジャンル斬りのカタパルトのトライアルを続けている。
今回はAI、ソーシャルグッドのカタパルトを開催した。過去の実績では農業系、医療系もあった。これらの試験的カタパルトは、登壇者がプレゼンを行うものの、審査員や投票はなく、優勝を決めない形で、そのジャンルのショーケース的な側面が強い。切り口の幅広さや革新的な活動をしている起業家を紹介するような形だ。
カタパルト・グランプリでは、さまざまなカタパルトの上位入賞者や、その人達と並んで遜色ないプレゼンスキル、事業の成長を続けている起業家たちが登壇する。よって、過去のカタパルトやICCサミットで顔を合わせている人たちも多い。
和やかな中にただよう緊張感
早朝から始まった会場リハーサルには、顔見知りの登壇者たちがそこここで談笑している。
最後までプレゼンスライドを確認するMinimal山下さん、BnA田澤さん
コーヒーを手に談笑するinaho菱木さん、Minimal山下さん
1年前のスタートアップ・カタパルトで優勝のinahoの菱木 豊さん、一平ホールディングス村岡 浩司さん、1年前の優勝者のMinimalの山下 貴嗣さんの両CRAFTERDカタパルト優勝者が談笑している。
冗談を飛ばしてリラックスして見えるが、緊張感もある。
山下さん「だって今回のプレゼンが、人生2回目ですよ! この間が1回目でした」
▶1回目のプレゼンの模様はこちら
Minimalは、生産者と共に創る「Bean to Barチョコレート」で“本当の豊かさ”を追求する(ICC FUKUOKA 2019)【文字起こし版】
村岡さん「宮崎から来ると、福岡は空気が悪いですね。ゆうべは遅くまで練習していたので、あまり寝ていません」
▶世界があこがれる九州を!農業資源×伝統技術で“KYUSHU”の魅力を伝える一平ホールディングス(ICC KYOTO 2019)【文字起こし版】
山下さん「せっかくチャンスをもらっているので、やりきりたいです。ずっと夜中じゅう、ぶつぶつ練習していたから、ホテルの隣の部屋の人には、絶対にやばい人だと思われていると思います。気持ちが入ると声も大きくなってしまって」
そう言うと、山下さんも、村岡さんも再びプレゼン資料に目を落とした。最後の瞬間まで、どうしたら自分の想いを少しでも多く伝えられるかと、反芻している。
しばらくすると、カタパルト・グランプリのスポンサーであるAGSコンサルティングの廣渡 嘉秀さんがやってきた。宿泊しているホテルが山下さんと同じで、前夜に大浴場で鉢合わせたという。
山下さん「風呂に行ったら、廣渡さんや三星グループの岩田さん、ベースフードの橋本さん、みやじ豚の宮地さんとか、みんないたんです(笑)」
そこでカタパルトができそうなラインナップである。楽しく談笑していても、すぐに話はこれからのプレゼンの話になった。
山下さん「菱木さん、いろんなピッチコンテストで勝ちまくっているから、入賞はもういいじゃないですか」
菱木さん「ただ勝ちたいんだ!」
笑いが起こるが、それが冗談でないことはみんな知っている。1年前に優勝したことで、自動収穫ロボットを開発する菱木さんのinahoは大きな注目を集めて、日本国内はもとよりグローバル展開もにらむ。
▶「inaho」はAI×ロボットアームによる野菜の自動収穫で“農業の未来”を変える!(ICC FUKUOKA 2019)【文字起こし版】
壇上ではリハーサルが進んでいる。今回ICC初参加のGROOVE X 林 要さんは、プロダクトであるLOVOTと一緒に登壇する。林さんのプレゼンの7分間では、スタッフがLOVOTをステージに載せて、LOVOTが動き回ることになっている。
スタートアップ・カタパルトとはまた違う緊張感のなか、9時半ちょうどにカタパルト・グランプリが始まった。
新しい産業を創るという目標に近づいてきた
今回のカタパルト・グランプリには、チャットボットからアートホテル、医療、農業、在庫管理、プログラミング、ロボット、地方創生、チョコレート、パンケーキと、実にバラエティ豊かな10社が登壇した。
それぞれのサービス、プロダクトを説明するよりも、7分間の素晴らしいプレゼンをご覧いただいたほうが早いだろう。それぞれの分野でアイデア、事業ともに尖っている企業が、一覧できるものになっている。ぜひ当日の映像をご覧いただきたい。
投票の間には、AGSコンサルティングの廣渡さんからプレゼンテーションが行われた。
廣渡さん「今日聞いていて、一番変わったと思うことは、大企業や大きな組織とすでにつながっていることです。一概に提携がいいという話ではありませんが、 何年か前のコンテストとまったく違っていると思います。
カタパルト・グランプリに出られる方は、非常に洗練されていて、すでに大企業と一緒にできるくらいのレベルだと思うのです。
ICCサミットのプログラム冊子の最初に、”新しい産業を創る”とあります。その目標に近くなってきたのではないかと思います。
スタートアップのみなさんが、さまざまな形でコラボをして、新しい産業が本当に生まれるのではないかと思ってワクワクしています。
私たちは、マネジメントやビジネスソリューション、M&A、IPO支援でそれをお手伝いできればと思っています」
審査員たちの感想は…
集計用紙が審査員たちのテーブルから回収されると、チャレンジャーたちがステージに再び呼び寄せられた。集計を待つ間は、審査員からの感想がプレゼンターたちに伝えられた。
オイシックス・ラ・大地 髙島 宏平さん「僕は社会の役に立つのが好きなので、遠隔医療や農業は応援したいなと思いました。すごいテクノロジーだが役に立たないとプレゼンでおっしゃっていましたが、LOVOTは役に立つ可能性をすごく感じたので、ぜひそこを考えていただければ(笑)」
アクサ生命保険 安渕 聖司さん「みなさん接戦で、決めるのが難しかったですが、人とビジネスと将来の夢、社会のインパクト、4つの観点で見させていただきました」
日本マイクロソフト 西脇 資哲さん「実物があったり、デモ映像があったりと、非常にわかりやすいプレゼンテーションが多く、価値のある内容でした。事業が、持続的で健康的な社会という大きなゴールに添えられている。目的が大きいと、みなさんも共感してくれると思います」
リバネス 丸 幸弘さん「だいぶやばかったですね! 世界がいままだ見えていない感覚や、直感が広がっていくようなものが多くて、世界の流れが変わりそうだなと思って、非常に勉強になりました。ありがとうございました」
暁翔キャピタル 山口 功一郎さん「ビジネス的にいろいろな視点があって、これからいくつかとお話したいと思いました。個人的にはアートホテルにすぐに泊まってみたいと思いました」
インキュベイトファンド 村田 祐介さん「社会課題を解決するスタートアップを支援をすることが多いのですが、引き込まれるようなプレゼンテーションが多かったです。投資したいところがいくつかあった。個別にお話をしたいです!」
かものはしプロジェクト 村田 早耶香さん「恐れ多いのですが、末席に加えさせていただきました。素敵な事業ばかりで、今、感動しています。アイ・メッセージ、”自分が” なぜやるのか、というプレゼンが心に響いて、印象に残っています」
ティー・ロウ・プライス・ジャパン アーシバルド・シガネールさん「プレゼンのレベルが高すぎて、選ぶのにこんなに困るとは思いませんでした。もし入賞しなくても、頂点に近いということを、忘れないでください」
今回登壇したのは10組だったが、素晴らしいプレゼンが多かったということで、AGSコンサルティングのご好意から、優勝者以外の全登壇者にも、半年分のよなよなエールが送られることになった。
「よなよなエール」が到着したことを伝える、しくみデザイン中村さんのポスト
結果は速報記事でもお伝えした以下の通りとなった。
優勝「T-ICU」
第2位「Minimal」
第3位「inaho」
第4位「GROOVE X」
第5位 「トライエッティング」
優勝が発表されたとき、予想していなかった、という表情をした中西さんは、素のまま出てきてこう言った。
「会社を作って3年、順調に契約が増えてきました。最初は10回やって9回失敗していいやと言い聞かせながらやってきましたが、最近はそうもいかないと思うようになりました。病院もあるし、応援のメッセージをいただいていて、改めて頑張っていかなければいけないなと思いました」
さらりと言ったが、3年間の道のりの当初はどれだけ確率が悪く、事業の信念だけで続けてきたことかが伝わるコメントだ。
優勝者の中西さんには「よなよなエール」1年分(その他の登壇企業すべてに半年分)、その他の優勝商品は中西さん率いるT-ICUの総取りとなった。
強者10人のプレゼンの見どころ
動画を見る前に、どんなプレゼンだったのか知りたいという方のために、少しだけ内容をお伝えしよう。
プレゼンをするT-ICUの中西さん
今回優勝した、集中治療の分野にも遠隔医療を実現する“Doctor as a Service”であるT-ICUの中西さんは、集中治療専門医・救急科専門医・麻酔科専門医・日本DMAT隊員の肩書をもつ現役の医師でもあることが、プレゼンに強い説得力を生んでいた。
医師不足や医療格差という命の課題は、新型コロナウイルスの影響が強まるなか、日に日に現実問題となって社会に迫っている。それを応援したいという気持ちが集まった納得の1位である。
新風を吹き込んだのは、カタパルト初登壇となる2人、LOVOTが壇上を走り回ったGROOVE Xの林さんと、プレゼン中に簡単なアプリを作って見せて、いかにプログラミングが容易かを語ったしくみデザインの中村 俊介さん。両者とも課題解決や技術の側面もありながら、異なる切り口でプロダクトの魅力を訴えた。
プレゼンするしくみデザイン中村さん。異色の楽しげなプレゼンが目を引いた
AIによる在庫やシフト管理最適化というAaaS、SaaSを展開するトライエッティングの長江 祐樹さんもICC初登壇。開口一番「おはようございまーす!」と誰よりも明るい声で呼びかけて、裏方的事業のイメージを一新。導入後にはROIが従来手法との比較で30倍という驚きの実績も紹介し、5位に入賞した。
2位と3位に入賞したMinimal、inahoは、ともに入賞以降の変化・成長を伝えながらも、事業の必然性が非常に伝わるプレゼンだった。課題感の共有・共感こそが、よりよい社会の実現と事業の発展につながることをよく理解しているからだろう。
入賞を逃したが、2年前の福岡でのスタートアップ・カタパルトから着実な事業の成長を報告した、正答率95%のチャットボットサービスを提供するカラクリ小田さん、アート&インスピレーション経済のテコ入れを、ホテルという仕掛けから提案するBnA田澤さんも独自の存在感を放った。
田澤さんのプレゼン。スクリーンで見せているのはホテルの一室だ
チューブの中で効率よく細胞増殖を行う技術をもち、医療や創薬、食品への転用や低コスト化への挑戦を語ったセルファイバ柳沢 佑さん、おそらく観客の心を10人中で最も震わせた一平ホールディングスの村岡 浩司さんなど、いずれもグランプリを競うにふさわしい、ヒット曲満載のベスト盤のような1社7分、合計70分のプレゼンだった。
今は、新しい産業が生まれる夜明け前
表彰式が終わり、中西さんは映像コメントの収録で、優勝の感想を語っていた。
中西さん「どのプレゼンも素晴らしいと本当に思ったので、いただけるとは思っていませんでした。
1年前、まさに福岡のスタートアップ・カタパルトに登壇したときは2位でした。
▶【速報】AIとロボットで農業を変える!自動収穫ロボットのinahoがスタートアップ・カタパルト優勝!(ICCサミット FUKUOKA 2019)
そのときはinahoさんが1位で全部賞品を持っていかれたので残念だなと思っていたのですが、この1年間頑張ってきたのが、結果につながったかなと思っています。
ICCサミットに来ると多くの方にお伝えすることができるので、今回登壇のお誘いをいただいたときは、すぐにお返事しました。
医療はテクノロジーが遅れています。我々をきっかけにして、優れたテクノロジーを導入していけるような入り口になりたいと思っています」
一般人より、現場のほうがはるかに切迫感があるに違いないが、継続していくことが次につながると、あくまで落ち着いた口調で中西さんは語っていた。
審査員を務めたグリッド/吉野家の田中 安人 さんは、中西さんが優勝した理由をこう分析する。
「優勝した中西さんは、事業のほかにご自身も現役でやっていらっしゃって、リアリティと社会的インパクトが大きかったのではないかと思います。
カタパルト・グランプリとはいえ、投資規模ではこれからだと思うのですが、志の部分、新しい産業を創るというところでは一致している方々が集ってきて、その人達のクオリティが高いですよね。
すごく可能性を感じるし、魅力があるから、投資家の方も集まってくる。夜明け前という感じです」
新しい産業が生まれる、夜明け前。課題の最前線に立ち、よりよい社会を目指して、従来の方法にとらわれず解決を試みようとしている10人の登壇者たちが、全力を尽くしてプレゼンを終えた。その後ろや前には数え切れないほどのチャレンジャーたちがいて、新たな流れを創り出そうとしている。
そんなチャレンジャーたちの日々のたゆまぬ努力の一端を発射台として放ち、少しでも紹介することができれば、カタパルト・グランプリの意義がある。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成
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