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世界を標準にして、日本の産業を進化させる。アフターコロナのカタパルト・グランプリに見た意識の変化

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2月13日~16日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、ICCのさまざまなカタパルトの中でも最高レベルの登壇者が集い、クアンドの下岡 純一郎さんが優勝を飾ったカタパルト・グランプリの模様をお届けします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回400名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


2月13日~16日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、ICCのさまざまなカタパルトの中でも最高レベルの登壇者が集い、クアンドの下岡 純一郎さんが優勝を飾ったカタパルト・グランプリの模様をお届けします。ぜひご覧ください。

(本文)

今回のICCサミットでは、合計7つのカタパルトが開催された。そのなかでもDAY2の最初のプログラムであるカタパルト・グランプリは、過去のカタパルト入賞者や事業スケールや実績のある歴戦の猛者が集う、ICCのカタパルトの中でも最高レベルのカタパルトだ。

コロナ禍も4年目に入り、さまざまな規制が和らいできたこのタイミングには、かつてない登壇者たちが集まった。

「今回、多分審査員の方は、今さらピッチに出るのか?と思うような会社があると思います。時代は変わったということなんですよね。前回も昨日のスタートアップ・カタパルトもそうですが、すでに20億円資金調達したような人、企業が、わざわざ必死に練習してピッチコンテストに出るようになっている。

それはやはり1年前からのウクライナ侵攻で市況が大きく変わったことが大きくて、いかにマーケティング費用を抑えながら成長するかを考えるようになる。いかにその中で認知をされたいとか、採用が非常に厳しいなかで、経営者としてできることをやろうという努力が、ここに出ているのかなと思っています」

カタパルト・グランプリのオープニングでの、ICC代表小林 雅の言葉である。これに先立って、オフィスに来る方々の豪華さに、最初は打ち合わせかと思ったものだった。セッションに登壇するような方が次々にプレゼンのブラッシュアップや、リハーサルに来たのである。

11人のプレゼン本編映像

カタパルト本編、11組のプレゼンは、18分ごろから1人目のプレゼンが始まるこちらのライブ中継録画をご覧いただきたい。

結果はこちらの記事の通りである。

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このレポートは、登壇前後の模様を、初登壇の方々を中心にプレゼンのサイドストーリーとしてお伝えしていきたいと思う。

MATCHAが自らを見つめ直した3年間

過去にセッションのスピーカーとして登壇しているMATCHAの青木 優さんに話を聞いた。今回は、同じインバウンド業界からWAmazingの加藤 史子さんも登壇。この数年で最も厳しい状況に置かれた旅行業界から2組出ることは、「コロナ鎖国」終了の象徴のように見える。

一番手前に座っているのがMATCHA青木さん

青木さん「2020年からインバウンドが約3年間止まり、ようやく今、活動を始めました。僕たちが会社として新しい挑戦をすることを、ICCにいる日本最先端の方に届けたくて登壇することにしました。業界に対してもいいメッセージになればと思っています。

直近の1年間は多言語翻訳サービスの開発を進めていました。自分たちも欲しかったもので、情報発信に悩む地域や人の課題の解決に繋がると思って温めてきました。ずっとインバウンドが再開するのを待っていましたが、まさか3年も続くとは思わなかったです。

その間、加藤さん(WAmazing)と会っていない月はありませんでした。インバウンドってどうなの?って思っている人が多いと思うのですが、こんなに回復してきていて、可能性があることを、僕たちの事業を全力で伝えていきたいと思います。

今回の登壇は、MATCHAとして、業界として再始動するこれ以上はないタイミングだと思っています」

コロナ前はインバウンド業界、訪日外国人客数も右肩あがりに成長していた。そこで顕在化した情報発信における課題を解決するサービスを開発し、多言語での展開がどんな自治体や企業でも手軽に行えるようになった。

青木さんは過去に何度もセッションに登壇しているが、全く異なる緊張感を感じているという。

青木さん「全然違います。セッションを見れば見るほど、熱量がより自分に伝わってくるというか。ずっと登壇もしていたのですが、カタパルトに登壇する当事者になることで、本気度というか……人生を賭けている人たちがたくさんいるなと感じます。

本当に皆さんすごい方々ばかりで……やばい〜と…。スタートアップ・カタパルトに出ようとしたのですが、(ICC代表の小林)まささんに『いや、そっちじゃないでしょ』と言われて。

あちらに座っているCOOの齋藤と、連夜練習を重ねました。今日はそれを思う存分、自分の人生をさらけ出すつもりで話したいと思います」

プレゼンする青木さん

まるで自らも登壇するかのように来場した齋藤さんは観客席のど真ん中に座っていた。青木さんのプレゼン練習をこの日の朝も一緒にしていたそうだ。

齋藤 慎之介さん「一昨日に福岡に来たのですが、青木とその夜も練習して、昨日は練習を5時間ぐらい夜やって、今朝も、2、3回ランスルーしました。

いつも以上に気合いを入れて青木にやってもらい、その動画を全部社内に共有しています。今日の中継も見ていると思います。正社員で17人、もっと関わっているメンバーも多いですが、応援してもらえたらいいなと。

インバウンドが死んでいた3年間、僕たちの会社は本当に厳しかった。でも市場が戻ってきて、このチャンスをまた活かさない手はない。日本全体でこれから重要な産業になってくるし、サービスの紹介ももちろんですが、青木さん自身の思いやインバウンドにかける可能性を話せればと、最初の頃から話していました。

会社の風向きも変えるために、今回はよりメンバーも一緒に巻き込みました。今まで正直そういう巻き込み方をできていなかったかなと、反省した3年間でもあったんです。

強い組織は人が創っているものだと思うので、そういう意味でも、自分たちでもを振り返れた3年間です。ここがその集大成になればいいかなと期待しています。結果がどうあれ、必ず何かいいことが起こるだろう、そういうきっかけになるだろうなと思っています」

齋藤さんは創業メンバーではあるが、一度博報堂に就職して約3年働いたところで、一緒に行ったサウナで青木さんに戻るよう説得され、復帰して1年がたったころコロナ禍となったという。

齋藤さん「めげそうになりましたよ! 転職を考えたし、前の職場にいたら良かったかもと思いました(笑)。でもその時は会社や社会という視点を持てていなくて、自分の視点だけだったなと。先輩経営者や株主に相談したら、今の悩み方だと、どこの会社へ行っても同じになると言われたんです。

もっと死ぬ気で会社をどうしようか、業界をどうしようかという視点をもったらいいよ、というアドバイスをもらったときに責任感が舞い降りてきて、よし、ここで頑張ろう、と思ったんです」

「ライブ中継のツイートはハッシュタグ#icc_fukuoka2023でいいですか?」と、加藤さん

MATCHAの2人の話題にも出てきた加藤さんは、このカタパルトの中継URLを共有すべく自分のTwitterアカウントを開いていた。この3年間、青木さんらとともにインバウンド業界のつながりを強くしながら、売上98%減の自社に雇用を維持するために新しい事業を作り、精力的に発信を続けてきた。

コロナ禍真っ只中のICC FUKUOKA 2021で、直前に登壇者の欠席が出たときには真っ先に手を挙げて同じカタパルト・グランプリに登壇した。縮小する業界に対して、加藤さんの声は全く落ちることなく力強く、需要急回復への準備をまったく緩めていなかった。下のリンクはその時のプレゼンである。

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窮地に立たされた時に真価が問われるというが、まさに苦境のときに、他者にも、産業全体にも目を向けることのできる経営者たち。そんな経営者たちが声を上げ、日本を世界に紹介する事業を担うというのは、なんと心強いことだろうか。

日本からグローバル企業が出ない環境を変える

Hishab Technologiesのズバイア アーメッドさん(通称ズビさん)は、2022年の11月、バングラデシュで開催されたイベントSociety Co-Creationで出会った登壇者。ITリテラシーのないユーザーに”電話回線版アレクサ”、テレフォンバンキングのサービスを提供する。

ズビさん「過去に15分間でプレゼンしたことはあったのですが、7分間に短くしました。

今の世界でITリテラシーが足かせになってできないことが増えているのは明らかで、リテラシーのある方しか使えない。おじいちゃん、おばあちゃんはもう使えないですよね? それを解決したいんです」

にこやかなズビさんは、日本語も大変流暢だが、英語がわかる審査員が多いことから、ネイティブレベルの英語と、日本語のスライドのハイブリッドでプレゼンする。プレゼン前はフレンドリーに他の登壇者と話をしていた。

ズビさんの隣で直前まで話し込んでいたFUNDINNO大浦 学さんにも話を聞いた。大浦さんもまた、登壇者というよりは、審査員席にいる側の事業である。

大浦さん「逆にさまざまなスタートアップを見る側だったので、今まであまりこういう場に出たことがないんです。でも今回は新しい事業が立ち上がったので、ぜひ知ってもらいたいと出ることになりました。

我々は新しい金融を作っていく分野で、事業会社や金融機関、VCにも投資いただいているのですが、仲間を増やしていくことが重要なので、出ることで仲間集めをしていきたい。

失われた30年、アメリカからGAFA、中国からテンセントアリババが出てきて、日本からグローバル企業が全然出てこない。成長企業を応援できる仕組みを創ることが絶対に必要です。

今のようにITが発達した世の中だと、世界同時多発で同じようなビジネスモデルが生まれていきます。どんどん調達してサービスを広げ、全世界にそれが展開されていく。事業スピードをいかに速めるかは、資金調達が重要だと思っています。

シリコンバレーで始まればいきなり数億円を集められるけれども、日本からなら数千万円。スタート時点で成長速度が圧倒的に違うんです。前提としてもっと増やさないと、日本からグローバル企業は出せないと思います。

プレゼンする大浦さん

もともとシステム開発の会社をしていて、当時はまだそんなにVCはなかったのですが、その時に投資環境に問題意識を持ち、周りの経営者たちが資金調達がうまくいかず、潰れてしまう会社をたくさん見てきました。海外でインターネットを使って解決していくような流れが出てきたので、我々もやれるのではというところから始めました。

日本ではそもそも法律の壁が非常に大きく、整備されるのが遅れた部分があります。我々が最初だったのですが、それも法律の改正があってからようやくできたことで、それ以前は違法な行為でした。そこで海外に比べると約6年遅れてしまいました。

今は『スタートアップ育成5か年計画』で2027年度には10兆円規模というのがあり大幅な緩和もありますから、資金調達も投資もされやすくなっていくと思います。ロビー活動や、当局との話は続けながら、まだまだ規制は数多く、スタートアップが挑戦しやすくなるポイントはたくさんあるので、より使いやすい仕組みにしていく挑戦をしていきたいです。

スタートアップ育成5か年計画(案)(内閣官房)

グローバルへの挑戦を応援してほしい

ジョーシス横手さんは2位に入賞

ラクスルグループのジョーシスは、シリーズAで総額約44億円を調達している。知名度のある企業の新規事業であり、2023年春より海外・英語圏への展開も予定している。企業の中でも情報システム部が担うデバイスやアカウントの管理を一括で行えるようにしたうえで、その作業をまるごとアウトソースができるというサービスをプレゼンするのはCPOの横手 絢一さんだ。

横手さん「結構ニッチなプロダクトではありますが、広く認知していただきたいというところがまずありました。こういう場に来るといろいろな人に声をかけていただけたり、お話を伺えるので、よりサービスをブラッシュアップする機会になればいいなと思います。

サービスを通じて、社会課題や日本の課題にアプローチするというのが一番伝えたいことですが、加えてグローバルへの挑戦を出発地点に置いているので、挑戦を応援してほしいと伝えたい。

前職で起業していたのですが、最初は社長が入退社の管理をやらざるを得ないじゃないですか 。アカウントを作ったり、デバイスを買ったりもする。だから起業家の方は課題に共感できると思います。入退社の数や、どれぐらいボリュームがあるかによりますが、 個人的な体感では業務が半減します。

情報システムの方々が単調な業務でモチベーションが保ちづらく大変というのは、おそらくみんなわかっているけれど、あまり気に留めていない。でも自分が主語で考えてみたら辛そうだと、共感できますよね。それをストレートに解決するものを提供したら、みんなにとってよいことではないかと考えました。

グローバルを見てみると、一部のサービスで被っているところは海外でもありますが、でも情シスにフォーカスして、アウトソースまでやっているところはほぼない」

女性をテクノロジーでエンパワーメントする

グローバルを向く事業が多いなかで、国内に目を向けたメッセージを強く放ったのは、DROBEの山敷 守さん。出産後に職場復帰ができない女性スタイリストたちが、再び好きな仕事で自由度高く働ける環境と、パーソナルスタイリングを一般の人たちに開放するという、社会的インパクトを目指す。

プレゼンの中で紹介された動画の「元の職場に戻れるはずだったのに」というスタイリストの嘆きに、業界の労働環境と競争の厳しさが垣間見えた。テクノロジーによりスタイリストの復職を容易にすることは、近い将来のリアル店舗での労働力不足やオン/オフラインショッピングでの買い物体験を変えていくだろう。

リハーサルを終えた山敷さんに「動画が印象的だった」と伝えると、「ありがとうございます」と笑顔。ブレずに順調に成長している事業は、課題を解決するだけでなく新しい働き方が拡がっている証でもある。時短やノー残業の「働き方改革」とは違い、抜本的かつさまざまな課題解決を一挙に行う改革である。

現在DROBEにはスタイリストが150人いて、その1/3が育児中、フルリモート、フルフレックスで働いているそうで、今もなお、経験豊富なスタイリストたちからの応募が全国各地から集まっているそうだ。

ピッチの緊張感は、スピーカー登壇とは全く別のもの

ジョーシス横手さんと話すリチカ松尾さん

リチカ松尾 幸治さんも、セッションスピーカーとして前日のスポンサード・セッションに登壇していたが、このカタパルトではチャレンジャーとして登壇する。

松尾さん「僕、ピッチが初めてなんですよ。ここはベスト・オブ・ベストのカタパルトだし、レベルが違うと思います」

謙遜する松尾さんだが、カタパルト必勝ワークショップで見せたプレゼンや、ガーディアン・アワードのいきいきとしたアイデアにあふれたブースも含めて、リチカは今回のICCサミットでも大きな存在感を放っている。

松尾さん「100名強の組織です。僕がクリエイティブの制作会社を経営する中でスピード速く、量産したいというニーズがどんどん出てきて、課題だと感じていました。これは人間がやっても供給できないなと感じて、自分たちでプロダクトを作って展開することにしました。

作っていた側だからこそ、こだわりたいというのはわかる。そこでどうしたらこだわって作れるか、クオリティ高く作れるかというクリエイター目線をぎゅっと入れ込みました。かつ量産です。クオリティが低く見えないようにするのにはこだわっています」

サービスを知ってもらい、あわよくば商談したいという松尾さんだが「とくに成長フェーズの企業には、いろいろ試せるので非常に相性がいい」と、営業トークではなくスタートアップ側の目線で話す。ではクリエイティブを依頼するときに、何に留意すれば満足できる成果が得られるのか。

松尾さん「ABテストもしやすいのですが、バナーやデザインになった瞬間に、みなさんの判断の基準が突然、好みや感覚に頼るようになるんです。そこは感性ではなくて、いかに自分たちで検証能力をもってやるかというのが大事。リチカはそれがしやすいサービスです」

余裕の表情に見えた松尾さんだが、「ピッチは思っていた以上に張り詰めた空気ですね……ガーディアンもそうですが、みなさんが一つひとつにすごく全力で取り組んでいるからできている空気感というか……でもそれが心地いいです」と緊張を明かした。松尾さんは結果5位に入賞した。

審査員も投票に悩む質の高さ

バラエティに富んだ11社が全力を注いだプレゼンに、票は割れた。既報の通り、同率5位の2社含む入賞6社は業界も異なり、審査員のコメントも示し合わせたように割れた。

リブライトパートナーズ蛯原 健さん「貫禄のあるさすがのプレゼンばかりで、大変楽しかったです。シードのステージよりも、やっぱり課題解決プラス、社会問題解決プラス、実績があり、かなり甲乙つけがたくて相当迷いました。労働者へのエンパワーメントというテーマも非常に多くて、日本の課題も教えてもらいました」

ビザスク端羽 英子さん「インバウンドが2社あったのが時代を表していて、やっと帰ってきたというのが一つ印象的だったのと、ジョーシスさんとリチカさんは気になりまして、後でうちのメンバーに言わなきゃと思って(笑)。応援したいサービスが増えました」

住友生命保険藤本 宏樹さん「いつも○△×をつけるんですけど、×が1社も無くて困りました。テクノロジーを使って、産業の未来を変えるようなところと、大きな社会課題の解決をするっていうところを選びたいなと思って見てたんですが、なかでもBABY JOBさんが印象的でした。

少子化や、女性の産後うつであったり、ウェルビーイングが低いとか、さらには労働力の問題、いろんなところに繋がっていると思いますので、保育所のDXから入って子育て全体のDXにまできっとつなげていただけるんだろうなと、すごく期待ができるサービスだなと思いました」

D2C&サブスクカタパルトで優勝したBABYJOB上野さんは4位に入賞

ネオキャリア西澤 亮一さん「個人的にはピーマン(AGRIST)をすごいかっこいいなと思って聞いてたのと、あと北三陸ファクトリーさんの香港マフィアの話、非常に感動しました。

BABY JOBさんの『すべての人が子育てを楽しいと思える社会』、うちも保育園を運営していまして、子どもも保育園にずっと預けてたので素晴らしいビジョンだなと思って感動しました」

世界規模での競争は始まっている

11社のプレゼンバトルを制したのは、クアンドの下岡 純一郎さん。言葉ではない情報を伝えるニーズとノウハウの共有という課題を、日本発の技術をもって解決できるという可能性に期待が集まったのか、後日投票用紙を見ると、まんべんなく票が集まっていた。

ちょうど1年前のスタートアップで3位、半年前のSaaS RISING STAR CATAPULTで優勝、そして今回のグランプリ優勝である。 

クアンド下岡 純一郎さん「現場というすごいニッチな領域をやっていますが、本当に人手不足が原因で色々回ってないところもあるので、そういうサービスが認められて大変嬉しく思います」

優勝コメントで言葉少なにそう答えた下岡さんだが、3回のカタパルト登壇で、応援する仲間を着実に増やしてきた。Strategy Partners西口 一希さんや、Nstock宮田 昇始さん、ビザスク端羽 英子さんらがクアンドのジャンパーを着ているプレスリリースを見て、驚いた方も多いのではないだろうか。

クアンドがプレA総額5億円の資金調達。建設・製造現場向けリモートコラボレーションツールを提供(PR TIMES) 

「去年の福岡で入賞させてもらって、ICCのお陰で今回スライドに入っているような投資家の方々とのネットワークもできました。次はセッションでぜひ登壇したいです」

カタパルトが終了して、周りの人たちが優勝やプレゼンへの称賛を伝える中で、下岡さんはむしろ冷静だった。むしろこれは序の口に過ぎないという表情だ。

今回クアンドは、建設現場に限らず「言葉で伝わらないニーズ」を解決するツールとして、「SynQ Remote」がロボットの遠隔メンテナンスやエンタープライズへ導入が進んでいること、法改正からの公共事業の現場への拡張性を明言した。リモートで、海外の現場への日本の高い技術輸出ができる可能性にも触れた。

素晴らしい企業が11社集まったなかで、トップ経営者でもある審査員たちが将来性を認め、応援したいと選んだクアンドは注目に値する。FUNDINNOの大浦さんは、最初に規模がなければ事業の成功の可能性は一挙に低くなると指摘した。このプレゼンを見て可能性が感じられたVCや投資家は、ぜひ優勝企業の飛躍に賭けてほしい。

優勝したクアンドに限らず競争はすでに始まっていて、可能性のある事業の情報はすぐに世界に知れ渡り、すでに類似の事業者がいる。その中でいかにユニークネスを磨きながら、資本力でもトップスピードを出せるかが問われているのだ。

いまだ火種がくすぶる世の中だが、コロナ禍のトンネルを抜けたら、世界基準の競争を求められる世界が広がっていた、そんな印象を強く残した今回のカタパルト・グランプリ。それぞれの分野がありながら、登壇者たちは単なる課題解決ではなく、「世界」や「既存の産業を変えること」を肩肘張らずに当然のように語っていた。

このICCの中でも最高峰のカタパルトから、ユニコーン企業を生まなければならない、そんな空気の変化を感じたのは私だけだろうか? 機は一気に熟さない。でも着々と、そのスピードは加速しているように思われた今回のカタパルト・グランプリであった。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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