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5.量子コンピューターが実現する「本当の最適化」とは

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「量子コンピューティングで実現する社会」7回シリーズ(その5)のテーマは、「本当の最適化」について。現在ではアルゴリズムの限界により、モデルに組み込める変数に制約があるそうです。しかし、量子コンピューターではより多くの変数を扱うことができるため、より最適化されたレコメンデーションなどが行えるようになるそうです。ぜひご覧ください。

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ICCサミット FUKUOKA 2018のプラチナ・スポンサーとして、IBM BlueHub(日本アイ・ビー・エム株式会社)様に本セッションをサポート頂きました。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2018は2018年9月3日〜6日 京都市での開催を予定しております。


【登壇者情報】
2018年2月20-22日開催
ICCサミット FUKUOKA 2018
Session 3E
量子コンピューティングで実現する社会
-Quantum Opportunityで捉えるビジネス-
Supported by IBM BlueHub

(スピーカー)
及川 卓也
株式会社クライス&カンパニー
顧問

小野寺 民也
日本アイ・ビー・エム株式会社
東京基礎研究所 副所長 技術理事

草野 隆史
株式会社ブレインパッド
代表取締役会長

山田 貴士
株式会社LIFULL
取締役執行役員 LIFULL HOME’S事業本部長 兼 LIFULL技術基盤本部長

(モデレーター)
尾原 和啓
IT批評家、藤原投資顧問書生

「量子コンピューティングで実現する社会」の配信済み記事一覧

最初の記事
1.量子コンピューターの「現在」と「未来」をIBMのエキスパートが解説!

1つ前の記事
4.量子コンピューターの宝の山はどこにあるのか? 量子アルゴリズムの発見と、それで解ける問題の発見だ

本編


草野 D-Waveが今は2,000量子ビットくらいの性能ですが、2年ごとに倍になっていて1万量子ビットの水準になると、そこそこ使い勝手のある性能が出るという話になります。

そのタイミングで活用できるように、今から何か研究開発を進めましょう、というような流れはあり得るのかなと思います。

山田 少し聞いてもいいですか?

先ほどの広告配信についてですが、「今のコンピューター性能で、つまり量子ではないものでやるとこれぐらいの精度になる」というのがあると思います。

人がやるよりも、24時間、365日、ずっと機械が回ってビッティングしてくれるので、劇的にビジネスにインパクトを与えたイメージがあるのですが、それが量子コンピューターによって行われるようになった時に、さらに精度が上がるという話になるのでしょうか?

どれくらいの向上が見込まれるのか、イメージでもいいので伺いたいです。

量子コンピューターで「本当の最適化」が実現する

草野 リスティングのものは解けてしまっているので、精度が上がる余地はそれほどないと思います。

(写真右)株式会社ブレインパッド 代表取締役会長 草野 隆史 氏

ただ、現在機械学習を用いている広告に近い例で言うと、リクルートコミュニケーションズさんが量子アニーリングのマシンを使って取り組まれています。

いろいろなページビューがあったり、1人あたりのインプレッションの制約の中で最適な広告の出し方に真面目に取り組もうと思うと、計算量がものすごい規模になってしまいます。

それは従来の最適化、ないしは従来の計算では回らないので、量子アニーリングだったらうまくいくのではないか、ということに取り組まれています。

まだビット数が限られているのでそれほどインパクトはないですが、D-Waveなりでビット数が増えていけば、これも現実的になるはずです。

このように今のコンピューター技術では解けないものが解けるようになるというのはたぶんあります。

同時に、今でも解けている問題もより速く解けるようになるので、リソースの制約で1日1回くらいしか回せなかったものが頻度よく回せるようになることで、トータルで精度が上がるというようなシチュエーションもあるかなと思います。

尾原 分かやすいのが、インターネットのマーケティングの分野でもよく「最適化できています」と言うけれど、本当に最適化しているんですかという話があります。

尾原 和啓 氏

僕たちが今言っている最適化というのは、CPA(Cost Per Acquisition/Action:顧客1人を獲得する/または資料請求等のアクションを受けるのにかかったコスト)を最適化することだったりとか、ワンセッションで得を取れているかどうか、というレベルの最適化です。

しかし、たとえばLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)のレベルで見た時に、「(そうして獲得したお客さんは)本当に長期にわたっていいお客さんなんですか」という疑問が生じます。

ソーシャルゲームの例だと、「この人はお金こそ落としてくれないけれど、たくさん人を連れてきてくれるからいいお客さんです」という話があります。

このように、実際に広告をインプレッションで見た人について、アシストなどを含めて、全てを最適化しようと思うと今の計算では間に合いません。

でも、量子の時代になれば、そのくらい多くの次元数を入れても最適化できる、という話だと思います。

より個別化された商品レコメンデーションが可能に

小野寺 2つあるのですが、コロンブスの2段階の話についていえば、今のGPUと同じで、GPUですごく低レベルのプログラミングをする人というのは少ないと思います。

CUDA(Compute Unified Device Architecture:NVIDIA社が提供するGPUを用いた並列コンピューティング向けの総合開発環境)のライブラリーを使っている人がすごくたくさんいると思いますが、そのように低レベルのことを担当する人と、高速なものを叩く人という2段階に分かれています。

(写真左)日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所 副所長 技術理事 小野寺 民也 氏

ですから量子コンピューターの時代に普通のコンピューターがなくなるわけではなく、たとえばアクセラレーター(コンピューターの処理速度を上げるために利用される周辺機器)のような形で存在していくのかなと思っています。

量子アルゴリズムはまだそんなに知られていないと言いましたが、今話題になっている(商品の)レコメンデーションについては、昨年か一昨年ぐらいに論文が発表されています。

▶Iordanis, K. and Prakash, A. (2017). Quantum Recommendation Systems. 8th Innovations in Theoretical Computer Science Conference (ITCS 2017): Schloss Dagstuhl–Leibniz-Zentrum fuer Informatik, Dagstuhl, Germany, Vol. 67, pp. 49:1–49:21

レコメンデーションというのは、要は数百万~数億人のユーザーと数百万種類くらいの品物があって、という巨大なプリファレンスのマトリックスがあり、新しいユーザーが来た時にどの商品を好むかという計算をしているのだと思います。

後段の方の、いま今のアルゴリズムは「m × n」の計算量がかかるのですが、そのlogで済むという量子アルゴリズムが一昨年ぐらいに発表されたので、フォールト・トレラントな大きな量子コンピューターができれば、まさに今言ったことはすぐ高速にエクスポネンシャルのスピードで解ける時代になると思います。

尾原 レコメンデーションというのは分かりやすく、今のAmazonというのは、せいぜい直近の購買5つくらいのものを参考に、次は何を買いませんか?といった提案をしてくれるだけです。

しかし、量子コンピューティングになると、本当に今までの全部の商品購買履歴のようなものを見ながら、きちんとパーソナライズするというような世界も出てくるというお話だと思います。

たとえばLIFULLさんの世界では、人間が住居を選ぶ時に、いろいろな思考要素とか、いろいろな判断軸とかが混ざっていますよね。

だからそういうものを拡張できるのではないかなと思ったりします。

量子コンピューター時代も「データがすべて」

山田 その可能性はすごくあります。

僕たちが提供しているようなサービスでは決め打ちで検索条件を指定してから情報が入ってくるという仕組みになっているので、まだ逡巡しているようなフワフワしているところが、今はデジタル化されていないと思います。

なので、もう少しフワッとした状態から、「部屋を探していますか?」とアプローチできるようにならないといけません。

まさに不動産会社がやられているようなことですよね。

(写真左)株式会社LIFULL 取締役執行役員 LIFULL HOME’S事業本部長 兼 LIFULL技術基盤本部長 山田 貴士 氏

不動産会社が対面でやっているようなことを、いかにデジタル化していくかということが大事で、それがきちんとデータになっていけば、そのような問題を解くための土台ができてくるのかなと思っています。

及川さんの最初のお話にもありましたが、「データがすべて」だと思っています。

不動産会社がどのような接客をしているのか、どういうやり取りをしているのかということを、いかにデータにしていくかが今の新しいチャレンジだと思っています。

尾原 そのようなデータを集める工夫は何かありますか?

山田 不動産会社や、対面で来ているお客さんに、会話を録音させてくださいというのはなかなか難しいですよね。

なので、僕たちが今少しずつ始めているのは、自社で持っているコールセンターやカウンターでの接客応対というノウハウを社内に溜めていこうということです。

尾原 実際、ディープラーニングの時は静止画がかなり識別できるということで脚光を浴びましたが、たぶん量子の世界になってくると、もっと複雑なものが見えてくるはずです。

たとえば中国版Uberの滴滴(ディディ)とかだと、今はタクシーの運転手や乗客の顔をずっと録画していて、本当に顧客の満足を導いているかどうかを見ようという取り組みを始めていたり、いろいろなデータの工夫をしたりしています。

山田 先ほどの別のセッションで、瞳孔の開き具合が、人間が嘘をついていないかどうか、興味があるかないかを測るバロメーターになっているというような話がありましたが、そういうのを皆ずっとつけていたら、今この会場がどのような状況なのかなとか分かりますよね(笑)。

「夏目綜合研究所」は、瞳孔の解析技術で人間の感情を数値化する(ICC FUKUOKA 2018)【動画版】

尾原 次はどの話題をしゃべるべきか、とかも分かるような技術も出てくるかもしれないですよね。

話も尽きないのですが、残り15分程なので、もう1つの話題に入っていきたいと思います。

(続)

次の記事を読みたい方はこちら

続きは 6.量子コンピューターは企業の課題、人間の課題をいかに解決するのか? をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/戸田 秀成/本田 隼輝/浅郷 浩子/尾形 佳靖/鈴木ファストアーベント 理恵

【編集部コメン】

ピーター・ドラッカーの有名な問いかけの1つに「我々の顧客は誰か」というものがあります。量子コンピューターを用いて、一人ひとりの顧客生涯価値をあらゆるパラメータから推測できる未来がきたとき、量子コンピューターがどのような答えを出すのかな、などと思いました。次回は、フロアの皆様と一緒に量子コンピューティング時代のビジネスをディスカッションします。ぜひご覧あれ!(尾形)

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