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2. 2007年、最初のiPhoneは「革新的」とは評価されなかった

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「革新的な新規事業/プロダクトを生み出すには?」6回シリーズ(その2)は、ビジネスの種が革新的サービスに育つかどうかの“目利き”について。2007年のiPhone誕生時の評価からも、その難しさは伺えます。そして議論の行方は、事業成功に導く“社内環境”の話へと広がります。ぜひご覧ください!

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ICCカンファレンス KYOTO 2017のプラチナ・スポンサーとして、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ様に本セッションをサポート頂きました。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2019は2019年2月18-21日 福岡市での開催を予定しております。


【登壇者情報】
2017年9月5〜7日開催
ICCサミット KYOTO 2017
Session 2D
革新的な新規事業/プロダクトを生み出すには?
Supported by 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ

(スピーカー)

大宮 英紀
株式会社リクルートライフスタイル
ネットビジネス本部 グローバルソリューション事業ユニット長

林 信行
ジャーナリスト/コンサルタント

平井 陽一朗
BCGデジタルベンチャーズ
パートナー&ジャパンヘッド

村上 臣
ヤフー株式会社
執行役員CMO(当時)
(現:リンクトイン 日本代表)

(モデレーター)

琴坂 将広
慶應義塾大学
准教授(SFC・総合政策)

「革新的な新規事業/プロダクトを生み出すには?」の配信済み記事一覧


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1つ前の記事
1.「革新的である」とはどういうことか? ゼロイチの発明か、華麗な横展開か

本編

村上 大宮さんにお聞きしたいのですが、Airレジを導入してもらうお店を開拓する時に、ポンパレ(チケット・クーポンの共同購入サービス)を担当していたことは役に立ったのでしょうか?

大宮 やはりポンパレを立ち上げた時も、宿泊予約の「じゃらん」を担当していた時にサービス検討をしていました。

ポンパレのようなフラッシュ・マーケティングのような売り方は、旅行業界では当たり前なんですよね。

(左)株式会社リクルートライフスタイル 大宮 英紀 氏

在庫が一定相場でいうとレベニュー・マネジメントしないといけないので、航空会社の早割とか先得とか、先に買わせてキャンセルできないという売り方は普通にあります。

当時「ソーシャルと組み合わさってナウい」みたいになっていたので、ポンパレというサービスへと拡大していきました。

その時に、自分で会社をやるなら別ですが、リクルートという会社だったら旅行、美容、飲食と領域横断すべきことが、この会社としての強みを発揮することであるということに味をしめました。

リクルートで売上は、事業体ごとに旅行事業、飲食事業、美容事業と当時分かれていました。

それを横断して束ねる力こそが他人にはできない強みなので、それをとにかくやるべきだという切り口でしたね。

自社のアセットと市場、どちらを起点とするべきか?

琴坂 その切り口というのは、どちらかというと「自分が何を持っているか」というところから革新性を作っていると思うんですが、ヤフーさんでも同じでしたか?

自分たちの持っているアセットを生かすというところなのか、逆に言えば市場に何が存在するかというところから入るアプローチもあると思うんですけど、どこから発想するのでしょうか?

村上 我々の場合だとやっていないことを探すのが難しいぐらいで、ソフトバンクグループ全体で言うと、ほぼ芽がありそうなことは全部やっています。

その時に考えるのは市場規模ですね。

我々は今グループ全体でEC革命だとやっていますけど、ECの市場がとても大きいからですよね。

リアルもECも含めると100兆円という市場規模になっている中で、EC化率は10数%なんです。

伸びしろしかないので、そこが十分に大きいというのは、どれぐらい張るかというときには重要な意思決定のネタになります。

琴坂 どちらかというと外に何があるかというところの分析も重要だということですね。

平井 結構大企業さんと一緒に新規事業を創ることをやっていて、私たちにはあるメソドロジーがあります。

(左)BCGデジタルベンチャーズ 平井 陽一朗 氏

私も経験したことがなかったので意外だったのですが、「最初にユーザーから見る」という手法です。

ひたすらスコープとかテーマを決めて、そこでエスノグラフィック・リサーチという手法で100人ぐらいマンツーマンでインタビューをします。

そこから潜在的なニーズの有無を掘り出して市場を見るというアプローチを取っています。

最初は「胡散臭いな」と思っていたんですけど、やってみると意外とワークしてきていて、これを今大企業さんと一緒に研究しながらやっています。

琴坂 単に市場が大きくなっているとかではなくて、実際のユーザーの話を100人ぐらい聞いていって出て行くということですね。

大宮さんも、そういうことをされているんですか?

実際にレジ打ちバイトをして、顧客目線を獲得

大宮 そうですね。

Airレジをやった時も、僕は元々じゃらん、ポンパレをやって、プロダクト開発寄りでキャリアを積んでいるんですけど、ポンパレを立ち上げた時は3人ほどしかいないので、自分も営業をしていました。

Airレジの時も最初、自分で営業をしていました。

結局すごく大事だなと思うのは、特に大企業だとマーケットはこのぐらいで、何%取ったらこれぐらいですとパワポ資料をすごく綺麗に作りますよね。

もちろんそれも大事なんですけど、実際のお客さんに何が起こっているのかを自分たちが体験して共感するのが大事だと思います。

お客さんにヒアリングすると出てくるものもあるんですけど、なかなか出てこないものもあります。

実際にAirレジをやった時はバイトをさせてもらって、朝に出社して最後のレジ締めまでやって、「こんなに面倒くさいことをやっているなら、こうすればいいじゃないか!」と、自分たちが体験することを大事にしています。

私が旅行などの経験を踏まえて、チャンスがあると思ったビジネスを深堀りしていったのが、当時Airレジを作ったきっかけです。

琴坂 単なるインタビューとか1、2時間ミラールームでやるようなものではなくて、がっちり入り込んでいたということですね。

大宮 そうですね。インタビューをすることもすごく大事だと思います。

特に、僕らはtoBで業務プロセスを支援するサービスなので、「使用者がどう使うか」というのは自分たちで体験しないといけない。

プロダクトの作り方はいくつかあると思うんですけど、顧客の声を聞くというのもあれば、業界やマーケットの知識を携えてプロダクト・ロードマップを作るというのもある。

それ以外にあるのが、僕ら作り手がどういうロードマップ、ビジョンを持つかというエグゼクティブ・ビジョンで、これらをどう掛け合わせるかが大事だと思います。

具体的にどうやるかと言うと、深堀りしてお客さんのことをありありとイメージできないと、そもそも絵に描いた餅になって、パワポにありがちな「マーケット何兆円で何%取ります」というような、「それ本当に?」とツッコミたくなる事態に陥ると思います。

 元々リクルートが領域を横断しているのが強みだということで始められたAirレジが、最初は飲食にフォーカスしたというのもそういった体験があるからなんですね。

大宮 そうですね、最初は実は10店舗ぐらいでβテストでやっていて、飲食店さんが約6割、小売店が1店舗、サービス業3店舗と分けてやりました。

Airレジは立ち上げ時は計算機のアプリなので、MVP(Minimum Viable Product:必要最小限の機能を備えたプロダクト)と言うとかっこいいんですけど、計算機に毛の生えたところのコンセプトで価値訴求をしてみました。

同じものをどう見せるかとか、「お客さんの〇〇に役立ちますよ」という伝え方とかを変えるだけでも全然違うので。

そこも含めたお客様のペインポイントに対するソリューションとしてどう伝えるかと、本当にそれが価値を生み出すのかを検証していました。

なので、飲食寄りの知識はたくさん持っていましたけど飲食には特化していなくて、そうではなくホリゾンタルにいけるのではないか、ということで試しました。

琴坂 そうすると最初のアイディアが最初から全部完成しているわけではなくて、しっかり理解していく過程の中でだんだん革新性が生まれてきたという言い方が正しいですかね。

大宮 そうですね。

最初立ち上げる時に5年後、10年後こうなるという「思い込み」を結構議論していました。

その思い込みに対して逆算すると、今から1年後とか2年後に何があるかということを、連続的なもの・非連続的なものを考えながら一つずつ検証し体験してきました。

琴坂 なるほど、そういったプロセスを踏んでも成功するものと失敗するものがあるかと思うんですけど、出てきた時点で直感で分かるんですか?

これは革新的だとか、成功する・しないとか。

皆さんはどうですか? 当初の直感は当たっていますか?

革新的サービスに育つかは、直感で分かるもの?

平井 やはり、当たる時と当たらない時がありますね。

先ほどおっしゃっていたようにコンセプトテストをたくさん繰り返して、ユーザーさんに使用してもらって私たちが想定していたKPIに実際いくかどうかを見ながらやります。

大企業さんは立ち上げるのは皆できるんですが、止める決断をするのは下手なことが多い。

ピボットもずっと繰り返すわけにはいかないので、どこかで諦めようという見極めが重要かなと思います。

新規事業では一発必中は絶対にないので。

琴坂 革新的ではなかった、ダメだったと判断するポイントは何ですか?

村上 それはなかなか面白い質問ですよね。

ヤフー株式会社(現・リンクトイン日本代表)村上 臣 氏

だいたい最初に見た時に「革新的だ」と思うようなものってあまりないですよね。

後になって言われる。

例えば2007年にiPhoneが一番最初にアメリカで出た時はまさにそうです。

 日本の携帯電話のほうが進んでいましたよね。

村上 そうですよね、皆iPhoneを持っていても基本的にこれ(二本指で画面を拡大する動作)しかやっていませんでした。

Safari(ウェブブラウザ)を立ち上げて、拡大がスムーズというだけでなぜか盛り上がる。

電話としてはよく落ちるし大変なものだったんですよ。

だけど何か人の心を捉えて、後になって「革新的だったよね」と皆が思っているわけです。

止め時はやはり難しいのと、大企業だとお金持ちなので続ける体力があるんですね。

この指標をクリアできなかったらバサっと切るよということを始める時に握っておかないと止められない。

琴坂 事前にですね。

村上 そうですね。

応援してくれる役員の存在が新規事業の成功に影響する

村上 すごく生々しい話をすると、だいたいそういうのはお気に入りの役員がスポンサーシップとかしているんです。

大宮さんも応援してくれる執行役員とかいますよね?

大宮 はい、本当にそういう方がいたから今ここに僕がいます。

村上 逆に言うとそういう人が力をなくして異動すると、丸ごと潰れてしまいます。

琴坂 話がいい感じになってきましたね。

写真左から、大宮氏、林氏、平井氏、村上氏、琴坂氏

村上 ICCっぽいでしょ(笑)。

そういうのがあるので両面だと思います。

人に依存していて、ただそれは良くもあり悪くもある。

皆の思いとかビッグビジョンは誰も分からないですけど、その人たちの思いはビッグビジョンから逆算することによってどんどんドライブしていくので、成功する事例もあると思います。

逆に思いが強すぎる上に市場を見誤ってダメとなる場合は、第三者がチェックするようなローリングするプロセスを事前に決めておかないと止められなくなってしまう。

琴坂 どのくらいシステム化できるものですかね。

あくまで俗人的なものなのか、ある種のシステムとして確立できるものなのでしょうか?

平井 例えば、大宮さんがAirレジを立ち上げるとなって、やりきっているんだけど上手くいかなそうだねとなった場合、その当人の大宮さんが「止めさせてください」と言うのって難しいと思うんですよね。

もしそれを言ったら、大宮さんをスポンサーする執行役員も「お前にかけていたのに」となりますよね。

村上さんがおっしゃるように、外部の方が客観的に見るようにするとか、そのあたりまではシステム化できると思います。

しかし、そこまでぎちぎちにしてしまうと、もしかすると上手くいくかもしれない芽を摘んでしまうことにもなりかねませんよね。

琴坂 そこのバランスがすごく重要だと思っていて、ガバナンスを効かせるほど「ふにゃふにゃ」してくると思うんですけど、どうすればいいですかね。

どこが一番の正しいバランスなのでしょうね。

村上 Airレジをやっている時は、結構四半期の数字の報告とかあったと思うんですけど、そこに対してどれぐらい横槍が入りましたか?

大宮 僕がありがたかったのは、Airレジがメインストリームに乗っかった感じなんですよ。

当時リクルートで言うと、Airレジはもっといけないのかという感じになって、どう伸ばすのかという議論のほうが大変だったので、そうなると「投資するから獲得をいっぱいしろ」となる。

そんなお金があっても全然開発のスピードが間に合うわけない、お金で買えないものもいっぱいあるんだよと思いながら「ありがとうございます」と言っていた状況でした。

途中参加の社員との「宗教戦争」への対処法

村上 そうなるとそうなったで、大企業が面倒くさいのは周りにフリーライダーが寄ってきませんか?

メインストリームに乗っかりたい人が、俺もやらせろみたいな感じで来ますよね。

リクルートさんだと「R25」を作った人って200人ぐらいいますよね(笑)。

僕が会った中で実際200人ぐらいいらっしゃるんですけど、最初のスターティング・メンバーって、スタートアップもそうだと思いますが、ビジョンを共有していて何も言わなくても分かっていますよね。

それが人が増えていってスポンサーも増えていくと、思いの違う人たちがいて、でも応援してくれると。

それをこうマネージしながら伸ばすために注力していくかというのはどうされましたか?

大宮 それは今でも悩んでいることです(笑)。

別会社から来た社員だったら、我々との思いの違いが分かりやすいですよね。

リクルートの場合、リクルートウェイ(※)とか今まで成功していた方法論があるので、社内の他の部署のエース級とかが来ると、彼らとは“宗教の違い”みたいなものを感じます。

▶編集注:リクルートウェイとは、リクルートが大切にする「新しい価値の創造」「社会への貢献」「個の尊重」という3つの考え方。

僕らは「宗教戦争」とたまに言いますが、宗派の違いのようなものがあって「こういうふうにすべきだ」と言ってくるわけです。

もちろんプロダクトの成長フェーズによっても求められる人材像とかスキルセットが違うので、そこも含めて冷静に考えなければいけないんですけど、ぶつかり合うことが多いですね。

そのとき、思い込みを除くことも大事ですが、一番大事なのは「僕らは何に向かっているのかを意識すること」です。

もちろん自分がその中で運転席に乗って運転したいという思いはありますけど、それよりももっと素晴らしい人がいたら、その人をどう仲間に入れるかが大事です。

達成したいゴールに対して自分たちも媒介の一つなので、どうやったらそういう人たちと一緒に働けるのかは当時議論していましたけど、そうした問題はなかなか解決できていないです。

琴坂 村上さんはどう解決したんですか?

村上 解決できていないですね(笑)!

それぞれの局面で皆さんご経験があって、その時通用したことを教えてくれるんですけど、そのままやっても今は通用しないということは往々にしてあります。

だけど取り入れられるものは取り入れようと思って、まずはお話を聞く。

それをまるまる採用するかどうかは別なので、そこは進めている人は冷静に見なければいけないと思います。

あとは会社を分ける・分けないの話があって、おそらくリクルートさんもヤフーも子会社を作らずに社内事業として新規事業に取り組むタイプです。

逆にサイバーエージェントさんは会社をどんどん作って社長にする。

やっていることは同じでも全然メソッドが違いますよね。

ヤフーは子会社を作ったりもしたんですけど、うちの文化には馴染まなかったんですよね。

成功確率があまり高くないことも分かって、色々振り返りもして、あまりうちには合わないなとなって、社内ベンチャー的にやるほうにシフトした感じです。

(続)

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続きは 3. 村上臣「伸びる人材は、仕事の疲れを仕事で癒やす」 をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/横井 一隆/尾形 佳靖/戸田 秀成

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