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「最先端の研究者/クリエーターが描く未来像」9回シリーズ(その5)は、ロボット工学の最前線について。近年、人間を模した様々なロボットが誕生していますが、本当に難しいのは関節が無限ともいえる“ソフトロボット”なのだそうです。ぜひご覧ください!
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ICCサミット KYOTO 2017のプラチナ・スポンサーとして、IBM BlueHub(日本アイ・ビー・エム株式会社)様に本セッションをサポート頂きました。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2019は2019年2月18-21日 福岡市での開催を予定しております。
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【登壇者情報】
2017年9月5〜7日開催
ICCサミット KYOTO 2017
Session 8B
最先端の研究者/クリエーターが描く未来像
Supported by IBM BlueHub
(スピーカー)
稲見 昌彦
東京大学先端科学技術研究センター 教授
博士(工学)
川原 圭博
東京大学 情報理工学系研究科
准教授
澤邊 芳明
株式会社ワントゥーテン
代表取締役社長
森本 典繁
日本アイ・ビー・エム株式会社
執行役員 研究開発担当
(モデレーター)
田川 欣哉
Takram
代表取締役
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最初の記事
1. 東大先端研・稲見教授が語る「人機一体のロボットシステム」とは?
1つ前の記事
4. テクノロジーは「距離と時間」の概念を変化させた
本編
田川 先ほど稲見先生が話された「人機一体」の研究も、ちょっと衝撃的じゃないですか。
僕もよく思うのですが、イノベーションというのは起こってしまうと、結構皆さん、普通に受け入れてしまうという話があります。
川原 そうですね。
田川 人間を拡張する技術も、装着した人にとっては、そのうち普通になっていくんですよね。
拡張された体として受け入れられるようになる。
稲見 その時にまた触覚がつながるというのが面白いんですよね。
人体の拡張に、人体が合わせるという感覚
澤邊 私が面白いと思っているのは、超人スポーツです。
私は超人スポーツの立ち上げの直後に入り、そこからご一緒させていただいています。
当初は、てっきり、例えば走り高跳びで3メートル飛ぶとか、幅跳びで10メートルとか、そういうことを目指すのかなと思っていたら、イメージと全く違いました。
3本目の手を付けてボールを投げるとかをしていて、それはとても投げづらいんです。
進化とは逆行していて、テクノロジーで運動能力が下がっていくんです。
そこに人体が合わせていく。
これも新しい拡張というか、慣れてくると上手くなる。
超人スポーツというのは、便利になっているとか、速くなるとかそういうものではないんです。
それが面白いなと思って。
稲見 スポーツも、ルールという情報によって拘束条件を付けることによって、面白さを増やしているということなんですよ。
だから、ルールなしの状態だったら全くつまらない。
手を使うなと決めればサッカーになったり、つまりそれは情報的制約条件ですよね。
道具による人体の制限が、新たな可能性を生む
田川 それでいくと、僕よく思うんですけど、人間の関節というのは多自由度じゃないですか、グニャグニャし過ぎていて。
▶編集注:多自由度系とは、機械系の任意の時刻における幾何学的な位置を明確にするのに、2つ以上の数を必要とする系のこと。一般に、機械系の任意の時刻における幾何学的な位置を明確に表すために、n個の数を必要とする場合、n自由度系という。(Weblioより)
スポーツというのは大体道具を使いますよね。
道具を使う理由というのは多分ただ1つで、人間の関節の自由度に拘束をかけているんですよね。
拘束をかけるので、多自由度が制限されます。
例えばテニスのラケットであれば、振る軌道というのは大体1つになってくるから、そこで精度の差が出てくるという、その変換器がスポーツの道具なのだろうなと思います。
稲見 机なども大発明なんですよね。
田川 机……超発明ですよね。
2次元平面拘束機ですよね。
稲見 車輪と同じくらい大発明だと思っていて、皆もっと褒めた方がいいのにと思います。
田川 褒めた方がいいですね!
澤邊 始まった、よし。行って、行っちゃってください(笑)。
稲見 VRとかのインターフェースで、空中で何かこうやって(操作している)いるのも、「マイノリティリポート」とかに出てきますよね。
田川 あれは自由過ぎますよね。
多分iPhoneの表面も、これが平面であるということがとても大事ですよね。
2次元で拘束をかけているので、グニャグニャしていても精度が出ます。
稲見 拘束がないと、我々は精密な作業ができない。
むしろ自然界にある拘束とか、重力による拘束を前提として我々は発展していくと思います。
そのように、ヒトをどう縛ってあげるかというのが、実はヒトが自由になるための源泉なのかもしれません。
田川 なるほど。
川原 それはロボット工学の最前線にも言えて、先ほどソフトロボットと簡単に言ってしまいましたが、実はこれまでの学問体系を覆すぐらいの大きなことなんです。
田川 どういう意味ですか、それは?
関節なしで動くイモムシはロボット工学の最前線?
川原 ロボットは、ヒューマノイドにしても、硬いものをジョイント(関節)で自由度を拘束して動かしたり、アクチュエーターも何ボルトかけたらここまで動くというような、線形性の高いものを使っています。
しかし、ソフトロボット、例えばミミズのようなものを作ろうとすると、無限に関節があるんですよ。
筋肉もすごく小さいものが連続的にあるので、どの筋肉にどのような信号を出したら、全体がどう動くのかというのが全然分からないんです。
でも、自然の中のミミズとか、それこそナメクジとかカタツムリやイモムシなど全部、それぞれ環境に適応した動き方をして、しかも外乱に強い制御をしているんですよね。
でも分からないんですよ、どうやっているのか。
それを一生懸命理論的アプローチで解析するというのが、本当にロボット工学の最前線なんですね。
田川 それというのはやはり、技術革新が必要なエリアなのですか?
例えば、そのエッジの効いた計算機を走らせないとやはりできないとか。
川原 面白いのが、イモムシとかには人間の脳みたいに高度に発達した司令塔がないんですよね。
全身が神経の塊というか、反射だけで動いているようなのに、そのような高度なコンピューターを使っても解けないような制御ができている。
一体何を感じて、どういう制御をしているのかが科学的興味の対象ですね。
森本 我々がノイマン型の計算しかできないような、つまり1と0でバインディングしているコンピューターを使っていますよね。
それを使いつつ、本来はそうでないものを解明しようとしているのかもしれません。
川原 そうですね、そういうことですね。
稲見 サブサンプション・アーキテクチャ(※)が環境との関係性の中に知能が埋め込まれているといった風に、きっとナメクジのようなものもある環境における進化の過程で知的な振る舞いが埋め込まれていると考えると、なぜ中央計算機なくしてあのような動きが可能なのかということが理解できるそうですね。
▶編集注:サブサンプション・アーキテクチャとは、振る舞いに基づくロボット工学を起源とする人工知能の概念(Wikipediaより)
田川 僕が今日ずっと言い続けている「道具」と「環境」と「知能」、これらは研究領域的には別だと思うのですが、特に昔の人工知能の研究者たちは身体と知能の話をずっとしてきたように思います。
しかし最近、ディープラーニングなどの影響から、どちらかというと知覚と知能という側のラインの方が強くなってきて、身体性というのがあまり出てきていない気もします。
知能と体というのは、もう一度、どこかで出会うんでしょうか。
稲見 まず前回のVRブームがありましたよね、1990年くらいに。
その後に何が流行ったかというと、アーティフィシャルライフ(人工生命)と、強化学習というのが、ロボット絡みで流行りました。
たぶん、ディープラーニングなどで環境を認識するということができるようになった時に、必ず認識された情報をそれを行動にどう反映させるかというところが重要になってきます。
恐らくそれはVR空間において、コ身体運動と環境との最適なインタラクションを学習するためのシステムを作るところで、知能と身体が再び出会うということだと思いますね。
田川 そうか、自動運転の車なんかも、あれを体と見なせば、もはや実現してきているのかもしれない。
「高度な自動運転車」の買い替え時に起きる問題
日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 研究開発担当 森本 典繁氏
森本 自動運転についてはですね、少し持論がありまして。
今レベル3の自動運転まで来ています。
いわゆる、走る、曲がる、止まるといったような制御機能はほぼ完全に、機械学習でもって完全にできるようになります。
そして町の中に、3Dの精密な地図ができてくれば、あたかも本当にレールの上を車が走るかのように制御することは可能になりますと。
なので、走行性能という意味では自動運転はできると思います。
ただ、レベル4、5になっていくと、いわゆる「自律」ということが入ってきます。
▶参考:自動運転の基礎知識(自動運転レベルについて)(フォルクスワーゲン公式サイト)
自動車会社にしてみると、ただ単に賢い車を売るのではなくて、車に専属の運転手を付けて売るというのと同じなんですね。
そうなると完全に、これはハードウェアのメーカーが今までやってきた分野と全く違う分野になるんです。
人の運転手と同等のものを付けるということは、そこに今度、行動や肉体・知能という部分が付いてきます。
なぜかというと、完全な自動運転車を買ったとします。
ハンドルもアクセルもブレーキも付いていません。
そうすると、最初に納車されてから、何を教えるかというと、「家はここだよ」と教えるんですよね。
「子どもの学校はあそこだ」
「門の前に3分以上停めるとPTAが来て怒るから、降ろす時は3分以内にね」
「バックで車庫入れする時には、こっち側に嫁さんが大事にしているバラがあるので、車をちょっと不便だけど右に寄せてね」
とかですね、そういうことを教えるわけですよね。
それは全部一度覚えるんです。
きっとそこまではできるのですが、次に問題になってくるのは2代目の車に買い替えた時で、その知能というのは車に付いてどこかへ行ってしまうのか、それとも自分の2代目の車にその知能を移植できるのかというような話になってきます。
もちろんプライバシーの問題などはもう言うに及ばずなのですが、そうなってくると、知能の部分というのは今メーカーとして製品を作っている領域からかなり、遥かに逸脱してくるので、そこに非常に大きなギャップがあると思います。
ですから単に連続的にレベル1、2、3、4、5とはいかずに、3と4の間に大きなギャップがあるというように私は見ていて、そこのギャップを埋めるのが知能とフィジカルな部分の融合だと思います。
自動運転車にこそ求められる「知能」や「機能」
(写真右から2人目)株式会社ワントゥーテン 代表取締役社長 澤邊 芳明氏
澤邊 今年ラスベガスのCES(Consumer Electronics Show)で発表した、トヨタの「コンセプト-愛i」で我々がお手伝いしたことについてお話しすると、あれはAI搭載車なのですが、カーナビというのは最短距離を行くじゃないですか。
カーナビは、A地点からB地点までに最短で到達できる経路を計算します。
でも、ドライブというのは最短がベストなわけではないですよね。
例えば「この時間のここの夕陽がきれいだから」とか、「少し寄り道したらおいしいケーキ屋さんがあるよ」とか、そういうことは今のナビは言ってくれません。
それができるようにAIは進化していくのではないでしょうか。
このようにいろいろと、自動運転の時代だからこそ起こる別の機能みたいなことが発展していくと思います。
先ほどお話したように、ただ単に便利なソリューションではないところがどんどん盛り上がっていって、知能を拡張して、人間の知性にもっと深みを出してくれるというようになるのでしょう。
コンピューターは知性はできないので、そういう意味で補完していくのだろうと思いますね。
森本 もう1つ、今の話の続きでいくと、依存症になるというところがリスクの1つだと思っています。
例えば1年間何の問題もなく自動運転してくれていたのに、ある時、雪の下り坂で滑ったからといって急に「はい、手動運転してください」と言われても、1年間運転していなかったら急にテークオーバーすることはできないですよね。
ですから、依存してしまうと、退化していくという部分があります。
なので、AIを便利に上手に使いながら、ヒトの感覚とか、チェック、性能、機能のようなものが退化しないようにしていく配慮も同時にやらないといけないのかなという風には思いますね。
田川 確かにそうですね。
ちなみに、自動運転の話というのは、ビジネスに関連してもいろいろな界隈で出てくると思うのですが、レベル5、つまり完全自動運転が実現するのは何年だと思うか、順に言っていただいていいですか?
これは推測でいいです。
完全無人自動運転はいつ実現するのか?
稲見 条件付きで、高速道路だったならば、10年以内。
田川 一般道だったらどうでしょうか?
稲見 一般道は、トラックなどならば、20~30年であるかもしれませんが、一般車はもしかするとその時には無くなっているかもしれない。
田川 どういうことですか?
稲見 多分その時にはパブリックな交通機関か、後は、個人的な移動手段としてはむしろテレプレゼンス(遠隔地のメンバーとその場で対面しているかのような臨場感を提供する技術)やテレイグジスタンス(遠隔地にある人や物をあたかも近くにあるかのように感じながら、操作などをリアルタイムに行う環境を提供する技術)の方が使われる可能性があると思います。
田川 なるほど。
では川原さん、お願いします。
川原 テクニカルには10年以内じゃないですかね。
テクニカルにはという意味は、本当に皆が使うかとか、走らせていいかとかそういうのは一切抜きにした話です。
田川 では技術レベルとしては10年以内にくると。
森本 私は、技術レベルからいうと20年ぐらいかかると思います。
先ほど話した、車が完全に自律的に運転するために必要な全ての知能を獲得できるかの問題ですね。
そこの部分がやはり現実的に本当に動くか、メーカーがまず売れるか、製品として収益が成り立つのか、製品のライアビリティをどうするのかなどを含めて考えると、20年ぐらいはかかるのではないかなと思っています。
加えて、もう1つの問題もあります。
本当に運転しないのだったら、Uberとかレンタカーでいいではないかというような考えもあります。
そもそも論までいくと元も子もないのですが、本当に自動運転を目指すべきかどうかというのは、個人的にはすごく疑問があるところですね。
田川 なるほど。澤邊さんはいかがですか?
澤邊 僕はね、95%ぐらいまでは10年以内くらいに行くと思うのですが、最後の5%は数十年かかるのではないかと思っています。
田川 どうしても人間が介在する必要があるということですね。
澤邊 やはりイレギュラーなところというのはどうしても潰せません。
ただその間に、僕が想像しているのは、VRなどを使ったテレアポセンターのようなものです。
オペレーターがたくさん並んでいるテレアポセンターがありますよね。あそこにタクシー運転手がバーッと並んでいて、ヘッドマウントディスプレイをかぶっている。
無人運転なのだけど、その向こうでは運転しているというのを描いています。
田川 そういうことですね。
澤邊 そっちが先に来るのではないでしょうか。
だから、車庫入れも狭い路地を運転するのも、ほとんど自動運転でやるんだけど、どうしようもないところは運転手に切り替える。
配車をしてくれるとか、そういうのが先に来るのではないかなと思います。
田川 ありですね。
森本 同感です。
(続)
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編集チーム:小林 雅/本田 隼輝/尾形 佳靖/戸田 秀成/鈴木ファストアーベント 理恵
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