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6. 10倍売れたら10倍地球が良くなる、脱炭素ビジネスを推し進めよう【終】

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ICC FUKUOKA 2023のセッション「脱炭素社会への変革の取り組み」、全6回の最終回は、ENECHANGEの城口 洋平さんが、気候テックへの投資状況を解説します。知れば知るほど可能性のある産業に、規制など政府サイドとの連携、そして何より事業者のリスクテイクとコミットが語られます。新たな産業を創るスピーカーたちの意気込みを、最後までぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜 9月7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。


【登壇者情報】
2023年2月13〜16日開催
ICC FUKUOKA 2023
Session 9F
脱炭素社会への変革の取り組み
Supported by エッグフォワード

(スピーカー)

城口 洋平
ENECHANGE株式会社
代表取締役CEO

中島 宏
GO株式会社(登壇当時は株式会社Mobility Technologies)
代表取締役社長

永田 暁彦
株式会社ユーグレナ
取締役代表執行役員CEO

(モデレーター)

森 暁彦
京都大学大学院

「脱炭素社会への変革の取り組み」の配信済み記事一覧


 あと20分弱なので、城口さん、気候テックの投資最前線についてお話を頂けますか?

気候テックへの投資状況

城口 はい、こちらは、先ほど (Part.3参照)の6象限(※)において、どの企業が上場しているかについての図です。

▶編集注:6象限は、「電力網を脱炭素化する」「交通を電化する」「食を改善する」「自然を守る」「製造業を清浄する」「二酸化炭素を除去する」を指す。

再生可能エネルギー関連が6割で、クアンタムスケープというEV用全固体電池の企業を含む、テスラチャージポイントなどのEV企業が4割です。

食に関しては、ビヨンド・ミート1社だけですね。

これ以外の会社は上場していませんので、自然保護や炭素除去領域では上場企業がないということです。

投資するなら違う領域の方が良いかもしれませんが、今事業を作って3年以内にP/Lを立てたいならこれらの領域だと思います。

僕らが投資しているのは、ハードウェアとソフトウェアの会社が中心です。

皆さんに伝えたかったのは、どうしてもハードウェアが不可欠な領域が多いということで、僕らはハードウェアへの投資が多いです。

あと、ベンチャー投資で言えば、スライドの上2つの領域(電力網の脱炭素化、交通の電化)は上場企業がたくさん出ている領域なので、むしろ新規のベンチャー投資案件はどんどん減っています。

そして、二酸化炭素除去や自然保護に関する投資先が今、出始めています。

光栄なことに、ビル・ゲイツ氏のブレイクスルー・エナジーなど、世界の投資家と共同投資ができています。

例えばスバンテは、工場などの煙突にフィルターつけてCO2を除去する会社です。

彼らの事業モデルはシンプルで、「10億tをt単価10,000円で回収するので、100兆円のマーケットであり、シェアを最低1%取るので1兆円になる」「世界にある関連特許の3分の1を持っている」というようなものです。

3分の1の特許を持っていれば、確かに1%くらいのシェアは取れそうだなと思いますよね。

僕らは実際に投資をし、3カ月に1度くらい面談をしていますが、日々の数字報告を見ていると、思ったよりも早く産業が立ち上がっていることが分かります。

CO2回収技術を開発するカナダのSvante社へ脱炭素テックファンドを通じて出資(ENECHANGE)

日本では類を見ないビジネスで上場した企業も

城口 もう一つ、皆さんに思考の枠を取っ払ってもらうためにあえて話しますが、アフリカで森林保護をしていたGreen 14という会社があります。

アフリカやブラジルなど、森林がどんどん減っていく地域でお金を集めて森林を保護するのですが、その活動がなかったら減っていたであろう森林量との差分がクレジットになるので、それを保管しています。

森 カーボンキャプチャ(二酸化炭素回収)みたいな発想でしょうか。

城口 そうですね。

森 カーボンクレジットの定義をひっくり返しているわけですよね。

城口 そう。

カーボンクレジットを、それらを買いたいオフテイカーに販売して、そのお金をアフリカに渡して森林伐採をする人から森林を守ることに使い、レンジャーと呼ばれる地域を守る人を現地で雇用します。

この活動で生まれるカーボンクレジットを投資家に先に売り、オフテイカーになってもらって仕組みを回していくということです。

僕らはこの会社に投資できなかったのですが、この会社は最近ロンドンで上場しました。

こんな活動がビジネスになるのかという思いもあるのですが。

スライドの上2つはシンプルなビジネスとなっていますが、自然保護や二酸化炭素除去の領域では、日本では見たことないようなビジネスもありますね。

日本人が価値を感じるグリーンテック企業の方向性

 城口さんは、かなりの量の欧米の気候テックスタートアップを見ていると思いますが、日本と欧米で感じる傾向や流行の違いはありますか?

城口 僕も今日、そのあたりの話を永田さんにうかがえることを楽しみにして来たのですが、日本はWeb3などとまだ言っているので、そもそも気候テックはトレンドになっていないと思います。

また、いわゆるリアルテックがなければハードウェア事業は無理なので、大学発企業や特許を持っているような人たちがいて、層の厚みを感じています。

永田 城口さんは普段、海外にいる人ですよね。

日本という文脈で言えば、僕は、Web3や仮想通貨と脱炭素領域が同じ領域だと感じている人が多いと思います。

なぜなら、カーボンクレジットは社会的に作られた価値であり、本質的なバリューなのかと問われることがめちゃくちゃ多いと思うからです。

僕としては、実は結構同じようなものだと感じていて、すごく危ういものなので、それを前提とした業績、マルチプル(※利益や売上などの財務指標に対する時価総額の倍率)、バリュエーションへの恐怖心があるのではないかと思っています。

ここから、リアルテックファンドという立場に変身して話します。

先ほど話したように、バイオ燃料が今350~400円で売られていることは、明らかに付加価値が入っています(Part.4参照)。

 環境の価値ということですね。

永田 おっしゃる通りです。

先ほど原価が80円プラスリファイナリーコストが18円と言いましたが、通常の石油由来のジェット燃料は150円です。

つまり、普通のジェット燃料として売っても儲かるのです。

また、同じ機械で使われる燃料の量を、パフォーマンスを維持したまま20%減らすことができれば、CO2排出量は20%減りますよね。

でも、普通に考えれば、エネルギー使用量もコストも下がって、効率が上がっていることになります。

どちらも本質的なことですが、科学の力できちんと改善されているという感覚を持てる方に、日本人は付いていきやすいのだと思います。

中島 絶対にそうだと思います。

永田 ですから、僕がリアルテックファンドで注力しているのは、大きくスケールするよりも産業構造を改善できる、P/Lが確かに回ることを評価しつつ、追加で価値が乗るからマルチプルがより高くなる、という整理をすることです。

その方が、日本では理解も評価もされやすいと思います。

そこが、欧米と比べたとき、グリーンテックに対する評価の差を生んでいるところかなと個人的に思っています。

中島 私もタクシー会社にEVを販売していますが、彼らは、JPNタクシーのLPGガスで走る車と同じ距離を走った時、月々のエネルギーコストが上がるか下がるかを中心に見ます。

今回EV化を提案した際に助成金を組み合わせたのは、JPNのLPGガス車よりもコストが少し下がるからです。

そう見せるためのコントロールとして、助成金を活用したのです。

「その方がお得だから」と説得して、EV2,500台を導入します。

それがちょっとでも逆転していると一切、導入してくれません。

普及においては、実コストがどういうエコノミクスになっているかはすごく大事です。

ガバナンスサイドとの連携は

永田 先ほど森さんが言っていたFITの世界(Part.5参照)も、支えている間に科学技術が進化し、太陽光パネルの価格が下がり、実質的によりコストが下がるまでの期間の施策であることに、本来は意味があるのです。

 FITは、トランジションのための制度ですね。

永田 ですから、バブルと捉えないためにどこに注目すればいいのかは、今回のテーマの本質だと思います。

いくつかの企業、業界において、瞬間的にバブルに見えるものがあると感じることがあります。

それを見極めるのが、投資家や僕たち起業家にとって重要なのではないかと思います。

 ありがとうございます。

今の永田さんと中島さんのポイントも併せて、政府や自治体などガバナンスサイドとの連携について教えてもらえますか。

大事なのは、全ての技術開発が完了しているわけではない領域もたくさんありますが、あと10年もすれば技術が相当進歩してコストが下がり、クリーンなテクノロジーがコスト競争力を持ち、今の化石燃料よりも安くなる世界になると想定します。

それを見越して、10年のトランジション期間のために、政府が補助金や仕組みを提供してくれるのです。

ですから、規制産業や脱炭素化、グリーンテック領域においては、政府とのコラボレーションが重要です。

そこで、中島さんがどのようなコラボレーションをされているか、Tipsとして教えていただきましょう。

政策が決まる前に正しい情報を提供し続ける

中島 我々は、しっかりとパブリック・アフェアーズをしている会社です。

これは、158億円の助成金がおりた時の事例です(Part.3参照)。

実際に助成金をもらえたのは2022年の前半ですが、我々はその2年前くらいから動いていました。

当時、2020年に菅政権が2兆円のグリーンイノベーション基金という施策を打ち出しましたが、その半年前から、霞ヶ関ではグリーンイノベーション基金の話題でもちきりだったのです。

内部に入り込める人であれば、100%キャッチできていた情報です。

我々は、経産省出身の人間と国交省出身の人間をきちんと揃えており、彼らが色々な界隈に話をしに行きます。

国としては、グリーンイノベーション基金で、産業単位で脱炭素を行いたい意向です。

霞ヶ関において、意識の高い人は本当に意識が高く、情報がないだけなのです。

政治家の中にも霞ヶ関にも、グリーンイノベーション基金を設立し、「日本社会において、意味のある脱炭素を行いたい」と考える人たちが確かにいるのです。

永田さん、そういう目で見ないでください(笑)。

永田 いえ、僕は、そこは全く疑っていないです。

中島 彼らに対し、タクシー産業が脱炭素をするためには、「業界構造がこうなっているので、こういう研究開発やエコノミクスが必要」「EVの価格が下がるまでの間、このコストを支えてもらうことがすごく大事」と伝えるのです。

研究開発するには10台や20台のレベルだとダメで、あらゆる都市パターンで検証をするには何台必要かという情報までインプットするのです。

「ここまで行えば、産業単位で脱炭素化するためのモメンタムができる」ということをずっとディスカッションした上で、合意をするのです。

そういう情報を提供しておくと、政策を作る際、「タクシー産業を脱炭素化させるためには、このくらいの研究開発投資を国がしなければいけない」という情報がきっちりと頭に入った状態で、作り始めてもらえるのです。

政策ができてしまう前に、インナーサークルの人たちに正しい情報をインプットする、これがすごく大事です。

彼らも無駄な助成金は払いたくない、意味のある助成金を払いたいと思っています。

森 スライドの、「タマ込め」というところですか?

中島 そうですね。

グリーンイノベーション基金ほど大きいものだと2年くらい前ですが、年間のバイオリズムというものがあります。

10月は財務省査定でめちゃくちゃ忙しいので、タマ込めの話は断られてしまいます。

しかし3月や4月に話をしに行けば、めちゃくちゃウェルカムな態度で聞いてもらえます。

こういう、年間のバイオリズムがあるのです。

2、3年後のネタは 3月か4月に持って行くべきです。

でも、どういうタマかを見極めることも必要なので、インナーサークルに入ることがすごく大事です。

リスクを抱えながらのコミットも必要

中島 あと、経営者のコミットも必要です。

タクシー産業の方を向いてもらえたのに企業側がその事業をしないとなると、信頼関係は崩壊します。

「来年そういう助成金を出せば、そのビジネスを本当に行ってくれるの?」という投げかけに対し、助成金が出る前にコミットしなければいけないのです。

森 官僚と、きちんとダンスを踊らなければいけないわけですね。

中島 ですから、結構リスクはありますよ。

我々も株主に対し、「来年助成金が出ると思うので、それを獲得できればこういうビジネスモデルになります」と説明をしますが、「助成金が出なければどうなるの?」と言われます。

そこで、「出なかったら仕方ないので諦めてください、でもチャンスなので計画しています」と答えます。

城口 僕らのEV充電事業も同じです。

今年5,000台を設置するとしていますが、実際の申請期間は4月から始まり、8月に終わります。

出てから受注をしたら間に合わないので、営業とマーケティング体制をその前に敷き、受注残を大量に……。

中島 先行投資をするのですよね。

城口 万が一、1,000台分しか予算が取れないとなると、大変なことになります。

中島 そう、そのリスクを飲まないといけないのですよね。

城口 僕らは飲み込んでいますよね。

イノベーションを起こすために必要な力

永田 僕はどうしても言いたいことがあるのですが……。

 どうぞ、どうぞ。

永田 それは日本交通(※Mobility Technologies(現・GO)は、2020年に日本交通ホールディングス系のJapanTaxiと合併)だからですよ!

中島 それがですね、日本交通は大規模な台数導入には至っていないんです。

永田 いえ、何が言いたいかと言うと…。

この会場にいるベンチャーの方々に伝えたいのですが、国の政策を決める際、やはりその村において、一番高いところにいる人の話が通るのです。

中島 それについて現実的な話をすると、まず2020年当時、私はDeNAにいたので、タクシー村産業の外にいたわけです。

弾込めまではできましたが、うまく波に乗れば、別に産業内で力を持っていなくても政策に組み込んでもらえることは、十分にあります。

このような例は、枚挙にいとまがないです。

でも、おっしゃる通り、霞ヶ関と永田町と産業界には、お互いにグーチョキパーの強みがあります。

タクシーという産業界においては、全国ハイヤー・タクシー連合会という団体は非常に強力な業界団体です。

実際、振り返ってみると、インターネット業界にいた時は甘かったと勉強になりました。

産業界の団体が政治界に影響力を行使するということは汚い話ではなく、ビジネスをうまくいかせるため、世の中にイノベーションを起こすために必要な武器であり、インターネット業界にいた時はそれを知らなかったので、できていませんでした。

でも、これはしっかり取り組んでいかなければいけないと思います。

霞ヶ関と永田町の力学を使ったことのない、または使えない産業やスタートアップが、いきなり158億円クラスの助成金を狙おうとすると、うまくいかないと思いますので、それは頭に入れておいたほうがいいですね。

 ありがとうございます。

これはスタートアップにとっては、本当に重要な示唆です。

産業ごとに標準作法が違うので、先輩方に学びながら、必要に応じてその都度、業界のことを理解している人を仲間として組織に巻き込んだ上で、総合力で勝負するという戦い方が必要なのだと思います。

議論を終えて

 さて、終了時間が来てしまいましたので、最後に一言ずつお願いします。

城口 大変楽しかったです、めちゃくちゃ勉強になりました。

また次回も、よろしくお願いします。

中島 私はすごくこのテーマに燃えているので、誰かから何かを言われなくても勝手に進んでいきます。

ただ、やはりICCサミットにおいて、このテーマのセッションにもっと人が集まるようになった方が、皆さんにとってももっと良いと思います。

ですから次回には今、会場にいらっしゃる方がまた来てくださることを期待しますし、もっと人が集まることを期待します。

ありがとうございました。

永田 先ほど、僕らの燃料は石油に対して70%のCO2削減効果があると言いましたが(Part.4参照)、10倍売れたら10倍地球が良くなって、10倍売れたら10倍自分たちが儲かる、そんな仕事の方が良くないですか?という話です。

その両方を実現できるのが脱炭素ビジネスではないかと思いますので、みんなで世界を良くしながら、自分たちも最高の状態になるビジネスを一緒にできればと思っています。

今日はありがとうございました。

 ガチ経営者の方々に登壇いただいた、脱炭素化セッションでしたが、ぜひこれがシーズン1と言いたいところです。

登壇者の皆さまに、改めて盛大な拍手をお願いいたします。

ありがとうございました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成

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