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5. 食のレベルが全体的に向上している今、“次の波”は何か? 

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食にこだわる作り手たちが西から東から大集合! ICC KYOTO 2021のセッション「世界に誇る日本の食文化の強みとは?」全6回シリーズ(その5)は、日本の食文化の”次の波”を登壇者たちが展望します。「体験」「ローカル」「素材回帰」などさまざまなキーワードが出てきますが、皆さんはどう思いますか? ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2022は、2022年9月5日〜9月8日 京都市での開催を予定しております。参加登録をスタートしました。公式ページ  をご覧ください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2021 プレミアム・スポンサーのGO BUSINESSにサポート頂きました。


【登壇者情報】
2021年9月6〜9日開催
ICCサミット KYOTO 2021
Session 3D
世界に誇る日本の食文化の強みとは?
Supported by GO BUSINESS

(スピーカー)

大槻 洋三
株式会社KOHII
代表取締役 (CEO)

高橋 拓児
株式会社 木乃婦
代表取締役

宮下 拓己
LURRA˚
共同オーナー

山下 貴嗣
Minimal -Bean to Bar Chocolate- 代表(株式会社Bace 代表取締役)

(モデレーター)

占部 伸一郎
コーポレイトディレクション
エグゼクティブコンサルタント

藤田 功博
株式会社のぞみ
代表取締役

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最初の記事
1. 日本の食文化に携わるスピーカーが集結、その強みを語る!

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4. 日本は世界でも稀に見る自家焙煎大国(KOHII 大槻さん)

本編

何料理というのはないジェネレーション(LURRA°宮下さん)

藤田 宮下さんは、ジャンルはないとおっしゃっていましたが、例えば来月のメニューを考える時は、どうしているのでしょうか?

宮下 いつも食材ありきで考えていて何料理とは考えていないので、つながりのある農家や漁師に、次のシーズンの入荷予定を聞いて試作をします。

占部 そうは言っても、皆さんがオーストラリアやニュージーランドで働いていた時は、取り組んでいるジャンルはあったのでしょうか?

宮下 何料理というのはないジェネレーションだと思います。

僕はこの業界に入って11年目ですが、11年前は、専門誌にもフランス料理か現代風フランス料理くらいしかジャンルがない時代でした。

しかし僕たちよりも下の世代は、学ぶ中で、料理というもののジャンルを気にしなくなっています。

これは、良く言えば自由度がありますが、悪く言えばクラシックを知らないということです。

ただ、20年で時代が変わる、時代が追いついてくるという先ほどの話に近いですが、僕たちが今やっていることは20年後、クラシックになりうることかもしれません。

ですから、常に最先端のことを見るのがすごく大切だと思います。

このリストで言うと、僕が業界に入ったのは第三と第四の波の間で、食べログが流行り、ミシュランが東京に来たりしていた頃でした。

僕たちの前の世代は、西洋料理を追い求めていた世代です。

料理がより西洋化される中、きちんと評価されるスタンダードが日本にはあるということですから、今後レストランを日本から海外展開する時に、こんなにかっこいいことができると胸を張れる世代だと思っています。

ですから、第四の波の世代では、そうでなければいけない理由や特定の料理ジャンルはなく、この人に会いに行きたいとか、その人にとって特別な料理であるとか、食がより体験に近づいていると思います。

「食の体験」が、僕たちの世代の大切なワードかなと思いますね。

味覚の記憶は瞬間的。またあそこに帰りたいという体験を作る

藤田 そうですね。第四の波だけ主力メディアにInstagramという非言語中心の要素が入っていて、つまり、見た目だけでそこに行きたくなるか?という要素があるということです。

以前は言語中心のやりとりだったので、ジャンルは大事でしたし、とんかつ専門店など専門化が進んでいました。

これまでの料理屋は、「こういうものが食べたい」が先にありました。

高橋さんが紹介したフカヒレのお椀でも、極上の白ご飯でも、何かこれという名物があり、それが来店理由になっていたのです。

LURRA˚の場合、ビジュアルから入る、非言語のコミュニケーションが特徴的かなと思います。

ビジネス面を考えた時、お客様の来店動機はどうやって作るのでしょうか?

宮下 一番大事にしているのは体験です。

2時間半という限られた時間で、どうお客様と接するか。

彼らが帰る際、楽しかったと思える体験をして頂きたいと思っています。

というのも、美味しかったという記憶は瞬間的で、次の日の朝にはその味を覚えていないと思うからです。

ですから、楽しかったとか居心地が良かった、ただいまという気持ちでまたあそこに帰りたいという気持ちを感じて頂きたい。

LURRA˚で唯一使える五感は味覚なので、食という体験を通して人生を豊かにしてもらうことが、再度来店してくださる理由だと思います。

藤田 なるほど、面白いですね。

宮下 実際、結構リピーターが多いです。

オープンして2年ほどですが、笑顔で戻ってきてくれる人が多いですね。

藤田 味だけに執着しないというのが、面白いですね。

食の“次の波”は、そこに住む人が笑顔になるもの

宮下 当然、要素として美味しさは大切な部分ですが、コロナの影響もあり、食の本質がどんどん変わってきていると思います。

僕は、第四の波のインスタ映えというのは好きではない世代です。

占部 SNSを意識していますか?

宮下 そこまでではないですね、シェフは大好きですが(笑)。

インスタ映え食材が増えて、面白くなくなった部分も世の中にあります。

デンマークでもフランスでもアメリカでも、アフリカの奥地のレストランでも、情報が同じタイミングで共有されてしまうので、オリジナリティはどこにあるのだろうと思っています。

僕の中の第五の波は、食材やローカルです。

少し前まで、デンマークのコペンハーゲンが食に関して人の集まる場所でした。

第四の波の時、食材やローカルに戻った感じはありましたが、全人類がコロナ禍を体験し、営業しても海外のお客様が来なくなったので、どこも店を閉めるようになりました。

ローカリズムを表現する店を出しても、実際にローカルに与えられたものはあまりなく、ローカルという考え方を消費して海外に周知をしていただけだと思います。

ですから、第五の波は、そこに住んでいる人が笑顔になる、街のリビングルームのようなものができるのだと思います。

藤田 面白いですね、山下さんから一言あるようです。

味覚が豊かになり、素材回帰が起こる

山下 第五の波かどうか分かりませんが…。

例えばワインで言うとナチュールワインのように、コーヒーや日本酒、僕のチョコレートもそうですが、素材回帰というテーマにおいては、発酵がキーワードになると思います。

コーヒーでは、仮に第一世代が深煎りだとすると、その後に空間を売ったスターバックスがあり、そしてスペシャルティコーヒーは発酵させることで酸を骨格としました。

日本酒もそうで、灘のお酒(※)や十四代(山形の銘酒)から始まり、獺祭というイノベーションが起こり、今、新政の佐藤(祐輔)さんは乳酸を効かせた、ワインのような日本酒を作っています。

▶編集注:灘の酒【歴史・風土編】:日本酒生産量トップを独走する兵庫が誇る酒どころ | nippon.com

チョコレートも同じなのです。

最初は深煎りだったところに、甘味を混ぜて、今は本来カカオの持つ、酸味も苦みも渋みも含めて五味を表現しているフェーズです。

つまり、チョコレートに近いところで素材回帰が起こっていると思います。

これをチョコレートの世界から俯瞰して見ると、世の中の傾向として起こっているのは、五味が複雑になっているということです。

人間は割と刺激の強い酸味は苦手な傾向ですが、味覚が豊かになることで、酸も含めて色々な味への耐性がついていると思います。

美味しいのは前提、背景やストーリーに目が向く

山下 もう一つ、ビジネス的に見ると、アウトプットの差が限りなく縮んでいます。

例えば、コンビニのスイーツがめちゃくちゃ美味しくなっています。

アウトプットの差を突き詰めていくのが、僕ら職人の仕事だと思います。

しかし最近、美味しいのはもはや当たり前であり、むしろ、どこから来たのか、どんな人が作っているのか、どんなプロセスでここに並んでいるのかなどアウトプットの前段階に目を向ける動きが、食の世界では起こっています。

そのアウトプットの前段階とは、チョコレートで言えば、なぜ酸味の効いたチョコレートを作るのか、酸はどこから来ているのかなど、料理人の思想や素材の良さなどプロセスの物語です。

アプトプット自体は美味しいものであり、それにプラスして、食べるという体験を通して得られる満足感を生む、背景やストーリーを考えているのです。

美味しいスイーツを食べたい時、コンビニに行けば100円で手に入るのに、なぜわざわざ1,500円のMnimalのチョコレートを買うのか。

15倍の値段がするから、15倍美味しいかと言われれば、美味しいかどうかは本人の価値観によりますから、誰にも分かりません。

でも買って頂けるのは、素材や作った人、作ったプロセスを含めて価値を感じて頂けているからではないかと考えています。

チョコレートをはじめ、コーヒーやワイン、日本酒でもこういうことが起こっているのではないかと思いました。

健康、サステイナブルといった「機能性」は食文化にとって危機なのか?

藤田 僕が考える、今の食文化の最大の危機は、機能性食品の志向の強さです。

例えば、「かっこいい、おしゃれ」でいいはずのアパレルの世界は、通気性や防水性など言語化しやすい、スペック化しやすい機能を付与しました。そうしてアウトドアウェアはすごく売れるようになりましたし、ユニクロも水を弾く、すぐ乾くといった新商品が多いです。

逆に、ただ「かっこいい、おしゃれ」というものは、価格の裏付けがしにくくなり、売れにくくなっていきます。

その傾向が、食べ物の世界にも現れていると思っています。

例えば、糖質80%オフとか、プロテインやタンパク質が何g入っているとかですね。

本来、食べ物は美味しければいい、豊かなストーリーがあればそれだけでいいのに、オーガニック、などもそうですが、「機能」が訴求できなければ売るのが難しくなっていて、食を文化と捉えた時、これは貧相になっていくきっかけになる気がします。

宮下 日本では昔から「レモン何個分のビタミンC」と書く国なので(笑)、何か比べるものが欲しい、良いものに見せたいという思いがあるのでしょうね。

先ほど体験と言いましたが、お客様が食べる際、聞きたいことがあります。

LURRA˚のコンセプトを作っていた際、「ブームではなくカルチャーを作る」と「絵本のようなお店を作る」の2つを1ページ目に書きました。

LURRA˚ での2時間半を通して、絵本のような体験を届けたいという思いがあります。

インスタ映えの影響からか、最近は、写真集のようなレストランも多いです。

写真で撮ればきれいだけど、奥行きがなかったり、人がいなくてもかっこよく見えてしまったりしています。

でも僕が作りたい店は、子供に読み聞かせをしている時、例えば「誰かがノックしました」というところで、次のページを開く前に子供が「誰がノックしたの?」と質問するような、ワクワクできる空間です。

同じ内容だけど何回読んでも違う感じ方のできる絵本、そんなお店があれば、是非行きたいなと思っています。

健康、体に良い、エコ、サステイナブルなどのキーワードがありますが、それだけが本質ではないと思います。

今は文化を発信し、共感する仲間を集めやすい時代

占部 機能を謳うお店もあれば、ストーリーや豊かな時間を過ごすことを提供するお店もあります。

今日の登壇者4名の場合、後者を目的としたお客様の方が多くなっているのでしょうか?

山下 僕は、機能性の話はすごく大事だと思っています。

買う時の軸としては、商品がどんなものかを知れるので、すごく分かりやすいですよね。

インターネットによる情報革命の時代は、情報の非対称性がなくなっていきます。

例えば、岐阜に住むうちの母は、ゴディバのチョコレートが高級チョコだと言い続けています(笑)。

息子は全然違うチョコレートを作っているのに、息子を応援しない(笑)。

ゴディバはゴディバで素晴らしいのですが、母がそう思うのは「ベルギー王室御用達」などと謳うCMを見たからでしょうね。

言いたいのは、情報の非対称性がなくなっていった時、判断軸や価値観は、より個人によって変わっていくだろうということです。

情報源が限られていた時は、「ゴディバが高級チョコだ」という情報源を軸に、高級かそうではないかを判断していました。

機能性もストーリーも、それを発信する側がちゃんと意識していれば、ファンがついてコミュニティができます。

自分の体に良いものを提供してくれるので、機能性食品の場合、そこには人の多いコミュニティができると思います。

しかし、僕のように何の影響力もない小さな人間でも、好きなものや、カカオの味わいや発酵の面白さについて投げかければ、小さいコミュニティかもしれませんが、ファンや共感者、仲間が集まるのではないかと思っています。

そして今は、それができる可能性の高いタイミングだと思います。

機能性は大きな軸なので存在し続けるでしょう、しかし一方で、自分たちの好きなものや守るべき文化を発信するのも、やりやすくなってきています。

今は過渡期なので情報過多になっている人も多く、様々な情報があふれているゆえ、人は、分かりやすい情報のもとに集まるのだと思います。

しかしこの先、文化的な奥行きや厚みを持ったものに人々がリーチできるようになるので、自分はこれが好きだと判断できる人が増えると思います。

だからこそ、発信側はきちんと発信しなければいけないと思いますね。

(続)

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続きは 6. 店が提供したいものと客の意見のバランスをどう考えるか?【終】 をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸

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