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3. Well-beingは、企業にとって既存事業を捉え直す新たな視点である

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ICC FUKUOKA 2023のセッション「Well-being産業の今後(シーズン2)」、全5回の③は、Well-being for Planet Earthの石川 善樹さんが、企業価値とWell-beingの関係を3つのフェーズで解説します。人的資本経営、ステークホルダー資本主義のフェーズから、今急速に移行が進む既存事業のトランスフォーメーションのフェーズまでを、ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜 9月7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください

本セッションのオフィシャルサポーターは 住友生命保険です。


【登壇者情報】
2023年2月13〜16日開催
ICC FUKUOKA 2023
Session 8F 
Well-being産業の今後(シーズン2)
Sponsored by 住友生命保険

(スピーカー)

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役社長CKO

小林 正忠
楽天グループ株式会社
Co-Founder and Chief Well-being Officer

(モデレーター)

藤本 宏樹
住友生命保険相互会社
上席執行役員兼新規ビジネス企画部長 / SUMISEI INNOVATION FUND事業共創責任者

「Well-being産業の今後(シーズン2)」の配信済み記事一覧


石川 Well-beingの浸透には、3つのフェーズがあります。

最初のフェーズは人事です。

Well-beingへの取り組みは、人事観点から始まることが多いと思います。

最近だと、人的資本経営の観点から、従業員のWell-beingが大事であるというフェーズです。

フェーズ2はここ数年起きていることですが、経営者のレイヤーへの浸透です。

過去30年間は株主資本主義というか、株主のWell-beingを考えることが経営者の主な役割でした。

しかし、株主のWell-beingだけではなく、従業員やお客様のWell-beingも重要である、つまりステークホルダーのWell-beingを実現させることが経営者の役割であるというのが、ステークホルダー資本主義という考え方です。

企業価値とWell-beingを考える上で、フェーズ1は従業員のWell-beingの話だったのが、フェーズ2ではそれが拡張されてステークホルダーのWell-beingの話になってきました。

そして今年に入って急速に起きているのが、事業レイヤーへの浸透です。

スライドには「競争戦略としてのWX(Well-being Transformation)」と書きましたが、もはやDXやSX(Sustainability Transformation)は当たり前になってきていて、それだけだと差別化が難しくなってきているのです。

後ほど述べますが、Well-beingという視点から既存事業を見直すと、進化のポイントがたくさんあるのです。

Well-beingと事業と言えば、これまでは、新規事業としてWell-being関連事業を始めることが多かった印象がありますが、いよいよ既存事業をWell-being視点でトランスフォームしていくのがフェーズ3です。

今年、このフェーズ3に入り始めたと感じています。

フェーズ1:人的資本経営

石川 フェーズ1については、まず事実として有価証券報告書や四半期報告書の中でも、Well-beingという言葉の登場回数は激増しています。

人的資本経営とWell-beingについて、有識者として率いていらっしゃるのが、一橋大学の伊藤 邦雄先生です。

人的資本経営には2つの側面があり、1つはどうやって経営していくか、もう1つは情報開示です。

どうやって経営していくかのガイドラインに当たるのが、「人材版伊藤レポート2.0」です。

そして、人的資本の情報開示については、2022年度、「人的資本可視化指針」が出ました。

「人材版伊藤レポート2.0」は、1.0があるから2.0なわけですが、大きな違いは、Well-beingの要素が入ったことです。

「これからの人的資本経営は、エンゲージメントとWell-beingの両方を大事にしよう」というのが、このレポートのメッセージです。

エンゲージメントとWell-beingの違いは、主体です。

エンゲージメントの主体はあくまでも会社であり、エンゲージメントとは、会社が与える仕事や環境に従業員がどれだけエンゲージするかです。

ですから、主体があくまでも会社であり、かつ仕事に関係するのがエンゲージメントというものです。

それに対してWell-beingは主体が個人であり、仕事のみならず、生活全般についてどう感じ、考えているのかです。

これら両方が大事なのは、会社と個人の関係が完全に変わったからです。

昭和の時代は、松下 幸之助ではないですが、会社が強く、「与えられた仕事を天職だと思え」「会社に入社すれば、親族一同感謝感激」という時代でした。

しかし、だんだん個人が強くなってきて、会社と個人が対等であり、エンジニアなど、職種によっては個人の方が強い状態になった今、エンゲージメントとWell-beingの両方を大事しないと、中長期的に安定した経営が難しくなります。

そこで、「エンゲージメントWell-being」という考え方が、人事の世界で出てきました。

背景には、従業員をどう捉えるかという問いがあります。

これまで従業員は、「Human Resource」、つまり「人的資源」だと捉えられてきました。

ですから「人事部」を、英語で「HR」と訳している会社が多いと思いますが、それは暗黙のうちに「従業員は資源です」と宣言していることになるのです。

資源は管理しなければいけないので、従業員は、コスト管理、工程管理、時間管理など、管理の対象となります。

人的資本経営の場合、従業員を「Human Capital」と捉えます。

資本はスキルやキャリアに投資しなければいけないので、人的資本経営においては、従業員に投資をしていく流れがあります。

しかし、そもそも従業員が「資源」なのか「資本」なのかというのは表面的な議論であり、本質的には1人の人間、つまり「Human Being」ですよね。

ですから、その人のWell-beingを尊重するのです。

従業員をひとりの人間として捉え、その人のWell-beingを尊重する土台がなければ、管理しようとしても、投資しようとしてもうまくいかないだろうというのが、人的資本経営の流れであり本質です。

だからこそ、Well-beingという考え方が、ガイドラインに明確に盛り込まれています。

フェーズ2:ステークホルダー資本主義

石川 従業員のWell-beingも含め、ステークホルダーのWell-beingを考えようとするのがフェーズ2です。

その先駆けとなったのが、丸井グループだと思います。

「ステークホルダーと共に価値創造」と書いていますが、これがステークホルダー資本主義の本質です。

色々なステークホルダーと共に価値を創っていくという、発想の転換です。

丸井の場合、丸井グループにとって重要なステークホルダーとして、この6つを特定しています。

ステークホルダーとの共創(丸井グループ)

皆さんがどこかで丸井グループの社員と会ったとして、「あなたの会社にとって重要なステークホルダーは誰ですか?」と聞けば、おそらくこの6つを答えてくれると思います。

その中でも特徴的なのは、一番下の将来世代ですね。

将来世代と共に価値を創っていく、というのが丸井グループの特徴です。

それぞれのステークホルダーがWell-beingな状態をKPIで追う時、一番分かりやすいものとして、株主や投資家がWell-beingかどうかはEPSやROE、ROICで測れます。

将来世代のWell-beingについては、将来世代と共に事業をどれだけ創れたかをKPIにしています。

当然、ステークホルダーごとにどういう状態がWell-beingであるかは違うので、色々なKPIを設定しています。

このように丸井グループが先駆けて行っており、色々な企業がそれに続いています。

フェーズ3:Well-beingの視点で既存事業をアップデート

石川 2023年に面白いのは、いよいよ事業レイヤー、特に既存事業のレイヤーにWell-beingが浸透してくることです。

それは、DXやSXは当然という時代になるからであり、繰り返しとなりますが、Well-beingについて新規事業を行うのではなく、既存事業をWell-beingの視点から進化させるということです。

さらっと書いていますが、このスライドだけでも1時間や2時間話したいくらいです(笑)。

例えばモビリティは、これから自動運転が進めば、車の中が生活空間になるわけですが、そこでいかにWell-beingな状態で過ごせるかという点で、進化の余地があります。

生命保険については藤本さんが話してくれると思いますが、生命保険という業界は、基本的には保障と資産形成をしてきた業界です。

何かあった時のための保障と、いつかのための資産形成。

でも保障と資産形成だけでは差別化が難しいので、住友生命は「Vitality」というプログラムを皮切りに、何かあった時やいつかだけではなく、日々のWell-beingをも支えようとしています。

つまり、生命保険業界は業界として、日々のWell-beingを支えることが競争の軸になっているのです。

Well-beingという視点から既存事業を眺めると、今までと違った景色に見えることに、色々な業界が気づき始めたということだと思います。

サステナビリティ業界もWell-being Transformationを開始

石川 WXがメガ潮流だと自信を持って言えるのは、サステナビリティ業界がいよいよ、Well-beingというトピックに関心を持ってくれたからです。

環境に優しい循環型経済圏を作っていこうという団体「The Circular Bioeconomy Alliance」がヨーロッパにはあり、色々な会社や団体が所属しています。

これを立ち上げたのは今のイギリス国王で、2020年に立ち上がりました。

この団体のテーマは、「Sustainable Well-being」なのです。

サステナビリティとWell-beingという2つの離れていたものが、一緒になり始めているのです。

繰り返しますが、業界として、サステナビリティはニュートラルに向かうものでした。

しかし、それに加えて「ネイチャーポジティブ」や「リジェネレーション」というキーワードが登場したように、もっとプラスのものを次世代に渡していくべきだということで、Sustainable Well-beingという考えが登場したわけです。

ネイチャーポジティブとは・意味(IDEAS FOR GOOD)

リジェネレーションとは・意味(IDEAS FOR GOOD)

この図で重要なのは、真ん中に「Sustainable Well-being」があることです。

そこに向かって、下半分の「Nature Cycle(自然のサイクル)」と上半分の「Production Cycle(生産のサイクル)」をうまく循環させることで、Sustainable Well-beingを目指すという考え方です。

つまり、サステナビリティ業界もWell-being Transformationをいよいよ始めているということです。

ですから、今年2023年は色々なメディアで「WX」という言葉が登場すると思いますし、その最先端を走っているのが、本セッションのスポンサーでもいらっしゃる住友生命だと申し上げておきます(笑)。

藤本 (笑)。

石川 以上です。

藤本 ありがとうございます、すごく面白い話でしたね。

既存事業をWell-beingの視点でアップデート、進化させていくとWell-being Transformationが起きるという話がありました。

人の生死や人生に関係する生命保険では、リスクに備える保障をしていますが、生命保険には人を健康にする力はありません。

今は単なる長生きではなく健康寿命が重視されているので、リスクを減らすためにウェルネスプロダクトを生命保険につけています。

さらに、体の健康、つまり身体的Well-beingだけでなく、精神的、社会的Well-beingに対応しようとすると、新しいWell-beingのサービスと一緒にして保険事業をアップデートする必要があります。

アップデートのやり方として、これは分かりやすい例だと思います。

しかし、人の生死や健康に直接結びついていない製品やサービスを提供する企業が、Well-beingの視点から既存事業を見直す際、どうすればいいのでしょうか。

企業にとって既存事業を捉え直す新たな視点

石川 僕の限られた経験からですが…色々な業界の方と付き合っていて思うのが、色々な意味で、お客様を生活者として、Human Beingとして捉えていこうということだと思います。

例えば不動産の場合、ビルを建てて色々な会社に入ってもらおうとする時、お客様をビジネスパーソンとして捉え、彼らが仕事をしやすいようにと考えます。

でも彼らを生活者として捉えると、ビルへの移動についても考えるようになりますよね。

つまり、生活者としてのWell-beingを向上させるためにビルの設計をしなければいけなくなります。

単に、効果的、効率的に仕事ができるようにという側面だけで設計すると、差別化できないのです。

玄人から見ると違うのかもしれませんが、素人から見ると、どのビルも同じに見えますよね。

藤本 なるほど。

石川 製薬業界は分かりやすいですかね。

今まではお客様を患者として見ていたかもしれませんが、患者として捉えると、病院に来ている人にしかリーチができません。

しかし彼らを生活者として捉えると、広大なフィールドが広がっていることになります。

例えば糖尿病の場合、日本の糖尿病患者のうち、治療を受けているのは半分です。

さらに、治療を受けている人のうち、継続して受けているのはその半分なのです。

ですから、4分の3のお客様を失っていることになります。

彼らに、Well-beingという入口からリーチすることで、糖尿病という病気を適切に管理して頂くことができるのではないかと思います。

また、移動の場合、JR東日本も「Well-being as a Service」と謳い始めています。

藤本 そうですね。

石川 JALもWell-beingを中心に据えようとしています。

なぜ、そうなっているのでしょうか。

生活者として、ひとりの人間として彼ら全体を捉え、彼らのWell-beingを支えようとすると、これまでとは違う切り口から、既存事業の立て直しができるようになるということなのだと思います。

藤本 面白いですね。

Well-beingの視点から、生活者として捉えるということですね。

先ほどの、従業員をHuman Beingとして捉えるという考えもそうですが、通底していますね。

正忠さん、いかがですか?

正忠 分かりやすい整理だと思っています。

製薬会社の、患者ではなく生活者として捉え直すというのと同様、皆さんの顧客について、改めて生活者と捉えた際に何を思いつくか、というのがインサイトだと思います。

藤本 ではこの流れで、正忠さん、プレゼンをお願いできますか。

正忠 ここまではディスカッションにはなっていないので、僕のパートはディスカッションっぽくしたいというか……ただ、僕のプレゼン資料には、僕の考えの紹介ではなく、善樹さんと浄さんへの質問がたくさん書いてあります。

石川 (笑)。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美

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