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ICC FUKUOKA 2023のセッション「Well-being産業の今後(シーズン2)」、全5回の最終回は、研究大好きリバネスの井上 浄さんが、ヒューマノーム研究で得た驚きの知見を紹介、Well-beingと健康は切り離して考えるべきものと論じます。Well-beingを考える上で井上さんが重要と考える「ポジティヴヘルス」の概念とは?最後までぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜 9月7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは 住友生命保険です。
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【登壇者情報】
2023年2月13〜16日開催
ICC FUKUOKA 2023
Session 8F
Well-being産業の今後(シーズン2)
Sponsored by 住友生命保険
(スピーカー)
石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事
井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役社長CKO
小林 正忠
楽天グループ株式会社
Co-Founder and Chief Well-being Officer
(モデレーター)
藤本 宏樹
住友生命保険相互会社
上席執行役員兼新規ビジネス企画部長 / SUMISEI INNOVATION FUND事業共創責任者
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▶「Well-being産業の今後(シーズン2)」の配信済み記事一覧
ヒューマノーム臨床試験の驚くべき結果
井上 Well-beingの専門家でも何でもないのですが、今回呼ばれたので、過去の事例から、僕自身が感じたことをお話ししたいと思います。
僕は色々なところで研究をしていて、研究が大好きです。
2018年、Apple WatchやFitbitの登場で、健康が測れるようになりました。
もう5年前になるのですね。
これは研究領域と産業領域において、それぞれ疾患などのデータをどう取っているかについてのバブルチャートであり、青いところは「研究」が盛んで、オレンジのところが「産業」が盛んです。
このチャートにおいて、青が上がった後にオレンジが上がるという傾向が確かにありました。
論文や色々なニュースから情報を取得してレポートにした時、確かに研究の後に産業が興っているのであれば、いま研究が盛んな分野が次の産業になると言えます。
そこで2018年に、健康産業がどう興るかについて前のめりで予測し、人間を丸ごと解析する「Humanome(ヒューマノーム)」という言葉を造り、丸ごと解析してみました。
色々なデータを集めて、とにかく解析しました。
当時は日本ユニシスだったBIPROGY(ビプロジー)と一緒に、睡眠ベンチャー、腸内細菌ベンチャー、食ベンチャー、エピゲノムベンチャー、遠隔診療ベンチャーなど、まさにベンチャーたちのデータを一気に解析する実験を行いました。
結果、例えばお酒を飲んだ翌日は調子が悪いなどが分かりました。
通常、コホートではたくさんのデータを取得しますが、25人というサイズで4週間、40項目以上のデータを取得し続けるという試みを行いました。
これがめちゃくちゃ大変で、すごくお金もかかりました。
最終的に各人の1日ごとのデータをプロットし、2次元にしてみました。
藤本 1つの色が1人を表しているのですか?
井上 そうです。
多くのお金と労力をかけて分かったのは、こういうことです。
(一同笑)
井上 「人間を理解するとは何か?」のシリーズで一度お伝えしたのですが…。
▶8.「みんなちがって、みんないい」を科学する〜湯野浜ヒューマノームの事例
正忠 4年くらい前に拝見しました。
健康とは多様なもの
井上 この時に僕は、Well-beingと健康は紐づきそうですが、切り離して考えなければいけないと思いました。
この実験を行った理由は、データを取得して自分を知るためです。
それがその後、自分の調子を整えるためにデータを取得するプロダクトやサービスになるのだと思います。
自分の状態を知ることがスタート地点だったのですが、Well-beingと近そうで、でも近くないなとずっと違和感を持っています。
これが僕の思考の始まりであり、改めて、健康とは多様であると思います。
実際に、WHOは健康とは何かについては、病気ではない、何か良い感じの状態としているだけです(※) 。
▶編集注:日本WHO協会による訳では、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」。
「健康」と「Well-being」という産業を考えた時、ヘルスケア産業が何となくWell-being産業に近いと思いがちですが、それは違うのではないかと僕は思っています。
それが、僕が今感じている違和感です。
自分を知るためにデータを取るのは良いかもしれませんが、データを取って健康になって、それがWell-beingかと言われれば、むしろNOだと僕は思っています。
WHOは1940年代にはそんなことを言っていましたが、実は今、用語集みたいなもの(Health Promotion Glossary of Terms 2021)を発信しています。
そこには、Well-beingという項目もしっかりありますし、実は「Ability」という言葉が出てきます。
僕が拡大解釈して分かりやすく伝えると、このAbilityには「世界に貢献できる能力」も含まれると言っているのです。
社会も個人もです。
「ポジティヴヘルス」を高める産業がWell-being産業に
井上 「ポジティヴヘルス」という、オランダ発祥の概念があります。
ポジティヴヘルスとは、社会的・身体的・精神的な問題に直面した時、本人主導で問題を管理し適応する能力です。
Well-beingを考えた時、このポジティヴヘルスの考え方の方が、僕にはむしろ、しっくりくるのです。
つまりWell-being産業はヘルスケア産業の話ではなくて、この能力を上げていくための本人の姿勢と、地球貢献もしくは人類貢献できる能力を磨いていく、アップデートする産業こそが、結果、皆さんのWell-being度を上げるWell-being産業となっていくのではないかと僕は思っています。
僕の思考は、まだそこまでしか行っていません。
表面上健康になることよりも、それを考えられる能力を上げられる、そういう姿勢になれるサービスが、今後Well-being産業から出てくるものなのかなあ、とぼんやり考えています。
正忠 「みんなちがって、みんないい」、そして「能力」というキーワードが出ましたが、社会のWell-beingを考えてみましょう。
昨日ヘラルボニー社の方とも話したのですが、我々は日本語では「障害者」、英語では「person with disabilities」と表現しますが、「dis」という接頭語がつくので能力がないように聞こえます。
でもそうではなくて、彼らは、異なる能力を持っている人たちですから、「different abilities(異なる能力)」とか「diverse abilities(多様な能力)」と理解しようと楽天では話しています。
「みんなちがって、みんないい」、それぞれに能力があると考えると、Well-being産業の未来には、ボーダーがなくなってお互いの良いところを認め合い、否定し合わない社会が待っていると思っています。
Well-being産業が発展すれば、平和になっていくと思うのです。
藤本 「能力」と言うと高い低いという話になりがちですが、高いことが良いことではありません。
赤瀬川 原平さんの『老人力』という本で書かれていたのは、老人になるとつく力がある、それは肩の力を抜く力だということでした。
井上 そういうことです!
そういう能力をたくさん持てる、そこに行く着くまでのプロセスにおいて重要なものを養ってくれる、育ててくれるサービスがあればいいのだろうなと思っています。
自分のデータを見てWell-beingであると思える人がいれば、それはそれでいいと思います。
ただ、健康であるという状態は、めちゃくちゃ多様なのです。
5年前の実験において僕が出した結論は、驚くほど多様だということです。
特定の数値が高ければみんなハッピーというわけでもないですし、「患者はいつでも好きな映画が観られるけれど、医師が残業をしていると、どちらが健康か分からなくなった」という医師の言葉もあるくらいです。
ですから、健康が多様であると感じ、病気である、病気でないにかかわらず、自分の姿勢と楽しめる能力が重要だと思いますし、最後にいつも出しているスライドにある通り、僕は研究をしなければいけないと思っています。
もっとシンプルに言うと、食べて、寝て、楽しむことができるかどうかが大前提にあり、楽しむという点において、その能力を向上させられる産業があるといいなと思いました。
Well-beingの研究は続く
藤本 ありがとうございます。
議論をしているうちにあっという間に終了時間が来てしまいましたので、まとめとして、最後に皆さんから一言ずつ頂きましょう。
正忠 僕は、Well-beingこそが、企業が最終的に意識しなければいけないことだと思っています。
経営陣も含め、働く仲間たち一人一人がWell-beingでなければ、Well-doingができるわけがないです。
会社としてWell-doing、良いパフォーマンスを出していくためには、一人一人のWell-beingを実現しなければいけないと思っています。
本日はありがとうございました。
井上 姿勢と能力を測るようなテクノロジーは、たくさん開発できると思っています。
また、昨日のセッションでもご紹介したのですが、髪の毛から自分の状態を知り、前向きになれるかどうかが分かる技術(※イヴケアの毛髪分析技術を活用した独自のストレス解析技術)は既に出てきています。
まさにグレーゾーンの部分を少しでも可視化し、自分を知って、自分のベクトルや姿勢を決められるサービスが存在すれば良いのだろうなと思っています。
僕はひたすら論文を読み、技術を開発することを絶対にやめないので、お三方と一緒に新しいものを作っていければと思います。
今日はありがとうございました。
石川 今回、初めてリモート参加しましたが、側から見ていると、このセッションは良いセッションですね(笑)。
やはり、どうしても目先のことを考えたくなりますが、このセッションが良いと思う理由は、本質的で時間軸の長い話をしているからです。
藤本さんも正解がないとおっしゃっていましたが、やはり、Well-beingは分かりませんから、Well-beingに関しては、常に「分からない」という謙虚な態度でいなければいけないですね。
会場の皆様が高評価をして頂ければ、このシーズンも続くと思うので、次回のICC KYOTOではリアルでお会いしたいと思います。
今日はありがとうございました。
藤本 ありがとうございました。
今日はたくさんのキーワードを頂きました。
Well-beingの視点から既存事業を見直すことで新しい産業が生まれるということ、「Ability」「余白」「隙間」に何かが隠れているのではないか…これらを引き続き、研究していきたいと思います。
皆さん、お忙しい中、本当にありがとうございました。
このセッションが今後も続けばいいですが、もしも続かなくても、今日出た問いを問い続けていきたいと思います。
どうもありがとうございました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美