ICC FUKUOKA 2024のセッション「”社会課題解決”と”儲ける”を両立するビジネスを構築するには?」、全5回の③は、マクアケ 坊垣 佳奈さんの「儲けること」と「社会課題解決」は拮抗するのかという問いかけからスタート。坂ノ途中 小野 邦彦さんは、事業コストを理由に切り捨てない設計について、ユニファ 土岐 泰之さんは稼ぐことが正義になる仕組み作りについて語ります。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 4E
“社会課題解決”と”儲ける”を両立するビジネスを構築するには?
Supported by エッグフォワード
(スピーカー)
小野 邦彦
坂ノ途中
代表取締役
土岐 泰之
ユニファ
代表取締役CEO
福田 恵里
SHE
代表取締役CEO/CCO
松田 崇弥
ヘラルボニー
代表取締役Co-CEO
(モデレーター)
坊垣 佳奈
マクアケ
共同創業者 / 取締役
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▶「”社会課題解決”と”儲ける”を両立するビジネスを構築するには?」の配信済み記事一覧
「儲けること」と「社会課題解決」は拮抗するのか
坊垣 この「”社会課題解決”と”儲ける”を両立するビジネスを構築するには?」というセッションテーマですが、私は皆さんに聞きたいことがたくさんあり、それを事前にお話ししていました。
まず、この課題を日々どのくらい感じているのかについてです。
実は、私自身は上場するまで、儲けることと社会課題解決が拮抗しているという感覚は全く持っていませんでした。
今日の登壇企業の中で上場しているのはマクアケだけなので、私たちが今直面している課題は上場しているからなのだろうかと考えることがあります。
ですので、どう捉えているかをお聞きしたいです。
松田さんからお願いします。
松田 順調に業績が伸びていることもあり、私も今のところ、儲けることと社会課題解決が拮抗している感覚はそれほど持っていません。
逆質問になってしまうのですが、上場後、どういう場面で現実を感じるのでしょうか?
坊垣 分かりやすく言えば、社会課題解決事業は中長期目線で大きなビジョンに向かって事業を進めているのに、四半期ごとに決算発表があり、短いタームで何らかの解を求められることです。
正直、それに違和感を覚えながら経営しています。
例えば、「Makuake」には毎月かなりの数のプロジェクトが掲載されますが、プロジェクトごとに集める金額には差があり、ある一定の金額以下のプロジェクトは赤字なのです。
でも、ビジョンを実現するために、私たちは全てのチャレンジャーにチャンスを提供したいと思っています。
その結果、赤字プロジェクトの数が増えることもありますが、大きな金額を集めないプロジェクトでも、億単位を集めるプロジェクトでも対応する私たちの手間はそれほど大きく変わらないのです。
むしろ、額の大小にかかわらず、変わらない価値のサービスを提供したいと思っているのです。
限られたリソースで、収益構造を保ちながら経営しようとすると、どうしていこうか?という話になります。
松田 確かにそうですよね。
私も2~3年前、ブランドのローンチをした時にソファなどのライフスタイル製品を「Makuake」を通じて発売したことがありました。
▶ヘラルボニー、異彩の作家、日本の職人が手がける新たなライフスタイルブランド(ヘラルボニー)
当時は初動だったので、めちゃくちゃ頑張っても500万や1,000万円規模です。
今同じものを発売すれば、もっと大きな額を目指せる可能性がありますが、かけるコストは変わらないので、相当難しいですね。
坊垣 そうですね、しかも経営陣よりも現場はさらに悩んでいるかもと思っています。
実行者をサポートするキュレーターと呼ばれるコンサル部隊には目標もありますので、現場の悩みも深いと思います。
ビジョンに共感して入社してくれた社員が多いので。
福田 本当にその通りだなと思って聞いていました。
まだ上場をしていないので、短期的な目標達成のための圧力がかかる状況でなく、のびのび経営できていますが、一番悩むのは社員やスタッフとのコミュニケーションです。
我々はスタートアップである以上、日々、とても高いグロース目標を掲げています。
でも、入社してくれるのはビジョンに共感してくれた方々なので、いわゆるITスタートアップに比べると、グロースすること自体を前向きに楽しめる状況かというとそうではありません。
私は経営者として、100年残る会社を作りたい、世の中にこのサービスを届ければ助けられる人がいるので、規模を大きくしたいと話すのですが、高い目標を追うことと社員の気持ちの折り合いが難しい場合もあります。
その認識合わせに日々悩んでおり、解決策はないのですが、そこに一番難しさを感じています。
規模が必要になると知り戦略を変えた
坊垣 グロースを目指すから、儲けることと社会課題解決が拮抗するとすれば、本当に提供したいものを深く狭い、可能な範囲で提供するという方向もあります。
株式市場と資本主義の論理の中では、どうしても規模を求められる節があります。
小野さん、今投げかけていることをふまえて、先ほどの話(Part.1参照)をもう少しお聞かせください。
小野 そもそも、どういう社会変革シナリオを描くのかという話だと思います。
最初は、高校の同級生とサークルのような感じで、仲の良い農家の野菜を、僕が学生時代にアルバイトをしていたレストランに売ることから始めました。
そういう体当たりエピソードを話す場ではないと思うので、戦略っぽく話します。
「世の中がこう変わっていけばいいな」という僕が持っていたストーリーとは、地方で小さく美しいものを作ったところ、評価されてその地域の生産者を支えられるようになり、類似モデルが生まれてあちこちが変わっていくというものです。
でも何年かして、残念ながら世の中には、汗水垂らして自分で挑戦する人よりも応援したい方のほうが多いことが分かりました。
表彰状だけがたまっていくのです。
「小野くん、すごく良いことをしているね」と言われるのですが、「君の真似をして、自分の地元でやってみる」とはならないのです。
僕らのしていることは、汗だくになって根性を見せてできることでしたが、世の中で類似モデルが広がるためには、もっとポップでなければいけないと思いました。
その事実を知って僕は幻滅し、流通に取り組んでいる以上はある程度の量を扱わなければ生産者を支えられないことも知り、仲の良い農家が辞めたこともあり、やり方を変えようと思ったのです。
自分が役に立っていないと痛感しながら表彰式に行くのはとても心が蝕まれるので、方向性を変えました。
坊垣 なるほど、その時に取り組んでいたことに限界みたいなものを感じられたということでしょうか。
小野 取り組みたいテーマは変わっていませんが、それを達成するための戦略を変えようと思ったのです。
コストを理由に切り捨てない設計が大事
小野 現在の話をすると、先ほど、小さいプロジェクトは赤字だとおっしゃっていたのはよく分かります。
僕らも色々なコーヒーの産地に行きます。
ミャンマーやインドネシアは何十トンという単位で買うので十分元は取れていますが、ネパールでは1つの村から、数百キログラムしか買っていないので、その利益は僕らの飛行機代にもなりません。
でもコーヒーがその村の主な収入源になっているので、引くに引けない状態になっています。
経営判断としては、プロダクトミックスで収支が合えば良いとなりますが、ネパールの担当者は自分がお荷物だと感じます。
ですので、違うKPIの設定が必要だと思っています。
僕らの場合、小さくて、普通ならなかなか経済性が成り立たないようなところにも展開していることが、僕らのブランドを強くしていて、結果的に、大量に消費するブラジルのコーヒー豆を買ってくれています。
野菜も似た構造をしており、農業を始めたばかりの新規就農者には、話すコミュニケーションコストがすごくかかります。
筋が良くない人も中にはいるので、めちゃくちゃ丁寧に伝えたつもりなのに、全然話が噛み合わないこともあります。
一方、僕らを支えてくれる生産者は、彼らだけで事業が成り立っていますが、坂ノ途中を応援したいからと、特にリクエストをしなくても良いものを納品し続けてくれています。
そういうミックスで成り立っています。
コミュニケーションコストがかかりすぎているからという理由で切り捨てることはしない設計が、すごく大事だと思います。
国内であれば、特定の伴走相手を選び、コストを集中投下して良いルールにしています。
社内のスタッフに「経営目線で、ベストミックスを考えよう」と伝えてもポカーンとされた何年間があるので(笑)、今は仕組みで支えられないかとチャレンジしています。
坊垣 全体で見た時に合理的で成り立つようにしておくのが、経営陣の仕事です。
同時に、現場に対しては、それぞれ目の前にある、向き合っていることに納得し、達成感を得られるための配慮をする必要がありますね。
小野 もう一つ前のフェーズもありました。
僕らはスタートアップらしい始まりではなく、「土に触れられたら幸せ」という野の民たちが集まったので……。
(一同笑)
その時代は、めちゃくちゃ生産者に寄り添っており、経済性が無視されていました。
ですから、先ほどのように現場担当者が「赤字部門になってしまってすみません」と感じていること自体、僕としては進化だと感じています。
坊垣 ある程度の規模が提供できれば、たくさんの事業や人を救えます。
現場にそれを理解してもらうことが必要ですが、完全に経営陣と同じ目線を持ってもらうのは難しいので、分けて考える必要がありますよね。
土岐さん、いかがですか。
稼ぐこと=正義になるビジネスモデルを考える
土岐 今の話に関連しますが、社会課題と収益のバランスについて我々がする議論は2つあります。
1つ目は、お客様をちゃんとカテゴライズすることであり、これは株主であるリンクアンドモチベーションに教えてもらった考え方です。
カテゴライズする際の縦軸は事業規模、横軸は共感性です。
我々が取り組んでいる、スマート保育園への共感性です。
規模が大きければ大きいほど稼ぎやすいですが、子供たちがワクワクしている、保育士が笑顔であるという「素敵な園」の像や教育や保育の質を、札束で叩くようにぞんざいに扱うお客様もいるのです。
そういう点で、子供の写真をどう扱っているか、保護者が支払った写真の代金から還元しているお金をどう使っているかなど、我々の中に基準を設けています。
その基準に照らして、お客様と相思相愛であることがものすごく大事だと思っています。
全国の2割の保育園が、何らかの形で我々のサービスを使っていただいています。
大きく利益を上げられるところで利益を確保するからこそ、小さい規模でもすごく共感してくれるお客様にも取り組んでいます。
2つ目は、誰からお金をもらうのかというビジネスモデルについてです。
写真販売を始めた当初、園長からシステム使用料をもらっていたのですが、どんなに良いシステムでもかけられる費用には限界があるという声が出てきました。
そこで、B2B2Cにしようと考え、園の先にいる、祖父母を含む保護者のお財布からお金をもらうことで、園はほぼ無料で使えるようにしたのです。
そういう形ならば、すごく売上を上げても顧客や保育士に還元できるので、稼ぐことで保育士の給料を上げることもでき、正義になる、これを家族の幸せと捉えました。
そのビジネスモデルの中で、稼ぐことが正義になるような仕組みにすることを頑張っています。
各社の経営体制、役割分担は?
坊垣 なるほど、ありがとうございます。
今の話は、ビジョンやミッションになぞらえた事業戦略ストーリーであり、経営者として「ここで稼ごう」と考えることとは、少し違う頭を使うのではないかと思います。
その2つを、1人であるご自身の中で同時に成り立たせているのでしょうか?
私たちは共同創業という形(※) なので、性格や価値観、現場との近さが違うので、役割分担をしている部分があります。
▶編集注:坊垣さんは、2013年に中山 亮太郎さん、木内 文昭さんとマクアケを共同創業。
皆さんはどういう経営体制なのかと気になりました。
土岐 1人で全ては考えられないです。
僕はすぐに感動して泣いちゃうタイプなので、エモーション担当ですね(笑)。
チームにファクトとロジックを伝える人は、他にいます。
坊垣 得意不得意はありますよね。
土岐 はい、チーム内であります。
坊垣 松田さんたちは、役割分担をしていますか?
双子の発信力を同レベルに保つ
松田 いえ、全くしていないです。
普通に、お互いボロカスに言い合います(笑)。
双子経営で面白いと思うのは、全社に向けて話した内容などは、その場で、LINEで添削し合うことです。
「今の話は、相当良くない」とか「社員に全然刺さっていなかった」とか……ですので、その場で「良くなかったな」と反省します。
また、商談中にもLINEで言い合います。
マネーフォワードでIR責任者だった方(忍岡 真理恵さん)が執行役員として入社したので、今は「行くぞ!」と音頭を取るのが双子の役割で、残りの経営に関する業務は他のメンバーで役割分担していますね。
坊垣 双子で経営する良さですね。
福田 松田さんたち双子のX(旧Twitter)が有名ですが、2人で1つのアカウントを使っているので、メッセージなども全て筒抜けだとか……。
▶松田崇弥・文登【ヘラルボニー / HERALBONY|双子起業家】(X)
松田 大した話ではないのですが、Xで、執行役員を経験した方に「これから双子でどう健全に経営をしていけばいいと思いますか?」と聞いたら「双子の発信力を同じレベルに保ち続けることがめちゃくちゃ重要だと思う」と言われました。
例えば、文登は毎回ICCサミットのセッションに登壇していましたが、今回は登壇しません。
文登には、「話が面白くないんだよ」とダメ出しをし(笑)、「文登は、双子のうち話の面白くない方です」とネタにしているのですが、やはりそういう違いは、例えばフォロワー数などの形で顕著に表れますよね。
坊垣 芸人のコンビで、どっちのフォロワーが多いかという…。
松田 そうそう(笑)、こっちだけテレビにたくさん出ているとか。
坊垣 確かに(笑)。
松田 それで、XとInstagramのアカウントを1つにしたのです。
坊垣 そういう経緯だったのですね、争いが起きないように(笑)。
松田 はい、結果的にすごく良かったですし、ガバナンス体制上も良かったと思っています。
来たメッセージの内容も全て読めるので…脱線してしまい、すみません。
坊垣 経営陣の意向が完全に一致しないことは当然ある中で、本音で対話ができることがめちゃくちゃ重要だと思います。
松田さんは、めちゃくちゃ本音で対話できているのですね。
松田 坊垣さんは共同創業ですが、何か課題を感じることはありますか?
共同経営をし続けられるのは価値観が揃っているから
坊垣 10年も経つと、話さなくても分かっているとお互い思う夫婦のような感じになるのです。
3人で共同創業して、同じメンバーで10年続いていることが奇跡だと言われますね。
松田 それは、すごいことだと思いますよ。
坊垣 でもこれは、ビジョンを達成することや課題への意識が揃っているからだと思います。
何をしたいかが同じで、その背景にある価値観も揃っているからこそで、ビジョンに雇われているという感覚を持っています。
でも10年経つと、分かっているつもり、分かっているはずという状態になり、改めて話さないと、少しずつずれている状況はたくさん起きますね。
福田 社会的価値と経済的価値のバランスへの考え方が同じ人でなければ、一緒に経営はできないなとすごく思っています。
役員や、もともといた共同創業者とのやりとりを経て、その比重がずれていると、後でトラブルになりやすいと思うようになりました。
坊垣 個人差がありますよね。
福田 はい、どちらも必要ですが、時と場合によりますよね。
フェーズによって、どちらか優先することになると思うので、その感覚が合う相手かどうかが大事ですよね。
坊垣 そうですね。
私個人としては、基本的にはビジョンに向けたシナリオが上位概念としてあり、それをどう叶えるかの手段とストーリーが、会社をサステナブルに支えるかどうかをまず考え、ビジネスとしての評価は後からするものだと思っています。
その感覚が合わないと、難しいです。
(続)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成