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3ヶ月後の予測が正しくできれば、経営の質は劇的に変わる(楽天・北川)【F17-6C #4】

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「AIやデータの活用が企業経営を変える」【F17-6C】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!9回シリーズ(その4)は、楽天のデータインテリジェンス部隊で活躍する北川さんに、データ分析を経営戦略に活かす具体的事例をお話しいただきました。いま話題のAirBnBの強さも分析されています。ぜひ御覧ください。

ICCカンファレンス FUKUOKA 2017のプラチナ・スポンサーとして、IBM BlueHub(日本アイ・ビー・エム株式会社)様に本セッションをサポート頂きました。

ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。


【登壇者情報】
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
2017年2月21日・22日・23日開催
Session 6C
「AIやデータの活用が企業経営を変える」
Supported by IBM BlueHub

(スピーカー)
麻野 耕司
株式会社リンクアンドモチベーション
執行役員

上野 勇
株式会社セプテーニ・ホールディングス
取締役

北川 拓也
楽天株式会社
執行役員

馬場 渉
SAP バイスプレジデント カスタマーエクスペリエンス担当 兼 SAPジャパン Chief Innovation Officer(当時)

(モデレーター)
山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役

「AIやデータの活用が企業経営を変える」の配信済み記事一覧

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【本編】

山内 上野さん、ありがとうございます。

続きまして、北川さんにお願いしたいと思います。

北川 拓也 氏(以下、北川) これまで組織の話が多かったので、私からは少し先を見たり、ビジョンを描いたり、世の中の構造を理解するという観点で、今後AIやデータがどのように役立つかという話をしようと思います。

今、AR(Augmented Reality:拡張現実)、VR(Virtual Reality:仮想現実)などがすごく流行っていますよね。

私は、AR、VRというのは、人間の五感の拡張であると理解しています。

特に視覚の拡張であると考えており、これが今後30年、50年かけて、聴覚、味覚、嗅覚と、どんどん広がっていくのではないかと思っています。

私は以前ハーバード大学にいたのですが、このコンセプトは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボが非常に力を入れて取り組んでいました。

そこで教わって、「あ、確かにな」、と腑に落ちる思いがした技術が一つあります。

我々は、前に角があったら、その角の後側に何があるか分かりませんよね。

角が邪魔になりますから。

その視覚を拡張して、邪魔な物が自分の視野の中にあっても、何か物が立っているとしても、その後ろが見える技術を作っているというんですね。

あぁ、確かに!と。

確かに後ろが見えていてもいいですよね。

3年から5年先を見られるかが事業創造に重要

北川 この「アラウンド・ザ・コーナー」に、何が見えるかという話をしていて、それは五感の拡張であると実感し、今後の経営もそうなのではないかなと思ったんです。

弊社の社長もよく言っているのですが、経営者はずっと高速を走っているようなものであり、随所に曲がっている角があります。

その曲がっている角先を見ることが、将来を見ることなのだと。

つまり、50年後ではなくて、3年先、5年先を見られるかどうかが、成功する事業を創るうえで非常に大事なのではないかという話をしていました。

極端な夢物語よりも、少し先を見ようと。

そういったことがデータやAIによって可能になるだろうと、最近感じています。

そのことを、少し具体的なデータを用いて、お話ししようと思います。

山内 3年先を見られるだけで、経営は圧倒的に有利になりますよね。

北川 そうですよね。

今日持ってきているデータはもう少し地味で、1ヶ月先、3ヶ月先というタイムフレームですが、それでも価値があるはずです。

2点お話ししたいことがあり、1点目は、3ヶ月先が見られるだけで、投資という観点では圧倒的なアドバンテージがあるということです。

今やベンチャー企業が続々と立ち上がっている世の中ですから、早く買収の決断を下すことが大事です。

3ヶ月もあったら、買収価格がそれだけで数十億円変わってくるということがざらにありますから、それをやっていこうと。

(ソフトバンクの)孫さんもそうですが、弊社も特に、昔から投資に力をいれていますので、まずそこに目をつけました。

今からお見せするデータは手前みそで恐縮ですが、面白いのではないかと思いお持ちしました。

スライス・インテリジェンス社は、弊社が買収したデータ分析を専門とする子会社です。

同社は米国内の幅広い購買データを持っており、それをもとにマーケット分析を行うことができます。

そしてそのデータを基に、今盛り上がっているベンチャー企業がどのくらいの収益を上げているのかを計算することができます。

楽天が買収したスライス・インテリジェンス社のデータ分析力

北川 スライドに「ジェット」と書いてありますが、「Jet.com」をご存知の方はいらっしゃいますか?

出所:what does the Jet acquisition mean for Walmart?(slice intelligence)

米国のビジネスにかなり詳しい人でないと知らないかもしれませんが、eコマースで急速に伸びている事業で、特に面白いのは同社のダイナミック・プライシングです。

需給などに応じて値段をきめ細かにどんどん下げていくというような技術です。

ウォルマートがジェットを買収するという記事が出た時に、弊社のメンバーがデータを用いて、ジェットとはどのような会社なのか分析を行いました。

ざっくり申し上げますと、このオンライン・ショッピング業界は「Target.com」(ターゲット)と「Walmart.com」(ウォルマート)の2強で形成されています。

出所:what does the Jet acquisition mean for Walmart?(slice intelligence)

それぞれのシェアとジェットのシェアがどうだったのか、ウォルマートがジェットを買収することにより、このランドスケープがどのように変わっていくのかということを計算しました。

ウォルマートは当時ターゲットに負けていました。

ただジェットのシェアが6%ありましたので、これを足すと、ウォルマートが圧倒的1位に踊り出るということが分かりました。

更にジェットの強みも分かります。

一番上から、家電、ホームキッチン、ヘルスビューティー、グローサリー、コンシューマー・パッケージ・グッズ(CPG:消費財)です。

出所:what does the Jet acquisition mean for Walmart?(slice intelligence)

右側がウォルマートの強みです。

ここから見えてくるのは、ジェットがCPGに非常に強いのに対し、ウォルマートはこの分野が極めて弱かったということです。

ということは、ジェットの買収は、CPGを強化してターゲット社に追いつくための一つの戦略として捉えることができます。

スライス・インテリジェンス社は弊社の子会社ですので、我々はこのようなデータを日々見ることができます。

どういった会社を買収すべきなのか、どういった会社がこれから盛り上がってくるのか、ということが分かってきます。

正に、データを用いたら3ヶ月先が見えるということの好例だと思います。

データから分析するAirbnbの強さ

少し話が長くなり申し訳ありませんが、2点目は、マーケットがより正しく見えますという話です。

これまでは買収の話でしたが、次のスライドではAirbnbの分析をしました。

Airbnbはまだ上場していないのでデータは基本的に公開されていませんが、スライス・インテリジェンス社が収集する情報から、同社のデータも見ることができます。

出所:Airbnb revenues up 89 percent, driven by Millennials(slice intelligence)

他のホテルに比べると、圧倒的にAirbnbのレベニューが上がっています。

それがなぜなのか、そしてなぜAirbnbがそれほどまでに強いのかを分析をしたのが次のスライドです。

出所:Airbnb revenues up 89 percent, driven by Millennials(slice intelligence)

Airbnbを利用して予約をする人は、他のホテルの予約客に比べ、顕著に長い間滞在していることが分かります。

出所:Airbnb revenues up 89 percent, driven by Millennials(slice intelligence)

長い滞在なのですが、他のホテルよりも圧倒的に安いプライシングであり、ほぼ2分の1程度です。

次のスライドに移っていただいて、これが一番面白いと思うのですが、様々なホテルチェーンの利用客の滞在期間と1泊当たりの平均宿泊料金をプロットしたものです。

出所:Airbnb revenues up 89 percent, driven by Millennials(slice intelligence)

山内 横が滞在日数ですよね、何泊しますかと。

縦が、料金ですね。

北川 はい、1泊当たりの料金です。

これは山内さんのようなコンサル出身の方には、ゴールデングラフかと思いますが、結果を4象限に分けると、ここにスペースが空いていることが明らかになります。

山内 この右下がAirbnbなわけですね。

北川 スペースが空いているところへ走り込んだ、という絵になっています。

山内 これは美しいですね。

北川 コンサルからすれば、作ったんじゃないかというような完璧な絵になっています。

普通はこの対角線上に乗っていて、長く滞在する宿泊客にはお金持ちの人が多く、高級ホテルに泊まりたいと。

これに対し、短い滞在の象限には予算が限られた人が多いよね、という構造になっています。

このような世界観に対して、Airbnbは長く滞在して、それでも安いという、そのような旅行体験を新しく生み出したのです。

この観点からは、Airbnbは単純に民泊だと言われていましたが、実はマーケットにおいて他とは全く違うポジショニングを取っているのだということが分かります。

山内 これを見ると差別化された会社なのだということが明確になりますよね。

北川 そうです。

私もこれを見るまでは知らなかったのですが、そういうことが分かると、Airbnbに投資する価値が一気に上がってくるわけです。

ただの民泊だったら、法律と戦わなければならない大変な業界だなと思いますが、いやいや全く違うニーズを実はキャプチャーしているのだということが分かります。

上場後にはこういう数字も公開されることになるでしょうが、僅か数ヶ月前にこのようなデータを知っているだけで、圧倒的な差別化につながります。

ですので、アラウンド・ザ・コーナー、五感の発達というのが、これからデータやAIの活用によって生まれてくる世界観なのではないかと考えています。

これが本日お話したかったことです。

山内 しかもゲストの特性も全く違うんですよね。

北川 そうですね、当然若い世代に振れているのですが、若いからお金を持っていない、しかし長期でいろいろな地を体験したいということが、しっかり表れていると思います。

山内 この調査分析をする会社自体を、楽天さんが買収したということですか?

北川 データを収集し、かつ分析をする会社を、弊社が買収しました。

意思決定をインテリジェンス・チームが支える

北川 私もデータ分析の責任者ですので、弊社でも当然、これに似たような分析ができます。

経営トップの横で、アドバイスをするようなインテリジェンス・チームを作るには、正に最適なデータになりますよね。

こういったことが既にできますし、そういったチームを作っていくことができるのではないか、今後このようなチームをあらゆる上場企業経営者が持つようになるのではないかと考えています。

山内 マーケティングなどにビッグデータ、AIを使うという発想はよく理解できまし、特に楽天のような会社が利用しているというのはよく分かるのですが、投資とか、M&Aなどの分野にも徹底的に活用するということでしょうか?

北川 そうですね、意思決定に利用するということですね。

弊社の強みは圧倒的な経営トップの意思決定力にありますので、積極的に活用していきます。

マーケティングの場合は一般的にスケーラブルな仕組み作りをしなければなりませんので、システム導入だとか結構大変ですよね。

サイエンティストのスケーラビリティだとか。

しかしこの場合は、経営トップの傍に超天才のサイエンティストが1人いるだけで、その人間は1千億円、2千億円近くの価値を生むことができるというような、スーパーマンが活躍できる場所となります。

私はもともと理論物理学の出身なのですが、理論物理などを勉強していた人というのは、なかなかスケールするスキルというのはない反面、1人が飛びぬけて活躍できるという世界観がありますので、そういった人が活躍できる場所を作ることができればと思っています。

こういったところに1人、超優秀な、「サラリー10億円です!」というような人物を張れるような世界観を実現できたら面白いのではないかと思っています。

山内 すごいですね。

馬場 北川さん、昔の同級生には、ラングレーなどで働いている人もいるのではないですか?

CIAとか、いわゆるインテリジェンス組織で働いている人が。

北川 たぶんいると思います。

馬場 非常に興味深いのですが、日本では企業内にインテリジェンス組織を持っている企業はなかなかありませんよね。

経営企画室のようなものはありますが、いわゆる映画で見るようなインテリジェンス組織、諜報機関というのはないですよね。

北川 ないですね。

馬場 ぜひそういうのをやってほしいですね。

北川 ありがとうございます。

弊社の経営トップも、恐らくそのようなところを目指しているのではないかと思います。

私は会社経営がしたくてビジネスの世界に来たもので、入社当初、そういうことをやりたがらなかったという経緯がありまして・・・これまできちんと取り組んでいなかったことを、最近になって少し反省しているところです(笑)

データ・サイエンティストをどう育てるのか?

山内 少し話がずれるかもしれませんが、企業経営者と話していると、データの重要性はよく分かったとおっしゃられる方が、特に若い経営者層には結構多いです。

しかし、そういう人材が一体どこにいるのか、特に組織をどうやって構築するのというと、てんで検討がつかないと。

そもそも北川さんがなぜ日本に帰ってきたのか不思議に思っているのですが、北川さんのようなスペックの方はアメリカ、シリコンバレーでもあまりいませんよね。

人材が枯渇しているというか。どこにいるのでしょうか。

ヘッドハンターにも、そういう人はどこにいるのかと聞いてみたんですよ。

いや、こっちが知りたいですよと言われてしまいました。

少なくとも日本には、ほとんどいないのではないでしょうか。

北川 麻野さんや上野さんのお話を聞いたこともあり、私が育てたいと思っているところです。

いないので、とにかく育てなければなりません。

そのような人材を育てることのできる企業や組織も少ないので、日本のためでも、世界のためでもあるという意味で、できれば理論物理学者だとか、飛びぬけて優秀な人材を私のところに抱えて、大活躍してもらえるような教育制度、文化作り、組織作りをやっていけるような世界を創り出していきたいと思っています。

そのような人材が現時点では極めて少ないというのは事実だと思いますが、今後に向けて育てていければと思います。

山内 最初の種芋というのでしょうか、北川さんのような人は、これはもう気合で探して獲得してくるしかないのでしょうか?

北川 本当に、ポツポツといるかな……という感じですよね。

山内 「by name」で取りに行くしかないと。

北川 そういうことができる人材は基本的に、アクセンチュアの工藤さんとか、皆さんが知っているような名前だけですね。

山内 なるほど、ありがとうございます。

意思決定にデータをということですね。

具体例を示していただいて、非常に分かり易く説明いただき、ありがとうございました。

(続)

続きは AIやデータの活用が意思決定の精度に大きな差を生む をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/立花 美幸/Froese 祥子

【編集部コメント】

21世紀最もセクシーな職業であると言われる、データ・サイエンティストですが、日本においてその役割にしっかり対価を払う経営者やそもそもの母集団が形成されないと職業としてのマーケットができないですね。マイナースポーツと同じ構造な気も・・・(榎戸)

続編もご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

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