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5.Amazon 全盛時代に、本屋「B&B」をつくった理由とは?(博報堂ケトル嶋)

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「ファンとの”絆”をどのように構築するのか?」【K17-4C】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!8回シリーズ(その5)は、博報堂ケトル嶋さんに、手がける本屋「B&B」で成し遂げたい「価値提案」について語っていただきました。Amazonがもたらす価値との対比も興味深いです。是非御覧ください。

ICCカンファレンス KYOTO 2017のダイヤモンド・スポンサーとして、Motivation Cloud (Link and Motivation Inc.) 様に本セッションをサポート頂きました。

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2018は2018年9月3日〜6日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


【登壇者情報】
2017年9月5-7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2017
Session 4C
ファンとの「絆」をどのように構築するのか?
Supported by Motivation Cloud(Link and Motivation Inc.)

(スピーカー)

青木 耕平
株式会社クラシコム
代表取締役

佐渡島 庸平
株式会社コルク
代表取締役社長

嶋 浩一郎
株式会社博報堂ケトル
代表取締役社長 共同CEO

戸田 宏一郎
CC INC.
Founder & CEO/Creative Director/Art Director

(モデレーター)

小林 雅
ICCパートナーズ株式会社
代表取締役

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最初の記事
【新】ファンとの”絆”をどのように構築するか?【K17-4C #1】

1つ前の記事
コルク佐渡島氏が挑む、コミュニティの「絆」づくりの形式知化【K17-4C #4】

本編

小林 では、博報堂ケトルの嶋さんお願いします。

「ファンとの絆」について、どんなことをしておられるのかという簡単な自己紹介と、皆さんが実際に手がけられた案件で、「絆」についてどうお考えになり、それをどう構築されてこられたのでしょうか。

生活者と企業との「絆」を作る(博報堂ケトル嶋)

嶋浩一郎 氏(以下、嶋)  皆さんこんにちは。

博報堂ケトルの嶋です。

僕は今から12年前に博報堂からスピンオフして、クリエイティブエージェンシーを作りました。

仕事の半分は、クライアントさんのマーケティング課題の解決を、いわゆる広告キャンペーンという形で行っています。

僕らは、分業しないということを是としているので、ある時はCMを作るし、ある時はデジタルコンテンツを作るし、ある時はイベントをします。

それぞれの課題解決に最も適したものを作ろうという、企業の課題解決をコミュニケーションでやるという仕事しています。

これはある意味、生活者と企業との「絆」を作る仕事だと思います。

残りの半分は、自社事業的にコンテンツビジネスを色々やっています。

雑誌の編集をしたり、ラジオ番組の制作をしたり、あまり知られていないのですが水道橋博士のメルマガを提供したり、ヴィレッジヴァンガードさんのフリーペーパーを編集したりしています。

メルマガは下火になっているように思えますが、意外にファンがつくコンテンツで、収益性もあるんですよ。

それから、皆さんがご存じだと思われることだと、今から14年くらい前に「本屋大賞」という文学賞の立ち上げに参加しました。

そのながれで、本屋大賞実行委員会の理事として本屋大賞を毎年運営するという仕事をしつつ、6年前に、自ら下北沢に「B&B」という本屋を作りました。

出所:博報堂ケトル

▶︎編集注:B&BはBook&Beerの略で「ビールが飲める本屋」。ほとんど毎日イベントが開催されている。

「絆」という意味で最も注力しているのは、、書店がどう顧客とコミュニケーションしていくかということです。

例えばうちの本屋では、1年間に500回ほど、作家さんをお呼びしてイベントを行い、ある種のコミュニティを作っています。

コンテンツを使ってどう「絆」を作っていくかということなどを、色々なコンテンツを作っておられる方々とお話できればと思っていますので、よろしくお願いします。

小林 よろしくお願いします。

「実はこう思っていたでしょ?」という価値提案

 先ほど、広告を作っている仕事と、コンテンツを作る仕事の両方をやっていると申し上げたのですが、広告にしてもコンテンツにしても商品開発にしても、「そうだな」と思っていることがあります。

特に本屋をやってみて「本当にそうだな」と確信したことが一つあります。

人って、「これがしたい」という顕在化した欲望に対するサービスには、あまり感謝しないんですよね。

言い方を変えると、村上春樹の本が読みたくなった時に、アマゾンが「はい、村上春樹の本がこれだけありますよ」と言っても「すごい。アマゾン、最高!」とは思わないんですよね。

でも、何がしたいか分からない時に、「実はこれがしたいんでしょ?」という潜在的な欲望に当ててくれるサービスがあると、感謝度が高いと思うんですよ。

(左)株式会社博報堂ケトル 代表取締役社長 共同CEO 嶋 浩一郎氏

6年前に本屋を作るにあたって、特に、出版社の方々に、なぜいまどき本屋を作るのか?、本屋を作っても儲からないよ?と言われたんですよね。

僕はアマゾンとリアルな本屋には全く違う役割があると思っていて、アマゾンは「俺、又吉(又吉直樹氏)の本が読みたいんだ」という時にもそれをすぐに届けてくれるから、読みたいものが決まっている時には、アマゾンって最高だと思うんですよ。

一方で、リアルな本屋の場合、買うつもりのなかった本をついつい買ってしまいます。そういう本屋がいい本屋だと思うんですよね。

本屋に行くまでは、その本を買おうとは思っていなかった訳じゃないですか。でも、本屋で「実は俺、この本が欲しかったんだ」という潜在的な欲望が言語化される瞬間があった訳です。

人間って、そちらの方が気持ちいいんですよね。

週末箱根の温泉に行きたいからといって、Googleが箱根の温泉宿をいろいろ教えてくれることにそんなに感謝しないんですよね。

「実はあなた、今週疲れていたから温泉に行きたいでしょ?」と言ってもらった方が、「あ、そうかも。温泉に行ってもいいかも」となる訳で、その違いはすごく大きいと思います。

前者の顕在化した欲望に対応するスタイルは薄利多売のビジネスに繋がると思うんですよ。

後者は、人の気持ちを、「実はこう思っているでしょ?」と深く掘らなければならないから大変だけれど、収益性の高いビジネスになると思うんですよね。

リアルな本屋からすると、「買う本が決まっている人は、便利なので是非アマゾンで買って下さい」となる訳です。

「リアルな本屋へは、買う本が何だか分からない人が来て下さい。きっと何か好きな本が見つかるはずですよ」と。

お客さんが、「この本屋さ、よくわからないんだけど、行くと俺の好きな本が必ず置いてあるわけ。まじヤバくね?この本屋」なんて言ってくれたらもうこっちのもので、もうその時点でリアルな本屋のファンになっているということなんですよね。

結局、広告においても、商品開発においても、「実はあなたこう思っていたでしょ?」というアプローチがどれだけできるかということがすごく大事なのです。

脳科学者曰く、人間って、自分の欲望の数パーセントくらいしか言語化できないそうで、「結局、Googleとアマゾンで検索できることって、いまのところ欲望の数パーセントでしかない訳じゃん」ということですよね。

一方で、何かやりたいけれどそれが何だか分からない部分というのが90パーセント以上ある訳で、そこをくすぐってあげられるブランドやプレーヤーが「分かってるわ、この人」と評価されるんですよね。

小林 いいですね。

コンテンツの文脈を高めて「気持ち」を交換する

 先ほど青木さんがおっしゃっていたように、受け手が「自分のことを分かってくれているわ」と感じられることがすごく大事ですよね。

でも、マスメディア全盛期には、この手のコミュニケーションの価値というのは、どれだけの人に到達したかという「リーチ」で評価されていたじゃないですか。

リーチも大事だけれども、レリバンシー(Relevancy=関連性)の概念というのもすごく大事ですよね。

この情報は俺に対して発信されている情報だとか、この人は俺のことをよく分かってくれているという、そういうことがすごく大事になってきていると思うんですよ。

近頃炎上しているのは、これは面白いだろうと一方的に投げ出す人や、それを見た人がどう思うかを全く考えていない人なのです。

相手がどう思うかという想像力が欠落した人は、みな炎上していています。

例えば、コンテンツの文章を書きながら、この文章を読んだ人はどう思うだろうかと考えたりするといったように、今の時代はそういった合いの手を入れながらモノを作る方がいい気がしています。

最近は、行間で、相手がどう思うかを考えつつ作る感じですね。

青木 最近のコンテンツやクリエイティブのレベルは大変上がっていて、もう上がり切っていると思うんですよね。

いわゆる商品というかプロダクトもそうで、本当にレベルが高くなっています。

ですから、プロダクトやクリエイティブの内容自体で差別化するのがすごく難しくなっていて、実際には非常に微細なところで勝負している訳です。

(左)株式会社クラシコム 代表取締役 青木 耕平氏

例えば、「萌え」ってあるじゃないですか。

アニメや漫画の世界の「萌え」という文化です。

僕はその文化の外にいる人間なのですが、以前友人と「萌えてない奴は萌やせない」という話を、したことがあります。

例えばすごく絵の上手いイラストレーターが可愛い女の子を描くというだけでは、萌えないんですよね。

結局、ファンだけが共有している文脈や記号などがコンテンツに沢山込められているから、萌えられる訳であって、絵の女の子が可愛いから萌えられる訳ではないのです。

要するに、萌えられる人しか、それくらいの記号が詰め込まれたコンテンツを作られない。

それができて初めて、ファンの側からすると「こいつ、自分達のポイントをホントによく分かっているな」という風になる。

僕のようにその世界の外にいる人間が、そういうのが好きな人向けにざっくりコンテンツを作りましたといったことを安易にしてしまうと、違う意味で「もえる」、つまり燃えて(炎上して)しまいます。

やはり対象に対するものすごく微細なレベルの理解が、パフォーマンスすごく影響しているなと感じますよね。

佐渡島 コンサートやディズニーランドにしても、楽しもうと思ってお金を払って行きますよね。

ですから、楽しむ準備がされていますよね。

ここでの対談も、記事になって後日ネットで読まれる訳ですが、今日ここにおられる皆さんは、対談を聴いて少しでも自分事の知識に変えようと思っておられるので、記事で読む人とは知識の意味が全く違ってきます。

(中央)株式会社コルク 代表取締役社長 佐渡島 庸平氏

旧来型のコンテンツというのは、そもそも買って読もうとしている時点で、全て準備された後に読んでいるということなんですよね。

テレビで見るコンテンツ自体も、一応はテレビのスイッチが押されて、観ようかなとソファに座ったりして視聴されているのに対して、スマホだと本当にイライラしている最中に見るなど、様々な出会い頭があるので、一切準備されていないコンテンツになってくるんですよね。

一切準備していない人達に向けて何かを作るのと、準備している人達に向けて作るのだと、コンテンツを作る側の振る舞いも圧倒的に変わると思っています。

ファンとの絆を作るということを考えると、実はもうオープンな場では作ることができないと思っているんですよ。お互いにコンテクストを高めていかない限り、気持ちを交換するということが絶対にできないと思っています。

完全にクローズドな場にしていって、ここで話していることというのは絶対に外部には行かないとか、誤解が生まれないなという安心感があるから大胆な意見が出る、という風になっていくのではないかなと思っています。

インターネット上では、中国など、国の鎖国のような話が起きたりしていますが、そういう政治的・経済的な問題ではなく、そのブランドを保つためにクローズドなインターネットが今後どんどん盛んになるのではないかと思うんですよね。

小林 なるほど。

ありがとうございます。

戸田さん、関連して何かおっしゃりたいことや、質問されたいことはありませんか?

(続)

▶ICCパートナーズではコンテンツ編集チームメンバー(正社員&インターン)とオフィス/コミュニティマネジャーの募集をすることになりました。もし興味がございましたら採用ページをご覧ください。

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続きは ブランドづくりにおける、マス広告 とファンコミュニティの価値を徹底議論 ををご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/立花 美幸/本田 隼輝/Froese 祥子

【編集部コメント】

Amazonのレコメンデーションも時々、「実はこんなものもほしいんでしょ?」と心に訴えてくることもありますが、価値観そのもの、「こう生きていきたいんでしょ?」みたいなところはまだ難しいのかなぁと思いました(榎戸)

続編もご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

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