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「経絡秘孔を突け」優れたプロダクトの生み出し方とは?

「優れたプロダクトの生み出し方」をテーマに、第一線でプロダクト開発を行う経営者・開発責任者が徹底議論。(その1)は優れたプロダクトを生み出す為の秘訣を、各人がキーワードを挙げて共有しました。プロダクト開発中の起業家やプロダクトマネージャー必見の内容です。ぜひご覧ください。

登壇者情報
2016年3月24日開催
ICCカンファレンス TOKYO 2016
Session 4B 
「優れたプロダクトの生み出し方」

(スピーカー)
佐々木 大輔    freee株式会社 代表取締役
鈴木 健       スマートニュース株式会社 代表取締役会長 共同CEO
徳生 裕人      グーグル株式会社 製品開発本部長
中村 洋基      PARTY Creative Director / Founder

(モデレーター)
赤川 隼一      株式会社ディー・エヌ・エー モバイルソーシャルインキュベーション事業部 シニアマネジャー

赤川 隼一氏(赤川氏) モデレーターを務めさせて頂きます、ディー・エヌ・エーの赤川と申します。僕は、Yahoo! Mobageという事業を立ち上げた後、しばらく海外事業のマネジメントを担当していたんですが、プロダクトの時代だな、プロダクトが創れないやつには存在価値がないなと思いまして、現場に戻って今はMirrativ(ミラティブ)というサービスをグローバルで立ち上げています。

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赤川 隼一       
株式会社ディー・エヌ・エー モバイルソーシャルインキュベーション事業部 シニアマネジャー

1983年生。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、2006年DeNAに新卒入社。
広告営業・マーケティング・企画マネージャ職を経て、2010年Yahoo! Mobageを立ち上げ、2011年6月まで同事業責任者。2011年5月、DeNAの韓国支社であるDeNA Seoul立ち上げ。2012年1月より社長室長、同4月より執行役員として海外事業、プラットフォーム戦略、ゲーム第一本部を管轄後、2015年3月に執行役員を退任。事業プロデューサに戻り、2015年8月にスマホ画面共有型のライブストリーミングサービス「Mirrativ」をリリース、目下グローバルで立ち上げ中。

今日はプロダクトを創る真髄のようなものを、ここにいる4人の方に根堀り葉掘り聞かせてもらおうかなと思います。お付き合い頂ければ幸いです。

時間が限られる中、プロダクトの本質に早速迫っていこうということで、宿題を出しておりました。自己紹介とともに、「優れたプロダクトを創るために最も大事だと思っていること」をひとつの名詞で表して頂きたい、という宿題です。

それにまつわる実例とかエピソードみたいなものを交えて、簡単に5分ずつ自己紹介して頂きます。インタラクティブにいきたいと思いますので、どんどん質問を投げかけてもらえれば、と思います。では、早速佐々木さんからお願いします。

佐々木大輔氏(以下、佐々木) どうもfreeeの佐々木です。私たちは中小企業向けの(クラウドの)会計ソフト、給与計算ソフト、会社設立ツールなど、会社を設立してから成長するまでのサポートをするプロダクト群を提供しています。

会計ソフトについては、60万以上の事務所で利用されるようなサービスになっていて、国内のクラウド会計ソフト市場では、圧倒的なトップシェアを持っているという風に自負しております。今回、一言の名詞でということだったので、ちょっと月並みなんですけれども、「インパクト」という言葉にさせて頂きました。

インパクト

佐々木 今、うちの会社の人事評価制度は、インパクトマイルストーンという名前なんですけれど、より一人ひとりが大きなインパクトを生んでいくための支援システムという位置づけをしています。そのくらい、世の中に対してどんなインパクトを残しているか、というのにこだわってやっている会社です。

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佐々木 大輔   
freee株式会社 代表取締役

日本でシェアNo.1のクラウド会計ソフト・給与計算ソフトのfreeeを提供する freee 株式会社代表取締役。freeeは、銀行口座やクレジットカード口座と連携して、簿記や給与計算の知識がなくても簡単に経理や給与計算のプロセスを自動化できる中小企業向けのクラウドサービスで、2013年のリリースから既に20万を超える事業所で利用されている。Google にて日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けマーケティングチームの統括を務めた後にfreeeを創業。Google 以前は、博報堂、投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズを経て、レコメンドエンジンのスタートアップALBERTにてCFO兼レコメンドエンジン開発責任者などを経験した。一橋大学商学部卒。データサイエンスを専攻。

この「インパクト」という言葉がfreeeが生まれるということに関して、実はすごく重要なワードだったという気がしています。

なぜかというと、2012年の7月に起業して、クラウド会計ソフトといったものをアイデアとして創りながら、その翌年の3月にリリースしたのですが、11月くらいにクローズドでベータテストをしました。

そのときのフィードバックっていうのは全然よくなかったんですね。

僕たちは、「そこでどうしようか」と考えました。会計ソフトじゃなくて、会計ソフトの周りの周辺ツールみたいなものを作った方がいいのではないか?、と。
会計ソフトど真ん中は、どうしても今まで何十年も使ってきて慣れている人たちがいて、これを変えるのは難しいのではないか?、とすごく悩んだんですよ。

ただ、そのときに、でもそれだと根本的な問題が解決しないし、世の中におけるインパクトというのは全然小さいよね、と考えました。そんなところを考えて結局、無理かもしれないけど、大胆な挑戦かもしれないけど、会計ソフトど真ん中でいこうということに決めたっていうのが、今振り返れば一番大きかったかなと思います。

赤川 なるほど。ありがとうございます。まずはゴール設定だと。

佐々木 ゴール設定ですね。そのときなぜ最終的に会計ソフトにいこうって、自分たちの信念として覚えたかが分かる動画があります。

当時のインターンにですね、弥生会計という昔ながらの会計ソフトを使って、お前入力のプロになれ、と言ってひたすら入力をさせたんです。

その弥生会計で入力が凄く速い人がfreeeで入力したときにどれぐらいの速度でやれるのかを徹底的に比較すると、50倍くらい差が出たんです。

その実験をした結果、50倍差が出るんだったら、いかにベータテストでユーザーさんに、「いや、これより弥生会計の方が使いやすい」と言われようとも、「絶対50倍の差というものが生まれるから、freeeがいいんだよ」というのが、こうしたインターン生と行った実験から確信を持てました。

こうした確信を持って、提供することが出来たっていうのが、ひとつ大きいことだったと思います。

なので、もしインパクトがどれだけ出るんだっていうところにこだわらなかったら、多分freeeって、もっとスケールの小さいプロダクトにおさまってしまっていたと、今振り返って思います。

赤川 50倍というのは、最初からゴールとして設定していたんですか?

佐々木 いや、してなかったんですけど、(実験の結果)50倍だったので、これはでかいだろう、と思いました。

赤川 50倍という数字が実測された、と。

佐々木 実測値です。

赤川 なるほど。そこまでいけば勝てるだろう、と考えたわけですね。

佐々木 そういう自信ですね。この動画のように、今まで通りのやり方で経理の仕事をすると、こういう数値になって、freeeでやれば全く違う結果になるということです。

赤川 インパクトとそのゴール設定をかちっとして、とことんいいものを創れば勝てる、という事例かなと思います。ありがとうございます。今日1日よろしくお願いします。

佐々木 よろしくお願いします。

(会場拍手)

赤川 では続いて、鈴木さんよろしくお願いします。

鈴木 健氏(以下、鈴木) スマートニュースの鈴木です。よろしくお願いします。僕、実は現役で東大の客員研究員を務めていて、本日の会場は母校でもあります。。

今日はどっちの話しようかなと思ったんですけど、やっぱり研究じゃなくてスマートニュースの話をした方がいいですよね(笑)。

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鈴木 健          
スマートニュース株式会社 代表取締役会長 共同CEO

1998年慶応義塾大学理工学部物理学科卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。情報処理推進機構において、伝播投資貨幣PICSYが未踏ソフトウェア創造事業に採択、天才プログラマーに認定。著書に『なめらかな社会とその敵』(勁草書房、2013年)。東京財団研究員、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター主任研究員など歴任し、現在、東京大学特任研究員。

赤川 そうですね(笑)。

経絡秘孔(けいらくひこう)

鈴木 本日、プロダクトの話ということで、よくスマートニュースはどうやってプロダクトを創られているんですか、というのを聞かれますが、僕たちも、かなり試行錯誤を重ねている状態で、まだまだ何が大事なのかを考えながらやっているという感じです。

今日はみんなに役に立つことを話すということで、少しずつそういう視点から話したいなと思っています。

スマートニュースは、スマートフォン向けのニュースアプリで、グローバルで1,800万ダウンロードというところまで来ました。

本当に試行錯誤でやっているので、色々大事なことはありますが、その中で1つ挙げるとこの言葉です。

「経絡秘孔(けいらくひこう)」*です。お前はもう死んでいる。

* 経絡秘孔(けいらくひこう)は、漫画『北斗の拳』・『蒼天の拳』に登場する架空の人間の急所のである。少林寺拳法開祖宗道臣が著作で人間の急所経穴を表現した言葉に由来する。(出所:Wikipdia)

赤川 これ20代の起業家とか分からないかも…

鈴木 すみません、古くて(笑)。

(会場笑)

鈴木 「北斗の拳」という漫画がありまして。

中村 洋基氏(以下、中村) あ、この会場で北斗神拳を知らない方、いらっしゃいますか?(笑)

鈴木 20代の人ついてこれますか。経絡秘孔を突くと、「 あべし、ひでぶ 」と言って死んでいくのです。

僕はよくこの言葉を共同創業者の浜本に言っていて、今でも言っているのが、「それは経絡秘孔を突いているのか?」という話をします。

経絡秘孔を何で突かなきゃいけないかというと、B to BかB to Cかで違うのかもしれないですが、プロダクトはとにかく色んな機能を追加していっても、ほとんど何も効かない。
上手くいかないプロダクトに色々改善を加えても、全く効かないということですね。

僕も何十というプロダクトに今まで関わっていまして、その内うまくいったのはスマートニュース入れて3つくらいですが、何が上手くいって、何が上手くいかないのか(を定義するの)は本当に難しい。

そういう中で、とにかく僕が意識しているのは、それが経絡秘孔を突いているのか、ということです。

スタートアップっていうのは特にリソースが少ないので、色々出来ないんですよね。

僕の共同創業者の浜本は大変優秀なので、色々出来るので、スマートニュースの前にやっていた「Crowsnest」というプロダクトでは、ローンチ直後から1週間に1個ずつ機能を追加していったんですね。
しかし、全く上手くいかないんですね。

それは経絡秘孔を突いていないからだ、と考えました。じゃあ、どこで経絡秘孔を突くべきなのかが大事な訳ですが、スマートニュースの場合、多分いくつかある経絡秘孔の1つがスマートモードと呼ばれている機能でした。

見たことあるかもしれませんが、記事をタップした後に出てくる画面で、スマートモードというところをタップすると、電波が圏外であっても記事が読める、という機能です。圏外やロード時間が遅いという環境であっても、速く読むことが出来るところが、スマートニュースの1つの経絡秘孔だったと思います。

僕はこれに気づいたのは、地下鉄に乗っているときに、なんでみんなスマホでニュースを読まないんだと、怒りにも近いものを感じたんですよね。全然みんな読んでくれない、と。どうしてかと思って隣の人を見たら、スマホでゲームをやっている訳です。

別にこれゲーム会社さんさんをディスっている訳じゃなくて、みんなの様子を見ると、やっぱりゲームをやっている訳ですよ。僕のスマホを見ても、やっぱり僕もゲームやっていたんですね(笑)。

(会場笑)

鈴木 なぜかって言ったら、読みたくても読めないんですよ。いいコンテンツがあるんですけど、読むことが出来ない。ここを解決すればいいんじゃないかという風に思ったんですね。

その後、このスマートモード機能のおかげで、大変な炎上騒ぎなどもあったりして、それを沈静するのにそこ(参加者席)にいらっしゃる藤村さん(藤村厚夫・スマートニュース株式会社 執行役員)のご協力を得たりと、色々とありました。

秘孔を突きすぎたんですね。秘孔を突きすぎて、社会全体に影響を与えてしまうということもある。それぐらいのことをやらないとダメだということなんでしょうけど。

今年の1月にMicrosoftが出したNews Proというアプリが出て、左側にSpeedy Modeっていうのが付いているんですけれど、これは出た瞬間にTechCrunchの本家で叩かれました。なぜかSmartNewsとアイコンの色まで一緒なんですけれど、ある種ユニバーサリティがあるアイディアなんだな、と考えました。

その後、FacebookがInstant Articlesというのを始めたり、次に、GoogleがAMP(Accelerated Mobile Pages)というのを始めたり、スマホで読むと記事読むの遅いよね、読めないよねっていうところにユニバーサリティがあって、ある種の本質や普遍性があるところを突けたんじゃないかな、と思います。

なので、僕は経絡秘孔というのが大事だと思って、日々今でも会社のメンバーに、「それ経絡秘孔突いてるの?」と言っています。

赤川 ありがとうございます。早速深い話が聴けました。どうやって秘孔を見つけるのか、とか色々聞きたいことはありますが、後でまた戻ってきたいと思います。鈴木健さんです。よろしくお願いします。では続いて、徳生さん、よろしくお願いします。

ミッション(Mission/Why)

徳生 裕人氏(以下、徳生) グーグルの徳生と申します。私は2005年くらいにグーグルに入って、その後一度辞めて、スタートアップ界隈にいました。最初にグーグルに所属していたときは YouTube とか Google マップ とか Google ブックス等の製品に携わり、3-4年して再度入社してからは検索の開発をしています。

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徳生 裕人        
グーグル株式会社 製品開発本部長

日本における検索をはじめとする基幹製品の製品開発を統括。
2005 年にGoogle に入社。プロダクトマネージャーとしてGoogle ブックスや経路検索等の開発に携わり、2008 年からは、アジア太平洋地域における YouTube の製品開発責任者として米国 YouTube 本社に勤務。YouTubeモバイル等の日本向け製品や、音声認識技術による字幕機能等の開発を担当。その後、国内の複数のベンチャーに経営に携わり、製品開発を統括。2014 年より現職。東京大学工学部を卒業後、スタンフォード大学 経営大学院でMBA(経営学修士)及び MS (工学修士)を取得。

赤川さんから生々しいお話をということだったんですが、なかなか「今の」検索の中で生々しい話というのは出来ないので、ちょっと前にさかのぼって話を出来ればな、と思っています。あと、グーグルでは多くのプロダクトが10億人以上の人に利用されているので、プロダクトをどうやって出来るだけ速く成長させていくかという観点から、お話が出来ればと思います。

冒頭の赤川さんからのお題として、月並みなんですけれども、「ミッション」という言葉を挙げさせて頂いております。

グーグルは世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにするというミッションがあり、大事なのはなぜこれをやっているかっていうことがチーム内で共有されている状態だと思っています。

プロダクトマネージャーの仕事というのは、プロダクトをどうやって育てていくかというプランを立案して、全員にそのプランが、なぜこれをやっているのかを含めて共有されている状態を作ることが一番大事だと思っています。

そうすると、優秀なスタッフのみんなの力を活かして、本当にいいものが創れるようになる。その意味で、なぜこれをやっているんだっていうことを、きちんと考え抜いて共有していくっていうことが一番大事だと思っています。

事例として、5-7年前に開発した機能なんですけれど、YouTube で音声認識を使って自動で字幕を付けるという開発がありました。YouTube では、どんどん動画がアップロードされるわけですが、それに対して音声認識で字幕を作って、それを機械翻訳で翻訳出来るようにしました。

Google徳生 スライド2

私は当時、アジア全体でYouTubeを良くするプロダクト責任者みたいな仕事をしていたので、アジア市場でニーズの高いモバイル版の開発に携わったり、特に字幕については、英語圏でアップロードされた動画が非英語圏で楽しめなかったり、非英語圏のクリエイターが英語圏のファンにリーチできないのは非常に勿体無い、という問題意識がありました。今考えると当然やって当たり前の機能だと思っていますが、私は当時インターナショナルな立場から、こうした機能の必要性を提案する立場にありました。

今画面に映っているのは、一緒に開発をしていたエンジニアなのですが、彼の場合は自分自身が聴覚障害者でした。彼はインターナショナルという観点よりも、彼を含め障害のある人たちが YouTube を十分に楽しめない、どうしてなんだっていう観点で意気投合する部分があり、チームを組みました。

チームミーティングとかすると、みんな部屋には集まりますが、一言も話さずに IRC(※注:インターネット用のチャット方式)でチャットしながら会議している、というよく分からない開発をしながら作ってきた機能になります。

かなり目立つ機能でありながら、比較的対象ユーザーが限定される機能なので、やはり機能の追加に対して合意形成が難しい部分もありました。海外市場をあまり重要視していなかった製品開発の部隊などは、「クローズドキャプションは多くのユーザーにとっては目障りではないか?」とかですね。

今でこそ、そのニューラルネットワークとかで軽くなっていますけど、当時は動画1分あたり音声認識処理が3分かかるみたいな、YouTubeにアップロードされる全動画に対してそれだけの計算リソースをどうやって確保するんだといった問題もありました。

しかしながら、この機能はどう考えてもグーグルのミッションに適っている、ということが後押しになり、最終的にデフォルトで字幕を出すかどうかという話はラリー・ペイジまで上がり、彼のサポートも受けて、無事世に出すことが出来ました。

その後実際の開発の中でも、どんどんフェーズを積んで出していくので、各フェーズで何がゴールなのか、何でこれやっているんだっけ?を明確にしていると自然にチームが物事を解決していってくれました。

一番振り返って良かったのは、僕が開発した機能の中でも、4-5年立てば時代も変わり消え去っているものも沢山ある中で、この機能がまだ残っていることだと思っています。残っているというのは、筋が良かったんだなと。

この中(参加者)で開発されている方にとってもは、やはり自分のチームはもちろん、会社で何故このイニシアチブに集中していて、それは何故なのか?というところを、会社の全員が分かっているような状態が出来ていると、非常にいい開発が出来るのかなという風に思います。あまりオチがなくて申し訳ないですけど…

赤川 いえいえ。後でと思ったんですけど気になっちゃったので、1点だけ…、グーグル全体の大きいミッションがある中で、それを自分のチームで咀嚼するプロセスにマネージャーの価値があるのかなと思うんですけど、このケースの場合において、徳生さんはどういう形で、そのミッションを自動翻訳というものに落とし込んでいかれたんですか?

徳生 自動で字幕が付いたら世界中の人が言語を問わずに動画を楽しめるし、さらに字幕にはタイムスタンプがあるので、字幕をインデックスすれば検索で動画の特定の部分が探せるようになる。

ただ字幕を作るのは非常に手間のかかる作業で、全ての動画クリエイターにそういった作業を期待することは出来ません。音声認識や自動翻訳を駆使した機能を開発するというゴールは自明だったのですが、それをいつ、どういったステップで進めるかという点が課題でした。

中村 質問です。「音声認識の精度があと数年したら発達するから、そこまでリリースを待っても良いのでは?」というような議論は出てきました?

徳生 出てきましたね。

中村 どのように突っぱねましたか?

徳生 昨日ちょっと自動字幕を当時出したときのブログを調べて見たら、5年前に出したプログに1 年前にコメントが付いていて、なんか付いていると思ってよく見たら、「音声認識いまだにクソじゃねーか、どうすんだ」みたいなコメントが付いていて(笑)。

(会場笑)

徳生 実際5、6年前の音声認識の精度は今とは比較にならないくらい低くて、しかも YouTube の動画の中には今の技術でも音声認識が困難なものも沢山あるわけで、今そんなに大々的に出していいのか?という話はありました。ただ一方で、技術が「かろうじて」アベイラブルになった瞬間だからこそ、今までに無かった価値を提供できるという側面もありました。

あとは細かい機能ですが、例え自動生成された字幕が間違っていても、ダウンロードして手直しして再アップロードできるようにしたり、あるいは、オートシンクと呼んでたのですが、タイムスタンプの入っていないスクリプトをアップロードするだけで、、音声認識技術の応用で音声とスクリプトのタイミングを完璧に合わせて、手間をかけずに簡単に字幕を作れるという機能とかも作ってですね。

例え全自動の音声認識の精度が悪くても、ユーザー自身が補完できる仕組みも用意することで、それは間違いなく字幕全体の普及の推進につながるだろう、試して見る価値はあるだろう、という説明ができました。

なのでゴールがミッションに合っていても、それを本当に今やるべきかどうかは、様々な手を売って、それをコミュニケートすることが重要になると思います。

赤川 なるほど。ありがとうございます。グーグルならではの話も、グーグル的だけどスタートアップに活かせるような話も、今日は両方聞かせてもらえたらと思います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

赤川 それでは、中村さんお願いします。

インタラクティブ

中村 先ほど質問した中村と申します。私は9年間、電通という会社にいて、広告のデジタルプロモーションをやっていました。PARTYは、日本で、面白いデジタルクリエイティブをつくっていた、別の会社にいたメンバーたちがいっせいに独立してつくった会社です。

今は、キャンペーンだけではなく、広告の枠を超えて、会社全体と一緒にサービスの開発をすることがおおくなってきました。自主的にもプロトタイピング開発を始めるようになりました。

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中村 洋基       
PARTY Creative Director / Founder

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

僕は、みなさんを勉強しに来ました。クライアントがいない自主開発の分野では、大きく当てたプロダクトはないからです。

私の一言は、「インタラクティブ」です。

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私は先ほど申し上げた通り、広告キャンペーンとかを請け負ってやる仕事で言うと、グロースとかしないんですね。納品して終わりです。1〜2ヶ月くらいでどういう風にバズが起きるか、みたいな一発勝負の連続です。

左脳でロジカルに詰めるのというのは、クライアントにプレゼンするときだけです。

うまくキャンペーンがバイラルして、世の中にヒットするか、というのは、実はローンチしないと分からないところがあって。クライアントさんのお金をもらって、プロモーションしていて恐縮なんですけど、大体なんとなくこっちの方が合っているなっていうのが分かるんですけど、上手くいくかどうかっていうのはローンチしないと分からないですね。

たまたまたリリースしたら、予想外にすごくいった、クリティカルヒットが出た、経絡秘孔が突けたものとして、「しずかったー」というアプリを作りました。

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企業のプロモーション用途のアプリって、せいぜい1万DLやそこらなのですが、これは150万ダウンロードいきました。これは何のアプリかというと、「ドラえもん」のしずかちゃんが、ソーシャルにつぶやく悪口とか、ネガティブな言葉を浄化してくれるというものです。

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例えば、左はネットに上がっていたんですけど、「ロードが長すぎてイライラする。バランスは悪いし、システムも稚拙。グラフィックはうんこで不愉快。ストレスがどんどん溜まるクソゲー」みたいなものをリアルタイムに「イライラする」を「キラキラする」に変えるとか、「良くはないけど決して悪くもない」みたいな(笑)。

(会場笑)

文意はなんとか守ったまま、無理やりポジティブに変換するシステムをつくりました。これは高度なことはやっていません。単なる正規表現の「検索・置換」です。

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まず、2人のコピーライターに、しばらくツイッターをウォッチしてもらって、悪口とかネガティブな頻出語句を6千個くらい抽出して、全部、無理矢理ポジティブな表現に置き換えてもらったんですね。

赤川 これ、すごいですね。「明日」が「夜の妖精が連れて来てくれる新しい日」になるんですね(笑)。

中村 そうですね。もはや悪口ですらない。

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皆さんに是非グロースとはどういうものかっていうのを勉強させてもらいたいなと思います。

赤川 ありがとうございます。続けてパネル・ディスカッションに移りたいと思います。

(続)

編集チーム:小林 雅/藤田 温乃

続きはこちらをご覧ください:「WHYを柱にする」プロダクト時代における”ブレない”開発の極意

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