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「メガ・ベンチャーのための大型ファイナンス戦略」【K16-9C】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!9回シリーズ(その8)は、資金調達時のバリュエーション(時価総額)について、各社の「金庫番」が自身の考え方を熱く語ります。ICCパートナーズ小林雅による詳細解説(頑張りました)もお読み頂きつつ、是非御覧ください。
ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。参加者の募集を開始しました。
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登壇者情報
2016年9月7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2016
Session 9C
「メガ・ベンチャーのための大型ファイナンス戦略」
(スピーカー)
小川 智也 株式会社アカツキ 取締役
堅田 航平 スマートニュース株式会社 ヴァイス・プレジデント 財務担当
長澤 啓 株式会社メルカリ 執行役員CFO
永見 世央 ラクスル株式会社 取締役CFO
(モデレーター)
嶺井 政人 株式会社マイネット 取締役 副社長
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嶺井 では次の質問にいきたいと思います。
小川さんは実際に上場されて株価がついていますが、未上場の皆さんは、バリュエーション(時価総額)をどのようにコントロールされていますか?
やはり、この会場におられるスタートアップの経営者の方々も、同じ悩みを抱えていらっしゃると思うんです。
ダイリューション(株式持分の希薄化)のことなどを考えたら、できるだけバリュエーション(時価総額)が高い方が良いという考えがある反面、巷でもよく言われていますが、次の資金調達のことを考えたらあまりバリュエーションを上げ過ぎてはダメだという話もあります。
皆さんは、バリュエーションをどのように設定されているのか、どう考えておられるのか、高ければ高いほど良いのか、高く行ける時に行くべきだということを仰る方もおられますし、ぜひ皆さんのご意見お聞かせ頂きたいと思います。
長澤さん、いかがでしょうか?
未公開企業の「バリュエーション(時価総額)」の考え方
長澤 教科書的に言うと、フェアバリュー(公正価値、適正価格)で評価して頂き、尚且つそれが高ければ良いということだと思うのですが、値が付いていないので、フェアバリューというのは結構難しくて。
なぜフェアバリューにこだわるかというと、上場を見据えるとすると、その時にどういうバリュエーションが付くかという問題があるからです。
非上場でもそうだと思うのですが、次のファイナンス、つまり上場した後もファイナンスするかもしれないですしね。その時にフェアバリューで値がついていないと、投資家がついて来られません。
特にレイターステージになればなるほど、海外の色々な機関投資家なんかも、フェアバリューがどこにあるのかという点で他の会社と比較して投資検討するので、そこの観点を見誤ってしまうと、財務的に身動きが取れない会社になってしまうというのが一番のリスクだと思います。
お金を取りたい(資金調達したい)と思っても、むやみに高い値段(時価総額)がついてしまい、例えば上場した後に流動性がなかったりすると、全く身動きが取れない会社になってしまうというのは一番不幸な状況ですよね。
嶺井 そうすると、イメージされている上場後のバリュエーションから逆算して、上場時のバリュエーション、今のバリュエーションを付けていっておられるということですか?
長澤 そこまででもないところはあるのですけれどもね。
上場に関してどこにポイントを置くかということでもありますし。
ただ、レイターステージのファイナンスになると、投資家側が上場のバリュエーションを基にどういうディスカウント(割引)で入ってくるかという計算になってくるので、そういう要素が入ってくることも当然あります。
(編集注:1年後に時価総額500億円で上場する場合、現時点の時価総額が250億円だとすると1年後に2倍になるからIRR(利回り)が良いね という判断をします。)
嶺井 そうですね。我々発行体は考えなければならないですよね。
ありがとうございます。
永見さん、いかがですか?
フェアバリュー(適正な株式価値)の幅を見極める
永見 今のお話に関連しますが、フェアバリュー(適正な株式価値)も、やはり会社の実態とは別に、その時々の株式市場の環境の影響を受けると思っていて、ピンポイントのフェアバリューというものはあまりないと思っているんですよね。
フェアバリューには一定の幅があるという前提で、弊社の場合その幅の中には入るような株式価値評価は訴求していくのですが、一方でそれ程アグレッシブなところは狙わないことにしています。
というのも、代表の松本との間で、eコマースというビジネスの性質を踏まえて、一定のダイリューション(株式持分の希薄化)をしてでも資金調達をしていくと摺合せをしていることにもよります。
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ラクスル代表の松本さんは2016年3月24日開催「ICCカンファンレンス TOKYO 2016」の「ビッグ・ベンチャーの資金調達の考え方」で以下のコメントをしております。
「ダイリューション(株式持分の希薄化)に関する考え方というのは、結構大きく変わってきていてラクスルの場合、シリーズCまでやっているんですよ。
エンジェルラウンドA、B、Cそれぞれ30パーセントずつダイリュート(希薄化)していて、アメリカのMBAのファイナンスとかでよく教科書的にあるようなファイナンスをしていて、経営と所有を分けて考えるようになって、自分は経営をしていて、それを最大化するにはお金はあったほうがいいと。
経営と所有を分けて、リスクマネーを出してくれる人がいるのであれば、そのおカネを使って自分の実現したいビジョンを作っていこうと、この腹決めをしたのが5年目6年目くらいの時でした。
恐らくこれを最初からやるだろうなという大きな絵を描きつつ、世の中をよくしていきたいというビジョンに賛同してくれる投資家の方を回って、最初から一定額の資金を集めておくことは必要だと思います。」
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そして、先ほど嶺井さんが仰っていたように、次のラウンドの資金調達の可能性や、場合によってはどこかで先に上場をしていくといった可能性もあります。
ですから、その時の機動性という観点からいうと、バリュエーションを高く付けすぎることによるデメリットも当然理解しているので、そこはフェアバリューの一定の幅の中では、真ん中なのか下目なのか分からないですけれども、最高額を必ず付けようという意識はあまりないですね。
嶺井 ありがとうございます。堅田さんいかがでしょうか?
堅田 バリュエーション(時価総額)の高低には、絶対的な基準があるわけではなく、
嶺井 そうですね。相対取引で話し合うところもありますしね。
堅田 特に未上場企業の場合は、単純にマルチプル(利益や売上などの財務指標に対する時価総額の倍率。通常、同業他社との比較で)だけで評価できるものでもないという気がしています。
創業者や経営陣と社外の投資家との間には、当たり前ですけれども情報の非対称性がありますよね。それはただの妄想だったり夢だったりするのかもしれないですけれども。
ですから、自分達としてはやはり、これが目指す世界なのだということをしっかり伝えた上で、その将来像をどんな値段(時価総額)で投資家の方が評価して下さるのかというところを出発点に、対話を重ねて合意点を探していくしかないのかなと思います。
もう一つは、先ほどの永見さんのお話とも関係しますけれども、バリュエーションが高くなるということは、当然ながらそれだけステークホルダー、特に株主様からの期待が高まるということでもあり、会社としてそれだけの責任を負うということでもあります。
色々な意味で将来の自分たちの選択肢を狭めてしまう可能性もあるということを、きちんと認識した上で、その選択肢を選んでいるかどうかが重要ではないかと思っていて、実際、当社の資金調達においても、一番高い評価額ではなかった投資家様を選んだこともあります。
嶺井 それはなぜ、一番の方をやめたのですか?
堅田 その話をしてしまうと、どのラウンドか分かってしまうので。(笑)
嶺井 分かりました。そこはまたおいおい。(笑)
優先株の功罪
永見 あとは、優先株(投資家にとって権利内容が優先的になっている株式)での資金調達は、本当にこの3、4年のことだと思うんですよね。
(編集注:優先株式に関してはStartup Innovators「優先株式の基礎」を参照ください。優先株式の仕組みを理解しないと以下の議論は理解が難しいです。)
この功罪は当然あって、バリュエーションが高く付けられる一方で、ダウンラウンド(追加増資の株価が、前回増資の株価を下回ること)になった時に利害調整をする際に不幸な結果となる人は結構出るはずなので、その可能性も鑑みてバリュエーションをどの水準で設定するのかという話は普通にあると思っています。
恐らく、今はそういった事象があまり起きていないからそこが注目されていないのだと思いますが、これから1、2年の経済環境次第ではそういう事例も普通に起きると思っています。
その時に今日のような議論をしたことを振り返って、バリュエーションをどう考えたらよかったのだろうかといった反省が出てくるのかなと思っています。
嶺井 そうですね。
堅田 優先株によって資金調達手段が大きく広がった、つまり優先株はすごく自由度が高い設計ができる一方で、各ラウンドの優先株主間の利害調整であったり契約的な正当性の観点で、難易度が上がる部分もあります。
たまたまここにいる3社の投資家であるDBJ(日本政策投資銀行)さんからは、優先株主間のコンフリクトを抑えるには「こういう設計の方がよいのでは?」といった形でのご提案を頂けて、それはすごく新鮮でした。
▼【編集注:ICCパートナーズ 小林 雅による優先株式の株主間のコンフリクトに関する解説】▼
優先株式間の「コンフリクト」とは一般的にはシリーズA、B、C、Dと資金調達を行う倍は利益分配の優先順位が最後のシリーズDの投資家がもっとも優先される分配になります。IPOをする場合、通常は優先株式から普通株式に転換されてから上場するため問題になりませんが、M&Aの場合は「コンフリクト」が顕在化します。
例えば、シリーズDの時価総額(Post-Money Valuation)が100億円のときに20億円を優先株式で調達したと仮定します。その優先株式(D種優先株式)に残余財産分与の優先権が株価に最大2倍に設定されている場合、M&Aのときに20億円(シリーズDの調達金額)x 2倍=40億円をまずシリーズDの投資家に分配されます。つまり、このケースの場合はM&Aが時価総額40億円の場合はシリーズDの投資家にしか利益が分配される。残りの投資家は分配はありません。
このように日本の場合10〜50億円程度のM&Aが多いため、30億円で買収したいというオファーがあっても、創業者が仮に普通株式で50%を保有してた場合でも上記のように優先株式を発行していると利益は分配されないということになります。
上記のような場合、創業者は一銭も得にならないが、シリーズDの投資家は2倍になるので利益がでるというコンフリクト(利害相反)が起こります。 株主間契約に「M&Aのオファーが来た場合は優先株主の過半数が賛成したら決定できる」ような条項がある場合はシリーズDの投資家の意向が反映される可能性があります。
このように優先株式による資金調達のストラクチャリングを考える場合は①株主間の利益分配の優先順位をどう考えるか? ②残余財産分与の優先権の倍率をどの程度に設定するか? ③ 新規株式発行やM&Aにおける株主の意思決定の仕組みをどう設計するか? が重要になります。
▲【解説終わり】▲
今回のラウンドだけではなくて、既存の投資家、さらには将来の投資家や従業員と、なるべく同じ方向を向いて進めるような設計上の工夫というのは、特にラウンドを重ねるほど大切なのかなという気がします。
嶺井 ありがとうございます。
小川さんに伺いたいのですが、未上場時の資金調達や、未上場時に設定したバリュエーションは、上場時にどんな影響がありましたか?
小川 そうですね、弊社は少し間隔が空いていたので、必ずしもそこに引きずられるということはなかったのですが。
嶺井 数十億円ではなくて、100億円以上のバリュエーションを付けていらっしゃると思うんですよね。
小川 そうですね。
嶺井 高くはないものの大きな金額のバリュエーションだと思うのですが、その影響というのはなかったですか?
小川 上場する時に、そこは一つのベンチマークというか越えなければならないものだという意識は当然ありましたが、そうはいっても、上場タイミングでのバリュエーションのプロセスは、結局、上場のプロセスの中で決まるんですよね。
まさに堅田さんも仰っていたように、未上場の会社の場合は、色々な評価の方法や、何を評価して何に投資するかということに関しては、結構柔軟だったり、投資家の方によって評価するポイントが違うと思うのですけれども、上場のところでは、そこがもう少し狭くなるというか、
嶺井 ロジックが決まっているといえば決まっていますものね。
小川 ある程度の枠組みの中でという形になった時に、普通にPER (株価収益率)でいうのだったら、類似企業(編集注:同業他社のPERの平均値などを計算するため)はどこでとか、事業計画のどこをとってとか、割とロジックでどう説明していくかといった話があるので、そこへは直接の影響はなかったのですが、そのロジックできちんと説明できるバリュエーションなのかとか、もちろん実態がまずあることが前提ではあるものの、どういうロジックでそこが付くのかみたいなものはやはりあると思いますね。
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【編集注:ICCパートナーズ 小林 雅による上場時の時価総額の決定方法に関する解説】
一般的には上場する場合のIPO時の時価総額はPER(時価総額÷当期利益)をベースに計算されます。PERは類似企業を複数社選定し、その平均値を一般的に用います。例えばゲーム会社の場合は上場しているゲーム会社(グリー、DeNA、コロプラなど)のPERがどの程度かという計算をします。その平均値がPER=30(倍)であるならば、事業計画上の当期利益(翌年度)の利益が5億円であれば 5億円 X 30倍=150億円となります。成長率などを勘案して最終的なプライシング(値決め)がされます。
アカツキの場合は3月末決算の会社で2015年3月にIPOをしています。上場時の時価総額は「2015年3月期」の当期利益の計画値をベースに決定されています。
「gumiショック」と呼ばれた事象は上場時の時価総額を決定するときの根拠となる「計画値」の数字を大きく下方修正したために起こりました。そのため、アカツキの場合は2015年3月期の業績が見込みの精度が高い2015年3月に上場しているのは業績のブレのない形で上場するという判断だったと思われます。
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そこがあまり乖離してしまっていると、一からバリュエーションを設計しないといけないようなことが本当にあり得るかなと思います。
嶺井 上場時には、やはりそんなに将来の成長を織り込めないじゃないですか。
もちろんPERが高いのであれば将来を織り込んではいるものの、未上場の時のように赤(字)でもこれだけ資金調達できるという話では全くないので、レイターステージになればなるほどそこに気を付けておかないと、バリュエーションの方法の違いで苦しみますよね。
(編集注:レイターステージで時価総額100億円で資金調達したが、IPOしたときには「当期利益は1億円でPERも30倍 つまり時価総額 30億円です。」ということが現実的に起こります。将来性があるからPERも100倍だ!と計算していたが、株式市場はそれほど甘くはなく現実的だった・・・ということはよくあるケースです。)
小川 その可能性があるかなと思いますね。
ですから、結構近接しているけれども全く違ったロジックだったりすると、そこのギャップが起きる可能性はあり得るのでは、と思いますね。
嶺井 資金調達時に気を付けなければならない点ですね。
ありがとうございます。
(続)
編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/Froese 祥子
続きは 【最終回】メガ・ベンチャーCFOたちが語る資金調達の留意点 をご覧ください。
【編集部コメント】
続編(その9)では、資金調達時の「しくじり」ポイントや、投資家の種類による留意点など、調達現場のリアルなお話を頂きました。会場参加者とパネリストが議論する「共創」の回となっております。是非ご期待ください。感想はぜひNewsPicksでコメントを頂けると大変うれしいです。
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