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4. そのKPIはLTVに結びついているのか? 実務担当者が陥りがちな罠

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「トップマーケター直伝、マーケティングで事業をドライブする組織・人づくり! 」全6回シリーズの(その4)は、「ステージ2」、実際にマーケティング業務を遂行する立場のマーケターの課題について議論します。業務範囲やKPIにとらわれて、”全体最適”で動けなくなる問題や、店頭に立ち現場や顧客を肌身で知ることの大切さが語られます。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2022は、2022年2月14日〜2月17日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2021 ゴールド・スポンサーのグロース Xにサポート頂きました。


【登壇者情報】
2021年9月6〜9日開催
ICCサミット KYOTO 2021
Session 8F
トップマーケター直伝、マーケティングで事業をドライブする組織・人づくり!
Sponsored by グロース X

(スピーカー)

田岡 敬
株式会社 office K
代表取締役

津下本 耕太郎
株式会社グロース X
代表取締役社長

リュウ シーチャウ
レノボジャパン合同会社 CMO マーケティング統括本部 統括本部長 / NECパーソナルコンピュータ株式会社 コンシューマ事業本部 マーケティング部長

山口 義宏
インサイトフォース株式会社
代表取締役

(モデレーター)

西井 敏恭
株式会社シンクロ 代表取締役 / オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員CMT / GROOVE X株式会社 CMO

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最初の記事
1. 重要文化財、城下町など歴史的資源を活用した街づくりを進める「バリューマネジメント」

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3.「マーケティングは初期に体系的に学ぶべし」トップマーケターが口を揃える業務効率化

本編

自走を目指す「担当業務の実行者」の課題とは

西井 次に、ステージ2、「担当業務の実行者」です。

ステージ2では、商品企画や広告、PRなど、上司の指示やディレクションを受けながら、何かの業務を担って自分で完遂できることを目指しています。

実務を動かしている方なので、社内でも人数が多いステージだと思います。

ではシーチャウさん、このステージでの課題とよくある話についてお願いします。

課題④ ビジネスに対するマインドセットが弱い

リュウ まさに先ほど話したマーケティングスキル(Part3 参照)に関連するのですが「ビジネスに対してのマインドセットが弱い」ことが挙げられます。

例えばうちの会社で言えば、マーケティングチームはオフラインを担当する事業部に重点を置いています。

ただ、最終的な会社全体の売上は、自分たち(の成績)に返ってきますよね。

今はコロナでお店も開いていないし、私なら、オフライン店舗のサポートはやめて、ECチームに飛び込んでECストアをきちんと作るように動くと思います。

でも私に言われるまで、みんな意外とそれに気づいていなくて、「今カタログを作っているのですが、新しいカタログはどうしましょう」みたいな話になっていたのです。

勿論カタログを作ってはいけないという話ではないのですが、ECビジネスが伸びたほうが、会社全体の売上を絶対に伸ばせるはずです。

そういった状況を把握し、自分の時間をどこに使うべきなのかを判断できるようになると、会社全体に貢献できると思います。

与えられた仕事をこなすことが大事だと教育されてきたのかもしれないのですが、逆に、ビジネスマインドセットが弱いと思いました。

細かすぎるKPIは「目的不在の手段担当」になりがち

西井 原因の一つが教育かもしれませんが、教育以外にも何かありますか?

リュウ KPIですね、ガチガチに固められたKPIがあったので……。

西井 KPIを変えるということですか?

リュウ KPIは変えられます。

ただ、細かいKPIを設定しすぎた結果、ECに取り組むほうが会社の売上が伸びることに気づかなかったのではないかと思いました。

西井 ステージ2におけるこの問題は、どの会社に行っても、めちゃくちゃたくさんあると思っています。

山口さん、いかがでしょうか?

山口 めちゃくちゃありますね、獲得だけを考えている人はLTV(顧客生涯価値)を考えていないとか。

西井 よくありますね。

山口 現状アサインされた業務やタイトル、ポジションの話と、持っている目線の話は別だと思っています。

仕事ができると評価されて昇進する人は、ステージ2や3の頃から、PLを考えて、売上と利益を生み出すことを意識しています。

そのためには仕事をどう見直すべきかを考え、自分の部門だけでは改善できない場合は、隣の部門や担当に相談し、リソースの組み替えや協力を頼みに行くというマインドセットを持っています。

そういうマインドセットがあるかどうかが、この話の本質だと思っています。

そしてこれは社風に大きく影響されますね、社風が部門間の越境コミュニケーションを嫌う空気だと厳しいです。

田岡 目的不在の手段担当、みたいな感じですよね。

山口 そうですね。

西井 この問題は非常に多いと思う一方で、会社がその状態を作ってしまっている気もしています。

業務最適な人材を作ってしまいがちというか。

日本だけなのか分かりませんが、ものづくりをすることを考えると、人材のスキルを最適化するのが一番良いと思います。例えば、工場での流れ作業のように、ひたすら量産できるスキルを身につけるとか。

あまり目的意識を持たせないような組織にしているのかな、と僕は思っていました。

田岡 メーカーの場合、アロケーション(割り当て)したリソースは不動ですが、デジタルの場合は、SEOやSNSなど、取り組む分野が変わるので、リソースが常に流動的だと思います。

リソースは毎回変わるものだとは、定義づけられていないのではないでしょうか。

山口 外注側で委託を受ける側からすると、例えば自分の会社がSEOとその周辺領域に特化していると仮定した場合、本当はクライアントのSEO領域に伸びしろがなく、売上を伸ばすボーリングの一番ピンじゃないとしても、SEO以外のことに取り組みましょうとはビジネスのインセンティブとして言いにくいです。

かつ、他の領域のことは普通はそこまで分からないので、外注側のプレイヤーも専門領域で縦割りな構造的な問題があると思います。

西井 外注側のことを考えていませんでしたが、おっしゃる通り、確かに得意領域以外はやっちゃいけないですね……。

山口 施策単位で各専門領域に特化している会社が多いです。

総合的に実行までお手伝いしますと言って実際に説得力がある体制が組めるのは、電通、博報堂、ADKなどの、総合系と呼ばれる大手広告代理店くらいに限られるのが実際だと思いますね。

西井 なるほど。

山口 それ以外の会社だと、経営的には差別化のために専門領域に特化しないとなかなか難しいのが、マーケティングを外部から支援する業態市場の実態です。

西井 ありがとうございます。

課題⑤ 仕事がタスクとしか感じられない

西井 次の課題も、シーチャウさんからですね。「マーケティングメンバーのビジネスコントリビューションへのマインドセットが弱い」。

リュウ マーケティングの仕事は、普通にやっていれば楽しいものだと私は思います。

新しいことにトライして、数字を伸ばして、色々な施策をして、クリエイティビティも一番活かせます。

辛そうに仕事をしている人がいますが、なぜそうなってしまうのかなと観察していると、マーケティングがただのタスクになってしまっているからだと思いました。

タスクやKPI設定などの面で、会社が悪い部分もあると思います。

でも、自分から「こういうことをやったほうがいい、これを変えたい」とリーダーシップをとる人のほうが、楽しそうに仕事をしているように見えるし、結果も出ます。

ただのタスクになってしまうのは、組織の課題だと思いますね。

西井 ありがとうございます。

プロダクトのユーザーと接する機会を持つ(津下本さん)

西井 ステージ2の方には、色々な仕事をアサインする方がいいかもしれないですね。

先ほど、獲得だけを考えている人はLTVを考えていないという話が出ましたが、そうならないためには、広告の後にCRMを担当するなど、どちらのマインドセットも持てますし、向き不向きが分かると思います。

例えば、僕の得意なマーケティングとシーチャウさんの得意のマーケティングは、多分ちょっと違うかもしれません。

実際にいくつかの業務をやってみれば、自分が好きなことや向き不向きが見つけられると思います。

津下本 マーケティングの現場において、楽しいか楽しくないかの差は、顧客に対して手触り感みたいなものが持てるかどうかにかかっていると思います。

例えば、自分たちのプロダクトが顧客に届いて、ペインが解決されれば、絶対に楽しいはずなのです。

見習いとして個別業務から始める人は、お客様のイメージがつかないまま仕事をしていることが多いのではないでしょうか。

経営上、お客様と話してもらう経験も組み合わせるべきかと思います。

そうすることで、もう少し楽しくなるのではないか、自立的になるのではないかと思います。

西井 確かにそうですね。

BtoCというか、お客様と直接つながることができる、それに近い事業をしていると、お客様の声を聞きやすいですし、それが楽しさの源泉になることも多いですよね。

そうではない会社だと、大変そうだなと思います。

津下本 エージェンシーの場合、クライアントの支援をしていても、その先にいるユーザーやお客様を知らないので、ピントのずれた、とんでもない提案をすることもあります。

お客様に会うことなくマーケティング業務に携わっている人が意外と多くて、それは結構問題だと思っています。

トップマーケターも店頭に立っていた

リュウ 確かにそうですね。

本当に、自分からチャンスを見つけないと、楽しく仕事ができないと思っています。

今の会社にはCMOとして入社しましたが、入社後は部屋に閉じ込められて、「承認してくれればいいから」というような雰囲気だったのです(笑)。

でも、何を承認すればいいのか分からないし、私にも手触り感が必要だしということで、営業の方に頼んで、店頭にPOPやカタログの設置をしに行く際にお手伝いさせてもらいました。

自分にはPCを売るだけのトークスキルがないので、その人のアシスタントとして、定期的に連れて行ってもらうことにしたのです。

何かを承認するにしても、あまりにも現場の手触り感がなくて不安だったのです。

でも、不安なまま仕事をしている人も意外といると思いますね。

西井 田岡さんも、ニトリの店頭に立っていましたよね。

田岡 はい、義務でしたので(笑)。

でも、アプリはもっとこうしたほうがいいとか、店頭に立ってみてよく分かることもあります。

例えば、ニトリは取扱商品が多いので、スクリーンショットを見せながら、商品について問い合わせるお客様がいます。

でもそこには商品番号が入っていないので不便で…、すぐに修正しました。

商品番号が入っていないと、従業員さえもどの商品か分からなくて、困るのです。

僕がニトリを退職する前、最終的には、画像検索ができるアプリにし、どんな画像を持ってきてもらっても、その商品に店頭でたどり着けるようになりました。

ニトリが画像検索機能をアプリに実装へ、アリババグループ開発の「Alibaba Cloud」を導入(impress)

▶ニトリ O2O戦略の実践!「画像検索」でお客様の買い物体験を変える。(ECのミカタ)

お客様の声は大事ですね。

課題⑥ マーケティングについて教える人がいない!

西井 業務関連についてお話し頂きましたが、田岡さんが挙げた、「教える人があまりいない」という課題があります。

外部パートナーの力を借りて勉強会をする(田岡さん)

田岡 僕が入ったときは、日立もニトリもデジタルに強い組織ではなかったので、教える人がいない状態でした。

ですから代理店の力を借りるしかないこともあり、勉強会をよくやりますね。

西井 パートナーを呼んで、社内勉強会をよくやっていましたね。

田岡 はい、SEOやなどの勉強会ですね。

西井 やはり、大手はいいですね(笑)。

田岡 まあ、予算がないとやってくれないですね(笑)。

西井 予算のない会社にいらっしゃった時は、どうしていたのですか?

田岡 僕が入ってOJT化するか代理店に聞くしかなかったですね。

自分も中に入って一緒にやるという、泥臭いものです。

西井 ただ、田岡さんは、どんなに小さい会社だろうと、教育費を絶対に作っていますよね。

田岡 そうですね。

課題⑦ マーケターのスキル可視化が難しく、OJT効果も不透明

西井 津下本さんからの意見で、人の育成が「OJT偏重」とありますが?IM1_2574

津下本 先ほど話した内容(前Part参照)や、田岡さんの話とも近いのですが、まず、教えられない先輩が多いのと、そしてOJTで教えたことがきちんと身についているかの可視化が、ほとんどの会社でてきていないと思います。

社内がそういう状態なので、採用も適当になってしまっている会社も多いです。

「ZOZOTOWN」と履歴書に書いていると採りたくなってしまうみたいな……(笑)。

西井 マーケティングだと、そういうところがありますよね(笑)。

履歴書や面談で見極めるのは困難

津下本 例えば、東京タワーを造ったと言っている人が、世の中に1,000人、10,000人いるのと同じで、「あの仕事は自分がやった」と履歴書に書かれても、見破れません。

業務担当をアサインするにしても、チェックリストがないので見える化ができていません。

僕のチャレンジがまさにそこなのですが、業界内にはそういう課題がありますね。

西井 僕も田岡さんもよく話すことですが、正直、履歴書の内容の真偽や程度を、面談だけで見破るのは難しいですよね。

田岡 そうですね。

西井 僕も、コンサルティングをしているクライアント先で、次のマーケティング部長を雇うので一緒に面談に入ってほしいと言われることがありますが、なかなか見破れないですね。

これは課題であり、今のところ、解決策があまりないです。

課題⑧ 顧客理解より調査・分析の手法にとらわれてしまう

西井 では山口さん、挙げて頂いた課題「顧客理解の枝葉の手法、調査や分析の手法にばかりとらわれて、根本的に顧客と向き合って情報を得ている時間が少ない。顧客理解が限定的」について、コメントをお願いします。

山口 先ほど皆さんから、ステージ3のスキル(特定施策の専門家としてのスキル)をそこまで深掘りしていないですという話が出ましたが、僕自身も、1つのスキルを深掘りした記憶がありません。

▶編集注:本記事Part1、2で、「事業会社で3を長くやることはあまりないかもしれない」(西井さん)、「ステージ3をやらずに4に行ってしまったなと思った」(リュウさん)、「少しだけステージ3の仕事もしたが、4以上のポジションがほとんど」(田岡さん)との発言があった。

施策の手法はどんどんアップデートされて変わっていきますので、根本的には、どういう顧客心理に基づく需要があるのか、どんなインサイトをくすぐれば物を買いたくなるのかなどの顧客理解がすごく大事だと思っています。

顧客理解と、ブランドや商品やサービスが提供する価値がマッチすると、それは需要と供給の一致となり、物が買われるわけです。

その理解の精度を上げることが、まずは圧倒的に大事です。

その際、リソースがある会社ほど調査会社を呼んで、調査の設計や分析手法について、「新しい分析手法ができたから」と、色々なことを取り入れがちですが、そういうことが大事なわけではありません。

西口(一希)さんもよくおっしゃいますが、考え続けて、気になる対象者がいたらお願いしてつかまえて話を聞くというようなことを繰り返す、そういう好奇心や執着のほうが重要だと思っています。

手法を覚える前に、お客様を理解することのほうが、重要度が高いと思うことが多いですね。

西井 先ほど他の3人が言われていたこと以外で、顧客理解のために大事なことは何かありますか?

本当に腹落ちするのは「定性インタビュー」(山口さん)

山口 大きな会社で合意形成をする時には「定量データ」は大事ですが、定量データだけでは顧客理解が表面的に留まります。

本当に顧客のことを深く理解して腹落ちするには「定性インタビュー」が欠かせません。

定量データ/定性データ(日本リサーチセンター)

しかし定性インタビュー調査の場合、調査現場で見聞きして感じる内容を100とすると、調査報告レポートで伝わる内容は体感的には20くらいにどうしても薄まります。

ですから、経営層や意思決定層の認識を、本当に大きく変えたいという目的を持つ時は、予定を調整し、インタビューの現場に経営層の方々を呼びます。

例えば、四半期に1回、マーケットに関するフィードバックをする会社であれば、定性調査の様子をビデオなどでまとめ、こういうふうに見られているというメッセージを強く出すのも、テクニックの1つですね。発言のテキスト共有ではなく、現場や動画で温度感を伝えるのはかなり効きます。

西井 なるほど、ありがとうございます。

ではステージ3にまいりましょう。

(続)

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続きは 5. 消費者を主語にして考えると、行動が明確になる をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸

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