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2. “ローマが産んだ唯一の想像的天才”「カエサル」の偉業とは

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ICC FUKUOKA 2023のセッション「世界の偉人伝 (シーズン5)」、全5回の②は、引き続き「ユリウス・カエサル」の紹介です。3つの強みを持ち、統治システムを変えるために「借金をてこに応援をしてもらう」という、その方法とは? メディアも活用して情報をオープンにし、民衆にアプローチしていたというのは、近世の政治家にも通じます。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜 9月7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください

本セッションのオフィシャルサポーターは ノバセル です。


【登壇者情報】
2023年2月13〜16日開催
ICC FUKUOKA 2023
Session 5F 世界の偉人伝 (シーズン5)
Supported by ノバセル

「世界の偉人伝 (シーズン5)」の配信済み記事一覧


ユリウス・カエサルの3つの強みとは

宇佐美 カエサルには色々な強みがありますが、特に3つ挙げます。

1つ目は、権力者に媚びない。

当時、騎士階級と貴族階級の対立がある中で、カエサルは貴族階級に属しながら、新興貴族、いわゆる民衆派の味方をしていました。

カエサルを排除しろという動きになっても、国を追われてでも自分の意思を主張し、媚びませんでした。

2つ目、追い詰められても諦めません。

彼は戦争で負けたことも何度かあり、常勝ではありません。

でも、負けても次のところできちんと取り返しました。

3つ目は敗者への寛容さです。

戦争で勝てば、相手兵は全て奴隷にしたり、皆殺しにしたりが当たり前だった時代に、相手が恭順(つつしんで従うこと)の意を示せば許しました。

当時これらを持っていたことが、カエサルの強みです。

琴坂 当時いた他の実力者とは違った、ということですね。

宇佐美 そうです。例えばスッラは、どんどん弾圧して殺すようなスタイルでした。

スッラ(世界史の窓)

また、カエサルは戦争をしても、植民地にするのではなく、ローマ市民にするようにしていました。

駒崎 当時、蛮族と呼ばれていた人たちに、ローマ市民権を与えましたよね。

宇佐美 そうです。

駒崎 それはすごいことですよね。

宇佐美 これは連結経営に例えると、買収した会社の経営陣に子会社のことだけをやらせるのではなく、彼らを親会社の社員にした上で親会社の経営陣にも取り入れていくというようなことです。

北川 分散統治をしていたのですよね。

宇佐美 そうなんです。

そして、カエサルがこの時代に一生をかけて成し遂げたことは、うまく回らなくなっていた都市国家システムを、ガリアやヒスパニアを含む広大なエリアを統治するシステムに変えたということです。

井上 ガバナンスですね。

宇佐美 ガバナンスです、ガバナンス構造を変えたということですね。

借金をテコに応援してもらう仕組み

宇佐美 では、どうやって変えたかですが、理由は3つあると思っていまして、まず借金です。

カエサルは、めちゃくちゃ借金をしていたのです!

北川 誰から借りたのですか(笑)?

宇佐美 ガリアやヒスパニアに遠征に行きますよね。その際、部下から借りたのです。

北川 (笑)。

宇佐美 部下の将校からお金を借りて、将校のその部下に配るというか、あげるのです。

そうなると、将校は戦争に負けたらお金が返ってこなくなるので、めちゃくちゃ頑張って働くわけです。

一方で、お金をもらったメンバーたちは、「カエサルがお金をくれた!」となっていくのです。

また、当時の大金持ちからも莫大な、何百億円規模の借金をしていました。

そうなると、カエサルが死ぬと返してもらえなくなるので、カエサルを応援するようになるのです。

つまり彼は、借金をテコにして応援してもらう仕組みを作ったわけです。

井上 まさにレバレッジを効かせたわけですね。

宇佐美 そうですね、まさに借金をレバレッジやコミュニケーションのツールに使っていました。

2つ目は三頭政治です。

当時、カエサル とポンペイウスと…あと、誰でしたか?(編集注:クラッスス)

北川 ちょっと名前は出てこないですね(笑)。

宇佐美 まあ、裏で3人がつながって政治をしていました。

ガリアやヒスパニアに行っている間は当然、カエサルのローマでの発言力が小さくなります。

影響力が小さくなるので、裏でつるんだのです。

遠隔地からコミュニケーションを取りながら合意し合うということをしていたので、卓越したコミュニケーション力があったと思います。

北川 すごいですよね、紀元前のことですからね。

宇佐美 インターネットのない時代ですからね。

大衆の支持を得て、統治システムそのものを変えた

宇佐美 そして3つ目がメディアですが、僕が面白いと思ったのは、カエサルは当時、元老院の力を弱めるために元老院で議論された内容を議事録にし、すぐに広場に貼り出したことです。

情報をコントロールすることで権力を得るのではなく、情報をオープンにすることで議会の権力を弱めるということをしていたのです。

琴坂 そうなると、圧倒的な軍事実績を持つカエサルが大衆から支持され、結果的に権力を得ていくということですよね。

宇佐美 そうです。

また、どうガリアを征服したのかのレポートを逐一書いて本国に送っていました。

ガリア戦記』ですね。

北川 面白い。

宇佐美 かなりメディアをうまく使って、民衆にアプローチしていたのがカエサルです。

井上 メディアを仕切って自分に都合の良い情報を流すアプローチではなく、情報格差をなくすことで、自分の実力をきちんと示していたわけですね。

宇佐美 そうなんです。

具体的にどんな施策を行ったかと言うと、まず、元老院という議会の定員を増やしました。

会社で例えれば、取締役人数を多くしたということです。

琴坂 機能しないようにしたのですね。

宇佐美 そうです。

琴坂 真逆の話ですね(笑)。

宇佐美 単に増やすだけではなく、属州の支配層も取り込んだので、一石二鳥でした。

北川 確かに、みんな喜びますね。

宇佐美 他にも、ローマ市民権を属州の人に付与したり、カエサルという名前を使っていいと付与したりもしました。

このように、カエサルは統治システムそのものを変えました。

都市国家の仕組みから、領土を拡大、統治するための仕組みに変わっていきました。

北川 名前を使ってもいいという件は、シーザーサラダという名に表れているのでしょうかね?

宇佐美 そうかもしれない(笑)。

駒崎 それは歴史が飛びすぎ(笑)。

琴坂 僕はあまり歴史を知りませんが、話を聞いていると、貨幣の力も理解しているし、メディアなど既存の力に対抗するための新しい力を存分に活用して自分の力を作ったようですね。

宇佐美 政治、経済、軍事全てを、新しい時代に合わせて変えていったのです。

ただ、そんなカエサルは最後、元老院派の人たちに暗殺されてしまいました。

これはラテン語の「ブルータス、お前もか」です。

遺言状で自分の後継者を指名

宇佐美 カエサルがすごいのは、ここで終わらなかったことです。

カエサルは最後に、誰を自分の後継者にするのかについて遺言状を残しています。

会社経営で言うと、後継者候補を……。

北川 サクセッションプラン。

宇佐美 サクセッションプランとして、当時19歳の、誰も知らない遠縁の従兄弟のようなオクタヴィアヌスを、第一候補に挙げていました。

『ガリア戦記』で腹心の部下だったアントニウスは、候補から外しているのです。

オクタヴィアヌスは体が弱かったらしいので、体の強いアグリッパという人を補佐に付ける形で後継者として指名しました。

ローマ帝国は、このオクタヴィアヌスが、アウグストゥスという名で初代皇帝となりました。

帝国の作り方でした。

琴坂 なぜ、この19歳のオクタヴィアヌスをノミネートしたのでしょうか?

北川 確かに。

琴坂 まだ実績もなかったと思います。

宇佐美 これは僕も分からないです(笑)。

多分、冒頭で挙げた「指導者に求められる資質」が多分あって、カエサルはそれを見極めたのでしょうね。

血の繋がった、クレオパトラとの子供であるカエサリオンではなく、資質で後継者選びを行ったということだと思います。

北川 面白いなあ。

駒崎 カエサルは若くして死んでいますが、そんなに若い時に殺されるとは思っていなかったという説があります。

ですから、オクタヴィアヌスをこれから育てようと目をかけていたようです。

結果、オクタヴィアヌスはめちゃくちゃ苦労したようですが、腕っ節の強いアグリッパが補佐しながらくぐり抜けていき、成長して皇帝になります。

琴坂 隠れファンなんですね。

駒崎 実は結構好きです(笑)。

宇佐美 ちなみに、後継者の第二候補が、カエサルを暗殺したブルータスだったのです。

北川 そうなんだ。

駒崎さん、クレオパトラの件など、好きなのでは?

駒崎 今、ブルータスの話が出たので…。

ブルータスはカエサルを殺しましたが、ブルータスの視点から見るとブルータスは英雄です。

なぜならブルータスは、ローマの伝統である民主政を守ろうとしたからです。

みんなで決めて、民主的に政治をしようとしていたのに、カエサルが独裁的に動かし始めて、「伝統を壊すのか、共通善を壊すのか、たとえ父でもあっても正義を貫かねばならない」と立ち上がったのがブルータスです。

ですから、どちらから歴史を見るかによって印象は変わります。

琴坂 なるほど。

井上 その後の民主主義はどうなったのですか?

駒崎 実は、カエサルが作った帝国が長く続きました。

ですから、民主主義=善ではなく、外部環境によって選択可能なものであるということです。

我々は今、民主主義はとにかく良いものだと考えていますが、当時は民主主義が機能していなかった。

民主主義は善だが、機能する方を選ぼうというプラグマティックな選択をしたのがカエサルだったわけです。

北川 良いですね。

皆さん、Netflixでカエサルを扱った番組がありまして、めちゃくちゃ良いので是非。

駒崎 『ローマ帝国』というドラマですよね。

北川 カエサルと、アウグストゥスも含めたストーリーで、3シリーズです。

ぜひ観てみてください、そうすると今日の話が懐かしくなってきますから。

 (一同笑)

井上 宇佐美さん、最後に偉人アピールをしなくてもいいですか(笑)?

宇佐美 皆さんが一緒に十分してくれたので。

”偉人オブ偉人”として、カエサルを覚えてもらえればと思います。

井上 ありがとうございます。

では駒崎さん、お願いします。

(続)

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成

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