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2月19日〜22日の4日間にわたって開催されたICC FUKUOKA 2024。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、2月20日に開催された、ICCサミットの中でも最も注目度が高い7分間で事業をプレゼンするコンテスト、ケミカンの清水 俊博さんが優勝を飾った「スタートアップ・カタパルト」の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
レベルが上がり続けるスタートアップ・カタパルト
数年前まで、スタートアップ・カタパルトは新規性のあるビジネスアイデアのショーケース的な趣も少しあったように思うのだが、いつからこんなに実力派が集結する場になったのだろうか。スタートアップならではの緊張感はあるものの、本当に聴き応えのあるプレゼンができる企業が集まっている。
コーチングからSaaS、林業、サウナ、サプライチェーン、医療など幅広いジャンルからの、そして実力も将来性も十分な事業を展開する11の企業が今回登壇した。他の事業コンテストの入賞経験者もいる。
ICC小林 雅が、登壇企業選考やプレゼン練習、そして当日に至るまで、起業家たちに「あなたたちには事業をしっかり伝える責任がある」と、生半可なプレゼンは許さないとプレッシャーをかけているのもあるだろう。それができない起業家はこの場に来ていないし、真摯に向き合う彼らに対して、ファンドの参加者が増えてきている。
「資金調達したい」ではなく、シリーズBぐらいでないと登壇できない印象、と言っていた参加者もいて、そういう登壇基準はないのだが、レベルはそんな印象だ。説得力のある事業を作り上げている彼らが、このカタパルトでさらに飛躍を目指す。
「ICCには参加の過程で、本気で取り組む人への応援の仕組みがたくさんある。今日登壇される方はピッチの練習を重ねてきていると思いますが、それ自体がとても価値のあることだと思います」
過去の優勝者、yuniの内橋 堅志さんはカタパルトのはじめにそう言ったが、ここに至る準備の日々、事業を改めて捉え直し、同じように頂点を目指す仲間たちと学び合い、刺激を与え合っている11名。当然、誰もが優勝を目指す。しかし、この日までに何度も顔を合わせているためか、笑顔を見せながら緊張をほぐしてもいる。
本番のプレゼンは映像や書き起こし記事をぜひご覧いただくとして、こちらでは事業や登壇にかける想いを聞いた登壇前後のインタビューをお伝えしよう。
▶【速報】あらゆる製品の化学物質をデータ化し、企業を膨大・複雑な原料管理から解放する「ケミカン」がスタートアップ・カタパルト優勝!(ICC FUKUOKA 2024)
コーチングを当たり前に使える産業にしたい
mento 木村 憲仁さんは、今日のプレゼンターのトップバッター。「スタートを切るにふさわしい、場を盛り上げるピッチをしたい」と語り、その言葉のとおり会場の熱気を一段階上げるプレゼンを披露した。mentoは企業で活躍している層へのコーチングサービスを提供する。
「仕事をしていく上で、悩むことや、誰かに話を聞いてほしいことが誰しもあるけれど、意外と利害関係なく心の内をさらけ出せる相手は少ない。それをプロの力を借りて話しながら、自分の頭の中をまとめて前向きに自己解決する、この営み自体がもっと社会にあっていいんじゃないか? 足りないピースなんじゃないかと、自分自身の体験を通じて感じたんです」
その原体験とは?
「最初に事業を立ち上げることに苦労をして、自分自身がどうしたいのかが見えなくなった瞬間があって、その時にコーチに相談をしたら自分のありたい姿がクリアになったという体験が鮮烈だったんです。これはもっと世に広めなければと、使命感みたいなものが最初の体験でありました」
まさに挑戦者を応援するサービスでもある。今回は無冠に終わったものの、審査員やメンターを務めたココナラ南 章行さんも、多くの起業家がチャレンジして失敗している領域で事業を立ち上げており、働く人が気持ちよく働けるというのは非常に大事なテーマであると称賛していた。
「経営者は孤独ですから、スタートアップの社長も使っていたりします。コーチングというと社長やエグゼクティブが受けるものというイメージも強いのですが、そこを民主化するというのが我々のビジョン。コーチングを当たり前に使える産業を創りたいし、自分自身のありたい姿や好きなものに夢中で生きていける社会を作りたい」
人工知能は、知の総合格闘技みたいなもの
1月にICCオフィスで開催したカタパルト必勝ワークショップ&公開リハーサルで、6名のグループ中1位となったPoetics 山崎 はずむさんは、「自分たちが描いている世界観をプロダクト以上に伝えたい」と意気込む。
内容はプレゼンをぜひご確認いただきたいのだが、オンライン会議を自動で録画・解析・整理する音声AI搭載のSaaSというのには留まらない。LLMといっても言語処理だけでなく、言語哲学の知見を持ち込んでおり「自分たちはSaaS屋だと思っていない」と言う。
「AIの会社というのを伝えたい。商売は商売、研究は研究みたいに分かれてしまっているのがあまりよくないかなと思っています。
人工知能は、知の総合格闘技みたいなものなので、言語処理なら言語は何かわからなければいけないし、音声であれば、人間よりコウモリとかのほうが聴覚がいいわけですから、動物の聴覚構造のシミュレーションをするとかあってもいいんだけど、意外とみんなやらないんですよね」
思考の広がりに驚かされる。まずは人間のできる範囲内で考えるのではと言うと、「みんな人間が偉いと思っているんでしょうねえ」と笑う。SaaSでもどういう思想でやっているのか、その先にどこに行けるのかを設計するとき、経営者の想像力の限界が事業の限界になると課題を指摘した。
今回のICCサミット参加者ではICC SAKE AWARDにエントリーしているOPEN BOOKの田中 開さん、ソーシャルグッド・カタパルトに登壇するseccaの上町 達也さんなどと知り合いで、どこか通じる哲学者のような雰囲気があるように見受けた。
「うまくいかない」と言われ続けたサービス
Saleshub 江田 学さんのサービスは、すでに一定の知名度や支持を得ているが、ひたすらプロダクトを作る日々を経て、このタイミングでスタートアップ・カタパルトにエントリー。前夜のチャレンジャーズナイトで、カタパルト同期たちとのチームビルディングワークを楽しんだという。
「めちゃめちゃ楽しかったです。ICCじゃなかったら、こんなにいきなり打ち解けるのは難しかっただろうなと思います、すごくよかったなと思います」
Saleshubのビジネスや人生の先輩が、サポーターとして営業先をつないでくれるという願ってもないサービスは、どうやって着想したのか。
「前職でテレアポ営業や飛び込み営業をしていた時、それがもうとにかく辛くて、電話100件で1件商談が取れるかどうかが日常だったんです。ある時に知り合いの方が、『あなたのサービスいいですね』と、すぐに会いたかった企業の方を紹介してくれた経験があって、それを今のプロダクトに落とし込みました。
僕らはSaaSでもあるんですけど、すごくリアルで本当に人間味があるサービスになっていると思っていて、ほとんど口コミで広がっています」
副業解禁の流れと、定年退職後のベテランのビジネスパーソンが増えていて、ベンチャーを応援したい、支援したいという思いがあり、フルタイムでは働けないけれど、紹介するぐらいだったら支援できるという方々が多いのだそうだ。話を聞いた時点で、約4万人のサポーターがいるという。
「僕らもびっくりしています。本当に元上場企業の代表みたいな方とか、もう絶対お金には困ってないような方々が、本当に応援したいとか、楽しさ、やりがいみたいなところでやってくれています。
グローバルで見てもあまり例がないようなプロダクトです。このモデルは上手くいかないんじゃないかとひたすら言われ続けたので、それがちゃんと成り立つようになってきていることを、皆さんにお伝えしたいです」
同じくSaaSの猛者で、企業の欲しているものが検索データからとらえて営業活動を最適化するサービスを展開するSales Marker小笠原 羽恭さんは、前夜のチャレンジャーズ・ナイトのフラフープワークで、「めちゃめちゃ大変でした(笑)。起業より難しいゲームがあるんだと思いました」と笑う。
他のピッチコンテストなどでも入賞しており、プレイベントでのプレゼンは迫力さえ感じさせた。狙うのはもちろん優勝。前夜も一言一句伝わるように、7分間のプレゼンの言葉を厳選し、微調整を続けていたそうだ。
「真剣さが伝わり、途中から足が震えた」
immedio 浜田 英揮さんは、過去にSaaSカタパルトへの登壇・入賞経験があるが「プロダクトがしっかり進化してきたことと、前回2位で、そこで足りなかったものを自分なりに考えてきたので、それを問う場にしたいです」と、さらに上を目指す決意を語った。
「B2Bだと、事業は営業の人数分しか伸びないので、そのボトルネックを減らすことが企業の成長につながるという考え方でプロダクトを作っています。今はサービスの最終形の半分ぐらいまで来ている感じですね。前回と比べてもだいぶ自動化できることが増えてきました。
前回登壇したときは、あまり緊張しないと思ったんですけど、途中から結構足が震える感覚があったんですよね。みんな真剣だから、途中から緊張感をすごく感じましたね」
浜田さんや審査員を務めるココナラの南さんと談笑していた森未来 浅野 純平さんは、木材流通のスタートアップで、建築士や設計士が求める木材を探したり調達できるプラットフォームを「eTREE」を運営している。林業を稼げる産業にする取り組みにも積極的だ。
「最近結構ホテルなどで使うケースが多くなってきていて、設計者の人が木材を使おうと思っても、買おうとなったときに、どうしたらいいかわからない状況になるんです」
設計する人が木材屋を知らないケースが多く、施工担当の工務店に尋ねて希望の木材がなければ代替品というのが通例で、「今まで希望通りの木材を使えないことが多かった」というフィードバックをクライアントからよくもらうそうだ。
「希望のものがない場合は、偽木、本物ではない偽りの木にしたりとか。最近は天然素材に結構回帰しつつあるので、木を使いたいというニーズが多くなってきてるんじゃないかと思います」
ICCサミットにも過去登壇したことのある、NOT A HOTELの建築材としても一部使われているという。
「今日のプレゼンは、これからの木材ユースを再定義するというテーマにしています。今、私たちが使えば森林資源は無くなってしまう。次の世代へ残していく使命があると思っているので、持続可能な森林を作っていくというメッセージをお伝えしたいと思っています」
事業を本気でやっている熱が少しでも伝えられれば
今回優勝を飾ったケミカン 清水 俊博さんは、本番前のリハーサルも、待機している席に座っているときも、見るからに緊張している。声をかけると「ちょっと緊張しているので…」と小さい声で言う。そこで立って体を動かしながら、話を聞くことになった。まずは前夜のフラフープワークの話から。
「ギリギリで下がりました。みんな改善がすごく得意で、原因を特定して、これを改善すればいけるんじゃないか?みたいな人たちばかりで、意見が一致してめっちゃ盛り上がりました。あれ、いいですよ」
それから宿に帰り、深夜2時までプレゼンを磨き、朝6時に起きてスライドを完成させたという。プレイベントでのプレゼンは完成されたものに見え、そのときの投票でも1位だったが「全然!」と頭を振った。
「昨日の夜、スライドを追加したりしたので、今頑張って言わなきゃいけないことを覚えている感じです(笑)」
以前はフィンテックの事業をやっていて、全く異なる現在の事業にピボットしたという。なぜなのか。
「フィンテックはnice to haveな面があって、どちらかといえば、世の中にあったらいいかもね?ぐらい。もうちょっと、私たちがこれを作って世の中が変わったぞみたいな、手応えのあるインフラに近いようなサービスを作ってみたくて」
詳しくはぜひプレゼンをご覧いただきたいが、現代の生活に欠かせない化学物質について、ずさんな管理では命に関わり、しっかり管理するためには現場の人たちの神経をすり減らすような労力が必要な作業をDXするサービスだ。AIを活用しているが、データの確認には人力も欠かせない。
▶あらゆる産業に不可欠な化学物質の情報を、専門AIでデータ化する「ケミカン」(ICC FUKUOKA 2024)
「今は手応えがあります。今日、一番伝えたいのはこの熱。これからプレゼンしますが、事業の内容は変えられないし、お客さんの数も増えない。だからこの事業を本気でやっているという熱が少しでも伝えられればと思っています」
そう言うと清水さんは、集中するために、会場の一番後方へ歩いていった。
開発を続けて15年、途中経過でもその意義を知らせたい
半年前の京都でリアルテック・カタパルトに登壇し、今回はスタートアップにチャレンジするFerroptoCure(フェロトキュア) 大槻 雄士さんは、難治性のがんを副作用少なく治療する薬を開発している。女性だと抗がん剤の治療をすると妊娠を諦めるのが現状だが、開発している経口薬ではその望みをつなぐことができる。
前回はICCサミットの雰囲気に圧倒されていた様子だったが、今回は静かな闘志がみなぎっている雰囲気だ。
「普通のスタートアップと違ってすぐサービスインというわけにいかず、なかなか皆さんに触れてもらうことができない。研究開発に何年もかかった後で初めて社会と接点ができるんですけど、それをまず知っておいてもらうのがすごく大事だと思っています。
会社ができてまだ2年弱ですが、早めにやっていることを知ってもらい、応援してもらえるようにしたい。僕らは元々大学発のベンチャーなので、大学でずっと15年ぐらいやってきたことを社会実装するという流れです。トータルは多分20年ぐらいとかになるんじゃないかな」
大槻さんのプレゼンは、スタートアップ・カタパルトという場を意識したためか、前回よりさらにわかりやすく、開発のモチベーションと意義を深く伝えるものだった。すぐにでも治療中の人たちに届いたらどんなにいいことかと思う審査員の気持ちが集まり、結果は2位に同率入賞。
▶「FerroptoCure」は、全てのがんを副作用のない経口薬で癒す未来を目指す(ICC FUKUOKA 2024)
翌日審査員を務めるリアルテック・カタパルトでICC小林と再会したときは、心底ほっとしたような、本当に嬉しそうな笑顔をしていた大槻さん。彼には15年、20年、薬の完成を目指して一緒に頑張ってきた人たちがいて、その間に失われてきた命があるのだ。
サプライチェーン寸断の課題を伝えたい
Resilire 津田 裕大さんは、ICCサミットのようなカンファレンスや、ピッチコンテストに出ることが初めて。人前に出たくない、ピッチが苦手だったというが、事業が形になってきて、採用にもレバレッジをかけたい、認知を広げていきたいというタイミングの今回、登壇を決めた。
▶サプライチェーンの可視化で、日本のモノづくり産業を支える「Resilire(レジリア)」(ICC FUKUOKA 2024)
「初めは災害予防をしたくてこの会社を作ったんです。災害予防の中で一番災害のインパクトを受けるところを探していく中で、コロナがきて、医薬品の企業から保険薬の調達が滞って作れなくなったというご相談を受けて、そこからサプライチェーンの寸断の課題を知り、これは非常に大きい課題だなと」
プレゼンで最も伝えたいことを聞くと、「モノづくりの企業に自分たちの生活が支えられていて、そのモノづくりの企業もまたいろんな取引企業に支えられて、1つのものができている。そのサプライチェーンを守っていかなければということがお伝えできればいいのかなと思っています」
モノづくりが国内だけでは成立しないような社会で、サプライチェーンは複雑化し影響範囲も広くなっている。一方災害が多発し、国際情勢も不安定な昨今、まさに生活の崩壊を守るサービスという意味では、津田さんはある意味初志貫徹、モノづくりにおける災害予防に携わっているともいえる。
今回の登壇者のなかでも異色のKIWAMISAUNA、サウナのスタートアップで登壇するREVIVE 中島 惇生さんは、準備のラストピースが欠けているようだ。
「会場のホテルにサウナがあるというのはチェックして来たんですけど、たまたま開いてなくて、昨日久しぶりに1日サウナに入れてないんです」
聞けば毎日2~3回入るというルーティーン。「朝、夕方、夜入って、そのお陰で一日中元気が出る。ほぼ歯磨きみたいな」と言う。しかし「終わった後のサウナを楽しみに頑張ります」と笑顔だ。登壇者にもサウナ好きが多いが、ここで中島さんが登壇するのは驚きを呼びそうだ。
「キラーフレーズは『ととのう』を超えた『きわまる』(笑)。
▶「サウナでととのう」とは医学的にどういう状態なのか?(DIAMOND online)
でも会場の皆さんがサウナについてどれぐらい知っていらっしゃるのかわからないので、どれぐらいの資料にしたらいいのか迷いました」
プレイベントではウケていたマニアックなワードを外し、「きわまる」サウナ体験を少しでも多くの人に伝えようと、中島さんは本気だ。低コスト経営かつ体験価値と「ととのい度」はラグジュアリーサウナを超えるというKIWAMISAUNAのフランチャイズをプレゼンで呼びかけたが、興味を持った人からおそらく声がかかったのではないかと推測する。
事業をさらによく考え、洗練させる機会
Central Link 側原 正太さんはガチガチに緊張しており、うわ言のように話に答えてくれた。
「こういう大勢の前で喋るのがあまりないので、大人になってこういう、…大人っていうか(笑)、なんか珍しい機会をいただけて、逆に光栄だなとは思います」
1年前にプレゼンコンテストには出たことがあり、それで引退しようと思っていたが、「気がついたら応募していました」と言う。ここまでは冗談にせよ、苦手と思っていたものになぜ再挑戦しようと思ったのか。
「出ると自分の事業のことをさらによく考えるようになるし、事業アイデアが洗練されていくと思うので、その点ではすごく良い機会だなと思います。『一生懸命やりきる』というICCスタンダードですけれども、それに沿うように、私も頑張って準備をやりきってきました。
伝えたいことは、私の事業は非常にニッチなバイオ原料という産業なんです。輸入が多いので商社的なところになってしまうところを、国内でできるというところ、すごく面白いというところを伝えられればなと思います」
▶日本の創薬の課題を解決して、国産バイオ原料の産業化を目指す「Central Link」(ICC FUKUOKA 2024)
今までなぜ輸入の高価な生体原料だったかというと、日本人の血液を売買するのが法律で禁止されていたから。国内では赤十字のみが血液を集められるが、それは輸血用で研究に降りてくることはほとんどない。そのため日本は現在、外国人の血液を輸入して、日本人の病気の研究をしているのだ。
「治験業者さんは日本にいるので、治験とか大学病院とタッグを組んでもらえることもあるんですけど、それは納期がかかってしまうし、複雑なスキームを経なくてはいけないので、簡単に入手できるのは輸入なんです。だからそれを主に使っているっていうことはありますね」
それを法律の改正を期に国産でというのがCentral Linkの事業だ。健康や命に関わるバイオ原料の地産地消、これに反対する人なんているのだろうか?
「気絶しなければ、伝えられるかなとは思うんです」
本当に気が重そうにうつむいた側原さんだが、結果は4位入賞。すでに固まっている業界の掟に挑む挑戦者を応援するのが、この場の目的の1つでもある。プレゼンを通して、何を社会に成そうとしているのか。それを納得できる形で伝えてくれれば、ICCサミットには応援してくれる人が沢山待ち構えている。
審査員の起業家心を刺激したプレゼンは
▶スタートアップ・カタパルトの中継映像はこちら
11名のプレゼンが終わった後、投票の集計の間では審査員からさまざまな感想が伝えられた。
「サプライチェーンにもテクノロジーがしっかり入ってきているのを感じた」と答えたCoral Capitalの澤山 陽平さん、Strategy Partnersの西口 一希さんは「独自データ、ネットにないものを作るという事業が多く、そういうところはAIに飲み込まれないんだろうなと考えながら、今までで一番悩みました」と明かした。
今回審査員として初参加のREAPRAグループ諸藤 周平さんは「私自身、森の再生に関心があり、森未来さんに感動した」と言い、AnyMind Group十河 宏輔さんは「ケミカンさんの泥臭いデータクレンジングをやっているところも面白い。Central Linkは海外展開もできそう」と称賛した。
dof齋藤 太郎さんは、投票したというケミカンに「英語のロゴを作るときはぜひ」とアピール(ちなみに社名の由来は、化学物質管理を「カガカン」では言いにくいので「ケミカル管理」にしてそれを省略したものだそうだ)。
千葉道場の千葉 功太郎さんはサウナのFCに関心を見せ、プロノバ岡島 悦子さんは「女性の登壇者が今回いなかったのが残念ですが、セールステックが隆盛のなか、FerroptoCureを選びました。第一臨床試験に行っているなら必ず世に出る。応援したいです」とエールを送った。
じげんの平尾 丈さんは「市場規模などを全部メモって8ページになりました。ケミカンはバーティカルをやってホリゾンタルを狙う。最初から設計されているのがめちゃくちゃ面白い。世界でガンガンやってほしいし、僕も追いかけるかもしれません」と絶賛した。
優勝が発表され、ケミカン清水さんのスピーチとなったが、それはすべてのスタートアップに向けて、仲間たちに再び火を点けるようなメッセージを力強く語った。
「このサービスにたどり着くまで、かなりピボットしました。何回も、7、8回ピボットしました。何年もねばって、コロナのときも苦しいときもあったのですが、100社200社の企業様にこつこつとインタビューをして、たどり着いたものすごくニッチなサービスです。
ニッチだけど、意外とグローバルなマーケットが大きい。これはスタートアップが狙っていくべきなんじゃないかと、勝手に使命感をもって事業を進めています。
この事業に共感してくれる人がいたら、会社のメンバーを募集中です。もし興味があったら応募していただきたいのと、資金調達もお声がけいただけたら」
仲間の生きた事例を見て、頑張ることができた
緊張がとけてほっとしたのか、終了したあとのインタビューの清水さんは、さらに饒舌だった。
「お客さんの本当にためになるものを作ると、ちゃんと伝わるんだなとわかってよかったです」
次に口にしたのは、仲間たちへの感謝だった。
「メンタリング、プレゼンのアドバイスをいただけたこともそうですが、プレイベントなどで他の人のプレゼンを見る機会があって、それがすごくよかった。みなさんこういうふうに事業を説明するんだと、生きた事例を見て、学べました。
他に参加したメンバーがいたから、自分が頑張れたんじゃないかとすごく思います。
ともに産業を創る、というのがすごくいいコンセプトだと思っています。
私たちは化学で、ドキュメントを扱う地味な事業ですが、そういうところを踏まえても理解してくれる皆さんがいる。これは仲間づくりの第一歩で、理解してくれる人たちから、応援してくださる人の和を広げていく、ICCはそういった仲間がいる場じゃないかなと思います。
じげんの平尾さんが参入されるかもしれないと言っていて、それはぜひご遠慮いただきたいのですが(笑)、そう思ってもらえるぐらい、課題があって魅力的なマーケットだと思っていただけたのが、非常に大きなことかなと思います。
ビジネスとして大きくしていかなければならないのですが、世の中を安心安全にしていく、それが重要だと思っていて、それを今日は伝えられてよかったです。
日本でこういう温かい場があるということがわかって、非常に背中を後押ししていただいていると思っています。これをもとに世界に出るのが私たちのミッション。次は日本発のSaaSで海外マーケットをとる、これに真剣に向き合っていきたいです」
あとで聞いてみたところ、落ち着いて時間を使い切って終了させたように見えたプレゼンは時間配分に失敗して、30秒余らせるはずが遅れてしまい、途中でスピードを上げたりと、かなり焦っていたという。「これもワークショップに出ていたおかげです」と言った。
一方、会社の人たちはライブ中継を見ていて、盛り上がっていたそうだ。
「すごいですよ。Slackを見せるのは恥ずかしいんですが、みんなスクショをとりまくって、YouTubeライブみたいになってました(笑)。カウントダウンまでして、わーっと盛り上がって。それが嬉しかったですね。
ライブ配信があってよかった。頑張って優勝目指すよと言ってはいたけれど、わからないじゃないですか。みんなでドキドキしながら見ていたみたいですね」
優れたプレゼンで、経営にレバレッジがかかる
登壇者たちが寝る間も惜しんで磨き抜いた7分間のプレゼン。その意義を強調するのは、公開リハーサルのメンターからこの日の審査員まで務めたココナラの南 章行さんだ。
「事業を一生懸命やるのは起業家として当たり前かもしれないですが、今日はプレゼンのひとつひとつにいかに本気かというのが伝わってきて、みなさん全員すごく進化していて、ものすごく感銘を受けました。
優勝したケミカンや、Resilireなどリスク管理の領域が好きなので、ここが勝つかなと自分では思っていたのですが、審査員の皆さんも同じように思ったんですね。総評の言葉の中で『時代のうねり』とありましたけど、こうして世の中に普及していくのかと感じて、興味深い入賞者の並びでした。
プレゼンはすごく重要だと思っています。ピッチ大会で勝っても負けたところのほうがビジネスが伸びることもあるから、一見関係なく見えるかもしれないけれど、プレゼンを練り込むのは経営にレバレッジがかかることだと思っています。
自分たちの強みは何で、どういう言葉を選んで相手に伝えたら相手に届くのか、それを練り上げることで結果として、ファイナンスにつながるし、マーケティングにも、組織を束ねることにもつながる。
プレゼンは経営をレバレッジするきっかけとして優れたもの。だからこそ軽くやってほしくない。
これをしっかりできれば会社がよくなるという、経営者としての信念に近いところがあり、しっかりフィードバックしようといつも思っています」
言われなければ今でも知らないような地味な分野だが、清水さんのプレゼンは審査員や聞いている人たちに届き、その事業と目指すところは、一挙に多くの人が知ることになった。会社で一緒に働く仲間にも届いて一体感を生み出し、優勝後にはファンドの人たちが名刺を渡すために列となっていた。
先に紹介したコメントや速報を見ても分かる通り、審査員はどんなジャンルだろうとこの経営者、この事業をいいと思えば忖度なしに票を投じる。審査員たちも未来の産業を作る責任があるからだ。
たとえ入賞しなくても、7分間で起業家が信じて描く未来が伝わり、応援したいと思わせる事業ならば、人は集まってやがて「うねり」を生み出していくはずである。どんな事業であれ、事業を通じてどれだけ世の中が良くなるか、それを真剣に描いて伝えることのできる起業家は強い。
カタパルトに登壇が決定してから登壇まで、長い人であれば約3カ月の時間がある。プレゼンの表現力については、ICCのようにプロのメンターからフィードバックを受けながら、真剣な起業家たちの間でしっかりと磨き込むことができれば、企業にとって大きな財産になるはずだ。
7分間のプレゼンは、真に事業にとっての目標となるもの、トゥルーノースを言語化することとも言える。スタートアップ・カタパルトの「人生をかけた7分間」の勝負で結果は決まるものの、その7分間を作るまでの起業家の努力と学び、そこで結晶したものは、事業が続くかぎり頭上で輝くのだ。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成