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スタートアップ・カタパルト、誰もがよりよい未来を創る当事者であり、仲間であれ!

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 9月2日〜5日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2024。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、9月3日、レコテックの大村 拓輝さんが優勝を飾ったスタートアップ・カタパルトの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミットFUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


 カタパルトに登壇することは、かなりのハードワークを伴う。オンラインでの面接に始まり、本番直前まで繰り返されるリハーサル、開催約1カ月前のカタパルト必勝ワークショップ&公開リハーサル、プレイベントなど、忙しいスタートアップ経営者たちにとって拘束時間は長い。しかし、登壇する価値を最大化しようと、彼ら・彼女らは何度もICCオフィスに足を運んだ。

恒例! ICC KYOTO 2024直前「カタパルト必勝ワークショップ&公開リハーサル」

 たった7分間のプレゼンを磨くために、登壇者たちは自分に向き合い、事業に向き合い、一緒に事業を作る仲間たちに向き合い、顧客に向き合い、プレゼンを作る。事業で解決できる課題を、実現したい未来を多くの人に知ってもらえる機会が到来したのだ。メンターたちのフィードバックを受けて、今そこまでやるか?というくらい、直前でプレゼンを大幅に作り変える人もいる。

 ほとんどはICCサミット初参加で、早朝の会場に集まった人たちの緊張感は計り知れない。彼ら・彼女たちの想いや7分間に入り切らなかったこと、その人柄を知りたいと、前夜のチャレンジャーズナイトから当日まで、可能な限り話を聞いた。カタパルトの中継動画でプレゼンをご覧いただきながら、少しでもお伝えできたらと思う。

Contrea川端さん「患者の意思決定を支えるテクノロジーを」

「ここまでしっかり準備してきたので、楽しみだなという気持ち、やりきろうという気持ちです。僕たちがやろうとしているこれまでなかったような医療システム、医療者、患者さんに一緒に使ってもらうプラットフォームを伝えます」

Contrea 川端 一広さんは1番目に登壇する。患者は医療者が書くメモや図を眺めながら診断結果や治療の説明を受けるが、体調が悪かったり、内容が難しかったりすると、病院を出るころには記憶も不確かになる。医療者と患者のコミュニケーション・プラットフォーム「MediOS」ではそれらを見える化し、一度限りの説明を何度でも確認することができ、本人や家族の理解を深めたうえでの医療を目指す。

「医療者にとっても患者にとっても双方にいい医療システム、こういうものが出てきていることを知っていただきたいし、時代を変革するようなシステムなので、ICCの産業を創るということと近いと思っています」

患者は専門知識を持つ医療者に頼り、わかった範囲内の説明で意思決定をしがちなもの。医療機関を離れても検討できる形になることで、患者の意思決定や医療者との関係をも変えそうだ。そう思った原体験とは。

「もともとがん専門病院で放射線技師を5年間やるなかで、医師が一生懸命説明しても伝わらなかったり、伝わらないだけではなく、それをもとにトラブルに発展することもあり、医師も一生懸命治療して、患者さんも一生懸命頑張って治療を受けたのに、誰も報われないことがある。

治療の成功確率を上げるのも大事ですが、ちゃんと患者さんが理解した上で意思決定をして治療に臨むプロセスも同じぐらい大事で、今はそこがアナログな方法でしかないので、テクノロジーを使えばもっと患者さんの意思決定ができるのではと考えたんです」

それに同じ思いを持つ医療者たちが立ち上げたサービス。これは患者にとっても朗報でしかない。

natブルースさん「切磋琢磨して、社会を良くすることを目指す」

nat のブルース・リウさんの紹介するサービスはすごい。iPhoneやiPadで写真を撮るように、AI測量アプリが画面に映る対象のサイズを計測する。専門知識も道具も不要で、たとえば家具を買うときから、建設や災害の現場まで1人で計測することができる。

会場リハーサルで、ステージ袖にいたブルースさんはステージ前をスキャンして「たとえばこの一角のカーペットの長辺は」と、ステージ前の写真のカーペットの写真をなぞると「2.9m」と表示された。スキャンは高精度の3Dデジタルデータ。曲面も測ることができ、測定の概念を変える技術だ。

スキャンしたデータの測りたい場所を手でなぞると、長さが表示される

「ピッチに出るのは2年ぶり。この技術は相当な可能性があり、いろいろな業界で活用できる。マーケットがすごく広くて未来の生活、皆さんの生活がこの技術によって変わる可能性を伝えられたらと思っています」

目指すのは、自分の部屋をスキャンすれば必要なものがアプリを通じて届くことというから壮大だ。ICCに参加する”同期”の仲間たちと、前夜のチャレンジャーズナイトでは深く話し込んでいた。

社会を変える挑戦者たちが集結! 台風一過のチャレンジャーズ・ナイト

MUSVIの阪井(祐介)さんや、レコテックの大村さんと話したのですが皆さん取り組みが面白くて、例えば、ゴミをどうやってトレーサビリティをもたせてゴミを再生するのか、どこにどういうゴミがあるのかを可視化するとか伺ってすごいなあと。

ライバルというよりは仲間だと思っていて、互いに切磋琢磨してより社会全体を良くしていくというところが一番大事。どこかのレポートで見たのですが、コンテストで1位、2位を取ったら上場の確率が上がるのかというとそうでもなくて、出場できることが大事で、出場できる方々の上場の確率が上がるそうです。

勝ち負けは関係ないと言いましたけど、我々はアプリとして世界で初めての機能をいくつか実装していて、世界で誰もやっていないことをしています。裏のテクノロジーと技術は非常に複雑ですが、ユーザーさんにとっては非常に分かりやすいので、そういった意味では私は優勝を目指したい。

同じステージの経営者の仲間たち、先輩の経営者たちもたくさんいらっしゃるので、みなさんの経験をたくさん吸収して会社をより良くして、より良いサービスを磨いて我々のお客様に貢献、価値を提供して最終的に社会全体が良くなるというところを目指したい。

ビジョンは社会にインパクトのある事業、サービスを作ること。皆さんの生活の中で我々のサービスがあるからいい生活ができているというようなサービスを、日本から生み出したいと思っています」

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APTO高品さん「日本がAI先進国になるために課題を解決する」

登壇を待つAPTO高品さん(写真中央)

APTOの高品 良さんは、AIを作るときの教師データの収集・作成を行うサービス、harBestを運営する。高品さん自身もエンジニアでAIを作っていたが、周囲を見てもよい教師データがないためAIの精度が高まらないという共通の課題を実感したことから、一念発起して現在の事業を始めた。

「データの課題を解決することが、日本がAI先進国になるために必要だと考えたんです」

収集するデータの案件をharBestのスマホアプリ内で公開して開始するクラウドソーシング型で、個人のスキルや働き方に合わせたデータ作成が24時間体制で行われる。作業は隙間時間でできるようなものから、一定以上のスキルを必要とするものまでさまざま。ニーズに応じて、質が高くて作業の速い業務を担うProユーザーなどもいる。

大企業のAI開発案件が中心で、リターンはAmazonなどで利用できるポイントで付与、ポイ活アプリとしても人気を集めているそうである。

「アノテーション作業をしてくれる人は、バイラルで、口コミで広がっていますが、インスタ広告で主婦層も集まっています。アプリは、面白いことに24時間トラクションが途切れることがなくて、3時でも4時でも作業してくれる人がいるんです」

今回、話を聞くことができなかったが、同じAIでもFlucle三田 弘道さんは、法改正がエンドレスに続く労務管理の難しさと担当者にかかる大きな負担を訴え、まずは社労士などプロたちでAIを鍛えながら教師データを揃え、労務管理特化のAIエージェントを作ることをプレゼンで伝えた。

AIはさまざまな産業や業務で活用フェーズであり、大きな労力の削減と生産性の向上につながることはすでに前提であるものの、実用に当たっていかに性能を上げるか、カスタマイズしたデータを揃えるかが今回のトピックでもあった。作り上げてもチューニングは続くのだろうが、現在は使うものを人海戦術で作っていく段階、というのが印象的であった。

匠技研工業 前田さん「本気でやり切ることで、製造業の未来を変える」

リハーサルに臨む前田さん

匠技研工業 前田 将太さんは、ICC小林とのオフィスリハーサルで、毎回起立して声を張って臨んでいた印象的なプレゼンターの一人。8月中旬最後に来たときには、がらりとプレゼンの切り口を変え、伝達力が倍増したように感じられた。 

「その時から、さらにプレゼンを変えました。

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公開リハーサルの投票で最下位だったんです。それが悔しかったし、製造業やその見積もり業務はなかなかピンと来ない、想像しにくいところがあったので、それがいかに皆さんにも身近な業界で、産業を支えていると感じてもらえるようにブラッシュアップしました。

匠フォース」が日本の産業を大きく変えていく可能性があることを信じていただきたいです。

ICCサミットは、いい意味での独特の緊張感があります。本当に真剣だからこそ得られるものがあると思うし、真面目な熱い雰囲気が好きなのでむしろ居心地良く感じています。結果を出さなきゃというプレッシャーはもちろんありますけど、そこにしっかり応えていきたいなと思っています。

プレゼンでは審査員席にコースターを配布し、審査員たちも値付けに挑戦。その難しさを伝えた

本気でやり切ればプレゼンで人生が変わる、事業が変わるという言葉を信じて、頑張りたい」

テラーノベル蜂谷さん「日本のマンガ、IPを世界の舞台へ」

プレゼンでは日本のエンタメが世界に羽ばたく夢を伝えた

テラーノベル 蜂谷 宣人さんは、従来日本が強いと思われていたマンガ市場の世界的な地殻変動と、マンガの制作現場での大きな変化、IP産出の仕組みの強化を伝えようとしている。何年も前からオンラインでマンガは読めたが、モバイルシフトは今、なのだそうである。

「僕は前職DeNAでゲームに関わっていて、ゲームは十数年前にモバイルシフトしましたが、マンガは今なんです。現在は7割ぐらい電子で、そのEC化率が一気に高まっています。EC化だけではなくて今までは単行本で売っていたのが、1話70円で買える形になって、1アプリで1,000億円ぐらい稼いでいるところが出てきています。

マンガ制作も、今まではマンガ家さんがネームを出版社さんに持ち込んで作っていたのが、今は小説の原作でマンガを作ります。共同制作の作品が、今やランキング上位の約90%なんです。マンガの売り方と作り方が今すごく変わってきています。

韓国は漫画の90%以上が原作ありで、小説を漫画化している。中国もそうで、日本だけが紙の漫画の文化がずっとあったのでそういった変化に出遅れたんですが、今は間違いなく急変しています」

蜂谷さんたちは、小説を無料で書いたり読んだりできるプラットフォームで作品を集めて人気を見える化し、マンガ化やドラマ化を進めている。小説家のプロデビューというとハードルが高いが、ここでは誰でも原作者になれる。作品に人気が集まれば出版社やマンガ家がついてコミック化され、副業としてマンガ原作者、というのが実現する。

しかしなぜマンガは分業になったのか?

「理由はいくつかあるんですけど、1つは作家さんのスキルセットの話と、もう1個はリスク計算の話です。

マンガ家さんは物語を考え、キャラクターを作り、画を描けるようになるには、鮨職人じゃないですが10年かかる。世の中の変化が速くなっているので、出版社も10年かけて作家さんを育てることができなくなったんです。そこで、小説は執筆者、マンガはマンガ家で分業してチームで作りましょうというのが一般化してきているというのが1つ。

あともう1つは、オリジナルのマンガはヒットするかどうかが分からない。そこで小説で一定ヒットしているものを使おうと。ドラマの『梨泰院クラス』など、グローバルでナンバーワンになっている作品の原作はウェブマンガや小説なんです。オリジナルより原作である程度ヒットしているものを使うのがデファクトになってきている」

テラーノベルのように日本原作のIPを量産している会社は数が少なく、国内外の出版社と組んで、新しいマンガ創出フォーマットを作る取り組みが始まっている。

「世界的に見ると、日本のマンガのプレゼンスがどんどん下がってしまっている中で、このまま新しいルールを適用しないで放っておくとまた負けてしまう。プレゼンでは、日本のクリエイターがもっと世界の舞台に出ることへの応援を伝えて、それに共感する人を増やしたい」

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STRACT伊藤さん「壮大な勉強会のようなICC。コラボレーションで可能性を最大化したい」

STRACT伊藤 輝さんは、8歳からプログラミングを始めて、iPhoneのアプリは14歳から作ってきた生粋のエンジニア。ECサイトとその利用者のショッピング体験のラストマイルを均一化、最適化するブラウザ拡張機能のプラグイン「PLUG」を提供する。

「改めて審査員の皆さんや見てくださる皆さんに、そもそもインターネットのど真ん中の広告やeコマースの面白さにちょっとだけ気づいてほしくて、ここにもまだ大きいマーケットが、未来のマーケットがあることに気づいてもらいたい。

やはり強みは技術力、プロダクトの開発力。プロダクトをグローバルで戦えるようなクオリティに仕上げてユーザーファーストであるのを徹底していくのは結構難しいことなんです。

伊藤さんのいうユーザーファーストのユーザーは、利用者もECサイトの両方を含む

ICC以外のイベントにも出たことはあるんですけど、ICCは本当に壮大な勉強会というか壮大な合宿のような雰囲気。一人ひとりが目の前のことや人に真剣に向き合っている様子が本当に伝わってきますし、みんな何か目的を持って来ているというのがすごく伝わる熱量の高い会です。

会社はもう8年になります。ソフトエンジニアで、自分一人で作ったり広げたりができる業種なので、人とのつながりをあまり作ってこなかったところがあって、逆にそれが今経営にとって成長していかなければいけない部分です。

横の人といかにコラボレーションして自分たちの可能性を最大化していくかを、今ICCを通して実践的に感じていて、すごく身になっています。初めて会う人ともただの挨拶じゃなくて想いや作っていきたいものを語り合ったり、お互い刺激を与え合ったりがあまり今までなかったので、すごく面白いです。

会社を大きくしていくために、社会にとってインパクトのあるような事業をやっていくためには自分一人の力ではできないので、そこをもう一度、改めて向き合うきっかけとして、本当に今、ICCは自分の中ではすごくいい場になっています」

利用者には複数のサイトからのベストオファーを提案し、ECサイト側には離脱を防ぎコンバージョンが上がる双方にとっていいサービス。非クッキーで、これからさらに伸びそうなサービスだ。カタパルトに登壇する理由はさまざまだが、そのタイミングも異なる。伊藤さんたちにとってサービスを伝えるのは、まさに今がベストタイミングなのである。

MamaWell 関さん「妊婦社員にも公平に働ける環境を」

登壇前にストレッチをしていた関さん

MamaWell 関 まりかさんは、助産師とデジタルヘルス技術で妊婦の健康とキャリアの両立を支援するサービスを企業健康保険組合向けに提供している。スタートアップとソーシャルグッドの2つのカタパルトに登壇するが、これが第一戦目。事前のリハーサルでも熱心な姿が印象的で、家族総出で京都に来ている。

「初めて(ICC代表の)小林さんに向けてプレゼンした時に、こんなにも熱い想いでフィードバックをくださるのかとすごく感動して、期待にしっかり応えたいと思いました。

以前は、あれば良いねというサービスで、マストという条件が言えておらず、物足りなく感じていたんです。小林さんから3回熱いフィードバックを頂いたうえに、ICCをよく知る方にも壁打ちをお願いして、そこでもまた大きく変えられる機会があり、そういうことを繰り返して、プレゼンはこの3カ月間で8割ぐらいがらりと変わりました」

そう前夜のチャレンジャーズナイトで語っていた関さん、今日はついに登壇である。自分の人生を変えたいのであれば応募すべきと教えられてエントリー。妊娠育児期の女性にとっては本当に支えとなるサービスでありながら、企業内や性別で温度差があるところにメッセージを伝えたいと意気込む。

「女性側は自分の意志に反して妊娠出産を機に退職をされていても、自分の意思で辞めていると思う経営層の方がまだまだいらっしゃる。女性のみが対象なので不平等と考えられて、導入が見送りになってしまうこともあるんです。

でも、常に何かしらの不調を抱えて働いている環境が不公平なのだから、公平な環境を整えるのが、企業として果たすべきことであると認めていただいた会社様に、現在は導入いただいています。今回は多くの経営者の方々にお伝えして、知っていただくチャンスだと思っています」

関さんは、妊婦社員の未来を背負っているかのように、細い体に意欲をみなぎらせていた。

BoostDraft 藤井さん「世界に照準を合わせた、本来の仕事に集中できるリーガルテック」

Microsoft Word文書のプラグイン、法律文書エディタで法律家などが扱う長大な文章作業をサポートするBoostDraft 藤井 陽平さんには登壇後に話を聞いた。一緒にカタパルトに登壇する仲間たちのレベルの高さや熱意に鼓舞されたと言い、結果5位入賞で登壇を終えた。

「リーガルテックは、あまり馴染みのない方も結構いると思うんですけど、我々はソフトウェア業界からコンセプトを得ているので、そことの対比みたいなところを注視して、全世界で展開しているグローバル企業はどういうふうにやっているのか、今回対比するような形でご説明しました。

日本では口コミで広まっていて、弁護士の人たちが気に入って使ってくれています。お友達も同じような業界の人が多くて、伝わって問合せがくるというパターンが非常に多いですね。

長い契約書は読むのが大変ですが、特にM&Aするときなどはちょっとミスするだけで何百億円という損失になるので、しっかり読まなければいけない。すごく力のかかる仕事だと思うんです。

それでも弁護士や法務部の人たちが力を費やしているのは文章を作ることよりも、文書のインデントの調整とかだったりする。そういうところをまず自動化で改善してから、より中身のほうにもサービスを広げていけたら、そういうようなところからやっています。

リーガル以外でも、実は社内規定などにも使っていただいてます。コンプライアンス系もそうですし、結構いろんなところに適応範囲があります」

藤井さんのほかにも、資源循環、エンタメIP、製造業、テック、医療、今回のカタパルトではさまざまな業界の挑戦者たちが入賞した。これは審査員たちが今のトレンドや業界に偏らずに、これからの可能性や需要、事業を見ているということである。入賞企業だけでなく、登壇企業全般にいえるが、これから顕在化する産業の片鱗が見えるのが、カタパルトを見る面白さでもある。

レコテック大村さん「循環型社会への仲間ができるこの機会が嬉しい」

今回、見事優勝を飾ったレコテック 大村 拓輝さんは、7時くらいに会場に一番乗りした。登壇前夜はサンタクロースのプレゼントを待つ気分のようで、眠れなかったという。

「緊張とワクワクと、その感じをめっちゃ思い出して、やばい全然寝れない!って(笑)。なかなか眠れなかったうえに、逆に早く起きちゃいまして。これは早く会場へ行こうと思って来ました」

廃棄プラスチックを使わないと企業は罰せられるという流れのなか、廃プラ回収からリサイクル、再生素材化まで一気通貫で請け負うレコテックのようなサービスは、日本では今のところ少ない。

「廃プラのリサイクル材料を販売するところ、廃プラのゴミを計量するところそれぞれはいて、全体を一貫して解決を図るという似たようなコンセプトを挙げているところもいるんですが、実際に循環させてるところはまだいないんです。

逆にそれも悩みで、いつも投資家さんに『競合は?』と言われても、部分的にはいても全部はなくて、それがいい評価もされるし、世界で競合がいないのかみたいになるときもあって」

その一方で、廃プラを課題とする企業としては、大村さんたちのような企業を探している状況だ。

「例えば、まずゴミを出すほうは『プラを何とかしたい。リサイクルしたいけれど、業者さんが持っていってくれない』というのが現状です。収集の関係者さんが分散していて、ピンポイントにこれを回収してほしいと言っても断られたりする。

僕たちはデータで規模の経済を作ってそれを可能な形にしています。まとめられるので、各拠点の廃プラが少量であっても回収できるんです」

とはいえ、従来の業界ができなかったこと。これを可能にするまで「超大変」だったという。それをなぜやろうと思ったのか。

「廃棄物業界は許可ビジネスで、とてもDXしづらい領域なのですが、サーキュラーエコノミー、循環型社会に移行しなきゃいけない時のボトルネックがまさにそれ。そのペインが解決できたら本当の意味で循環型社会になるということで、挑戦しています」

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大村さんは以前、アメリカと日本で大手スポーツブランドのマーケティングを担い、消費を促す側にいた。

「あれ?と思うきっかけがあったんです。大量に捨てられてしまうお客さんからの返品が倉庫にあって、めちゃくちゃ綺麗なんですが、売るわけにもいかず捨てるしかない。それをなんとかしようとサステナビリティチームが立ち上がって、いろいろやっていました」

そこで手詰まりを感じ、新しいプラットフォームを立ち上げる必要性を感じた大村さんは、大企業を飛び出して挑戦することにした。同じ意思を持った人たちにも出会った。

「本当にここまでいろんな人に頼って、自分一人では到達できないクオリティになったので、あとはそれをパフォーマンスしたら、自ずと結果がついてくるなって思います。

本当に一番嬉しいのは、今回この機会を通して、少しでもこのサービス、事業を知ってもらえること。サーキュラーエコノミーは1社では絶対に何もできない。だから僕たちはハブになるし、皆さんと一緒に作っていく。少しでもそれが伝われば未来の仲間ができることが、めちゃくちゃ嬉しいです」

大村さんはそう言って、プレゼントを待つ子どものような笑顔になった。

審査員たちの感想

全員のプレゼンが終わると、今回からスタートアップ・カタパルトをスポンサーいただくEVeM長村 禎庸さんがプレゼン。この会場にいるすべての人に役立つマネジメントの型と、それを体系的に学ぶサービスを紹介し、たった数分でも学びのあるエッセンスを伝えたが、勝利の行方が気になる登壇者たちは耳を傾ける余裕があっただろうか?

長村さんは、パターン・ランゲージの手法に基づく「マネ型」のサービスを紹介

審査員たちは毎回、「今回は本当にレベルが高い」と口を揃える。この競争の形をとるカタパルトは実際にそうで、事前のイベントなどで登壇するお互いを知り、プレゼンを知ることでさらに自分のプレゼンを磨き、相乗的にレベルが上がっていく。

最初は荒削りでも、事業に向き合ってスクリプトを練り、練習を重ねるうちに自信がついて、驚くような伝達力や表現力を身につける登壇者もいる。投票の集計を行う間の審査員コメントも、レベルの高さを称える言葉が続いた。

プロノバ岡島 悦子さん「匠技研さん、テラーノベルさんとの3社ですごく迷ったのですがMamaWellさんに。登壇した皆さんとお仕事させていただきたいので、あとでお話ししたいです」

グロービス・キャピタル・パートナーズ今野 穣さん「審査項目をスコアリングして30点の分母のなかで、4点差ぐらいで全社並んでしまって難しかったですが、勝ちたいと思う気持ちが伝わったところに投票しました」

コミックスマート佐藤 光紀さん「C向けモデルの事業でゲームチェンジの可能性を感じ、STRACTやテラーノベルが素晴らしいと思って投票したのですが、DAY1からグローバルの志が素晴らしいBoostDraftさんに共感して一番に選びました」

UntroD Capital Japan永田 暁彦さん「8年間のカタパルトの審査員で初めて10社全てに、審査項目のチェックが入ったうえに、自分なりの新しいタグ『抱きしめたい』を作りました。何に感動したかということが心に残っている。10人終わったあとに抱きしめたいと思った人が残ったことに感動しました。匠技研の前田さんにつけました!」

ホンダ・イノベーションズ杉本 直樹さん「熱いラブコールをいただいた匠技研工業さんに、ぜひ世界を変えていただきたいし、お手伝いもしたい」

Strategy Partners西口 一希さん「他と組むことで事業が広がるところを選び、課題が山積している医療領域、Contreaさんに思い切りやってほしくて二重丸をつけました」

マネーフォワード金坂 直哉さん「導入すれば社員がハッピーになれるMamaWell、素晴らしいと思った匠技研、プレゼンは切れてしまったけどnatのテクノロジーに可能性を感じました」

リブ・コンサルティング権田 和士さん「世界を変えたいという想いが伝わったレコテックさんに投票しましたが、全員が優勝だと思いました」

投資家の福山 太郎さん「日本でピッチを見て審査するのは初めてですが、海外でも十分通用すると思いました」

【速報】廃プラと活用企業をつなぐ循環型サプライチェーンで、ごみを資源に生まれ変わらせる「レコテック」がスタートアップ・カタパルト優勝!(ICC KYOTO 2024)

5位から2位までの入賞企業が発表され、優勝となった大村さんはマイクを握った。

「本当に本当に嬉しい。別の大会に初めて出たときは勝てなくて、本気で勝つために、さまざまな人の力に頼らせていただいて、皆さんに感謝したいです。

プレゼンを作りながら振り返ってみて、この事業は本当に面白いと改めて思いました。

すごく拡大するからこそ、いろんな人に知ってもらいたいですし、仲間の実績も伝えたい。本当にありがとうございました!」

優勝が決まったレコテック大村さんは、爽やかにそう言い切って数々の優勝賞品を受け取ったが、終了後の映像インタビューでは涙していた。

仲間と手を繋いで、産業を変える

表彰式が終了すると30分のインターバルがあり、次のDXカタパルトが始まるという雑然とした雰囲気のなか、セッション登壇も控える多忙な審査員たちは、力を尽くしてプレゼンした登壇者たちに声をかけていた。


審査員の岡島さんは、コメントのとおり真っ先にMamaWell関さんのもとへ

リブ・コンサルティング権田さんは、必勝カタパルトワークショップ&公開リハーサルでメンターを務めており、登壇者たちがいかにこの1カ月間でプレゼンを磨き上げ、事業を伝える力を伸ばしたか知っている。3位に入賞した匠技研工業の前田さんをねぎらい、カメラを向けると笑顔になった。

「この数年でカタパルトの登壇企業が世の中を変えてきているのを見ている」と権田さん

権田さんは映像インタビューにも応じ、公開リハーサルで優勝すると、本番では優勝しないというジンクスを打ち破ったレコテック大村さんの気迫をたたえ、「7〜8割はスライドを入れ替えたのでは」という匠技研の前田さんの準備と登壇にかける気持ちや、MamaWell関さんの登壇にかける思いを代弁者のように伝えていた。

見事優勝を飾ったレコテック大村さんに話を聞いた。まずはオフィスでのリハーサルとは人が変わったようなプレゼンについて。腹から発声しているような、演劇のパフォーマンスを見るような7分間だった。ぜひ映像で、気迫あふれるプレゼンを見ていただきたい。

「実は僕の友達に劇団四季のプロがいて、現役のパフォーマーでもあり、ボイストレーニングもやっているその人に、登壇3日前にお願いして喋り方やどこでどう抑揚をつけるかを教えてもらったんです。そういう感じでいっぱい人に助けてもらいました。

それを思い出すと今も泣きそうです、本当に。もうみんなが助けてくれた……すぐに連絡したいんですけど、ここは電波が悪すぎて、全然連絡ができない(笑)」

登壇前に、プレゼンの中継を仲間は見てくれるのかと質問すると、大村さんは「今、チームメンバーは必死なんです。現場で機械を設置したり、今後の下見に行っていたりとか、走っていると思います」と答えていた。立ち上げて3年。構想してきたことがようやく形になってきたタイミングなのだと言う。

「今回本当にいろんな人の力を借りてこの場に立ったので、プレゼンしている時にすごく、なんかちょっと涙が出ちゃうんですけど、すごくいろんな人の想いがフラッシュバックしました。

僕たちは今、5人しかいなくて、本当に大きなことを言ってますけど、僕たちだけではできないんです。今回のICCをきっかけに、いろんな仲間と手を繋いで、本気で産業を変えられる未来を創りたいなと、登壇して改めて思いました」

大村さんのこの言葉が、スタートアップ起業家たちの本心を表しているのではないだろうか。大企業を飛び出し、たった一人で始めて、必死に3年走り続けてきても仲間はまだわずか。それでも社会を変えたいと強く願い、事業を作り続ける。どの登壇者からもその意思が感じられた。

そんな孤独なチャレンジャーたちが、必死に成長を求めて切磋琢磨して、夢を大いに語り、手を繋ぐことのできる同志に出会える場所、それがスタートアップ・カタパルトと言っても過言ではない。なぜならここにいる起業家たち、応援する審査員たち、運営するスタッフたちは、誰もが当事者でありたいと考えているからである。

カタパルトの結果速報、ICCサミットの最新情報は公式Xをぜひご覧ください!
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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