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ものづくりを越えた、想いの実現を目指すクラフテッド・カタパルト

9月2日〜5日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2024。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、稲とアガベ岡住 修兵さんが優勝を飾ったクラフテッド・カタパルトの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


登壇者の緊張の表情

今回のクラフテッド・カタパルトには7名が登壇した。初参加の3組、冷凍熟成餃子のRelike、ティラミスのRUSO、うま藻のAlgalexは今回のフード&ドリンクアワードにも参加していて、DAY2のカタパルト登壇までにはICCの雰囲気に多少は馴染んでいるように見える。

クラフテッド・カタパルトでは様々な試食アイテムが配布された

残る4名はICCサミットでは過去に参加経験のあるお馴染みの顔ぶれ、D2C & サブスク カタパルトに登壇したイヨシコーラのコーラ小林さん、ソーシャルグッドで5位入賞のReBuilding Center JAPAN(リビセン)東野 唯史さん、フード&ドリンクアワードの常陸風月堂(菓匠 風月)の藤田 浩一さん、SAKE AWARDで優勝・クラフテッド再登壇となる稲とアガベ岡住 修兵さんだ。

2022年、京都のクラフテッド・カタパルトに登壇した岡住さん

審査員含めものづくりに携わる人々が集うクラフテッド・カタパルトの雰囲気は温かい。今回も始まる前から極めてアットホームな雰囲気だった。

ところが、とんでもない緊張感を漂わせている人がいた。稲とアガベの岡住さんである。

この前日、SAKE AWARDの予選が行われている会場で、岡住さんは今回のチャレンジャーとして参加する酒蔵の皆さんにエールを送っていたのだが、同じく審査員を務める旧知の仲の住吉酒販、庄島 健泰さんに「なんで今から緊張してんの?」とからかわれても、すでにうまく返答できない様子だった。

カタパルトの開始前は、登壇者の方々に意気込みや伝えようと思っていることを取材するのだが、岡住さんの緊張は見るからに最高潮に達していた。正面から行くとさらに緊張すると思い、後ろから近づくと何かを察してハッと振り向く。周囲の空気がビリビリ震えるほど緊張していて、こちらまで緊張してしまう。

今回のカタパルトの優勝は、ReBuilding Center JAPAN東野さんか、稲とアガベ岡住さんの戦いになると個人的には予想しており、東野さんには話を聞くことができたが、岡住さんからは何も聞けないまま、クラフテッド・カタパルトが始まった。

再登壇する挑戦者たち

カタパルトに1回登壇するだけの人もいるが、今回の岡住さんのように再び挑戦したいという人もいて、その最たるところは、スタートアップ、ソーシャルグッドに続いて、3度目の挑戦となったクラフテッドで前回優勝したLOOOFの丸谷  篤史さんだ。前の2つのカタパルトでは入賞せずだったが、3度目の挑戦で優勝した。

前回優勝者として登壇者にエールを送った丸谷さん

再登壇といっても、プレゼン内容は同じではなく、事業の成長によって伝えることは変わり、続けていく中で見えてきた新しいこともある。何度も機会が与えられているように見えるかもしれないが、描いた目標や夢に対して変わらぬ熱を持ち続け、どれだけ近づけているかが常に確認されていることになる。

ICCサミットに参加する企業に特に顕著だが、昨今の経営者は事業も思想も社会性もシームレスにつながっていて、そのいずれも社内外に伝えることが重要になっている。

今回のリビセン東野さんのように、ソーシャルグッドの登壇者がクラフテッドにというカテゴリ越えは限られた人にしかできなかったが、ほんの数年で世の中は変わるもので、今は別のカテゴリでも可能ではという企業がいくつも見つかる。丸谷さんも過去に挑戦したどのカテゴリでも違和感はなかったが、このものづくりのカタパルトで優勝した。

7名のプレゼン

クラフテッド・カタパルト全編映像

プレゼン終了後の審査員コメントからもわかるように、7名のプレゼンターはフェーズは違えど、いずれも真摯にものづくりに向き合い、言葉にできないような想いが、その佇まいから伝わってくるようなものばかりであった。各プレゼンターの様子をご紹介しよう。

イヨシコーラ

「コカ・ペプシ・イヨシ」を目指すイヨシコーラは、初参加の2年前は瓶だったが、今回はコンビニに並ぶ缶コーラになり、低アル飲料も夏に数量限定で展開。着実に成長しているが、目指す大きな目標にはまだ届かない。そこで、物流や販売まで全て自分たちで手掛けることを止め、原点回帰して開発と原液の製造を極める決意を宣言した。

常陸風月堂(菓匠 風月)

羊羹、和菓子が世界に?と思ってしまうのは日本人の思い込みかもしれない。常陸風月堂(菓匠 風月)の藤田さんは、1本の単価は14,000円、最高級の栗蒸し羊羹を世界の舞台で表彰された実績から、和菓子を世界に広げることを狙う。

その背景には、大衆に親しまれながらも単価を上げることができず、衰退していく和菓子業界の現状があり、3代目となる家業の課題がある。和菓子職人を志すきっかけになった「栗」を使って、みんなを笑顔にするというパーソナル・ストーリーがあり、個人的には胸を打たれるプレゼンだった。

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RUSO

クラフテッド・カタパルトに登壇する企業のステージは様々だが、ティラミス専門店「Tiramisu No.6」はオープン1周年。RUSOの中川 将さんの、レシピ開発の日々とその工夫や苦労を伝えたプレゼンは、事業ゼロイチの試行錯誤と喜びを語るもので、自分たちの経験を思い出した審査員たちが多かったのではないか。審査員席に配布されたティラミスは、”頬がほころぶ”体験を届けた。

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ReLike

「ものづくりの産業では熱意を伝えることが大事。会場で食べていただいた方の表情が見たかった」というReLikeの星 慧介さんは異業種からの転身。様々な生産者のものづくりが一包みになった餃子を「メディアであり、情報発信できるプラットフォームになり得る」と言い、冷凍熟成という技術を加えてプレゼン、大衆人気のある食べ物の新たなポテンシャルを示して見せた。

AlgaleX

3位に入賞したAlgaleXの高田 大地さんは、登壇時にはこの後のフード&ドリンクアワードで優勝することをまだ知らない。彼らが開発した特別な藻は、一流シェフも認める美味しい調味料であるだけではなく、海の未来のために育てられているものだ。美味しさと社会性が両立するものづくりは、今回のクラフテッド・カタパルトで特に顕著な流れであった。

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ReBuilding Center JAPAN

ReBuilding Center JAPAN東野さんは、長野県諏訪市のまちづくりの取り組みを全国に広げていくことを伝えた。東野さん曰く、3万〜10万人規模の街には合っているという。

登壇前に「目立ったことはやっていないけど、頭を使って頑張ればできるかも、と思ってもらえるようなプレゼンを」と謙遜していたが、空き家と解体時のゴミを地域資源として循環させ、エリアを絞ってリノベーションをする手法を見学したいと、ICCの参加者が数多く諏訪を訪れたそうだ。

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今回のクラフテッド・カタパルトには、ものづくりというよりもっと大きなもの、まちや環境の再生に取り組む挑戦者たちが多かったのが印象的だった。

リアルテックの環境テックは言わずもがな、AlgaleXの高田さんは海洋環境、稲とアガベ岡住さんは男鹿、ソーシャルグッドのローカルフラッグ濱田さんは丹後、小田原の旧三福不動産 山居さんもそうである。日本各地で衰退に歯止めをかけるべく動いているプレイヤーは数多くいることが顕在化していた。

稲とアガベ

そして、優勝した稲とアガベ岡住さんである。ぜひプレゼンの動画を見て確かめていただきたいのだが、このプレゼンの前半部分、消滅可能性トップの自治体で自分たちが今までやってきたことを語る岡住さんは緊張もあってか、淡々と語っていた。大丈夫か、これでは優勝は無理なのではないか、と心配になる程だった。

日本酒製造免許が新規交付されないことから、「クラフトサケ」という新たなジャンルを立ち上げ、そのための協会を立ち上げたこともすごい、農家から世界一高く原料米を買うこともすごい、酒単体で各賞を受賞、酒粕のアップサイクルへの取り組み、店舗や醸造所、食品加工所、レストラン、宿3棟を立ち上げ、行列の絶えないラーメン屋など2年半で5拠点を立ち上げたのもすごい。

本当にすごいのに、なぜこんな淡々と喋っているのかーー。よく見ると、マイクを握る手も、もう一方の手もブルブルと震えていた。

プレゼンの時間は7分間、だから人生を変える7分間と言われている。優勝すると一挙に注目度が集まり、事業にも影響が及ぶ。震える手を抑えることができなかったが、前回のように絶句することなく岡住さんは話し続け、いきなり火を吹くようにエモくなったのはプレゼン開始後、5分過ぎた頃だった。

「それでも残念ながら、まちが消滅する事実は変わりません。やれることを全部やる。

それでも、足りないんです!」

年内には新しく3拠点もオープン、閉まっていた飲食店や旅館が少しずつ復活してきたこと、無担保で約6億円借入、立ち上げ時には夢にも思わなかった大企業がまちづくりに参画、地元の人たちが一緒に頑張ろうと言ってくれるようになったこと、地元の中学校での講演を聞いた中学生たちが、地元でチャレンジしたいと伝えてくれたことを、岡住さんは切々と語った。

地域の子どもたちは地元に未来はないと思い、閉塞感を抱えていることは、景気のせいでも国力が下がっているせいでもなく、自分たち大人の情熱と行動が欠けているからだ、そう岡住さんは問いかけたのだと思う。

「そんな現実を僕たちのチャレンジでぶっ壊してやりたいんです。

僕たち稲とアガベは、地方のなにもない場所でも、お金がなくても人がいなくても、ゼロからイチでこれほどのことができるんだということを示し、世界中の閉塞感を感じている人や地域に希望を与え、未来を切り拓く。それが我々のミッションです」

叫ぶようにプレゼンを締めた岡住さんは、2年前のクラフテッド・カタパルトのトップバッターで、冒頭早々にプレゼン内容が飛んで絶句したときから見違えるような、情熱と責任を背負った姿になっていた。

今回3回目となったノンジャンルの酒蔵が熱いバトルを繰り広げるSAKE AWARDの設立は、2年前のリベンジをICC代表の小林に乞うて始まったものだが、岡住さんは発起人ながら初代優勝となった。その時の住吉酒販の庄島さんのコメントで「岡住を支えている多くの手が見えた」と言っていたが、プレゼンの最後で、まさにそんな多くの手が見えた気がした。

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順位発表の瞬間

情熱と行動をぶつけて、未来を作る。この日、岡住さんが何より欲していたのは優勝だった。優勝を持って男鹿に帰りたい、もっと自分たちの挑戦を多くの人たちに知ってもらい、もっと計画を実現する責任を背負ってみせる。そんな切実な想いが、写真にもしっかり写っていた。

3位はAlgaleX高田さんだった。次は2位発表、祈るような表情。

2位はリビセン東野さんとなり、自分ではない。残るのは1位か、もしくは無冠なのか、泣きそうな表情で目を瞑る。発表を待つ観客たちは優勝は岡住さんしかないと確信した瞬間だが、それを信じていないのは岡住さんだけである。

いよいよ1位発表。もう逃げ出したいような表情である。

ついに緊張が解け、いやむしろ武者震いしたかもしれないが、ナビゲーターを務めた荒木 珠里亜さんから優勝コメントを求められた岡住さんは、ようやく笑顔を見せた。

岡住さんに優勝コメントを求める荒木さん

荒木さんは第1回目のSAKE AWARDがきっかけで稲とアガベに合流した。きっと涙しているのではと思ったICC小林が、舞台に向かう彼女に「ナビゲーターを代わろうか?」と声をかけたが、荒木さんは最後までしっかりと務め上げた。むしろ小林の方がプレゼンに感動して声が上ずっていたのは秘密である。

情熱と行動で未来を変える

感無量という表情でマイクを握った岡住さんは、2年前の失敗に終わった登壇について話した後、前を向き直して、プレゼンに挑戦する全ての人たちに向けてこう語った。

「伝えたいことがあります。

うまくいった人もそうでなかった人も、優勝は1人しかいないので、結果が伴っている人は1人しかいません。それでも、悔しい想いをしていても、頑張っていたら絶対に誰かが見ていてくれて、その結果、こういう嬉しい機会も与えてもらえます。

実は、ちんまりした酒蔵で終わろうかなと思っていたのですが、この2年で視座が上がりました。

ここで優勝したからには産業を作らなければいけない、そういった責任を同時に感じています。これから僕らは、男鹿に世界一の酒蔵を作ろうと思うので、ぜひ注目いただけたらと思います」

丸谷さんは岡住さんを祝った後、「SAKE AWARDでリベンジしているのを見て、僕も再挑戦したいと思って」と、前回の登壇の理由を語った。すごい優勝の連鎖が続いている。これには登壇者も会場も皆、拍手を送った。

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岡住さんは、秋田県や男鹿の出身ではない。福岡の人で、関西で大学を出て、東北で酒造りを学び、現在男鹿にいる。なぜ男鹿なのかと以前尋ねたときに、岡住さんは「僕がここにいるのは、必然だと思い込んでいる」と答えた。

おそらく今回登壇した7名のチャレンジャーたちも同じような想いを持って日々、事業に向かっているのだろう。その思い込みが仲間を集め、情熱や行動となって連鎖し、諦めていた心にも火を灯していく。

その必然が、いつか歴史に名を刻む日まで、と言ったら言い過ぎだろうか? 難しい現実の中で、きれいごとを実現しようと挑戦する起業家はカッコいい。こんな挑戦者たちの生の声を伝え、応援できる場があって良かったと改めて思う、第12回目のクラフテッド・カタパルトであった。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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