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世界に通用するブランドを生み出せ! アマーロ醸造場「伊勢屋酒造」が優勝を飾った第3回SAKE AWARD

9月2日〜5日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2024。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、伊勢屋酒造が優勝に輝いたDAY2の、SAKE AWARD決勝トーナメントの模様と、その後に会場を移して開催されたSAKE NIGHTについてお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


ICCサミットの、Co-Creation Nigtと並ぶ夜の恒例企画となった2夜に渡るSAKE AWARD。お酒が飲む審査は至って真剣で、DAY1の予選ラウンドに出場した10の酒蔵、そこからDAY2の決勝トーナメントに勝ち進んだ6の酒蔵は闘志を燃やし、50名超の審査員たちは、酒を味わいながら各蔵の造り手たちの話に耳を傾けた。

今回も日本酒から梅酒、ジンやアマーロなど様々なジャンルが10組集まり、異種格闘技的な酒バトルとなるのはこのSAKE AWARDならでは。ペアリングやプレゼンは自由で、バーテンダーの助っ人を頼むなど、その酒蔵に任されている。惜しくも決勝まで進めなかった上記4つの酒蔵は、DAY2は審査員に合流した。

3回目にして改めて発されたメッセージは、このSAKE AWARDが「世界に通用するブランドを生み出す企画」ということである。

2024年9月に発表された農林水産省のレポート「日本酒をめぐる状況」にも詳しいが、アルコール飲料全体の国内出荷量は横ばい状態。日本の酒が活路を見出すにはもう国内だけでは埒が開かない。

初代チャンピオンの稲とアガベ岡住 修兵さんの冒頭のスピーチで「我々の産業は斜陽産業」とあったが、そんな共通認識がありながらもこの会場に満ち溢れる意欲は、それを跳ね飛ばしそうな勢いがある。真剣勝負の熱は、日本にとどまらず世界に届きそうな熱さがある。

前回優勝者の池原酒造 池原 優さんは、「ICCこそ酒×エンタメの最高峰」と言い、審査員の協同商事(コエドブルワリー)朝霧 重治さんは「ファウンダーと造り手から直接説明を聴き、考え抜いたプレゼンとともにお酒を楽しめる。こんな企画は他にない」と大絶賛。参加者たちが超真剣かつ、その造り手のストーリーまで味わい尽くせるのが、SAKE AWARDの魅力だ。

DAY2の決勝トーナメントの各酒蔵のプレゼンの様子を振り返っていこう。

DAY2 決勝トーナメントの準々決勝で4つの蔵に

喜多屋西平酒造は、準々決勝で惜しくも先に進めずここで脱落。喜多屋の木下 理紗子さんは、予選トーナメント通過が決まった時に「本当に楽しくて、喋り足りない、今日この日が終わってほしくないと思うほど」というほど、初参加のSAKE AWRDを楽しみ尽くしたウィナーだった。

喜多屋

木下さん「お配りしたのはこの八女茶を使った商品、KITAYA JAPANESE TEA SAKE 焙じ茶です。今日来ていただいたバーテンダーの高橋さんと共同開発したお酒で、八女の星野製茶園さんの玉露の焙じ茶を喜多屋の日本酒で抽出したもの、つまり日本酒でお茶を入れたという商品です。私たちが伝えたいのが八女という土地そのものの豊かさ、テロワールです」

八女の巨峰と焙じ茶を使い、穂じその花を浮かべたフレーバーウォーターも合わせて配布。穂じそを噛んでお酒を味わうと、味わいが一気に引き締まると同時に心地良い余韻が続くという。木下さんは「100%の美味しい日本酒を造ることはできるけれど、それを120%にするのが地元の力」と地元愛を滲ませた。

西平酒造

ソニックエージングという、音楽で黒糖焼酎を熟成させているという西平酒造の西平せれなさん。

「まだ世に出ていない黒糖焼酎を皆さんにお味見いただきます。私たちはミュージシャンで、焼酎を音響熟成しています。黒糖焼酎を熟成した樽にスピーカーを設置して、音楽のジャンル別に貯蔵しています。原酒も条件も、詰めた日も同じですが2種類あって、レゲエと奄美民謡です」

審査員から「レゲエの方が心なしか甘い」という声が上がると、西平さんは「そうなんですよ、音楽のジャンルで味に違いが出る。1年〜2年後に製品化したいと思っています。私はパーカッション、一緒に来た彼女はシンガー、奄美にいる杜氏はベーシスト。みんな楽しみながらやっています」

こんな面白い挑戦をしていて、かつ旨い酒を造る酒造が、準々決勝で落ちている。準決勝は、伊勢屋酒造ハッピー太郎醸造所CU9(キュー)SOMA が勝ち上がり、優勝を争う決勝は伊勢屋酒造とハッピー太郎醸造所、3位決定戦はCU9(キュー)とSOMAとなった。そのプレゼンをご紹介しよう。

3位決定戦のプレゼン

CU9(キュー)Yii (MINABE CRAFT UMESHU No.9

前日の予選ラウンドで各部門賞を総なめにしたCU9(キュー) 高田 遼さんは、「今日一番の自信作を持ってきましたが、明日はまた全く違う体験をしていただけます」と語っていた。全勝負、当然ながら梅酒だ。3位決定戦に高田さんが用意したものとは……。

高田さん「ジン梅酒『Yii』同じ南高梅ですが、昨日は2023年、今日は2022年収穫のものです。僕たちは自然の変化を受け入れる必要があります。2022年の梅は、2023年よりもちょっと酸味が抑えられていて、味に丸みがありました。1年の経年変化で色も濃くなり、味も深みが出てきています。この奥深さが燻製のお肉やスパイスと非常に相性がいいので、ぜひペアリングでごゆっくりお楽しみください。

どの梅酒も年間数百本しか造っていないので、いかにメッセージを丁寧に届けるかを大切にしています。まだ小さいブランドで、販売のほとんどがポップアップ。できる限り僕が行き、この2日間と同じように話をして、体験してもらうことを大切にしています。飲食店さんも、ここに梅酒があれば梅酒の価値観が変わるだろうと思ったところを訪ねて共感いただき、入れていただいています。

その結果幸いなことに、国内はジョエル・ロブションさんやロンドンのオーディオブランドの正式パートナーになれたりと、世界を変えたいと思った3年前からは考えられないような変化が少しずつ起きています。

新商品は、無添加の飲むみりんで造ったみりん梅酒というものを新しく仕込んでいます。通常梅酒を造った後の梅は有料で廃棄されることが多いですが、そのジン梅酒の梅を使ってジンも造りました。さらにそのジンをベースとしたジン梅酒も漬け込んでいます。

南高梅を使ったクラフト梅酒、梅酒の価値観を変えるブランドとしてその魅力を最大限に探し出して伝える、僕たちにはそんな役割があると思っています」

3位:HOLON「HOLON ORIGINAL

「香りの魔法をかける」と前日予告したHOLON堀江 麗さんは、準々決勝を勝ち抜き、最後はここまで出してきたHOLON全てのジンのベースになっているという「HOLON ORIGINAL」で勝負。3位決定戦では、香りをより引き立てるようなカクテルのスタイルで提供した。

堀江さん「昨日お出しした 梅紫蘇、今日の金木犀と、全てのベースになるお酒で、ボタニカルは全て同じ、その上にそれぞれの香りがついているので、それらの原点となるお酒です。

クラフトジンはご存知の通り、とっても自由なフォーマットです。原酒、ボタニカルも自由ということで、原酒は日本酒やワインをベースにすることもでき、ウイスキーの樽を使うこともできる。ボタニカルも表現の幅が広いです。そのため業界内のコラボレーション、例えば、ワインをベースにしたジンなどが生まれてきたりしています。

私たちが何より力を入れているのが、業界外のコラボレーション。ホテルブランドさんとHOLON専用の宿泊プランを作ったり、HOLONの香りのするルームスプレーを作ったりしました。このように多様なコラボレーションができるクラフトジンは、きっとこれからの業界の起爆剤になるんじゃないかと私は信じています。

最後にみんなで乾杯をして終われたら」

優勝、2位が決まる決勝プレゼン

2位:ハッピー太郎「something happy 久美子さんと桃子さん」

「オール滋賀で戦う」と予告したハッピー太郎醸造所 池島 幸太郎さんは、決勝もトレードマークのカンカン帽を被ってニコニコ笑顔だ。お酒の紹介と自分の想いを吐露する独特のプレゼンスタイルで、色鮮やかなどぶろく「something happy 久美子さんと桃子さん」を審査員たちに勧めている。

「ファンの人に話をすることはあっても、知らない人に伝えることはなかったので、こんな気持ちは久しぶり。昨日は結果は関係ないと思うくらい、やり切って幸せだなと思いました」と池島さん

池島さん「これ、ブルーベリーなんですよ。色がきれいでしょう? このどぶろくがいいのは、色そのものでお伝えできること。では乾杯、ハッピ~!ブルーベリーの味、米麹の旨味で疲れを癒してください。最後のデザートみたいにお持ちしました。

そしてこのどぶろくで、なぜ僕がICCに来たか、自問自答する中で見えてきたことを話したいと思います。これは酒の名前が『久美子さんと桃子さん』といいます。

(辻)久美子さんはオーガニックのブルーベリー農家、桃子さんは自然農法をやっている農家さんです。実はこの2人、しが農業女子 100人プロジェクトという代表と副代表を務めた人たちです。僕がこの2人と出会ったのはどぶろくを造る前で、麹屋を2017年からやっていた頃でした。

池内(桃子)さんの田んぼは30年間無肥料無農薬、自家採取で、いつ行ってめちゃくちゃきれいです。収量も高くてレジェンド中のレジェンド、この人のお米を使って麹を作ったらいつでも感激で震える。最後、ぶんと膨らむので、びっくりするんです。お米のポテンシャルはすごいなと思う。

僕は最初、そのお米はどぶろくには使わず、鮒ずしに使ってました。鮒ずしは独特の匂いがするイメージがありますが、池内さんのお米で作ると柑橘の香りがします。お米の内容や、土の状態は大事とそこで知りました。そのお米の米麹を使って僕はイチゴやブルーベリーの甘酒を作るようになり、小さなマーケットで売っていました。僕の財産である、滋賀の生産者と出会った場所です。

その中でブルーベリーを売っている人がいて、それが久美子さんだったんです。売上が月に5万円だった時代がありますが、久美子さんは僕の麹や甘酒をたくさん買ってくれて、いろんな人に配って宣伝してくれたんです。でもその久美子さんは、今年の夏で辞めてしまいます。

20年続けてきたのですが、気候変動もあって大変で、体調も悪くされたりして。だからこれが最後のどぶろくで、もう造れないんです。

久美子さんは僕のことを上げてくれたのに、僕は成長速度が遅すぎて、久美子さんのことを助けることができなかった。僕は久美子さんのやってきたことを心に留めて、今度は僕が滋賀の生産者の価値を上げられるような人になりたい。一人でも関わった人がハッピーになれるような事業者になりたいと思う。そのためにICCに来ました。力を貸してください!」

1位:伊勢屋酒造「スカーレット  カスクマリッジ バッチ06

スタイリッシュなラベルと、ハーブやスパイスが並ぶ伊勢屋酒造のブースはまるでおしゃれなインテリアショップのよう。しかし元バーテンダーの元永 達也さんは、酒造の法被を着込み、前日の予選ラウンド4位通過は序の口とばかりに、決勝ラウンドではギアを上げてバリバリ関西弁で喋りまくった。

「畑をそのまま会場に持ってきました。根を使う薬草酒はそれだけだと癖が強くて苦いので、愛媛産の新鮮なベルガモットとマジョラムを加えて。飲みやすい、楽しい薬草酒をプレゼンする」と元永さん

「いきます、決勝!まずはこのスカーレットを皆さん手に取っていただいて飲んでいただきたいと思います。準決勝で出したのは、シングルカスクで僕の大好きなスカーレットだったので、ちょっとセコ技やったかもしれません。

これは1つじゃなくて4種類の熟成したタイプの原酒をかけ合わせてます。つまりこれはマリアージュ、調合の先にあるものです。それも自分の中で1つ1つ選んでABCD、合わさることによってさらに価値がぶちあがるっていうのを僕は選んでいるんですね。

これのスペックを言うと、1年熟成のスカーレットの原酒で、全てがいいわけじゃないです。アカン子もええ子もミックスしていってめっちゃ旨いのにしていくんです。だからいっぱい本数が取れる。さっきは200本ですよね。これは何千本って取れるんです。

元ネタで言うと、スカーレットの前はジャパニーズウイスキーに使われていた樽、広島はサクラオ(SAKURAO DISTILLERY)さんの樽です。その前はスコッチウイスキーで有名なスモーキーな、アードベッグ(蒸溜所)の樽。これは世界初なんです。

予選の時に、世界で一番今飲まれているカクテルは?という話をしたと思いますが、それはネグローニ(ジン、ベルモット、カンパリを合わせたカクテル)。これは僕なりのスカーレットを使ったネグローニです。まずは飲んでください。

スカーレットは薬草を用いてブランディングをしていて、世界にチャレンジをしています。薬草を使ったエスプレッソのリキュールもあります。僕が造っている段階ですでにカクテルですが、それを世界チャンピオンの坪倉さんに調合していただいているすごく贅沢な、京都ならでは、ICCならではのプレゼンテーションになってます。

クラシックを守り技術を進化させる、日本のバーテンディングの美—— 坪倉健児(バーテンダー)(Stories of Grand Seiko)

そしてトップノートに出るこの香りは僕の大好きなボタニカルの一つ、トンカ豆です。僕が世界でバーテンダーをしていた頃、6年ぐらい前に、ヨーロッパのバーテンダーの方に『モト、もしこういう系のカクテルやるんだったら一層の味わいが何段階も上がる、高級感が出る』と、教えていただいたボタニカルです。

このトンカ豆、1粒がめちゃくちゃ高いんです。高いけどそんだけ奥行とか幅が出る、このボタニカルがあったから、今皆さんが飲んでいるスカーレットが表現できてます。(審査員:素晴らしい!)世界に届ける! ありがとうございます! 頑張るよ!」

全身を使って必死にプレゼンする姿に感銘を受けたのは、前日のスタートアップ・カタパルトで優勝したレコテック大村さん。

廃プラを皮切りに、ごみが資源に変わるマーケットプレイスの創出を目指す「レコテック」(ICC KYOTO 2024)

「お酒は大好きです、お酒造りの発酵とか蒸留のサイクルは、僕らのやっている循環に通じるものがある。その熱い思いをフォームに書いて審査員に応募しました。地元が相模原なのですが、伊勢屋さんのことを知らなくて。今の所ここが一番好き。お酒はどこも美味しいけれど、香りや触覚もあるプレゼンの設計がすごいです。

昨晩のCo-Creation Nightも他ではできないようなディープな話ができたし、今日会場に来たら、昨日のプレゼン良かったです、と言っていただけたりとか。このSAKE AWARDではプレゼン、造り手の思いが聞けて、お酒まで。すっかりICCファンになってしまいました!」

そんな話を聞いているうちに、審査員たちのスマホによる投票が終了したようだ。参加者たちは、ステージ前方に集まり、結果発表を待つ体制になった。

「美味しかったら、買って応援を」

発表前に、ほどよくお酒の回った審査員から、参加した全員に向けて熱烈なコメントが語られた。皆が酒を愛し、盛り上げようという気持ちに満ちあふれていた。

平和酒造 山本 典正さん「楽しかった…美味しかった…最高でしたね。予選から楽しませてくださった皆さんに感謝したいです。もしもこの後発表される、優勝したところが推していた酒蔵でなかったとしても、みんなで応援しようと思いませんか? ぜひみんなで盛り上げましょう!」

旭酒造 桜井 一宏さん「もし美味しかったと思ったら、応援してほしい。美味しかっただけでなくて、買ってほしい。それが造っている人間にとって一番大切です。

蔵が大きくなると寂しいというのもあるかもしれませんが、世界に出ていくには大きくならないといけない。投資家として見たときに、スタートアップに対して、伸びなくてもいい、小さくてもいいとは言いませんよね? とにかく皆『買って飲め』。よろしくお願いいたします」

初回はクラフトサケの稲とアガベ、2回目が泡盛の池原酒造、そして今回はアマーロ(薬草酒)の伊勢屋酒造と、ICC SAKE AWARDはカタパルト同様、時代を先取りするようなセンスで優勝を選出している。これからさらに大きくなるブランド、そして世界に通用するブランドとなるポテンシャルを秘めたこの蔵の名前を、ぜひ覚えておいてほしい。

【速報】製造から瓶詰めまでハンドメイド。築100年の古民家で造る“アマーロ”醸造場「伊勢屋酒造」が第3回 ICC SAKE AWARD優勝!(ICC KYOTO 2024)

見事優勝を飾った伊勢屋酒造の元永さんは、一緒に戦った酒造やスタッフたち、審査員たちにまず感謝を伝えたあと、こう締めくくった。

「皆さんに薬草酒の可能性を知っていただきたかったので、それが少しでもかなったのならよかったです。これからまたスタートラインに立ったと気を引き締めて、明日から仕事をしたいと思っています。今日の打ち上げは、楽しいお酒を飲みたいです。まだまだ続く夜、まだまだ僕たちにお付き合いください!」

優勝が決した後は、参加した全酒造の皆さんと、登壇決定から当日の運営まできめ細やかなサポートを行った運営チームが一緒に記念撮影をして、SAKE AWARDは終了した。

しかしこれがSAKE AWARDの終わりではない。この後、会場を変えて、参加酒造たちがこのアワードのために用意した酒を持ち寄って、SAKE NIGHTが始まった。

別会場でSAKE NIGHTスタート!

「お酒の産業は一人では作れない。入賞者だけでなく、出場した皆さんも、運営チームもお互い高め合っていきましょう。アルコールへのネガティブムーブメントもありますが、お酒は楽しいコミュニケーションを増やす面白いもの。僕がお酒が好きな限り、頑張っていきたいと思います。乾杯!」

ICC代表の小林の音頭で始まったSAKE NIGHT、すでに2日間を一緒に過ごし、緊張感溢れる戦いから解放されたこともあって、はじめから和気あいあいとした雰囲気である。

SAKE AWARDの会場となったホテルは貸し切りのため、酒を楽しみながら、参加酒造も審査員も心ゆくまで話をすることができる。別会場の2つのホテルではCo-Creation Nightが行われているが、ここは酒関連専用のCo-Creation Night会場のようなもの。2日間に渡り、お酒の運搬をひたすら行ってきたスタッフもここでお酒をいただけることになった。

各地で乾杯が起こり、楽しそうに笑い声が上がる。ディープに話し合う人、ワイワイガヤガヤと盛り上がるテーブルなど、交流が深まっていく。キャリアも肩書も関係なく、お互いの酒造りへのリスペクトを交換し合い、悩みや課題を相談し、再会の約束を交わしている。

優勝者に聞く

その会場に、前回、劇的な優勝を飾った泡盛の池原酒造池原 優さんがいた。優勝の反響はどうだったのか聞いてみた。

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「Facebookの友達申請がいっぱい来ました(笑)。泡盛で出場したのは1社だけだったのですが、魅力が伝わり、少しイメージを変えることができたと思います。

蔵を訪ねてきてくださった方もいたし、発注もいただいたりして売上にも繋がりました。あとは何より、僕に自信がついて、登壇や出展でも、ICCでやったことをそのままやっています。ICCのために2カ月くらい練習してきたので、たとえ負けていたとしても、無駄にならなかったと思う」

聞けば一緒に出場したバーテンダーの比嘉 康二さんと、2カ月の間、毎週会って練習、本番の2時間前まで漫才のようにセリフを覚え込んで、練習したそうである。

「比嘉さんも僕もICCって何?というところから始まりました。でも他に出るメンバーを見たら、すごい方々、こんな人でも出るのかという方もいらっしゃって。それで比嘉さんに『出ませんか? 面白そうじゃないですか』と誘いました。

予選突破したら優勝できるかも、やるなら本気でやろうと言うので週1ミーティングで、ひたすら練習、プレゼン内容は4パターン全部暗記しました。泡盛の”クセ”じゃなくて、”個性”と言おうとか、徹底的に前向きに。だから楽しかったです。プラカップでも良かったんですが、世界観を伝えたくて酒器のチブグワァーも、比嘉さんが40個持っていったんです」

予選を突破するために、決勝で出す予定だった「SHIRAYURI INUI 44 ストレート」を予選に持ってきたそうで「それを飲ませずに終了したくなかった」と言う。「強くて臭くて悪酔いする」という泡盛のイメージが変わったことは、「美味しさ」部門  1位受賞や、レストランnomaのバイヤーが何軒か訪問した蔵の中で「一番クラフトマンシップを感じた」と言ったことからも明らかだ。

写真左から、審査員を務めた、のぞみ藤田 功博さん、池原さん、元永さん

そうして話をしているうちに、今回の優勝者、元永さんもやってきた。

「予選はね、夢とか目的とかなぜ畑をやっているかを置いといたうえで、なぜこれが美味しいのかという起源を真面目に話さないといけないなと思ってました。それでどうなるか、それあかんかったらしょうがないなと、一番スタンダードなのを一番最初に持ってきた。そしたら(予選通過)4番目だったんですよ。

4番目か……皆さんのほしい答えって何やろ?と考えた時に、自分の想いかなと。それで昨日の夜、バーッと資料を作ってたんですけど、喋ってみたけど3ページにもなって途中で止めよ、と。もっと面白い話にして、モニター見るより、俺を見てくれと。初心に帰って、なぜ造っているのかという話にしようと」

それが決勝のブースの畑の表現につながって、プレゼンも冴え渡った。

「100年前の1923年に日本初の山崎蒸溜所ができて、スコットランドから竹鶴 政孝さんが戻ってきてやってきたことを考えると、僕なんて、大したことない。でもSNSやインターネットで情報が拡散されていく時代、100年後にアマーロのいい未来が、僕の生きているうちに開ける、その第一歩になれば」

語り合うなかで共感しあうふたり。2つの酒造ともSNSとリアルを組み合わせた試みを様々に行っており、池原酒造は元旦蒸留でファンが県外から来て、ラベル貼りや販売を無給でやってくれるそうである。伊勢屋酒造も、今夏は桃の「みんなでつくるアマーロ」企画のために「モモムキフレンズ」なるものを募集、約1週間で1,000個の皮剥きから封蝋・瓶詰め、箱の搬出まで合計75名で行ったという。

「7割が一般の普通のお酒好きの方で、薬草酒好きと言うわけでもない。でも250本ができて、ほんまありがたい。この世界はまだまだ広げられるなと思ってます」

たっぷり話し終えて会場に戻った元永さんは、元バーテンダーの本領発揮、カウンターに立ってみんなをもてなし始めた。池原さんは「SAKE AWARDにまた出たい。出ていると輝いて見える」と言った。もちろん比嘉さんも一緒に、だそうである。

その希望は、意外と早く叶いそうである。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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