ICC FUKUOKA 2024のセッション「事業成長を支えるプロダクトを作る秘訣 – プロダクト企画、組織の作り方からグロース戦略まで」、全5回の①は、アンドパッド 稲田 武夫さん、ココナラ 鈴木 歩さん、メルカリ 永沢 岳志さん、LayerX 松本 勇気さん、モデレーターのSmartHR 倉橋 隆文さんがこれまで自身が関わったプロダクトを挙げながら自己紹介。プロダクトの構想段階の実際を、松本さん、稲田さんが語ります。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターはココナラです。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 2C
事業成長を支えるプロダクトを作る秘訣 – プロダクト企画、組織の作り方からグロース戦略まで
Supported by ココナラ
(スピーカー)
稲田 武夫
アンドパッド
代表取締役社長
鈴木 歩
ココナラ
代表取締役社長CEO
永沢 岳志
メルカリ 執行役員CGO CEO Fintech / メルペイ 代表取締役CEO
松本 勇気
LayerX
代表取締役CTO
(モデレーター)
倉橋 隆文
SmartHR
取締役COO
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▶「事業成長を支えるプロダクトを作る秘訣 – プロダクト企画、組織の作り方からグロース戦略まで」の配信済み記事一覧
4つのサブテーマに沿って進行
倉橋 隆文さん(以下、倉橋) SmartHRの倉橋 隆文です。よろしくお願いします。
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倉橋隆文
株式会社SmartHR
取締役COO
E20 取締役COO(最高執行責任者)
2008年、外資系コンサルティングファームマッキンゼー&カンパニーに入社し、大手クライアントの経営課題解決に従事。その後、ハーバード・ビジネススクールにてMBAを取得。2012年より楽天株式会社にて社長室や海外子会社社長を務め、事業成長を推進。2017年7月、SmartHRに参画し2018年1月、現職に就任。
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今回はこのテーマでお届けします。
具体的には、4つのサブテーマに沿って、 登壇者の皆さんのお話を聞いていきたいと思います。
まず、何を作るかをどう決めるのかというプロダクト企画について。
2つ目は、どういうチームで作っているかというプロダクト組織についてです。
その後、今プロダクトを作る上で無視するわけにはいかないAIについて深掘りし、4つ目は作ったプロダクトをどうグロースさせるかという流れでお届けできればと思っております。
では登壇者の皆さんに、これまでどんなプロダクトに関わってきたかについて軽くお話しいただきます。
稲田さん、よろしくお願いします。
登壇者の顔ぶれ
稲田 武夫さん(以下、稲田) 皆さん、よろしくお願いいたします。
アンドパッドの稲田と申します。
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稲田 武夫
株式会社アンドパッド
代表取締役社長
慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルートにて人事・開発・新規事業開発に従事。 2012年アンドパッド(旧:オクト)設立、「現場監督や職人さんの働くを幸せにしたい」という思いで、建築・ 建設現場の施工管理アプリANDPADを開発。利用企業数18.1万社、ユーザー数46.1万人のシェアNo.1施工管理アプリに成長。全国の新築・リフォーム・商業建築などの施工現場のIT化に日々向き合っている。Forbes JAPANの「日本の起業家ランキング 2022」にて3位に選出。
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前職のリクルートでは、toCのアパレルECの立ち上げをイチから行っていました。
アンドパッドの事業はSaaSですが、キャリアとしてはどちらかと言えばto Cのプロダクトを作ってきた期間のほうが長いです。
アンドパッドでは社長としての仕事もしていますが、プロダクトに関わる時間も長いです。
アンドパッドには現在、20個ほどのプロダクトがあり、その全てを見ている立場でもあります。
よろしくお願いします。
永沢 岳志さん(以下、永沢) 永沢です、よろしくお願いします。
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永沢 岳志
株式会社メルカリ
執行役員CGO / CEO Fintech
株式会社メルペイ
代表取締役CEO
2007年 一橋大学商学部卒業後、NTTコミュニケーションズにてマーケティング、事業開発を担当。その後、米国マサチューセッツ工科大学 経営学修士(MBA)修了を経て、2016年よりAmazon JapanにてAmazon Prime Videoのマーケティング部長を務める。2018年株式会社bitFlyerに入社し、2019年より執行役員事業戦略本部長として日本国内の事業を推進。2021年よりメルペイに入社。スマホ決済サービス「メルペイ」のグロースを担当した後に、FinTech領域のGrowthを管掌。2024年1月より株式会社メルカリ執行役員 CGO 兼 CEO Fintech、株式会社メルペイ代表取締役CEOに就任。
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私はメルカリの執行役員のCGOで、グロースをメインにやっております。
また、Fintech であるメルペイのCEOも兼任しています。
私はPMとしてプロダクト開発にさほど関わってきたわけではないのですが、グロース面で主体的に関わってきたプロダクトとしては、NTT時代のB to Bプロダクト、Amazonでは動画配信のPrime Video、bitFlyerでは仮想通貨や暗号資産のプロダクト、そして現職でC to Cのフリマアプリ、クレジットカードなどのグロースに関わってきております。
よろしくお願いします。
松本 勇気さん(以下、松本) LayerXの松本です。
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松本 勇気
株式会社LayerX
代表取締役CTO
東京大学在学時に株式会社Gunosy入社、CTOとして技術組織全体を統括。またLayerXの前身となるブロックチェーン研究開発チームを立ち上げる。2018年より合同会社DMM.com CTOに就任し技術組織改革を推進。大規模Webサービスの構築をはじめ、機械学習、Blockchain、マネジメント、人事、経営管理、事業改善、行政支援等広く歴任。2019年日本CTO協会理事に就任。2021年3月よりLayerX 代表取締役CTO就任。開発や組織づくり、及びFintechとAI・LLM事業の2事業の推進を担当。
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代表取締役CTOというポジションで技術担当ですので、AIや技術に関する話でバリューが出せるかなと思っています。
LayerXの前は、グノシー、DMMでCTOを務めていました。
グノシーではニュースアプリ、その中で使われている広告エンジンの機械学習のアルゴリズム設計から配信エンジンまで自分で組んでいました。
スライドにはプログラミングスクールや消防車と書きましたが、DMMでは色々行っておりました。
今はLayerXで、バクラクというSaaSと、アセットマネジメント事業を行っており、またLLMで新しいプロダクトを作っています。
よろしくお願いします。
倉橋 よろしくお願いします。
消防車はすごく気になるのですが、このセッションでは触れませんので、気になる人は飲み会で松本さんを探してみてください(笑)。
では鈴木さん、お願いします。
鈴木 歩さん(以下、鈴木) ココナラの鈴木と申します。
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鈴木 歩
株式会社ココナラ
代表取締役社長CEO
早稲田大学卒。株式会社リクルートにて、商品企画・営業・アドテク新規事業での事業開発を経験。その後株式会社リクルートホールディングスにて海外経営企画を経て、2016年5月より株式会社ココナラに参画。2017年から取締役COOとしてプロダクト・マーケティング・経営企画等を担当。2020年に代表取締役社長CEOに就任。
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僕は社長をしながら、全社の売上9割ほどを占める、スキルマーケットのココナラというマーケットプレイスのプロダクト本部長も務めています。
前職のリクルート時代はプロダクトに関わっていたものの、事業開発や商品企画の仕事をしていたので、主にココナラでのことについて話したいと思います。
また、今日は皆さんに聞きたいことがたくさんあるので、登壇者ではあるものの、質問をさせてください。よろしくお願いします。
倉橋 では最後に私ですね、SmartHRでCOOを務めている倉橋と申します。
SmartHRは大きく分けると、労務管理という領域と、タレントマネジメント領域があります。
それぞれの領域が10ほどの機能、プロダクトに分かれているので、その意思決定やグロースに関わっています。
今回はモデレーターという役割ですが、気になったことをお互いどんどん聞いていくスタイルで進められればと思っていますので、本日はよろしくお願いいたします。
プロダクト企画の最初は、仮説を一人でひたすら掘り下げる(松本さん)
倉橋 では、早速最初のテーマである、プロダクト企画と機能開発に移りましょう。
何を作るかどう決めているかということですが、数多くのプロダクトを世に出している松本さんからお願いします。
松本 いつも最初に考えているのは…この市場にしようとか、徐々に”枝刈り”をしますよね。
LLMの新規事業を作っているのですが、最初はLLMを使おうというところからスタートし、まずは仮説を作って検証のためにお客様に聞いてみます。
ヒアリングでお客様の反応から得られた課題、仮説へのフィードバック、そもそも仮説が違うのかなどを考えて決めます。
つまり、仮説、ヒアリング、課題発見、修正、さらなる仮説を作るというサイクルで、頭の中にある「何となく、こういうプロダクトになるかな」という幅を狭めていくというイメージです。
弊社ではよく、「100社、100人ヒアリングしろ」と伝えています。
だいたい100人くらいにヒアリングすると、取り組もうとしている課題や市場の領域の解像度が上がってきて、100人にヒアリングし終わる頃にはファーストプロダクトの形が何となく決まっています。
このプロセスをいつも取っていて、今回のLLM事業も色々な会社にヒアリングを行いつつ、制約条件と仮説を磨いて今の形に至っています。
倉橋 ありがとうございます。
仮説を作ったり、実際にヒアリングに行きつつ磨きこんだりするのは、チームでやるのか、個人でやるのかどちらでしょう?
また、個人でやる場合は、誰がやるかはどう決めているのでしょうか。
松本 法人向けのクレジットカードなどを含む、バクラクというサービスでは、CEOの福島(良典さん)が行っていました。
LLMの新規プロダクトでは、僕が行っています。
僕が率先してLLMの研究開発を始めたので、こういう人に売れそうかなという何となくの仮説を自分で持ち、自分でヒアリングを続けていました。
それを逐次、言語化するのが大事ですね。
言語化し、自分の考えたことをメンバーに細かく共有できる体制をとっておき、だんだんヒアリングの手を増やします。
でも、最初は一人で行うことがやはり大事だと思っています。
変数が多いので、コミュニケーションによる合議で結論を出すべきものではないからです。
やろうと言い始めた人がひたすら掘り下げて行った方が、より良いプロダクトの仮説が見つかるのではないかと考えています。
倉橋 なるほど、ではLayerXではCEOやCTOが一人でまずはドライブし、幅が狭まってきてからチームを巻き込むという感じですね。
松本 そうですね、幅が狭まると言語化もよりシャープになります。
どうして良いプロダクトなのか、どうして課題解決をするのかが、絵や言葉として表せるようになってくるので、伝えやすくなります。
そうなると、ついて来られる人がだんだん増えてきます。
そうではない場合は、ツーカーで一緒に走れる人しか一緒にできません。
開発の最初は、福島と壁打ちをしながら動くことが多い気がします。
倉橋 なるほど。
プロダクトの初期構想段階の、何とも言えないイメージを伝えようとするのは、やはり大変です。
伝えるためにアイデアを絞ってしまうこともあるので、属人的でもいいということですね。
松本 そうですね。また、僕はエンジニアでコードが書けるので、コードも書いています。
大雑把で、正しい形ではないのですが、こういう挙動のこんなプロダクトだとコードを書いて実証しつつ、スライドでUIを作ります。
UIコンセプト、パンフレット用コンセプト、技術的コンセプトの3つを行き来しながら、整理していますね。
トップダウンもしくはユーザーの声から合理的に決定(稲田さん)
倉橋 逆に、アンドパッドはプロダクト数もすごく多いですよね。
20ほどあるとおっしゃっていましたが、それらは全て稲田さんが仕掛けているのか、チームが仕掛けているものもあるのか……。
稲田 両方です。
松本さんの話には共感しています。
何もないところから生み出す場合は、創業者からのトップダウンしかありません。
また、定量化するほどのデータも何もないので、現場に行くしかありません。
弊社の場合、現場と言えば泥臭い印象を持っていただいていると思いますが、最近は現場に何度か行くよりも、現場に住んでしまえというコンセプトで、常駐することが増えていますね(笑)。
私は、プロダクト開発にはある思いを持ってます。それは、「あるプロダクトが、なぜ流行っているのか分からない方が気持ち良くないですか?」ということです。
倉橋 えっ(笑)? それは、めちゃくちゃ気持ち悪いと思うタイプです(笑)。
稲田 本当ですか(笑)。
なぜか分からないけど、私はすごく伸びているプロダクトを作れる方がいいと考えています。
アンドパッドは、チャットと工程管理ができるソフトでしょと思っていただく方がいいと考えています。
なぜなら、言語化がすごく重要である一方、ゼロイチの場合、言語化すると伝わらないという難しさがあると思っているからです。
創業者の覚悟や、何かを生み出す時のワクワクする気持ち、他人には分からない思いなどがあると思いますが、再現性のあるサイエンスにしようとすると、何もないところから生み出すよりも、新しい機能が良いです。
弊社の20のプロダクトのうち、15、16は、ユーザーの声から生まれています。
弊社では、セールス、カスタマーサクセス、カスタマーサポートを通じて色々な声が集まるので、優先順位をつけて合理的に意思決定されるプロダクトが多いですね。
倉橋 それはプロダクトの種類によるのでしょうか?
LLMなど全く新しいものに取り組む時は、リーダーシップのある個人がドライブするしかないと思いますが、例えば機能やモジュールの追加など、どう作るかの機能要件が大事なものはチームに任せているのでしょうか?
稲田 その通りです。
前者も、戦略を起点に作るものと、技術から生まれるものがあります。
弊社の場合、業界特化のプロダクト開発に取り組んでいます。
業界の歴史、つまり過去にあったもの、ずっと変わっていないペインがある中で、マーケットインのタイミングの掴み方が重要だと思います。
皆さんのプロダクトも、以前から存在していたものだと思いますが、その形を変えたり、再編集したりしてプロダクトは生まれるものだと思います。
弊社はマーケットインが得意であり、弊社のプロダクトは、業界の歴史や過去に失敗したプロダクトを参考にして生まれています。
倉橋 なるほど。アンドパッドのようにバーティカルであれば、特定の業界に精通している人が開発すると思いますが、ココナラの場合は1つのプロダクトであり、ウェブサイト作成から占いまで、ユースケースは幅広いと思います。
マルチバーティカルですよね、そこでのプロダクト作りはどう行っているのでしょうか。
鈴木 最初の起点は、トップダウンであることが多いと思います。
私たちはツーサイデッドでスキルのマーケットプレイスを運営しています。
スキルを売る人と買う人がいますが、人には好みがあって、スキルを売る人を応援したい人もいれば、スキルを買う人を応援したい人もいます。
また、後者には、アマチュアの第一歩を応援したい人や、プロが稼ぐのを応援したい人など、色々います。
経営として、どういう順番で攻めていくかの戦略は意思決定し、あるフェーズ以降は現場で考えてもらうようにしていますね。
(続)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成