ICC FUKUOKA 2024のセッション「事業成長を支えるプロダクトを作る秘訣 – プロダクト企画、組織の作り方からグロース戦略まで」、全5回の④は、今の時代のプロダクト作りに避けては通れないAIについて議論。LayerX 松本 勇気さんとSmartHR 倉橋 隆文さんは、新しい技術は自ら触れて確かめることが重要だと強調します。ゲームチェンジャーとされるLLMに、経営者はどう向き合うべきでしょうか?ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターはココナラです。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 2C
事業成長を支えるプロダクトを作る秘訣 – プロダクト企画、組織の作り方からグロース戦略まで
Supported by ココナラ
(スピーカー)
稲田 武夫
アンドパッド
代表取締役社長
鈴木 歩
ココナラ
代表取締役社長CEO
永沢 岳志
メルカリ 執行役員CGO CEO Fintech / メルペイ 代表取締役CEO
松本 勇気
LayerX
代表取締役CTO
(モデレーター)
倉橋 隆文
SmartHR
取締役COO
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▶「事業成長を支えるプロダクトを作る秘訣 – プロダクト企画、組織の作り方からグロース戦略まで」の配信済み記事一覧
倉橋 次のテーマに移りたいと思います。
今の時代のプロダクト作りにAIは避けて通れないので、松本さんに語っていただければと思います。
新しい技術は自分が納得できるまで議論すべき
松本 AIというか、LLMは、プロダクトにどう使おうとか考えずに、僕は最初からすぐに触っていました。
2022年11月末、日本でChatGPTに課金して使えるようになった頃、すぐに自分で使い始めて、仕事の合間や仕事の後にChatGPTを触り続け、関連論文を読み続け、原理や特性、世の中に与えるインパクト、過去のアルゴリズムの比較などを追いかけていました。
また、世界中のエンジニアやPdMがどういうことを考えているのかについてもキャッチアップし続けていて、ふと、「こういう形もあり得るかな」と思いついて作り始めたのが2023年の4月頃で、それからプロダクトに使うようになりました。
生成AIに限りませんが、すべての新しい技術は、自分で触って確かめないと正しい戦略は作れないと思います。
気を悪くしたら申し訳ないですが、僕はWeb 3をすごく冷めた目で見ていて、よく分からないと思っていました。
ブロックチェーンは好きですが、ただのデータベース技術だよねと考えていますが、何度それを説明しても、どの経営者にも分かってもらえなかったのです。
NFTとかただのデータベースなのに、それをやる意味はあるのか?とずっと言っていました。
それで結果的にマーケットが崩れたのを見て、僕は仮想通貨は好きですが、経営者の皆さんは技術を軽視しすぎではないかといつも思っています。
ですから、自分が肌身で理解しようとすること、CTOに任せたとしても自分が納得するまで議論をしておくことが、第一歩ではないかと考えています。
倉橋 少し自慢すると、AIの波が来た際、使わなければということで、社内でAIハッカソンを開催することになりました。
その際、私は審査員に任命されたので、絶対に何かしら作ってほしいと事務局から言われました。
私はエンジニアではないので、初めてのパイソン講座から始めて、オープンAIのAPIを使ってコピペした文章を3行でまとめるミニアプリを作りました。30行くらいで書けるレベルのコードでしたが、それが合格となって審査員になったのです(笑)。
松本 最高ですね!
倉橋 まさに、「まず自分が触った上で審査しろ」と言ってくれる人でした。
松本さんからも似たようなメッセージを感じたので、実際に触ってみることが大事なのだなと思います。
松本 僕らは今SaaS事業を行っており、結果を整理した雑多な図がこちらです。
もともと業務が紙だったところから、オンプレにパッケージを入れて動かす仕組みになり、SaaSになりました。
これまでは入力したデータを保存するためのサービスだったのですが、AIはその先のファンクション、つまり業務そのもの、人の作業を学習して自動化できる、人間の目であり、耳であり、脳である仕組みだと整理しました。
その上で、スライドに第一世代と書いているこれまでの業務のうち、人間が行っている業務を整理して自動化する、我々はそれをAIユーザーエクスペリエンスと呼んでいるのですが、AI-UXを追い求めるべきだと我々は考えています。
実はLLMの波が来る前からAI-OCR(光学的文字認識、読み取り)をどう使うか、また、グノシーに取り組んでいた頃はアルゴリズムをユーザー体験にどううまく取り込むかを考えていたので、その経験から、SaaSにおいては、業務プロセスをどう自動化するかに目を向けて設計しました。
倉橋 ありがとうございます。
LLMは人間の仕事をなくすというテーマで組み込む(松本さん)
倉橋 ここからはフリーディスカッションですが、他の企業の皆さんで、AIに取り組んでいる事例はありますか?
稲田 事例のシェアではなく質問になってしまいますが、LayerXのバクラクシリーズに、具体的に、LLMはどのように組み込まれているのでしょうか?
松本 ちょうど、このイベントの裏で記者発表会をしている気がしますが、LLMは、人間のする仕事をなくすというテーマで組み込もうとしています。
帳票処理を自動化するバクラクではLLMは、そこまで使われていませんが、実は今、AI・LLM事業部で文書処理AIのサービスを作っています。
▶LayerX、エンタープライズ企業のドキュメントワークを効率化する生成AIプラットフォーム「Ai Workforce」をリリース。日本マイクロソフトと開発・営業で連携(PR TIMES)
文書処理というとすごく広いですが、皆さんのお仕事のなかに「膨大な文章を読んでエクセルにまとめる」に近いような仕事がたくさんあると思います。
たとえば金融をやっていれば、そこにあるコベナンツ条項をまとめるとか、その後ろの業務につなげるためにまとめるとか、いろいろあるじゃないですか。
そういうところで、膨大な量の文書をひたすらLLMに読ませてこれ自動化できるんじゃないかなと見てみたところ、意外と色々なことに応用できそうだと気づいたので、特に大きな会社向けに文書処理のカテゴリにフォーカスしたプロダクトを開発しています。
倉橋 SmartHRの話をすると、SmartHRには、労務とタレントマネジメントという2つの領域があります。
労務は結構簡単な固定アルゴリズムで問題なく進められるので、LLMを登場する場面がほぼありません。
ただ、タレントマネジメントについては、複数の情報をまとめて人間が判断する必要があり、判断の際にちょっとした提案が欲しいという領域ですので、頑張って研究中です。
LLM活用については、領域ごとに特性があると思っており、固定アルゴリズムで人間の仕事をなくせるところは多分終わっていて、一方で、それだと人間の仕事をなくせなかったところにやっと入ってきていると思います。
ただし、LLMは間違うので、これで合っているかという最後の確認だけは人間の仕事として残り続けるイメージを持っています。
ですので、LLMは、若手が自分についてくれて、提案や原案を作ってくれるみたいな形で組み込まれるのだろうと考えています。
稲田 LLMというよりAI全体について言えることですが、データの質と奥行きがなければ何もできないと感じています。
我々のサービスでは、1日40万枚ほどの工事現場の画像がアップロードされます。
特定の検査業務においては、画像認識による検査の自動化は行っていて、図面からテキストデータを呼び出してデータ化して検索機能に使うことも行っています。
マニアックですが、建築現場においては、写真撮影をする時は必ず黒板が必要です。
その黒板用に、図面情報から豆図と呼ばれる図を取り出すのですが、その作業は全部AIで自動化しています。
そうすると、建築現場の人はみんな「おお~」となって(笑)、すごく喜んでくれます。
この機能はオプション商品にもなっており、そういう現場に近いところで、画像や図面に関してAI活用は始まっていますね。
でもLLMはまだ取り組めていないので、ぜひ、事例を教えてください。
社内の業務フローにAIを自ら導入(永沢さん)
永沢 私の担当しているものですと、マーケティングのクリエイティブですね。
文言もそうですが、静止画や動画を作るプロセスに、一緒に作るパートナーも含めてAIを導入しています。
それによって、実際にかかる時間が3分の1くらいになるので、運用を回し始めています。
プロダクトというよりは、社内の業務フローに取り入れていますね。
倉橋 我々も社内業務フローに活用してみたいと思ったのですが、どうやって導入したのでしょうか?
特定の業者にお願いしたのか、社内に「業務AI化チーム」みたいなものを作ったのか?
永沢 マーケティング部門に関しては、End-to-endで業務を一番理解している僕自身が行いました。
どの部分でどれくらい人手がかかっているかとか、どこを外部委託しているかをわかっているなかの、ありそうなところや選んで、スタディしながら検討していきました。
ChatGPTを社内に解放し、マーケターにもテキストコピーを考える時に使ってみてとお願いしてみましたが、結果的にはあまり使われませんでした。色々検証する中で、動画作成については明確にベネフィットが出たので、業務に入れ込んでいます。
ですので、自分の深く関わっているチームで導入したということです。
倉橋 なるほど。人間には現状維持バイアスがありますし、特に自分の仕事を守りたい、自分の仕事は尊いと思っているので、業務内で使ってみてと言っても、なかなか動かないことも多いと思うのですが、どうやって勧めたのでしょうか。
永沢 僕は、無理には使わせませんでした。
AIが導入されたとして、担当者がその新しい方法で継続して業務を行うかどうかがすごく大事だと思っています。
そうなるような設計をしないと、新しい方法は絶対に定着しないからです。
専門性のある人がゼロからフローを考えられるなら、全く別の発想になると思いますが、僕らの場合は現状フローの改善となっているので、今はそういう形で取り入れていますね。
LLMはすべての経営者が注目すべきインパクトがある
倉橋 松本さん、いかがでしょうか?
松本 ここまで、現状の活用という話をしてきましたが、今日はせっかく経営者が多いと思うのでLLMのインパクトについてお伝えしたいと思います。
LLMは、コンピューター、インターネットが出て、機械学習が使われるようになって、スマートフォンが出て………スマートフォンの次ぐらいに位置づけていい、激烈なテクノロジーだと僕は思っています。
既存業務に適用していくのもそうですが、プロダクト領域で、全く新しいものすごいものができるという前提を持つ方がいいのではと考えます。
まだ詳しくはお話しできませんが、実際にやっていると、「これは、ものすごい新しいマーケットだ」と思えるものが見えてきています。
それを見つけて、事業に活かしたり、新規で事業を作ったりしていかなければいけないフェーズではないかと感じています。
LLM、つまり大規模言語モデルとは、人間の意思決定をここトレースして業務をこなしてくれるエンジンであり、そういうものは今までなかったわけです。
これができるようになった、この特性をうまく活かすには、自分の取り組んでいる業界やサービスにおいて、次に何が起きるのかを考える必要があります。
なぜなら、自身の事業が駆逐はされなくとも、マーケットバリューが下がる可能性があるからです。
マーケットバリューが下がると、資金調達で苦しむと思います。
御為ごかしで、適当にLLMを使ってバリューを上げても、それはすぐに枯れます。
ですから、マーケットを考える上で、新しく興る領域が何かについて、アンテナを張るのはすごく大事だと思います。
倉橋 めちゃくちゃ共感できます。
スマホが登場し、ヤフーオークションからメルカリにスタンダードが変わりましたよね。
私たちもそうですが、技術変革の時に大きくなった側の企業にとっては、恐怖でしかないですね。
LLMはゲームチェンジャーであり、ゲームチェンジャーによって業界地図がガラッと描き変えられるからです。
ですので、注力しなければいけないのは間違いないと思っています。
(続)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成