ICC KYOTO 2024のセッション「元SAP・Oracle・Salesforce・BOX等、大手外資IT企業出身者が挑むスタートアップのエンタープライズセールスの立ち上げ」、全4回の③は、ジョーシス 高山 清光さんがエンタープライズセールスのパートナー戦略を、売上の95%以上が大企業というbooost technologies大我 猛さんはターゲットをエンタープライズにした経緯を語ります。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2025は、2025年9月1日〜9月4日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
本セッションのオフィシャルサポーターは チームスピリットです。
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【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 4E
元SAP・Oracle・Salesforce・BOX等、大手外資IT企業出身者が挑むスタートアップのエンタープライズセールスの立ち上げ
Sponsored by チームスピリット
(スピーカー)
大我 猛
booost technologies株式会社
取締役COO (最高執行責任者)
高山 清光
ジョーシス株式会社
日本統括上級副社長CRO
富岡 圭
Sansan株式会社
共同創業者/取締役 COO
(モデレーター)
道下 和良
株式会社チームスピリット
代表取締役CEO
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▶「元SAP・Oracle・Salesforce・BOX等、大手外資IT企業出身者が挑むスタートアップのエンタープライズセールスの立ち上げ」の配信済み記事一覧
限られた適切なパートナーと組む戦略

高山 販売パートナーとして今順調なのは、先ほど話したNTTドコモやリコージャパンなど主に従業員1,000名以下の企業を狙っている企業ですが、やはりそれ以上の規模を狙いたいので、NRI(野村総合研究所)やCTC(伊藤忠テクノソリューションズ)と組んでいます。
▶ジョーシス販売パートナーのご紹介(ジョーシス)
入り方が重要だと思います。
パートナー戦略と言うと、若者を集めて1日に数件獲得するみたいなものが多いと思いますが、優良なパートナーの数は限られています。
ですから、若者に任せてはいけないと思っており、可能な限り、自分が相手の会社の社長に会います。
どんなに大きな会社でも、その商談は1回限りだと思ってトライをします。
僕たちがなぜ今、パートナーと組みたいと考えていて、そのパートナーとどういう未来を見ているのかについて、データを出して口説きます。
今ジョーシスがパートナーとして組んでいるうちの2社は、ニーズを把握していて、同じような製品を作っていました。
彼らとの商談の場には社長も呼んでもらい、その場で、その製品の開発をやめてもらいました。
パートナーの数が増えても売れなくなるので、何となく担いでもらうのではなく、適切なチームに担いでもらうことを設計するのが大事です。
あとは、外資が詳しいのですが、パートナープログラムを作り、いかにギブ&テイクにするか。
パートナーのチームと、プラス、マーケティングファンドだけで考えると、ダメなパートナープログラムになりがちです。
営業とマーケティング以外はハッピーにならない、薄っぺらいものになります。
Adobeはパートナープログラムをしっかりやるのですが、Adobeが私がいた会社を買収した際、サポートも含め、全チームが、パートナーに何をギブしてテイクするかについて半年間議論させられました。
その上で濃厚なプログラムを作っており、それは勉強になりました。
パートナー同士のマージン競争にさせない
高山 あと、Deal Registrationという案件登録は結構面倒ですが、これはメーカーの権利として絶対に行うべきです。
通常、売る権利を渡すと、みなさんがわあっと取ろうとします。
最後に誰が何をするのか分からなくなり、パートナー同士のマージン競争になって儲からないビジネスだと思われるようになります。
ですので、面倒ですがDeal Registrationポータルを作って、この案件はこうやりたい、決裁者は誰であるかなどを記載してもらい、他に取り組んでいるところがない場合、ディープディスカウントが適用される仕組みにしています。
これを愚直に行っております。

道下 パートナーの営業は、決裁者が誰かなどの情報は、書いてくれないイメージがあります。なぜそれを教えないといけないの?という感じになるのです。
それは、ディープディスカウントがあるから、ギブ&テイクになるということでしょうか?
高山 そうです。
ディープディスカウントのためもありますし、上から落ちてきているからという理由もあると思います。
ジョーシスの場合、パートナーの先にいるお客様に売ると、そのお客様がどのSaaSとデバイスを使っているのか全て見えます。
それが分かると、めちゃくちゃアップセルができますよね。
ですので、インセンティブとセットで、「誰よりも先に案件登録をしておかないと」と、インセンティブとともに訴求しています。
例えば、案件登録すればQUOカードをプレゼントというキャンペーンも、すごく行っています。
道下 ベタですね。
高山 富岡さん、今の話を聞いてどう思いますか?
富岡 確かにそうだなと思うところもあり、プロダクトによっても違うかなとも思います。
高山 失敗談もあります。
前に勤めていたアメリカのPendoは、道下さんが勤めていたWalkMeとド競合でした(笑)。
道下 そうですよね(笑)。

高山 Pendoが本当に強いのは、プロダクト開発している人でした。
日本のSIerはそれにそれほど強くなかったので、パートナービジネスに取り組もうとしたけれど、結局はパートナーから案件があまり来ませんでした。
セキュリティやITなら良いのではないかと思いますが、パートナー戦略が必ずしも成功するというわけではないと思います。
直販で売れないものはパートナービジネスでも売れない
道下 なるほど。
大我さんがSAPのパートナービジネスの責任者だった時、富岡さんはアライアンスを申し出ましたよね。
イマイチな結果だったと聞きますが、それを扱った大我さんがここにいますが……(笑)。
富岡 SAPとBill Oneの連携をしようと提案したら、先輩に冷たくあしらわれ(笑)……いやいや、温かくしていただきました。
大我 (笑)私がSAPでパートナービジネスを管掌していた際……まず、SAPでどうパートナーを分類しているかというと、チャネルパートナー、SI(システムインテグレーション)パートナー、ISV(独立系ソフトウエアベンダ)パートナー、そして後で触れますがインフルエンスパートナーです。

基本的には、商材によると思っています。
SAPのような商材はめちゃくちゃ難しく、直販でないと絶対に売れないので、売上1,000億円以上の企業向けは必ず直販としていました。
SAPでは当時、1,000億円未満の規模の企業はSMBとしていました。
つまり、それくらいの売上規模でもSMB扱いしてしまう状態だったのです。
SAPとしては、SMBはホワイトスペースだと捉え、チャネルパートナーと一緒に、100%パートナービジネスモデルで展開しようとしました。
試行錯誤しながらパートナービジネスを立ち上げましたが、基本的には、直販で売れないものがパートナービジネスで売れるわけがありません。
直販チームは、四六時中そればかり考えて仕事をしている人たちですから、そのチームが売れないとなると、パートナーの手で売れるわけがないのです。
そういう考え方をしていました。
また、大事だったのはインフルエンスパートナーの考え方です。
例えば、Big4などのコンサルファームもSAPビジネスをしたいのです。
なぜなら、SAPのライセンスが10億円で売れたとしたら、コンサルには100億円のビジネスが生まれるからです。
昔はだいたい、1:10くらいでしたので。
最近はグリコやユニ・チャームなど話題になっていますが、あのようなめちゃくちゃ大きいビジネスが広がるので、みんな、したがっているのです。
▶グリコもユニ・チャームも苦渋、トラブル相次ぐERP導入に潜む大きな理解不足(日経XTECH)(※一部会員向け記事)
彼らをうまく使うのが大事なので、そういうインフルエンスパートナー向けの活動をしていました。
そんな中、SAPとしては、SAPがカバーできない範囲を、他のソリューションを使ってパートナーリングでカバーしていこうとグローバルで取り組んでいました。
でも結局、直販営業が、ISVも含めて売るための動機づけが難しかったのです。
例えば金額で言えば、SAPのライセンスは10億円で、Sansanの商品を売ると数千万円とすると、動機づけが難しいですよね。
ですので、連携としても、あまりうまくいかないかなと考えていました。
道下 強者の論理ですね。

富岡 食い下がりましたが、おっしゃっていることはめちゃくちゃ理解できたので……。
道下 相談する相手が悪かった(笑)?
パートナーにどう腹落ちしてもらうか
高山 動機づけで思い出したのですが、Box Japanで働いている時も、Boxだけ売りたい人はいないので、「Boxを売ると、違う何かが3倍売れる」とパートナーに腹落ちしてもらわないとダメでしたね。
道下 3倍リワードを渡すということですか?
高山 ライセンスが1億円だとすると、それに伴ってMDM(モバイルデバイス管理)など周辺のものが売れるので、Boxを売ろうかなと思ってもらうということです。
道下 なるほど。例えば今、高山さんが富岡さんのBill OneをSAPに売ってもらおうとするならば、どういう動機づけをしますか?
高山 Bill Oneの現状が分かっていないのですが……今なら、大丈夫ではないのですか?
富岡 僕らとしてはグローバルマーケットへの突破口を切り開きたいと考えていたので、グローバルでSAPを使っている会社を狙いたかったのです。
ですが、その意思決定は日本だけではできないこともあり、難しかったですね。
シンガポールのヘッドクォーターを紹介してもらって行ったのですが、そこでも意思決定は難しそうでした。
道下 大我さんが逆の立場であれば、大きい会社を動かすために何をしますか?
大我 正直、そこには取り組まないですね。
大企業が動くロジックを知っているので、別のアプローチを取るしかないと思います。
パートナー企業の現場にはシニアメンバーを配置
道下 先ほど、高山さんから、パートナー企業のトップを口説くという話がありました。
トップダウンで動いてもらうことは理解できますが、パートナー企業の規模が大きくなればなるほど、「売るものがたくさんあるから、そればかり売れない」など、現場が言うことを聞かないということが出てくると思います。
それはどう対応していますか?

高山 現場では話の違うことが、たくさんあります。
例えばコピー機を扱うパートナーの現場で、デバイス管理とは何かと聞くと、「SKYSEA」と答えます。
そういうパートナーには、「SKYSEAがあるけど、さらにこれも売れる、なぜなら……」と説明します。
パートナーごとに話す内容は変えています。
また、支店ごとに強い弱いがあるので、6つの支店に絞り、その支店にジョーシス社員を配置しています。
道下 相当人間力のある人が配置されていないと……。
高山 年齢が高い社員を配置しています。
チャネルに若い社員を配置することが多いと思いますが、人間関係が肝なので、ジョーシスではシニアメンバーを配置しています。
道下 エンタープライズ営業にも、人間力が要りますよね。
人間力のある社員を採用できたとして、エンタープライズとチャネルのどちらに配置しますか?
高山 求められる要素が違うかもしれないです。
獲得ができる人はエンタープライズに配置したいですが、チャネルの責任者は社長や副社長と交渉ができる、つまり相手に嫌なことを言わなければいけないので、シニアメンバーが必要です。
逆に相手から怒られることもありますので、それを突っぱねられるような人が適任ですね。
道下 ありがとうございます。
booost technologiesは売上の95%以上が大企業
道下 では、そろそろ大我さん、取り組みのご紹介をお願いします。
大我 非財務情報開示の市場のセグメンテーションを、左側に表わしています。

基本的には上場区分によって規制が強化されているので、大企業であればあるほど要請は高いです。
このスライドを見ると、上の方を攻めようとなると思いますが、実際のところ、私が2年前に入社した際は、スライドの下の部分も含めて全体に取り組んでいました。
ARRで言うと、上が600万円、下が20万円くらいです。
SAPの場合、ARRは最低でも1億円だったので、20万円というのには驚きました。
競合は下を攻めていたのは分かっていましたし、投資家も下を攻めるべきだと言っていましたが、このマーケットでは上で勝負すべきではと思いました。
議論を重ねてテストマーケティングをした結果、やはり下ではないと考えました。
そう仮説を持って進めていましたが、ある総合商社の案件が、当時最大規模のARR数千万円で獲得できたので、やはり上だなと考えました。
そして今では、売上の95%以上が大企業からのものです。
営業戦略として上を攻めるのは良いですが、その場合、営業体制はもちろん、プロダクトも相応するものにする必要があります。
大企業の場合、通常のプロダクトを作って販売すれば良いというわけではなく、企業ごとの違いを受け入れられる柔軟性を持つようにしなければいけません。
booost technologiesは、私が入社した時は70人、今は100人体制のスタートアップです。
上を攻めると、理想としては、単価もエクスパンションも上がって間違いなく良いのですが、それを実現する体制をどう維持するかという課題は常に持っています。
エンタープライズセールスでの心構え
道下 時価総額1兆円以上のお客様なんて、わがままというか、独自性やこだわりの塊ですよね。
下手するとプロダクトというよりもSI(システムインテグレーション)になりかねない世界で、本当に儲かるのか分からないため、大企業に取り組むか取り組まないかは、結構大きな判断だと思います。
大我さんはCOOとして、どういう考えのもと、取り組んでいるのでしょうか?

大我 まず、プロダクト面では、我々のプロダクトのトップであるCTOはNTTデータ出身で、一品一葉で作らないように、つまり標準化するようにめちゃくちゃ考えています。
つまり、色々な要件を聞きながらも、例えば、パラメータによって振る舞いを変えられるような設計方針をとっているので、なるべく最大公約数を実現しようとしています。
道下 パラメータで柔軟性を持たせようとすると、SAPのようにパラメータお化けになってしまい、インプリ(実装)やSIにもお金がかかり、そんなにSIにお金がかかるなら導入できない、となりそうです。
そういう状況には陥っていないのでしょうか?
大我 SAP社ではよく言っていたのですが、「ベストプラクティス」という言い方をしていました。
▶ERP 導入のベストプラクティスと落とし穴を回避する方法(SAP)
非財務情報の開示に関して、今まで大したことをしてきていないと思うので、新しい業務のあり方として、こちらの提案するベストプラクティスに合わせて進めましょうと伝えています。
そうガイドをしながら進めていますが、これは難しいです。
ニーズはありますが、それはあくまで隠れたニーズでしかなく、担当者レベルだと「いずれやらないといけないけれど、今じゃなくてもいい」と思っています。
彼らに対して、早く対応すべきだというホラーストーリーをぶつけ、動かしていかなくてはなりません。
それを「チャレンジャーセールス」と呼んでいますが、これを仕掛けることが今のチャレンジですね。
道下 営業の採用育成をどうするかという話にもつながりますよね。
(続)
編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成