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「リアルとバーチャルの境界線がなくなった後の世界はどうなるのか?」【F17-9C】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!9回シリーズ(その7)では、ナイアンティックの村井さんに、『ポケモン GO』に込められた思いをお聞きしました。恩田陸さん著の『蜜蜂と遠雷』という小説を例に出しながら、『ポケモン GO』が語られます。是非御覧ください。
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ICCサミットは新産業のトップリーダー600名以上が集結する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2018は2018年2月20日〜22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
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【登壇者情報】
2017年2月21〜23日開催
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
Session 9C
リアルとバーチャルの境界線がなくなった後の世界はどうなるのか?
(スピーカー)
伊藤 直樹
PARTY
CCO / Founder
稲見 昌彦
東京大学
先端科学技術研究センター
教授
村井 説人
株式会社ナイアンティック
代表取締役社長
真鍋 大度
ライゾマティクスリサーチ
ディレクター
吉藤 健太朗
株式会社オリィ研究所
代表取締役CEO
(モデレーター)
前田 裕二
SHOWROOM株式会社
代表取締役社長
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最初の記事
【新】リアルとバーチャルの境界線ー仮想空間の「現実化」を徹底議論【F17-9C #1】
1つ前の記事
『ポケモン GO』は現代の風水だ!(東大先端研・稲見)【F17-9C #6】
本編
前田 では満を持して。ナイアンティックの村井さんになぜ『ポケモン GO』がヒットしたかをお聞きしたいと思います。
村井 プロダクトの未来のことはあまり語れないのですが、どうしてヒットしたかということよりも、我々がどういう想いで作っているかということについてお話したいと思います。
最近直木賞を受賞された、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』という本があるのですが、どなたか読まれた方はいらっしゃいますか?
これは、クラシック音楽のコンテストのお話がメインになっているんですよね。
大きなテーマとして、音楽を外に持ち出そうということが出てきていました。
これを読んだ時に、我々が取り組んでいることにものすごく近いのではないかと思いましたね。
我々が携わっているゲームの世界と音楽とは全く違うのだけれども、全く同じようなことというのが同時に起きているのではないかなと思って、すごく興味深く読んだのです。
是非皆さんにも「蜜蜂と遠雷」を読んでみて頂きたいですね。
村井 その本で、元々、音楽というものは自然の中にあったのだというのです。
自然の中で風がなびく音や、雨が降った時に滴が落ちてくる音など、この世の中には音が満ち溢れているのだと。
その満ち溢れているものが、皆の感じている音楽だったのだと。
ただある時、時代が進化してきたというか、文明ができたことによって、人はその音を楽譜に落とし始めたのだと。
楽譜に落としてそれが歌になって、「ミュージック」が出来上がっている。
例えばクラシックの世界にはバッハがいたり、ラフマニノフがいたり、様々な人達が作った音楽がここ100年以上語り継がれて聴かれているのだけれども、そういったものがある特定の人達にしか使われておらず、ある特権階級の人達のためだけの音楽になってきています。
それは実はよいことなのです。
まさにここのホールもそうですけれども、よい音楽を聴こうと思ったり、プロが弾いているところに行って聴いたりするとしたら、コンテストに行ったり、音響がすごくいいところに行くでしょう。
つまり音楽は世界中に溢れていて、皆が聴いて楽しむことができる環境にもかかわらず、音符で人間が作り出した音楽というのは、ある特権階級の人達、そのやりたい人にしか響かない。
楽譜に書かれたものをいかに外に持ち出すか
村井 私は、楽譜というのは実はプログラムなのではないかと思っています。
楽譜はプログラムのように書かれるもので、音楽はそこで動くアプリケーションや世界観で、作曲家が素晴らしければ素晴らしいものがその世界に出来上がります。
村井 興味がある人だけがその世界を楽しめるという、デジタルディバイド(Digital Divide=情報格差)のようなものがあり、インターネットが得意な方やそういったデジタルに強い人達はそちらの世界を経験することができるけれども、実はゲームの世界の「ゲーム」や「ゲーム性」というものは、プログラムで書かれているものに限らず、このリアルの中にたくさんあるのです。
つまり、我々ナイアンティックは、楽譜に書かれたものをいかに外に持ち出すことができるかというチャレンジを行っています。
世界には音楽が溢れていると同時に、楽譜になっているようなものもたくさんあり、室内だけではなく戸外も含めて色々なところで聴けるようになってくることに価値があって、それによって人間の心が満たされていくのだと考えています。
つまり、我々はゲーム性を通して実際に人を動かし外に連れ出すことによって、一般の人達が垣根なくそれで遊ぶことができるようなアプリを作ることができました。
本当に作ることができたかどうかはまだ分かりませんが、『ポケモン GO』が成功した大きなポイントなのではないかという風に思っています。
多くの人が同じ世界観を楽しめる世界は幸せだ
村井 あとは、昔、ウォークマンがありましたよね。
村井 当然ですが、ウォークマンの世界というのは本人がここで聴いている世界観でしかなくて、あれを聴いている人は他にはいない訳ですよ。
ですから、あれを聴きながら外を歩いている人達は、あの時代においては異様だった訳です。
でも、そのリアルなところと、実際に音楽を聴くといったところの共生・共存がやはり最近きちんと出来上がって来て、危ないところではきちんとイヤホンをとりましょうとか、自転車に乗っている時には外しましょうとか、様々なことが進歩してきている訳ですね。
いずれにしろ音楽は外に持ち出したいし、色々なものを感じておきたいということで、今の世界と、これからそれを体現しようとしている世界というのを実は恩田陸さんは世界観として書いていたと思います。
著作を読んでいて、我々がやろうとしていることとすごく近しいなと思いました。
あの世界観を感じた時に、我々のやっていることというのは皆がやろうとしてきたことなのだなという風に思いましたね。
ただ、普通の人は、そもそもその音楽が外にある・ないなんて考えたこともない訳なんですよ。
音楽がある特権階級の人のものだとは全く思ってもいないし、誰もそんなことは考えていないのだけれども、やはり多くの人が同じ世界観を使うことができて、何か楽しむことができるような世界というのができたら、それは多分幸せなものになるのではないかなという風に思ってその本を読んでいました。
前田 確かにすごく共通していると思いますね。
前田 本質的に「動きたい」や「外に出たい」といった人間の奥深くにある生物的な欲求にすごく紐付いていて、そこを突き動かしているというのが、大きく人の行動を変えた一つの理由なのかもしれないなと、お聞きしていて思いました。
知的好奇心を満足させる『ポケモン GO』の工夫
村井 それからもう一つの重要なポイントとして、恐らくフィジカルなところもそうなのですが、人間の根源的な欲求である知的探究心のようなところは、やはり何かをする際の大きなモチベーションになると思っていて、知的探究心をどのように満足させることができるのかということを考えています。
「Ingress」の時に多くのエージェントの皆さんとポータルを作ったんですね。
その時に、歴史的価値があったり、皆に見てもらいたいものがあったり、本人が価値があると思って皆が認めてくれるようなものであれば、我々がそれをピックアップしてポータルとして生やしたのです。
その歴史的・文化的な価値のあるものが載せられたマップを我々が「Ingress」の世界で作り上げていきました。
『ポケモン GO』を是非開いてみて頂きたいのですが、ここの近くにも「ポケストップ」や「ジム」が立っているんですね。
実は私は以前Googleにいて、Google Mapsのコンテンツパートナーシップの日本の責任者を務めていたのですが、Google Mapsをもっと楽しく便利に使って頂くために、沢山の情報を乗載せ、より便利な情報が一体何かを考えながら仕事をしていました。
村井 ナイアンティックが取り組んでいるのは、実は地図なのですが、道路の情報以外はほとんど何も載せないという究極の選択をしています。
唯一載せているのは、文化的・歴史的価値のあるポイントの情報だけなのです。
例えば、人が見て感動する看板や、建築物など、その場所にいて一見の価値のあるようなものを全てピックアップしています。
つまり、一般の地図においていわゆる重要とされるような情報は一切そぎ落とされていて、我々の地図には文化的・歴史的背景のあるものしか出てきません。
究極の文化的地図と言えるかもしれませんね。
前田 機能性を排除するような地図なのですね。
村井 つまり、『ポケモン GO』や「Ingress」を立ち上げると、そこには何かが立っているのです。
そこに行けば必ず、何かしらその土地を知るヒントが置いてあるというのが、知的探究心を満足させる一つのポイントなのではないかと思います。
それらを通してその土地に想いを馳せてほしいし、その土地や歴史を作ってくれた人の想いを馳せてほしいのです。
一見、単なる2次元の世界なのですが、そこには4次元の世界というか時間軸も複雑に複合されており、世界的に人気のあるIPであるポケモンの力も借りてゲーム性のあるものとして多くの人達に楽しんで頂く。
ポケモンの力がなければそれほど大きくはいかなかったと思うのですが、それと我々の想いとが上手くマッチングしたというのが、人気の大きなポイントではないかなと思います。
前田 なるほど。
動いて外に行きたいという生理的な欲求と、人間が本質的に持っている知的好奇心と、そこにIPが掛け合わさったということですね。
ありがとうございました。
(続)
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続きは 自分の分身が増えてアイデンティティが拡張する(オリィ吉藤) をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/Froese 祥子/横井 一隆/立花 美幸
【編集部コメント】
何かを外に持ち出すという発想はいろんな場面で使えそうだと思いました。バーベキューは食事を外に持ち出していますが、食事を外で食べたいっていう欲求が人間にあるのかしら、と思いました。(横井)
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