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大企業の「眠っている」知財をスタートアップはどう活用すべきか?【K17-5D #6】

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「先端テクノロジー X スタートアップのCo-Creationを徹底議論」【F17-5D】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!8回シリーズ(その6)では、WiL西條さんやIBM森本さんを中心に、ベンチャーが大企業の技術を使ってビジネス化する上での秘訣や仕組みについて議論しました。是非、御覧ください。

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ICCカンファレンス KYOTO 2017のプラチナ・スポンサーとして、IBM BlueHub(日本アイ・ビー・エム株式会社)様に本セッションをサポート頂きました。


ICCサミットは新産業のトップリーダー600名以上が集結する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2018は2018年2月20日〜22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


【登壇者情報】
2017年9月5〜7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2017
Session 5D
先端テクノロジー X スタートアップのCo-Creationを徹底議論
Supported by IBM BlueHub

(スピーカー)

尾原 和啓

菊池 新
株式会社ナビタイムジャパン
取締役副社長 兼 最高技術責任者

西條 晋一
株式会社WiL
共同創業者ジェネラルパートナー

森本 典繁
日本アイ・ビー・エム株式会社
執行役員 研究開発担当

(モデレーター)

高宮 慎一
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ
パートナー/Chief Strategy Officer

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最初の記事
【新】量子コンピュータなどの先端テクノロジーのビジネス化を徹底議論!【K17-5D #1】

1つ前の記事
量子コンピュータの民主化で何が変わるのか?【K17-5D #5】

本編

高宮 ここにいらっしゃる多くの皆さんは、今のお話を聞いて、技術で漠然とできることが一気に増えそうだと感じられる一方で、まさに先ほど森本さんがおっしゃっていたように、量子コンピュータの使いこなしというのは難しいと感じられているのではと思います。

また、西條さんのおっしゃっていたように、意外とそれほど先のことではないのだけど、手持ちの技術アセットを使いこなす中で、モヤモヤしている、オープンイノベーションで悩んでいる、というような側面があると思います。

ベンチャーキャピタリストという立場から思うことは、ベンチャー企業として、どのようにしたら、自分たちでは到底開発できないような基礎技術を上手く使って、ベンチャーでも大いにチャンスがあるビジネスにできるのだろう、ということです。

この辺りについては、西條さんから技術的にはそれほど先進的なものでなくても、まずはやってみようというお話がありました。

これまでのご経験を通して得られた知見が結構あると思うのですが、ベンチャーが大企業の技術を使ってビジネス化するうえでの秘訣、もしくは陥り易い典型的な失敗などはどのようなものがありますか?

大手企業の知財は「眠っている」

西條 溝があるとしたら、例えばIBM社が毎年何千という特許を取られているように、大企業の中には知財を多く所有しているにもかかわらず、使い道が見えていないものが少なくないという点でしょうか。

ベンチャー側は、やりたいことは割とはっきり分かっているけれど、そもそもそのような知財をどこの企業が持っているのか、どういう知財があるかということをあまり把握していない部分がありますので、そこを上手く繋ぐ仕組みがあったらいいなと思っています。

たとえば、コンテンツ系というのはビジネスを成功させるのに、何となくモヤッとしていて難しいですよね。

それをIBMが持つ技術で、たとえばソーシャルゲームのゲームバランスの最適化をIBMに頼んだら、パッと計算してすべて最適なゲームバランスが設定できるとか、そもそも面白いゲームは何だっけというところから、放っておいたらゲームの大半ができてしまうとか、そういうものがあれば、本当にご相談したいところです。

森本さんは、ベンチャー企業との接点というのはどうお考えでしょうか。

森本 そうですね、まさに今西條さんがおっしゃったようなことを私は進めようとしております。

先ほどお話がありましたように、IBMは毎年8,000件以上の特許を取得しているんですね。これは申請ではなく取得、権利取得の数です。保有知財数の累積は40,000件以上です。

ベンチャー企業の方と話すと、うちにはこういう技術があるから使ってくれないかと売り込みに来られる場合が多いのですが、「いや、そういうのは社内を探せば絶対にあるよ」ということになりがちです。

したがって、数件の特許、数十件の特許で勝負するのではなくて、逆に大きな知財を上手く使っていただいて、それをキャピタライズするという方に、我々としては期待をかけています。

そのうえで、弊社側の問題は何かというと、毎年8,000件あって、それだけの数の特許や知財を取っているにもかかわらず、その全てを製品、商品に使っているわけではありません。

そこには、「イノベーションのジレンマ」があります。

弊社の場合、普通のビジネスであれば、事業サイズにして500億~1,000億の規模でないと中で野たれ死にしてしまうようなサイズなわけです。

したがって、そういうところで使われた知財などは、棚にしまわれてしまって、そのまま埃をかぶって、忘れ去られるというものが結構あるんですね。

そういうものを、上手く外部の人に見ていただいて、これだったらこういうことに使えるよね、という形にもっていければ、埋もれているものを外に出せるのではないかと思います。

大企業の技術とベンチャーのアイデアを融合させたい

森本 もう一つは、企業の規模が大きいので、我々が使っている特許はどうしても、金融など、大きな銀行、それから医療とかですね、そういった非常に大きなお金が動くところに適用されがちです。

それと同じ技術を別の用途、ビジネスにも使えるのではないか、というような可能性があっても、その値段では製品化できないな、というものがたくさんあるんですね。

同じ技術、実際に使われている知財でも、別の形で活用したいという提案があったとしても、今までは特許を守ってきましたので、それを勝手に使ってくださいというわけにはいきませんでした。

その知財を使いたいという申し出をいただいても、IBMにライセンス料を支払わなければならず、それだとベンチャーの規模では回らないという状況だったんですね。

そこを上手く繋ぎたいなと思っています。

何らか上手く、一方でこのようなテクノロジーがありますよという棚卸と、それであればこのようなアイデアで使いたいという提案の間のマッチメイキング、そのような場があると非常にいいなと、何かできないかなという風に考えているところです。

高宮 ベンチャー側からはやはりマーケット基点で、こういう問題が市場にあります、何か解決できる技術がありませんかという形で、ドアをノックすればよいということですね。

森本 そうですね。

ですから、こういう技術があるのだけれどと特許を持っていくのではなくて、こういうオポチュニティを見つけたのだけれど、IBMさん何か使える技術ないの?というようなアプローチで来られると、ぴったりはまるかもしれませんよね。

高宮 なるほど。

高宮 そうすると逆に、IBM側にも、棚卸をした技術について全体感をざっくり把握していて、その課題だったらこのアプローチか、このアプローチがありそうだけれどどうする?というように水先案内してくれる窓口のようなところが必要になりますよね。

ビジネスニーズと技術をマッチメイクする人材が必要

森本 それがあればいいのですが、社内でも困っているくらい知財が多すぎますので、それを全部把握している人はいないんですよね。

イシュードリブンで「それだったらこういう技術があるかな」と、ビジネスニーズをテクノロジーニーズに翻訳するような人がいて、そこを介して見つけていくというような、まさにマッチメイキングのような機能が必要になっていきますよね。

高宮 そこはどうなのでしょうか、IBMの社内にそのような機能を置くのは現実的ではないのでしょうか。

それとも尾原さんのような、紡ぐ人が間に入って橋渡しをするのがいいんですかね。

たとえば、KDDI社は非常に上手くやっているなと思っています。

KDDIと連携したいというベンチャー側のニーズに対して、ベンチャー連携担当の窓口のような人がいて、KDDIの各事業部門でこんなことをやっているから、それだったらこっち行けばいいよというコーディネートができる人材が、KDDIの社内に置かれているんですよね。

技術ではなくて、ビジネスだから分かり易いというところはありますが、そこの機能をどこで持つべきか、というのは難しい問いでしょうか。

尾原 仮説ですが、先ほどのAIをテーマにしたセッションでちょうど安宅さんと日立の矢野さんに挟まれて、もう素晴らしい未来の妄想トークが繰り広げられていました。

そこで矢野さんもおっしゃっていたのですが、結局この50年くらいで、生産性は50倍ぐらいに上がっていますと。

尾原 近年の生産性の向上は、主に蒸気機関から始まった、モーターですよね。モーターによって自動化が行わることによって、生産性の向上が実現してきました。

その手前に、フレデリック・テイラー(Frederick Taylor)という人がいわゆるBPR、業務分解の元のような考え方を発明しています。

あらゆる業務をプロセスとして標準化していくことで、その標準化したところに結局自動化できるモーターを入れられる、ということを発見できたことによって生産性が上がっているんですよね。

それと同じで、恐らく、どこに量子的な最適化を入れていくと生産性を劇的に上げられるのかという、分解の仕方のテンプレートを作っていくことだと思っています。

たとえば、僕はこれを最近「風が吹けば桶屋が儲かる力」と呼んでいるのですが、世の中の現象には、職人が何となく感じているこういう天気の時にはこういうことが起こるよね、というようなことがたくさんあるんですよね。

今までシミュレーションできなかったものが、AIや量子コンピュータによってシミュレーションできるようになると、そのようなことも実際に試せるようになります。

理屈は分からないけれど、工学的にこうやればこうできるというものがたくさん発見できるようになりますね、という話もそうです。

ナノマシーンのようなスモールコンピュータが出てくることで何が起こるかというと、実はセンシングの民主化というか、今まで論理的にセンシングができなかったところが、極めて低コストでセンシングできるようになる可能性が生まれます。

温度データであるとか、量変化データを極めてミクロで取って「いろいろな最適化ができる」ということを発見し、センシングのパターンを限定させると、恐らくコストは非常に安くなりますよね。

このように、どのようなフレームワークで自分がやっている事業を分解するか。つまり、ミクロでここがセンシングできるようになればここが自動化できるだろうとか、マクロでここがシミュレーションできるようになるともっとPDCAを回せる、というようなテンプレートを作っていくことだと思うんですよね。

量子コンピュータを使うフレームワークをつくれるか

高宮 何か世の中に課題があって、それを解決するバリューがあった時に、バリューを機能要素分解した時に、どういう機能が必要で、その機能を実現するためにどういう技術があるのか、というようなことを、きちんとビジネス視点でブレークダウンしていって「How」に繋げるということですね。

尾原 はい。そこが違いです。

今までのBPRというのは、基本的にバリューチェーンと呼ばれるプロセスに分解する力が大事だったのに対し、これからはむしろ、どこまで広いソリューション空間で捉えたら、何ができるかというチャンクの上げ下げですね。

尾原 全体最適化を上げることにより実はものすごい最適化の角度が見え得るというところの、要素の上げ方というのが一つ。

逆に、今まではここが測れないから全体最適ができなかったけれど、先ほどのナノセンサーのようなものがあったら最適化が可能となる、というようなミクロな見方。

このようなマクロとミクロの上げ下げというところが大きいのではないのかなと思います。

高宮 そうすると、粒度設定がビジネスを考えるうえで大事ということですよね。

尾原 そうです。

高宮 僕のお昼ご飯は何が最適かを地球シミュレーションで考えても仕方ないと。

尾原 でも、そこでいう高宮さんのお昼ご飯というのは、欲望にまみれて(笑)、もしくはこの一時間前のストレスの高いミーティングをどう解消するかという最適化しかしていないわけですよね。

でも、これからの人生50年の単位で考えて、僕としては高宮さんに長生きしてもらいたいという観点で最適化した時に、さて今何を食べるべきか、という話だったりもしますよね。

高宮 ありがとうございます(笑)

(続)

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/立花 美幸/鈴木ファストアーベント 理恵

【編集部コメント】

尾原さんが最後に出していた、お昼ご飯の例がすごい分かりやすかったです。ナノセンサーによって人の細胞レベルでセンシングができるようになった未来ってどんななのでしょう?(横井)

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