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4.社会課題に取り組む硬派なメディアはどう収益化するのか?

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「今後のメディアやジャーナリズムはどうなっていくのか?」7回シリーズ(その4)は、“ミスター社会問題”ことリディラバの安部さんに、社会問題の現場発信の実例とその課題について語っていただきました。是非御覧ください。

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2018は2018年9月3日〜6日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


【登壇者情報】
2017年9月5〜7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2017
Session 8D
今後のメディアやジャーナリズムはどうなっていくのか?

(スピーカー)

安部 敏樹
一般社団法人リディラバ 代表理事/株式会社Ridilover 代表取締役社長

今田 素子
株式会社インフォバーン/株式会社メディアジーン
代表取締役CEO・ファウンダー

佐藤 慶一
講談社
「現代ビジネス」エディター/ブログ「メディアの輪郭」著者

堀 潤
ジャーナリスト/NPO法人「8bitNews」代表/株式会社GARDEN代表

(モデレーター)

瀬尾 傑
講談社
コミュニケーション事業第一部部長

「メディアやジャーナリズムの今後」の配信済み記事一覧

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最初の記事
1.新しいメディアを創るリーダーたちが語るメディアとジャーナリズム

1つ前の記事
3.メディアの新たなマネタイズのモデルとは(インフォバーン今田氏)

本編


瀬尾 ここで安部さんに話をしてもらおうと思います。

「ミスター社会問題」の安部さんは最近メディアを始めたんですよね。

安部 そうですね。

僕は最初の頃からメディアをすごく意識していました。

2009年頃にリディラバという社会問題の現場を回るツアーを作るという仕事を始めたんですけど、元々は仕事ではなくてボランティア・コミュニティで始まりました。

その時、何を思っていたかと言うと、当時Twitter等が登場した時期でSNSが非常に流行っていました。

皆が「Twitterやばいよね」と興奮していた時に、一方で僕は物事を斜に構えて見ているので本当かな?と思っていました。

どういうことかと言いますと、メディアは結局どのぐらいの時間をユーザーから奪い取るかという話にしかならないですが、Twitter1つのつぶやきは1人あたり10秒ぐらいしか時間を奪えないからです。

10秒で人生が変わる人はあまりいないので、そうするともっと長く時間拘束をするものを作らないと、人生が変わるようなきっかけになっていかないのではないかと思いました。

時間拘束の長さを考えると圧倒的に旅行が良いなと思い、ツアーというメディアを作ろうと思ってスタートしたのがリディラバでした。

社会問題の現場についてツアーというメディアで発信する

安部 そのような意味ではずっとメディアについては関心がありました。

一般社団法人リディラバ 代表理事/株式会社Ridilover 代表取締役社長 安部 敏樹 氏

社会問題の現場へのツアーというメディアを作った後に、2010年か2011年ぐらいにおそらく非営利セクターで初めて我々がネットサービスを作ったのですが、「TRAPRO(トラプロ)」というCtoCのユーザー投稿型のメディアを作りました。

当時は、NPO、ソーシャルセクターから新しいメディアサービスを作るというのが珍しく、バズって、色々な人が書いて投稿してくれました。

リリースの2日目か3日目にすごく私の中で印象深い記事が投稿されました。

それが摂食障害の記事だったんです。摂食障害というのを、私は社会問題を扱っていながら全く知りませんでした。恥ずかしながら、そんなものがあるのだと。

摂食障害では、過食と拒食を繰り返したりしながらも、その裏にあるのは心の病です。しかも身体的には急激に太ったり急に痩せたりを繰り返すので命の危険もある。

その記事は当事者の女の子が投稿してくれたのですが、自分の裸の写真をそのまま載せていたんですね。お腹に水が溜まってしまっているような写真でした。

途上国で僕らが見る子どもの貧困の様子みたいな絵が、日本の国内の女性の裸として存在しているということに非常に驚きました。

その1つの記事で50万から60万PVまでいったんです。

こんなふうに我々の知らない問題が世の中にまだたくさんあって、そのような問題をユーザーからすくい上げるのがあるというのは良いなと思いました。

この事業をもっとやっていこうと思っていたのですが、一方でやっていく中で色々な問題が出てきました。

ユーザー投稿型メディアの難しさ

安部 (ユーザー投稿型の社会問題メディアでは)裏取りされていないような、主観のみに基づいた意見が多く出てきてしまいました。

ちなみに、社会問題は金にならないみたいな話になるんですけど、そんなこともないかなと私は思っています。

社会問題の現場は過剰にロックな人が多いんですよね。

過剰にロックな方々のテイストを少し変えられれば、読み応えのある情報がきちんと届くようになるのではないかというふうに思ってはいたのですが。

それでもやはりロックな方々は偏りがちで、この方々の情報をそのままプラットフォーマーとして出して良いのかということが課題になりました。

例えば過去問題となった事例を挙げると、子どもの連れ去り問題に関するものがありました。

特に男性に起こりやすいことなのですが、離婚をすると、自分の娘、息子の親権が母親に行く場合が多い。

その中で裁判の時点では「月1回会わせます」とは言っていたはずが、母親がダメだと言って会わせなくなるケースが時々あります。

ここ5年ぐらいで、会わせてもらえない側が声を上げる動きが増えてきました。

このようなものが子どもの連れ去り問題と呼ばれています。このテーマの記事もTRAPRO上に投稿されました。

本人の悲痛な心の叫びとしては言っていることは確かに正しいのですが、法律的な定義が間違っていたり、誤った情報がまことしやかに語られてしまっていることがあったりしたのです。

そういったものは弊社の記事として出せないと判断し、ユーザー投稿型は数年前に一度諦めました。

そんな中で今は新しく「リディラバジャーナル」という名前で、我々が社会問題という形で調査をして、メディアとして出せるような形に変わりましょうということを考えています。

▶編集注:2018年1月に「リディラバジャーナル」がリリースされました。

先日クラウドファンディングを集めさせてもらって、ありがたいことに1,500万円ぐらいお金をいただきました。

そのお金でユーザーインターフェイスから編集体制まで作っているというところなので、メディアというのは私はここ10年近くテーマとして持っていたものではあります。

社会問題の現場発信をいかにマネタイズするか

 社会問題の現場はなかなかお金になりにくいですねという話の「お金になりにくい」というのは、パイをどの程度に設定するかによって全然違うなと思っています。

ジャーナリスト/NPO法人「8bitNews」・株式会社GARDEN 代表 堀 潤 氏

実を言うと、お金にならないことは全くないどころか、「原石」を欲している人はいるにはいる。

しかし今までのように既存の社員1,000人ぐらいを抱えて企業として運営する運営体としてはなかなか満足のいく額ではないと。

とは言っても、例えば10人とか20人ぐらいの集団や個人が欲している情報という単位で考えて発信したい人たちの支援で考えると結構お金が集まります。

安部さんが先日取り組まれていた、社会問題をきちんとメディアでやりたいというクラウドファンディングに1,000万円規模のお金が集まるというのはそれの表れだと思っています。

僕らもクーリエ・ジャポンの皆さんとイベントをやる場合、例えばガザ報告のイベントを100人規模の会場でやりますと言うと瞬殺です。

1,500円から3,000円ぐらいチケット代を取ったとしてもあっという間に売れて、月に複数回そういうイベントをやったりするのですが、埋まらなかったことはないぐらいです。

だから、ある人々はすごく関心があるし、マスメディア側のニーズ、特にテレビ、ラジオ、ウェブ系のメディアもそうなんですけど、そういうネタがここにありますと言うとぜひそれでやってくださいとお呼びがかかることもたくさんある。

そういうことを考えると社会問題そのものの需要はあるし、お金にはなるけれども、従来型のような巨大事業体を維持するほどのものではないという気がしています。

安部 僕は結構な規模までいけると思いますよ。

例えば社会問題というと言葉として硬いからどうかというのはあるんですけど、調理の仕方は2つあると思います。

1つ目は見せ方・スタンスを明確にして変えていくというのがあって、これはおそらく(米国の)VICEのようなメディアです。

▶参考:革命的メディアVICE、年商1200億円?!(日経ビジネスオンライン)

私も基本的には社会貢献という言葉は嫌いで、「社会問題はどちらかと言うともっとロックだろう」と思っています。

そのように考えた時にすごく先行事例で良いのは、VICEなんですよね。

VICEは若者にとってクールでかっこいいイメージのメディアで、ドラッグやギャングといったパンクな話題を扱っています。

しかし、「ガザでこんな紛争がありました」とか「ロシアがウクライナに侵攻したらこういうことがありました」というような話もきちんと取り上げていて、それが多くの若者に読まれて広告収入でお金も稼げる。時価総額も1,000億円を超えています。

そういったメディアも出てきているので、スタンスを明確にすることと、そのスタンスをトップから記者まで徹底することが大事なのではないかと思います。

VICEのトップも突き抜けた感じの方ですが、その突き抜けた感じに「セクシーさ」を感じて記事を読みたいなという欲求が出てくると思います。

現在、既存メディアのトップは普通のサラリーマン社長であったりもするので、トップのスタンスにお金を払うとなりづらい。スタンスを明確にしてそのスタンスにお金を払ってもらうというのは一つの手だと思っています。

1つ1つの記事ではなくて、こういうスタンスをパッケージにして行く、と。

もう1つ、社会問題に関して言えばば、ガバメント(政府)マーケットに入っていくのが大事だと思っています。世界中のGDPの2、3割というのは、ガバメントマーケットのお金なわけです。

日本も世界と同じぐらいお金を使っていて、100兆円以上のお金を使っています。しかもここは民間があまり入ってきていないのでマーケットとしてあまり効率化されていない。

ガバメントマーケットに民間企業が入ってきてマーケットを開拓すれば、ブルーオーシャンなので結構利益が出ると思っているのですが、そこへの入口としてのメディアいうのが2つ目のあり方だと思っています。

産業としてここにはブルーオーシャンがあるということを示すと。国内でブルーオーシャンはほぼないので、しかもそれは将来の輸出産業になりえるものかもしれません。

そこへの水先案内人として「開拓するための道具を配ります。それがうちらのメディアの役割なんです。」という考え方もあるかなと思っています。

ある種の新しい産業への水先案内人としてのソーシャルイシューというのもあると思うので、この2つのどちらかをきちんとできれば結構大きな規模で収益化できるのではないかなというのが私の仮説としてはあります。

瀬尾 僕もそのスケールの部分はすごく悩むところです。

現代ビジネスなんかでも将来の設計図として、例えば講談社から切り出して1つの独立した会社にして、場合によっては将来的にIPO(株式公開)を目指すような独立したメディア企業にもっていくという考え方はあると思っています。

そういう意味ではスケールというのは大事だなと思っていました。

しかし、最近考え方が変わってきて、むしろスケールよりも持続可能性の方が大事なので、長続きするモデルを設計していくほうが良いんじゃないかなと思っているんですよね。

(続)

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続きは 5.NHKのように「個々の番組」ではなく「放送局」にお金を払ってもらう仕組みが必要 をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/浅郷 浩子/尾形 佳靖

【編集部コメント】

今回話題に上がったVICEのウェブサイトを訪問してみたのですが、トップニュースの見出しの見せ方がとてもユニークで、取り上げるニュースはさることながら、サイトデザインにも国内メディアにはない“ロック”さを感じました。(尾形)

他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

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