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ICC FUKUOKA 2024のセッション「大人の教養シリーズ 経営者になぜ「哲学」が必要か?」、全7回の最終回は、哲学者はビジネスで必要とされたいと思っているのかという問いに対して、哲学者の谷川 嘉浩さんがビジネス界に入って来た哲学者たちを紹介。これまでの議論でモヤモヤ感漂う本セッションを、モデレーターの博報堂 嶋 浩一郎さんはどう結論づけて終わるのでしょうか? 最後までぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 5D
大人の教養シリーズ
経営者になぜ「哲学」が必要か?
Supported by エッグフォワード
(スピーカー)
石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事
田中 安人
グリッド CEO / 吉野家 CMO
谷川 嘉浩
哲学者 / 京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師
山崎 はずむ
Poetics
代表取締役
(モデレーター)
嶋 浩一郎
博報堂 執行役員/博報堂ケトル クリエイティブディレクター・編集者
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哲学者はビジネスで必要とされたいのか
石川 今、哲学について話していますが、これを「文化」に置き換えたときにも、今日と似たような議論になるかなと思うのですよね。
少なくともこの日本においては、明治以降、経営者はやたら文化にお金と時間を使ってきています。
ちょっと前だと「メセナ活動」という一大ブームがあって、アートや色々な伝統芸能にお金を使ってきました。
ちょっとわからないですが、今は多分そんなに文化にお金を使っていないですか?
谷川 コンサートホールを造りましょうみたいな企業は、あまり聞かないですよね。
石川 文化に置き換えるわけではないですが、文化があれだけ必要とされたのだったら哲学が必要とされることも可能な気はしますが、そもそも哲学者が望んでいるのかという問いは聞いてみたくて。哲学者は経営者と話したいのか……。
嶋 これは先ほども出た、象牙の塔からどうして降りてこられないのか、降りてきたい哲学者はこれから増えていくのか、世界でそういう哲学者の事例があるのか、ぜひその辺りを最後に伺いたいですね。
谷川 世界的に見て、やはり人文学はそんなにポジションが盤石ではないですよね。
というか、大学自体がそんなに盤石ではなくなってきました。
商業化したり、自分で予算を確保しなさいとか、寄付金を集めなさいとか、色々な経済的基盤が弱まっているけれど大学院生たちはたくさんいるような状況で、あえて引きこもっている層、つまり世間の荒波が厳しいからこそ、ここを守ることでなんとか自我を保っている層はいます。
逆に、だったら就職あるいは起業しようよという山崎さんみたいな人は、若い研究者でも結構いて、哲学で修士までいってからデータサイエンティストになった方や、働きながら哲学の学位を取っていますという方も日本にはぼちぼちいますし、海外でも何例かあります。
(2024年の)1月頃に、『マネジメント神話――現代ビジネス哲学の真実に迫る』という翻訳本が出ました。
著者は、もともと哲学の博士号を取得して、そこからコンサルタントになってしばらく活動して、今は文筆家をしているというすごく変わった経歴の方です。
▶️マシュー・スチュワート…経歴など(明石書店)
あるいはクリスチャン・マスビアウの『センスメイキング』が翻訳されましたが、彼も人文学と経営みたいなものをなんとか上手く結びつけたいと思っている人です。こういう人は、世界的に見てもかなり出てきていると思います。
▶センスメイキングとは何か(ハーバード・ビジネス・レビュー)
だから、どんな哲学者も望んでいるとは言えないのですが、望んでいる人が増えてきているの確かだと思います。
哲学者は象牙の塔にこもっても、降りて来てもいい
石川 アーティストはパトロンになってほしいから、経営者との接触を熱望しますよね。
哲学者はどうなんでしょうか?
このままいくともう明らかに希望が見えないというか、国もサポートしてくれないし。
谷川 そうですね。でも別に哲学のパトロンになろうとは思わなくてもいいんじゃないかなと思いますけどね。
石川 その根性がダメなんじゃないですか(笑)。
谷川 あっ、それがダメなんですね(笑)。
(一同笑)
石川 わからないですけど(笑)。
嶋 今日ここに経営者の皆さんがたくさん来ているので、その可能性を感じた方は?(笑)。
山崎 僕は、リサーチ・フォー・リサーチはあっていいと思っている立場です。
何を言っているかというと、降りてこなくても実はいいと思っています。
谷川 象牙の塔にいる人がいてもいいと。
山崎 いてもいいと思っています。
その理由は、多くのビジネスの場合、社会のために、世界のために、国のためにと言われることが多いと思いますが、「社会のために」という概念自体が、そもそもその時代において変わります。
例えば、これが80年前とかだったら、特攻隊をやるのは社会とお国のためにはいいわけですが、今だったらないし、50年前に石油化学工業をガーンとやるみたいなところというのは、今だったら絶対アウトだけど当時はいいみたいなのがあって、社会における良いというスタンダードは変わってしまうと思うのですよね。
何かにおいて良いということは何らかの政治的な価値観や、そのときどきの文化的背景にかなり左右されます。
そうではなくて、ただ何かのためだけに、それこそ言語とは何か、感情とは何かというためだけに研究していくこと自体は産業から守られて一定程度あっていいと思います。
ただ、それが産業に降りてきたときには、例えばAIみたいな分野だと、どうしてもビッグクエスチョンに答えなければいけないので、意味が発生しうるなというところがあります。
そこは両方あって良くて、哲学者の中でこもっている人もいていいし、降りてきてもいいという人がいてもいいかなと思います。
だから、経営者も哲学をやってもいいし、やらなくてもいいというのが、極論かなとは思いますが。
嶋 なるほど、山崎さん、ありがとうございます。
そろそろ時間なので、お2人からも、今日話してみて、ここは哲学が経営に使えるかもしれないという感触や思ったことを、石川さんからお願いします。
グレーなものはグレーなものとして受け入れよう
石川 だから、…どうなんですかね。
生きていて、今日のセッションみたいにモヤモヤすることってなかなかないですよね(笑)。
嶋 哲学は結論が出なくてもいいですね。
石川 結論はないし、あっち行ったりこっち行ったり。
谷川 むしろ疑問がなかったところに疑問を生み出してしまうのが、仕事かもしれないですね。
石川 例えば、「この絵は必要か?」みたいに、具体的にあるものではないじゃないですか、哲学は。
言葉の羅列ということだと思うので…、でも、言葉じゃないですよね? 文なんですよね(笑)(Part.4参照)。
山崎 今お話を聞いていて思ったのは、グレーをグレーなものとして受け入れられる態度が結構人文科学のいいところだと僕は思っています。
白黒つかない事象がむちゃくちゃたくさんある中で、それを無理に白黒つけようとすると、わかったふりをしてしまうとか、実は自分を納得させただけで、現実の複雑性と対峙できていないみたいなときがあると思います。
これはグレーだよね、わかり得ないよねみたいなところと付き合っていける態度みたいなものは、1つ人文科学、哲学の良いところかなとは思っています。
嶋 先ほどの、ビッグクエスチョンに対してちょっと待つみたいなことも含めてですね(Part.4参照)。
石川 例えば自然科学では、「生命とは何か」「重力とは何か」は、ものすごく手触り感のある分解可能なものになってきます。
「車とは何か」は、一応部品に分解できるじゃないですか。
でも、哲学だと言葉を扱っているので、例えば先ほどの「勇気とは何か」で(Part.6参照)勇気を説明するときに、他の言葉をたくさん使うから、はぐらかされているような気に僕はなります。
言葉を言葉で説明しようとすると、厳密に分解していないから、また違う概念に行った!みたいな、それを楽しめる人が哲学者ってことですよね?(笑)
谷川 そうですね(笑)。
何て言うんですかね、多分日常を生きていて、私たちは自分で「言葉を使っている」というよりも「言葉に使われている」のですよね。
自分の使っている言葉で自分をなんとなく説得してしまって、わかった気にさせているだけなのですよね、先ほど山崎さんが言っているみたいに(Part.5参照)。
そうではなくて、「えっ、あなたが使っているその言葉の挙動が変だけど?」とか、「その言葉を使っていると、ゆくゆくはこういう考えに行き着くけど、それって本当にあなたのやりたいこと?」とか、なぜかわからないですが、考えることができてしまうんですよね。
嶋 そこに相対化はあるかもしれません。
田中さん、最後にお願いします。
田中 僕は“なぜなぜ攻撃”を5回やるのは哲学的思考とわかっただけで今日は非常に勉強になりましたし、ビッグクエスチョンに対して原理原則でやるときに使っていこうと思いました。
「モヤモヤ」を抱えてセッションは終了
嶋 今日、いろいろ良いキーワードが出たと思います。
問いを5回繰り返して聞く、ビッグクエスチョンには立ち止まってみる、言語の定義は人によって違うから、そこを埋めていくところに哲学が果たす役割があるのではないか、最初のほうでは、カオスの中ではなく、ちょっと高い位置から世の中を見渡す視点を、哲学の天才たちから色々もらえるというような話が出てきたのではないかと思います(Part.2参照)。
哲学はまとめる必要はないので、皆さん、今日はモヤモヤしたまま帰ってください(笑)。
(会場笑)
石川 帰る前に、谷川さんと友達になってから(笑)。
(会場笑)
嶋 そうですね。谷川さんの本をぜひ皆さん、読んでみていただければと思います。
今日は石川さん、田中さん、谷川さん、山崎さん、どうもありがとうございました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成