ICC FUKUOKA 2024のセッション「Well-being産業の今後(シーズン4)」、全5回の③は、石川 善樹さんが、「自己肯定感」と「自己効力感」の違いについて、日本人の特性を交えながら丁寧に解説。楽天のChief Well-being Officer小林 正忠さんは、多忙な中でもWell-beingを感じるための余白の作り方を伝授します。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは住友生命保険です。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 8F
Well-being産業の今後(シーズン4)
Supported by 住友生命保険
(スピーカー)
石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事
小林 正忠
楽天グループ
Co-Founder and Chief Well-being Officer
福田 恵里
SHE
代表取締役CEO/CCO
矢田 明子
CNC
代表取締役
(モデレーター)
藤本 宏樹
住友生命保険相互会社 上席執行役員兼新規ビジネス企画部長 / SUMISEI INNOVATION FUND事業共創責任者
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▶「Well-being産業の今後(シーズン4)」の配信済み記事一覧
自己否定した自分を、さらに否定してくれる仲間がいるかどうか
正忠 お二人の話を聞いて思ったのですが…最初、「自己肯定感」が低いとスライドに書かれていて、途中、「自己効力感」の話になっていましたよね。
自己肯定感とは、自分の現状のポジションを肯定できているかどうかで、自己効力感はどちらかと言えば「あれもできるようになるだろう」という、未来についてですよね。
自己肯定感が得られて、自信のある部長の場合は、さらに上を目指していけるのでしょうが、自己肯定感の得られていない部長だと、きっと自己効力感は生まれないので、違う環境で新たに自己肯定感を見つけるほうが良いのでしょうか。
例えば、東京という土地ではやさぐれてしまったけれど、全然違う環境である地元では認めてもらって、自己肯定感という土台が得て、その上に自己効力感を積み上げていける、みたいな感じかなと思ったのですが、どうでしょうか?
石川 自己肯定感とは、複雑な概念なので難しいのですが…なぜなら、まず、そこで言う「自己」とは誰かという問題があるのです(笑)。
欧米だと、自己とはこの肉体を指します。
でも日本では自己の概念が広くて、チームメンバーも含めて自己なのです。
自己の概念の広さが、日本と欧米で違うのです。
もう一つ、「肯定」とは何かについても、日本と欧米で違います。
欧米における自己肯定とは、この肉体である自分が「OK!」ということです。
でも日本流の自己肯定は、「私なんてまだまだです」と一度否定した人に対して、周囲が「そんなことないよ」と否定することで生まれます。
つまり、自己否定を否定されることで肯定されるという構造になっているのです。
人事査定などでも、一般的には、「私はこんなにすごいです!」とは絶対に言わないと思います。
「まだまだです」という人に上司が「そんなことないよ」と言って、「恐縮です」というような会話がなされていると思うのです(笑)。
日本女性の自己肯定感が他国より低いというのは、文化としてそうなのです。
なぜなら、自己肯定の概念がそもそも違うからです。
どちらかと言えば、自己否定した自分をさらに否定してくれる仲間がいるかどうかがすごく大事です。
そういう意味でSHElikesはコミュニティを持っているのが良い点なのだろうなと思いますね。
パーソルが、「はたらくWell-being」というものについて、グローバルで調査をしています。
▶「はたらいて笑おう。」グローバル企業調査(パーソル)
それを見ると、日本人は全体として、諸外国と比べてもそこまで悪い結果ではありません。
40~50代の日本人男性のはたらくWell-being度は結構良いのですが、飛び抜けて低いのが20~30代日本人女性です。
ということは、そこに何かチャンスがあるということなので、福田さんが事業をされているのかなと思います。
藤本 なるほどね。
Well-being度を決定する「選択」と「自己決定」
石川 結局、Well-being度が低い原因は、選択肢がとにかく足りていないことです。
Well-beingの最重要決定要因は、「選択」と「自己決定」なのです。
Well-being度が低い人たちがいるとしたら、彼/彼女らには、選択の自由と自己決定が足りていないのです。
逆に、それさえ提供できれば、Well-being度は上がり、自己肯定感、自己効力感も感じられるようになります。
例えば、最近はみんながNISA制度を使って投資をするようになりましたよね。
なぜかと言うと、金融庁が商品数を減らしてくれているからだと思うのです。
これまでの投資は、商品数、つまり選択肢が多すぎて自己決定ができなかったのです。
金融庁が、日本人でも安心して投資できる商品にグッと絞ってくれて、投資が選択と自己決定の範囲内に入ってきているので、投資する人が増えているのではないかと思いますね。
藤本 これはある人に教えて貰ったことですが、部下のワークエンゲージメントを高めようとする時、「willを持て」と言うケースが多いようです。
でも、Willを持てと言われて、すぐに持てる人がどれだけいるでしょうか?
そんなこと言われても、それが見つからないから困ってるんですよね。
ですので、willではなくできること、つまりcanの幅を広げると、自然とwillを持てるようになるということでした。
willを持ってもらうためには、canの幅を広げるところから始めなければいけないようです。
僕は自己紹介のとき、「やる気、元気、宏樹です!」と言っているのですが、今後は「やれる気、元気、宏樹です!」と言おうと思います。
やれる気を持つためにcanの幅を広げることが、やはりWell-beingには大事なのではないでしょうか?
「will」や「well」の定義はこうも違う
石川 それも、そこで言うwillとは誰のwillなのかという点が大事です。
自分というものの範囲が狭い人はmy willで良いのです。
my willから始まり、my willを世の中のwillにしていきたいと考えるのです。
でも自分というものの範囲が広い人の場合、our willから始まるのです。
つまり、そういう人はチームの力になりたいと思うのです。
でもそれは、自分というものの範囲が狭い人からしたら、willではないと言われてしまいます。
その対立は常に起きていると思います。
日本人は、約7割が自分というものの範囲が広い人たちであり、これは欧米と違う傾向です。
彼らに「あなたは何がしたいのですか?」と聞いても、答えが出てこないのです。
チームの力になりたいという答えが出てくるのですが、それは、willではないと言われてしまう悲しい現実があるのです。
そういう葛藤を抱いている人の話をめちゃくちゃ聞きますよね。
正忠 それはマスメディアの影響が大きいと思っています。
敗戦国であるという事実もあるかもしれませんが、西洋の物差しを当てられているわけですよね。
Our willよりもmy willが上位概念だと。
でも僕らは昔から、コミュニティのwillの中に自分がいたわけです。
Well-beingが謳われるようになり、ようやく日本でも、緩やかにですが、西洋の物差しを使わなくてもいいのではないかと考える人が増えていきているのではないかと思いますね。
僕は、そういう希望を持っています。
石川 世界全体で見ると、西洋は人口がそこまで多いわけではありません。
逆にこれからイスラム教徒は、世界人口の3分の1にまでなっていきます。
イスラム教では、全ては神の意志だという考え方をします。
例えば僕が転んで、イスラム教徒である正忠さんが助けてくれるとします。
転んで、助けてくれた人がいたら、ありがとうと言うのは当たり前ですよね。
でも、イスラム圏では、ありがとうと言うと怒られるという話があります。
藤本 何で?
石川 なぜなら、僕が転んで正忠さんが助けたのは、神によって決まっていたことなので、感謝すべきは正忠さんではなくて神だろうと。
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概念が全然違うのです(笑)。
つまり、willとはどのwillなのかという前提が人によって違うのに、その違いを確認せずにコミュニケーションをしてしまっていることが多いなと思いますね。
藤本 なるほどね。
正忠 「will」もそうですし、「well」の定義もですね。
これは社内でもよく話すのですが、Well-beingのwell、つまり良い状態の「良い」が、あなたにとっての良いではなく社会にとっての良いに当てはめようとするのが、日本人の多くがしていることです。
親や先生が良いと言っていること、良い会社、良い大学など、必ずしもその人自身の「良い」ではないかもしれないものを、自身の「良い」にしようとして、苦しんでいます。
日本人の方向性は外から内
福田 すごく面白いです。
先ほどの、my willとour willについてですが、欧米的なmy willを求められがちな中、誰かにour willを語られた時、「人の役に立つと認められて好かれるから、その行為がwillだと思っているだけであり、本当は他にmy willを持っているのでは?」と、その人に伝えることが結構あるのではないでしょうか。
つまり、our willはour willでいいのか、それとももう一皮むけるべきものなのか、どう考えればいいのでしょうか?
石川 その点は、クロード・レヴィ=ストロース(1908~2009)という人類学者が日本に来た時、自己の概念が全然違って驚いたらしいです。
詳しくは『月の裏側』という本に書かれていますが、西洋人は自分というものを出発地点だと思っていて、自分から外に働きかけていく、つまり、自分の中にあるものから始まって、外の世界である社会に働きかける。
逆に日本人は、どうも自分というものを終着点だと思っている節があると。
困っている人がいるとか、あそこで山が崩れているとか、外の世界から始まって自分に取り込んでく。
方向性が外から内であり、最終的に「自分が何をしたいのか」は出てくるのですが、それは終着点となるのです。
この傾向は、日本における色々な所作に見られると書かれています。
例えば包丁やノコギリも、西洋では、自分から外側に押し出すのですが、日本では外側から手前に引くのです。
踊りについても、西洋では外側に向けた振り付けですが、日本では、阿波踊りもそうですが(笑)、外から内側に向かった振り付けです。
▶阿波おどり 阿波おどり振興協会編(YouTube)
内から外か、外から内かという違いがあるということを昔、クロード・レヴィ=ストロースという学者が指摘していたという話です(笑)。
正忠 踊りの件がなければ、みんな信じたのに、踊りの話を聞いた瞬間に「え、この話ちょっと…」という反応が(笑)。
(会場笑)
石川 (笑)色々なところで、内から外、外から内の構造があるということを言いたかったのですが(笑)。
藤本 先ほどのour willに戻りますが、SHElikesがリスキリング事業だとすると、個人のcanの幅を広げてmy willを持とうということになりますが、そうではなくて、熱狂的なコミュニティを作ることでour willになっているのでしょうか?
福田 そうですね、our willを持っている方がほとんどです。
コミュニティの中で誰かの役に立つこと、例えばSHElikesを長く受講いただいてる人が最近入ってきた人たちに手助けをしてあげたり、何かを教えてあげたりすることで、自己効力感が高まることもあります。
SHEへのエンゲージメントが上がることもあり、それでコミュニティの熱狂度が作られているのですが、先ほども話した通り、コーチングでは自分のwillも研ぎ澄ましていってもらいます。
例えば、コミュニティに貢献した時が嬉しい時であるとか、外で自分の心が動いたポイントを棚卸しし、見つめ直して、最終的に自分の幸せはどういうものかについて、内省してもらいます。
外から内という風に考えたことはなかったのですが、「シーメイト」と呼ばれるSHElikesの会員の中で起こっているだろう、心の動きにも通じるものがあるなと思って、石川さんの話を聞いていました。
「みんなの喜び=自分の喜び」の人は気をつけて
石川 起業家は、内から外タイプがほとんどです。
チームの力になりたいという人が現れたとして、それは起業家からすると意味が分からないのだろうと思います(笑)。
日本人の7割くらいは、内から外タイプではないと考えたほうが良いです。
周りが嬉しいと自分も嬉しい人は、一方で潰れやすくもあります。
仕事をどんどん引き受けてしまうからです。
テクニックとして断る術を身につけないと、潰れやすいと言われています。
断るときは、「あなたの力になりたいけれど、今の状況だと、あなたの力になれそうにないのでこの仕事はお断りさせてください」というような言い方を覚えるということですね。
みんなの喜びが自分の喜びだという人は、どんどん引き受けてしまいます。
これが、20~30代の日本女性のWell-being度が低い理由の一つかもしれないと思っています。
40〜50代になると、断る術を身につけて安定するのかなと。
福田 自分自身も、最初から内から外へのmy willがあったかというと、そうではなかったと思っています。
10代、20代はやはり人からの評価、人が喜ぶことをすることで自分を認めることのほうが多かったので、それを繰り返す中であっぷあっぷし、勇気をもって断る、嫌われる勇気を持つというプロセスを経て、ようやくmy willを持てるようになりました。
自分を振り返ってそう思うので、歳を取ると変わっていくのかもしれないですね。
石川 そもそも、孔子も『論語』でmy willが生まれるのは50歳頃だと言っています。
天命を知るのは50歳頃だと(笑)。
それくらい、アジア人は時間がかかるのだと思います。
藤本 なるほど。
持つべき余白は自分でデザインしよう
藤本 若い女性のWell-being度、幸福度、生活満足度が低いのは、精一杯、子供を育てる、仕事もする、リスキリングもする、とフルに詰まっていて、正忠さんの言う「余白」がないのではないでしょうか。
余白がなければWell-beingにはなりませんよね。
ぎっしり詰まっているほうが幸せな人もいるかもしれませんが、ハンドルに遊びがない状態になっているとWell-beingではないので、余白作りをしないと根本的には解決できないのではないでしょうか。
正忠さん、いかがでしょうか?
正忠 僕はそう思っていて、そう提唱しています。
おっしゃる通り、あれもこれもそれもやっている中で、さらにリスキリングなので、SHElikesのコミュニティにいる方々はどういう状況だろうかと思っています。
藤本 でも楽天は、「スピード!!スピード!!スピード!!」(※楽天内の成功のコンセプトの1つ)のイメージがあるのですが…余白はあるのでしょうか?
正忠 スピードが速くても、その機会を作ればいいのです。
我々は「デザイン」と表現していますが、仲間、時間、空間にそれぞれ余白を作れるように、意志を持ってデザインすれば良いと思っています。
自分が誰と会うかは、自分で決められますよね。
同僚としか会いません、家族としか会いませんではなく、外部セミナーやICCサミットに行ってみることもできます。
それは仲間ですよね。
朝9時から夕方5時まで働くことが決まっていても、その前、その後、もしくはランチ時間にどういう時間を過ごすかは自分でデザインできるので、意志を持ってそこに余白を持たせればいい。
空間も、家と会社の往復だけではなく、帰る前にちょっとカフェに寄っても、朝散歩してから出社してもいいし…意志を持てばデザインできると思います。
どれだけ詰め込んで働いていても、余白は振り返る機会になるので、その機会をデザインしておくのがいいと思います。
藤本 なるほど。
(続)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成