ICC FUKUOKA 2024のセッション「Well-being産業の今後(シーズン4)」、全5回の最終回は、CNC矢田さんの話に続いて、石川 善樹さんが、能動的なWell-beingの仕組み化の必要性を訴えます。ディスカッションの締め括りは、登壇者全員が今日の感想や今後の展望を発表します。最後までぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは住友生命保険です。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 8F
Well-being産業の今後(シーズン4)
Supported by 住友生命保険
(スピーカー)
石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事
小林 正忠
楽天グループ
Co-Founder and Chief Well-being Officer
福田 恵里
SHE
代表取締役CEO/CCO
矢田 明子
CNC
代表取締役
(モデレーター)
藤本 宏樹
住友生命保険相互会社 上席執行役員兼新規ビジネス企画部長 / SUMISEI INNOVATION FUND事業共創責任者
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▶「Well-being産業の今後(シーズン4)」の配信済み記事一覧
藤本 皆さん、コミュニティナース事業についてどう思われますか?
戦後の日本人を健康にしたGHQ
石川 歴史的な話をしてもいいですか?
日本は今でこそ健康長寿の国ですが、戦後すぐは全くそうではなかったのです。
それを短期間で劇的に健康にしたのが、GHQ(第二次世界大戦後に連合国軍が日本占領中に日本に設置した総司令部)です。
GHQは治療に加えて、予防に力を入れました。
予防の仕組みとして、保健所というものをたくさん、全国800箇所に作ったのです。
戦後の日本の人口は8,000万人ですが、10万人あたり1つ作ったのです。
当時のGHQの合言葉は、「改革は急げ、ゆっくり行くとつまずくぞ」でした。
まず東京都杉並区に保健所を作り、そこに全国からコミュニティナース、日本語で言うと保健師を集め、予防を専門に行うプロフェッショナル集団を作ったのです。
まさに矢田さんがしているように、各地域に入って関係性を作っていくような人たちでした。
1年目は杉並区だけでしたが、数年間で全国800箇所にまで広げ、8,000万人をカバーしたのです。
その結果、日本人の平均寿命が劇的に長くなったのです。
未だに、過去あれほど劇的な変化をしたのは日本くらいです。
▶わずか6年で日本人の寿命は25年伸びた――私たちが知らないGHQの人類史的偉業(石川善樹『〈思想〉としての予防医学』第4回)(PLANETSチャンネル)
平均寿命があまりにも伸びたので、マッカーサーはアメリカから怒られたのです。
「何でこんなに健康にしてるんだ、元気になったらまた歯向かってくるのでは?」と怒られるくらい(笑)、健康にしたのです。
つまり、コミュニティナースのような仕組みは、これまでも間違いなく、客観的なWell-being、つまり平均寿命に貢献してきました。
1億総コミュニティナース化を急げ!
石川 今問題となっているのは、主観的なWell-beingです。
矢田さんはWell-beingについて、体験としては分かるけれど言語化が難しいと話されていました。
国の方針としては、主観的なWell-beingは「生活満足度」と訳されています。
しげさんの生活満足度が高いかと言われると、普通ではないかと思います。
日本はこの50年ほど、構造的に、生活満足度が改善していないし、悪化し続けています。
客観的には極めて豊かですが、主観的には満足できていないという状況です。
既存の保健所や保健師による仕組みには、まだまだ改善が必要な部分があるのだと思います。
そこにCNCが入ろうとしている構造かなと思いますね。
戦後の事例に倣うのであれば、ゆっくりしている暇はないのです。
改革は急げ、と。
1億総コミュニティナース計画は、すぐやったほうがいいです、一気に全国展開(笑)。
矢田 ありがとうございます(笑)。
地方の営利企業が参画してくれているところに、それを感じています。
彼らは横のつながりも持っているので、戦後の日本の国づくりはこんな感じだったのかなと思うくらい、地方のトップがトップに働きかけて、それぞれの領域を良くしようとしているように感じます。
また、皆さん、単年だけを見ていないのも面白いです。
ものすごく長期間で考えています。
ですので、短期ですぐに解決するというよりも、このような日常を広げるには時間がかかることも理解していて、それが当然という態度を取っています。
各取り組みはこれからローンチされていきますが、その1社であり関西エリアでローンチする、明石の兵庫ヤクルト販売の方も今日は来られています。
各ブロックを担う方が横同士つながって、一気に改革に向かわれるだろうと思っています。
藤本 東京はうちが!みたいに、取り合いになるのでしょうか(笑)。
矢田 (藤本さんを見て)お願いします(笑)。
藤本 (笑)コミュニティナースは、医療的なナースではないのですよね?
矢田 ナースではないです。ナーシングという行為であり、行為自体が重要です。
正忠 日本では、ナース=看護師とイメージしてしまうので、コミュニティナースと聞いた瞬間、地域の看護師かと思われるでしょうね。
藤本 そうですよね、ナースが病院から飛び出して街に行くのかなとずっと思っていました。
矢田 実際、コミュニティナースの中には有資格者もすごく多いです。
保健師が行っていた役割を社会実装
石川 どちらかと言えば、役所にいる保健師が昔行っていたことをしていますよね。
矢田 そうですね。
石川 役所には地域保健課がありますが、昔、保健師は特定の地区を担当しており、その地区の中の赤ちゃんからお年寄りまでを助けていました。
でも時代の流れの中で、地区担当制から、母子担当、高齢者担当などの機能制になっていきました。
その結果、地域全体を見る人がいなくなったのです。
その弊害があったので、最近は地域担当制に戻す動きがあります。
会社でも同じことが起こっているのではないでしょうか。
1つの取引先を1人で全部担当するのではなく、商品によって担当が分かれているとか…。
正忠 何とか事業部、何とか事業部というふうにね。
矢田 行政の仕組みは歴史的に中央集約型になってしまい、せっかくの公衆衛生の専門家である保健師が事務担当みたいになってしまいました。
▶保健師とは(全国保健師教育機関協議会)
石川 地域活動がどんどん事務作業になってしまったのですよね。
矢田 でも今の株式会社は、昔の保健師くらい、住民との直接の接点を持っていて、コミュニケーションを取っているので、広く住民情報を持っていることが多いのです。
彼らがコミュニティナーシングの起爆剤になって社会実装されていくのを見て、今がそういうタイミングなのかなと思っています。
日本人ならではの感覚を意識したい
藤本 残り時間が少なくなってきたので、登壇者それぞれから、最後に感想を頂きましょう。
今日の感想と、新たに取り組めばいいと思うこと、取り組みたいことなどがあればぜひ入れていただき、まとめの挨拶としていただければと思います。
矢田さんからお願いします。
矢田 今日のセッションテーマはWell-being産業でしたよね。
私たちは、こういうニーズや市場があるからこういうサービスを…という感じで事業を行ってはいませんし、パートナー企業に対しても、彼らがサービス提供者であるという感覚も持っていません。
ですので、「コミュニティナースは産業なのか?」と思うのですが、最後に言ったように、株式会社がコミュニティナース事業を行うことで、会社も、ユーザーと呼ばれる人を含む街の方々も、社会も渾然一体なのだという感覚が日本中に広がるという産業転換もあって良いと思います。
そういう捉え方をしていなければ、一方的にサービスを提供することしかできないと思うのです。
Well-being産業という文脈において、日本人ならではのこの感覚をもっと意識したいと個人的に思っています。
また、新しい事業ではなく、既存事業の延長としてでもコミュニティナース事業ができるのではないかと考えています。
その点も今後、皆さんと議論したいと思っています。
ありがとうございました。
福田 今日はありがとうございました。
矢田さんの話を聞いて、自分と通ずるものがあるなとすごく感じていました。
階層や上下ではなく、コミュニティナースに助けられた人がコミュニティナースになるとか、私たちで言えば顧客だった人がスタッフになるとか、みんなが自分の役割を有機的に変換し、その役割を果たすことがWell-beingにつながるのではないかと思います。
また、それが通用するのは日本文化の良いところです。
Usの概念というか、自分という概念を、チーム、家族、県、日本と、自分ごととして広げられる文化だと思いました。
欧米側に引き戻さなくても、日本の良さを活かした実装方法があるとも思いました。
すごく良い時間でした、ありがとうございました。
Well-beingは日本人に備わっているもの
正忠 この写真が全てかなと思いました。
アリストテレスが言うWell-beingとは徳のある社会であり、この写真は徳のある社会を写していると思います。
実は、西洋にはWell-beingはないのではないかと。
逆に僕らはもともとWell-beingを持っていて、この写真を見て心地よくて、何の疑問も感じず、このほうが良いよねと思えています。
徳のある社会を作ろうとしている中で、素晴らしいところまで来ているなと改めて感じました。
ありがとうございました。
石川 広く歴史を見た時、日本企業が順調だった1980年代は文化の保護に盛り上がっており、それをメセナ活動と呼んでいました。
古き良きものをきちんと守っていくとか、住友もそうだと思いますが、新しい美術品を保護するとか。
そういう文化がすごく盛り上がった時代がありましたが、今はどちらかと言うと、目の前にいる困った人や居場所がなくて孤独になってしまった人に、企業が目を向け始めていると思います。
昔は余裕があれば文化に向かって行ったのに、今は余裕が出てくると地域や人に向かっているのはなぜかについて、構造として僕はまだよく理解できていないので、次回があれば(笑)、突き詰めていきたいと思います。
藤本 次回があるかどうかは、皆様のアンケート結果次第です。
今の件や“爺likes”の具体像について深掘りしたいと思うので、次回シーズン5もあることを祈りまして、このセッションを終わらせて頂きたいと思います。
皆さん、本日はありがとうございました。
(終)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成