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「人間を理解するとは何か?(シーズン2)」全9回シリーズの(その8)は、リバネス井上さんが山形・湯野浜温泉のプレ高齢者を対象に実施した“ヒューマノーム研究”の結果を解説します。複数のベンチャー企業がタッグを組み、4週間にわたって住民のあらゆる生体データを測定したのだそうです。そこで明らかになったこととは? ぜひご覧ください!
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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
本セッションは、ICCサミット KYOTO 2019 プラチナ・スポンサーのリンクトイン・ジャパンにサポートいただきました。
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【登壇者情報】
2019年9月3〜5日
ICCサミット KYOTO 2019
Session 2B
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン2) (90分拡大版)
Supported by リンクトイン・ジャパン
(スピーカー)
石川 善樹
株式会社Campus for H
共同創業者
井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役副社長 CTO
川上(全龍)隆史
春光院
副住職
北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員CDO(チーフデータオフィサー)グローバルデータ統括部 ディレクター
(モデレーター)
村上 臣
リンクトイン・ジャパン株式会社
日本代表
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最初の記事
1. 今回も学び炸裂!「大人の教養シリーズ」第2弾、まずは前回のおさらいから
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7. 自己と外界を隔てるバウンダリーの消失が「Well-being」をもたらす?
本編
村上 ここで、もう1つ投げ込みがあるということで、浄さん!ついにきましたね。
井上 ありがとうございます。僕は「本当に」人間を理解したいんですよ!
村上 本業ですからね。
井上 いや、僕は憤っていますよ。世の中は人間を「平均」で表現し過ぎなんです!
「平均的な人間」はこの世にただ一人として存在しない
井上 だっておかしいじゃないですか。
僕らの体の状態は時々刻々と変化しているのに、健康診断を受けると平均値みたいな数値が出てくるでしょう?
「誰のだよ!?」って思いません?
それとか、血圧だって塩分の摂取で簡単に上がる人とそうでない人がいます。
でも世の中は一律で「塩分を控えろ」と言います。
そこに対する疑問が、僕の中ですごく根本的にありました。
幸いにも僕は研究者として、仲間たちと一緒にその会社にしかない測定技術など最新のものに接する機会が多いので、とりあえず自分を全部測ってみたんです。
そうしたらすごく面白くなってきて、これを一人ひとり、全員ができるようになったら、本当に人間が理解できるんじゃないかと思い、それを統合解析する会社をつくったんです。
それがヒューマノームラボという会社です。
▶ヒューマノーム研究所は、“データ駆動型サイエンス”で健康を理解し「人間とは何か」を探究する(ICC FUKUOKA 2019)【文字起こし版】
村上 本業を通じて、現在進行形で本気で人間を理解しようとしてるのが浄さんですね。
「食物連鎖の模式図」も実世界には存在しない
井上 先ほど北川さんが解説されたグラフの見方(本セッションPart5〜6参照)はとても重要だと思います。
僕も生態学の分野で同じような研究をやっていたときに目にしましたが、皆さん、概念図をよく見ますよね?
例えば「食物連鎖」です。下のほうにまず微生物がいて、そこから草や木ができて、その上に草食動物がいて、さらに上に肉食動物がいて、という三角形の図。
分かりやすくて大変よろしいと思います。
実は生態学者と数理生物学者と一緒に、ウェブ上に生態系をつくってみて、そこでみんなで遊んでくださいという試みをやったんです。
草を植えるとか、出てきた虫を殺すとか、それで食物連鎖がどう形成されるのかと思ったら、あの三角形は本当に一部でしかなくて、実はすごくウェーブしているということが分かりました。
下層が減って、中間層が増えて、徐々に上層が増えてをずっと繰り返しているのです。
一同 おおー、動的平衡!
井上 だからあの三角形は嘘!!あれは、本当は動いているんです。
村上 確かにそっちのほうが自然の理解に近いですよね。
人間だって、常にビシッとスタティック(静的)な人なんていないじゃないですか。
やっぱり我々は生きているし、止まってしまったらすでに死体ですからね。
動く中である程度、平衡や均衡があるということですね。
井上 そうなんです。それを踏まえて、僕自身のデータをずっと取っていこうと考えました。
要は人間一人のデータをずっと取っていったらどうなるかというのを、本気でやろうと思ってつくったのがこのプロジェクトです。
人間とは何か――に挑むヒューマノーム研究所
井上 そして最終的には「人間とは何かに挑む」です。これを会社化してやっています。
北川 おおっ!すごいですね。
村上 来ましたね! やっぱり!
井上 これを、実際に会社のホームページに書いているんですよ。すごくあやしいでしょう?
村上 若干中2っぽいですよね(笑)。
井上 ただ、研究者が本気でやっているということだけは、お伝えします。
何をやったかというと、ゲノム(DNAの塩基配列)や、“エビ”じゃなくてエピゲノム(DNAなどの化学修飾)も調べ、腸内細菌、睡眠、血圧も調べました。
村上 申し訳ありません、私エビが大好きでございまして(笑)。
▶編集注:本セッションのPart1で、村上さんはエピゲノムを「エビゲノム」と読み間違えて、井上さんから誤りを指摘されました。
井上 皆さんも、身体に関する何かしらの記録をつけていますよね。
例えば健康診断を毎年受けていると思いますが、あれも立派な記録です。
ですが、どれだけ自分にフィードバックされているでしょうか?
ああいうデータをとにかく全部集めてデータにしたときに、「自分」というものが浮かび上がってくるのではないかという渾身の動画を、前回シーズン1で発表させていただきましたので、今回は割愛させていただきます。
村上 結論から申し上げると、そんなに響かなかったので、モデレーター権限で割愛させていただきました。
(会場笑)
井上 大変憤っております!!
北川 自分自身にね(笑)。
山形・湯野浜温泉で実施した“ヒューマノーム”臨床試験
井上 僕はどうしたら人間というものを理解できるのか、ベンチャー企業のチームで丸ごと測ってやろうと思い、プロジェクトを立ち上げて臨床試験までやりました。
村上 これはすごい。
井上 4週間にわたり、我々のチームで取ることのできるありとあらゆるデータを25名分全部取りました。現状で取れるもの全部です。
この臨床試験をどこで行ったかというと、僕が今住んでいる山形県鶴岡市の湯野浜温泉というところです。
ここは鶴岡市の中でも最先端で高齢化が進んでいます。
村上 最先端で高齢化が進んでいると(笑)。
井上 はい。湯野浜温泉に住んでいる人たちは「ここがなくなってしまうぞ」と心配しているわけです。
でも100年続くような場所にしたくて、100年続くためには100年続いてきたものをもう1回見直してみよう、温泉と白浜と海、これだけは絶対変わらないぞ、と。
これをブランドにしようと思っています。
石川 湯野浜ということは、海に温泉が湧いているということですか?
井上 そうです。出てくる温泉はほぼ海水の温泉です。
温泉の大将たちが各旅館の垣根を越えて、自分たちの株式会社をつくったんですよ。
「湯野浜100年株式会社」という会社です。
それで「浄さん、何かやってくれないか」と僕が呼ばれて「分かりました!」とお返事しました。
人生100年暮らす「人」こそが、真ん中にいなくてはいけないと思いました。
高齢化社会じゃない、ビンテージ・ソサイエティをつくろうじゃないかと。
川上 全くですよ。
村上 うまいこと言ってますねえ。
石川 でもこれ、経産省が言っていますよね!(笑)
▶活力あふれるビンテージ・ソサエティの実現に向けた取組に係る研究会最終報告書について(経済産業省)
井上 石川さんはすぐそうやってね(笑)……まあいいです。
ここで、プレ高齢者の40〜60代の方25名を対象にした臨床試験を行いました。
ICCサミットでも登壇している、AMIの小川(晋平)さんにもお協力してもらいました。
▶AMIは「超聴診器」で心不全や突然死のリスクを可視化して、先手の治療を実現する(ICC FUKUOKA 2018)【動画版】
実際にこのような分厚いレポートを各個人にお返ししました。
よく今医療でやられているのが、数百万人のカルテを統合したり、ゲノムコホートといって、日本人のゲノムデータを数多く集めたりして、そこから何かしらの法則性を見つけようというものです。
これらはコホートサイズが非常に大きなものですが、僕らが目指しているのはとにかく1検体あたりの観察項目数を増やすというアプローチです。
流れ去っていく日常を、とにかくデータ化しようと思ってやりました。
湯野浜ヒューマノームで分かった「人間の理解」とは?
村上 これは要するに、今取れるデータをすべて取ってやろうという理解ですよね。
井上 そうです。これをやった結果、例えばですが、腸内細菌と血液のある数値の相関も出ています。
それに関しては本当に病気に関わるものの可能性があるので今言えることは少ないのですが、とにかく全部取った項目をぎゅっと圧縮して1枚に落としてみたんです。
村上 この次が驚愕の!驚愕のものが出てきます。
石川 待ってください、待ってくださいね!
北川 予想したいですよね!
村上 これはあまりにデータがセンシティブなので、浄さんがダイレクトメールで送ってきて、開けた瞬間にさすがに興奮しました。
北川 これはデータを取りまくったということでしょう?
井上 そうです。僕からしたら何か点の塊、それこそ平均値から外れたものがあって、さぞかしそこからいいデータが出てくるのではないかと想像するわけです。
想像して出てきたのが、皆さんよくご存じのこのプロットです。
石川 tSNE plot、次元圧縮のためのアルゴリズムですね。
井上 さすが、よくご存知ですね。
これは何かと言うと、僕らの研究は40ぐらいの測定項目があるのですが、40次元をグラフにはできません。
40次元をぎゅっと色々な方法で圧縮していくと、2次元に落とせます。
2次元に落としていった結果、色がついている点がそれぞれ違う個人で、掛ける4週間のデータを
示しています。
つまり、25名✕28日分のデータ(今回のデータは22名分)がプロットされています。
これを見て僕は驚きました。
通常こういうことをやると、何かしらの偏りが観察されます。
でも40次元のデータを全部取って2次元に落とし込んだら、全然偏りがなかったのです。
ここから何が言えるかというと、人間というのは、みんな違うんだなということでした。
(会場笑)
石川 (すっくと立ち上がり怒ったように)それ、知ってる!!
金子みすゞが言ってましたよね、「みんなちがって、みんないい」って。
「みんなちがって、みんないい」のサイエンス
村上 前回は科学的に「青春があるかどうか」が証明されました。
でも今回は金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」が分かったということですね?(笑)
井上 いや、でもそれが本質だっていうことが、40次元調べて分かったんですよ。
見た瞬間に涙が出ますよ。だって、何かを求めたくて僕は研究しているんですよ。
石川 もともと偏りを想像していたわけですね。
井上 そう。こっち側にギューッと寄るかな?とか、こっち側に行くかな?と思っていたら、「ワオッ」って驚きました。
この分散、きれいでしょう? しかも全員違うんですよ。
ここに書いてあるんですけど、みんな似てるし、みんな違うんですよ。
川上 すばらしい。
井上 大きく外れることもないし、しかももちろん毎日みんな違うんです。
もっとデータの次元を上げていっても、多分同じだと思います。
石川 だから「今日の自分と明日の自分は、似ているようで違う」みたいな話ですか?
井上 そう。
川上 だから、まさしく仏教ですよね。
石川 そこから仏教に行きますか!!(笑)
村上 仏教的な視点で言うと、どうなりますか?
「みんなちがって、みんないい」のブッディズム?
川上 結局は「諸行無常」で、自我のない「無我」という世界になってしまうんですよ。
誰しも自分という存在が絶対的な独立した「もの」で、永続的にあると思い込んでしまっているけれど、先ほど言ったように、中と外のインタラクションで両方が不安定にどんどん変化しているわけだから、結局こうなってしまうわけですね。
井上 そうなんです。これはどれだけ次元数を上げても、おそらくそうなんだろうなと思います。
石川 次元数を上げるということは、測定項目をいっぱい増やすということですか?
井上 そうです。それで僕は思ったんです。
一番初めに、グラフの見方を気をつけないといけないと言いましたよね。
これに関して言うと、例えば各1日で4週間分の点が入っています。
でもその動きは見えません。
石川 1つの点が1人の人間の1日分だから、1人につき7日×4週間=28の点があるわけですよね。
井上 そうです。それを、22人分プロットしています。
これを見て、僕は美しいなとも思いました。ある意味、人間ってこういうものかと。
「なるほど、みんな人は違うんだね。僕はそうなんだね」と、これを見ると結構勇気づけられます。
つらいときこそ、このプロットを思い出してください。
石川 僕、今ノートに書きました。
人間が生まれてから死ぬまでの全データ
村上 ちなみにこの研究は、被験者の男女比や年齢構成はどうなっているんですか?
井上 男女比は半々ぐらい、年齢は40〜60代です。
ただその人たちの、たった4週間しか切り出していません。
逆に言うと切り出せていないのです。
だから生まれてから死ぬまでというプロットがもし全人類で取れたら、そこの時系列を見てこの点の動きをベクトルでで捉えて、さらにそれを統合できたら、人間が進化する方向が見えるのではないかと仮説を立ててデータを取りたいのです。
ただ1回やって気づいたのですが、これ、無茶苦茶大変なんです。
村上 何が一番大変でしたか。
井上 測定は本当に色々なものをやるし、色々なアンケートをずっと取らなくてはいけません。
これができたのは、湯野浜の方たちが「自分たちの湯野浜のためにできることなら何でもやる」というご協力のもと、ドロップアウトがなかったからです。
こんなことは普通の臨床試験ではないですね。
村上 途中でやめてしまうと。
井上 そうです。そういう心持ちの人たちと一緒に、それこそ生まれたときから「そうするものだよ」と子どもたちに言い聞かせるぐらい、人類の英知をためていきましょう。
その動きが見えたときに、先ほどの食物連鎖のような動きがもし見えるとすれば、人間の動く方向や、人間がぶれる方向、人間が揺れていく方向など、色々なものが見えていくのではないかと考えるのです。
なので、主観やマインドフルネスを含めたモノの考え方も、ここに付け足せたらいいなと思っていますが、とにかく大変です。
これを何とか一緒にやってくださる方はいないですかね?
北川 井上さん、「みんなが違う」ということを証明したかったら、僕だったらどうするかを話していいですか?
井上 はい。
北川 僕だったらラベルを全部を外して、1個だけ点を指したときに、その点がどの人に属するかをどれくらいの確率で予測できるかを求めます。
井上 おおっ!ちょっとやってください、今度。
北川 (笑)
井上 そうすると、要はバラバラだということが証明できるということですか?
北川 その人が、そのポイントがどれぐらいその人を表すユニークなポイントなのかを理解できるということです。
村上 なるほど、面白いなぁ。
井上 いずれにしても最後言いたいのは、僕らがこれからやらなければいけないことがあるということです。
村上 来ますよ! 来ますよ!
井上 「さあ、研究だ!」と。
(会場拍手)
村上 いつもの「研究をし続けないといけない」という浄さんの話で、本当に面白かったですね。
僕も送られてきたこのグラフを見たときに、部屋でひとりずっこけましたからね。
北川 そんなに隠すことか?と。
村上 そうそう。結局何も分かってないじゃんって(笑)。
井上 いやいや、「1周回ってここ」というのが、ぐっと来ているんです。
(続)
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続きは 9. 現代人が今取り組むべき「理解する」という行為の本質【終】 をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/小林 弘美/戸田 秀成
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