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「凄腕クリエイティブディレクターと考えるブランディング戦略」【F17-7C】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!9回シリーズ(その3)は、メルカリの事例を交えつつ、「スタートアップにブランドは必要か?」という問いを議論しました。ぜひ御覧ください。
ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。残席わずかです。
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【登壇者情報】
2017年2月21〜23日開催
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
Session 7C
凄腕クリエイティブディレクターと考えるブランディング戦略
(スピーカー)
小泉 文明
株式会社メルカリ
取締役(当時)
齋藤 太郎
株式会社dof
CEO/Communication Designer/Founder
志伯 健太郎
GLIDER
クリエイティブディレクター
戸田 宏一郎
CC INC.
Founder & CEO/Creative Director/Art Director
(モデレーター)
彌野 泰弘
株式会社Bloom&Co.
代表取締役
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【前の記事】
【本編】
彌野 では本題に入りたいのですが、「凄腕クリエイティブディレクターと考えるブランディング戦略」というのが大上段のテーマです。
もう一つブレイクダウンして、スタートアップにブランドは必要か?というところを議論していきたいと思います。
僕が独立した2015年の4月頃には、スタートアップ界隈でブランドが必要だよねと言う人は、何となく僕の肌感覚では1割から2割くらいしかいなかったように思います。
僕はDeNA時代にテレビCMを100本くらい作っていたので、彌野は何となくCM制作の手伝いで食っていくかなと思いきや、最近ですと7割くらいがブランドの話なんですね。
弊社が今お手伝いしているところは20社程度なので、スタートアップ企業全体で見れば限られてはいるのですが、やはり肌感覚的にはブランドの話がすごく増えてきたなと思っています。
昔は、デジタルのサービスは、A/Bテストを繰り返してKPI(Key Performance Indicato)を上げていくということが主流だったからです。
新規のユーザー獲得数を上げて、リターンレート(ユーザーの継続利用率の指標)を上げてということをやっていけば、ビジネスは伸びていくという考えでした。
逆に言うと、それ以外のことをしている暇があったらきちんとチューンアップしろというような世界観だったと思うのですが、最近ブランドの話が増えてきたように思っています。
まずは事業会社側の小泉さんから、最近界隈においてブランド重要度がどのくらい上がっているのか、またはメルカリにとってのサービスブランドというのはどれくらい重要なものなのかという点について教えて頂けますか?
メルカリのブランディング
小泉 他社はどうか分からないのですが、僕は極めて大事だと思っています。ブランドという言葉というよりは、僕が社内でいつも言っているのは、空気をどう作るかや、どうデザインするかというところです。
そして、会社とプロダクトの両面を、設計しなければいけないと思っています。
プロダクトについてお話すると、今はアプリが無限にあり、似たようなアプリが山ほどあるんですよね。
ただ、そのアプリが使われるかどうかや、気付かれるかどうかがどちらかというと重要で、いいアプリができるのが大前提のようになってきています。
先ほど話にあがった、どうするのかといったところはどの会社もやっていて、これは恐らくソーシャルゲームの発展であるとか、これまでのインターネットの歴史の中でどんどん改善されてきたのだと思います。このようなことは当然やりつつも、どうやって伝えるかといった点で差別化をしていかなければなりません。
調達した資金の中から、マーケティングコストをどう効率的に使うかというところで投資家も判断してきますので、ブランディングやプロモーションに対する必要性や重要性がかなり高まってきているのではないかと思っています。
メルカリのマーケットに関して言うと、僕らは“Winner takes all“と言われるような、1社総取り、つまり2位以下は立ち上がらないという、かなり分かり易いプロダクトをやっています。
そういった中で、 (メルカリは)かなり後発で出てきていますので、先行サービスが1年以上前に出ていて、ダウンロード数もかなり離されている状態でスタートしています。
基本的に、最初にユーザーをアクイジション(獲得)しなければ絶対に敵わないということで、当然手数料無料といったこともするのですが、かなり早期にテレビCMをやろうという意思決定をし、資金調達を回し、その1回目のCMに繋げていきました。
▶メルカリの「逆算思考の成長戦略」 – 先行サービス撃破の舞台裏そこで偶然よいテレビCMが作れ、ダウンロード数がかなり伸びて一気に逆転したという経緯があるので、僕としては、スタートアップがどこにどうお金を使うかという点で言うと、結局マーケティングしてユーザーを獲得するためにどう使うのかと人にどう使うのかの2つだと思っています。
結構重要と思って見ていますね。
彌野 僕はブランドが常に必要かと言うと“No“だと思います。先ほど小泉さんがおっしゃったように、コモディティ化し始めたり、競争が始まって差別化しなくてはならない時に、プロダクトの機能などで差別化ができない、または必ずしもパフォーマンスで差別化ができない時に唯一残された選択が、ブランドを作るということであると思います。
そして、ブランドは愛着が生まれてくるものなので、ブランドが強化されてくると広告宣伝費が減るんですね。
通常、広告宣伝費というのはものすごく大きなプロフィットを取っていく部分なので、きちんと積み上げてブランドを作ることで、広告宣伝費が下がるということは、中長期の競争優位性が生まれることに繋がります。そういう意味では非常に大事だと思いますね。
一方で、ブランドを作ろうと思うと、かなり最初にきちんと設計して、継続して統一感のあるコミュニケーションを、包括的にやっていく必要があり、その設計がかなり大事ですね。
スタートアップ界隈で言うと、元々ブランドは要らなかったと思うんですね。
プロダクトを作って出して、それが常に新しくて斬新で、これ面白いね、こんなのが出てきたねと言って使うだけだったので(ブランドが)要らなかったんですよね。
キュレーションのニュースアプリ、例えばスマートニュース(SmartNews)、グノシー(Gunosy)、アンテナ(Antenna)、ニューズピックス(NewsPicks)のように、同種のサービスが複数出始めると、ブランドが大事になってきますよね。
メルカリさんだと、C to Cの購入に際しては当然ながら細かいスピードや、チューニングや、入り易さや、ユーザビリティという点もあるのですけれども、プラットフォームのようなものになればなるほど、実はブランドが大事と思っているんですね。
真ん中のお三方(齋藤氏、志伯氏、戸田氏)はブランド作りをされてきた皆さんですが、スタートアップ界隈のブランドについて、今、皆さんの目からどういう風にご覧になられていますか?
いけてる、いけてないとか、もう少し成長の余地があるとか。
ブランドづくりには、「精神的支柱」が必要
齋藤 どこからどこまでをスタートアップと言って、どこからどこまでがブランドかという話があると思うのですが、僕は、メルカリはもうスタートアップではないと思っています。
大量にテレビCMができる状況というのはもう、スタートアップの状況をぼぼ脱し切っている状況なのではないかなと思うのです。
そういう状況になるまでブランドが必要ないかというとそんなことはなくて、ブランドは、出だしの時から絶対に必要だと思うんですよね。
別にテレビCMや広告をするのがブランディングという訳ではありません。
もっとど真ん中というか、その会社だったり、サービスだったり、人間の真ん中にある軸の定義づけをおろそかにして、先ほど申し上げたようなA/Bテストや効率の話ばかりすると、自分達がどちらの道に進んでいるか分からなくなります。
ブランド作りにおいては、仮説や方向性を立てて、僕らはこちらに向かっていくためにこのサービスやこのプロダクトのために時間をかけている、自分の時間を投資しているという、精神的な支柱を作る必要があるのではないかなと思います。
でも、ITの世界の人達というのは、割と仮説を持たずに検証していって結果オーライでいこうよという雰囲気があるような気がしているんですよね。
若い女性向けにやっていったものが、結果的におじさんに売れても「それでよいではないか」といった話があると思うのですが、ターゲットというのはまた別の話です。
自分達は何のためにこの仕事に取り組んでいるのだろう、これはなぜ存在しているのだろうというところの、一番最初の軸の設定というのは絶対必要だと思っています。
僕らみたいな外部の人達にお金を払うことよりも、中の人達が、自分たちのブランドって何なのだろうということを考え抜くことがものすごく大事なのではないかと思います。
全てのサービスや、人材や、働き方や、プロダクト等、全てに関係してくるのがブランドなのではないかなと思うし、そこから透けてくるものがマーケティングになってくるのではないかなと思います。
彌野 僕も、本当に2人でサービスを作っているようなスタートアップの方ともお仕事をすることがありますが、ここがいける、とならないと軸決めができないので、最初はやはりブランドも何もなくて、その状態からある程度当たり所をつけなければなりません。
スタートアップのブランディングはいつから必要か?
彌野 先ほど、メルカリ程の規模になるともうスタートアップではないというお話もありましたが、どこのフェーズでブランドの話をし始めるのがよいのでしょうか?
小泉さんも色々なスタートアップをご覧になられたと思うのですが、どのフェーズでブランドの話をし始めるのがいいのかという、プロダクト・サービス・ブランドを考えるタイミングの話をして頂けたらと思います。
小泉 ユーザーを獲りにいくというフェーズですよね。
メルカリの場合、やはり最初の100万ダウンロードくらいまでは、結構チューニングをしながらオンラインのマーケティングで(ユーザーを)獲得してきてきました。
オンラインというのは、やはりコストのコントロールがし易いので、ユーザーを獲得しながらいかにそのリテンションレート(既存顧客維持率)を高めるかということに取り組み、そこからが次のフェーズだったように思います。
資金調達をしてユーザーをきちんと獲得しにいくよ、というフェーズで初めて考えたというところはありますね。
彌野 マスマーケティングをするくらいのタイミングということでしょうか?
やはり100万ダウンロードくらいあって、リテンションレートが高くユーザーが積み上がる状態になっていれば、大きくマスマーケティングをやっても獲得したユーザーは残りますからね。
小泉 メルカリはマーケットプレイスなので、結局最後には大きな市場を獲れるだろうと信じて、最初からあまりここだという風に絞らないようにしていました。
例えば、取り扱う商材として女性にフォーカスするといったことをしないで、最初から大きく構えたというのがよかったのではないかなと思っていますね。
齋藤 僕は、ユーザーを獲得する手前でブランドが必要だと思っているんですよね。
ブランドというのは必ずしも外に対してだけではなくて、(組織の)中の人に対して必要であることもすごく多いのです。
資生堂さんの企業スローガン、「一瞬も一生も美しく」というのは弊社で手掛けたのですが、あれは、前田新社長が就任された時に、資生堂の本質とは何なのだろうかということを考えてくれと言われて、100人ほどの役員やキーマンにヒアリングを行って作ったものです。
資生堂は当時130年くらい経っている会社だったので、その130年もこの後の130年も、世の中を美しくするとか、人を美しくするとか、それは女性に限らず、お化粧に限らず美しくするということが必要だよね、軸だよねという話になって、そのスローガンと共に前田新社長体制で進んでいくことになりました。
また、日本テレビさんの開局60周年に、「見たい、が世界を変えていく。」というスローガンを作りました。
これは、テレビでたまに出てくるくらいですが、日本テレビの社員さんの名刺には全て「見たい、が世界を変えていく。」と入っているんですよね。
60年前にテレビというデバイスが初めて出てきて一時代を創ったのだけれども、60年後にテレビがあるのか、日本テレビという名前を変えた方がよいのではないかという話から議論が始まりました。
でも、見るとか見たいといった欲求というのは、絶対に変わらないよねという話になりました。
そして社内の役員から、「最近、テレビ見られていないのではないか?」「テレビ業界というのは昔は人気があったのだけれども、今は3K(きつい、帰れない、厳しい等)なのではないか?」といった悩みの声が寄せられて、もう一度プライドを取り戻すというか、そういうことのためにやっていった部分があります。
スタートアップの場合も、これから自分達が作っていくプロダクトがどんなものになるのか、どんなお客さんに受け入れられるのかということが分からない状況でも、なぜ俺達はこれを作っているのか、どうしてやっているのかというところを規定する必要があるのではないかはと僕は思っています。
彌野 そうですね。
ターゲットと、何にコミットしているブランドなのか、何をプロミスしているのか、何を価値として提供しているのかということは規定した方がよいのだけれども、同時に、僕はP&Gで「ザ・消費財」の商品広告をやった後に、DeNAという「ザ・インターネット」の会社に行って、両方を見ることで色々と発見もありました。
やはり100年以上ビジネスを展開している大企業のマーケティングや広告というのは、手法やプロセスがすごく洗練されていますね。
一方で、やはりリアルな商品のマーケティングでは、KPIが見にくいんですよね。
大企業の消費財メーカーのプロモーションというのは、どれだけ売れたかという数字を見たり、3か月後くらいに行う認知度調査やイメージ調査の結果でしか測ることしかできず、リアルタイムではなかなかKPIは見れないんですよ。
一方で、ネット企業では、テレビCMを投入している時間帯に何GRP(Gross Rating Poin=延べ視聴率)流れて、どのくらいのユーザーが獲得できたかを見ることができて、相関が分かるんですね。
且つ、スタートアップというのは明日のために生きている部分もあるので、やはり明後日や未来のために全てを投資できません。
それだけにパフォーマンスとブランドへの投資のバランスがすごく大事で、初めは恐らく100パーセントパフォーマンスで数字を作らなければいけない。
徐々に7:3になって、5:5になって、3:7になってというフェーズだと思うんですよね。
先ほどおっしゃっていたように、100万ダウンロードくらいのタイミングで、ここにいらっしゃるような(クリエイティブディレクターの)皆さんとディスカッションを始めて、今当たっているものが誰にどう当たっているのか、それを言語化してブランド設計して、それをブランド化したビジュアルやキャンペーンにしていくのがよいのではないかなとは思っています。
(続)
続きは ブランドづくりとは、「旗印を立てる作業」である(CC戸田) をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/立花 美幸/Froese 祥子
【編集部コメント】
スタートアップやベンチャー企業のブランディングをここまで密度高く議論する機会はこれまでほとんどなかったのではないでしょうか?起業家にぜひ読んでいただきたい内容が続きます!(榎戸)
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