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3.スケールを目指すなら、目先のトランザクションより量と質にこだわれ

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「B2Bマッチング・プラットフォームの成功のポイントは?」全5回シリーズの③は、三栄商事の後藤 正幸さん、カケコムの森川 照太さんが、ここまでの議論を受けて、ビズリーチ、ラクスル2社に質問します。成長を描くときに、どこを起点と定めるか?という質問から、2社の具体的な戦略が明らかになっていきます。苦しくとも質にこだわり抜くのは事業家の矜持で、それがスケールにつながるといった金言続出の議論が続きます。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2022は、2022年9月5日〜9月8日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2022 プレミアム・スポンサーの三栄商事にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2022年2月14〜17日開催
ICCサミット FUKUOKA 2022
Session 8F
B2Bマッチング・プラットフォームの成功のポイントは?
Supported by 三栄商事

(スピーカー)

多田 洋祐
株式会社ビズリーチ
代表取締役社長
(登壇当時)

福島 広造
ラクスル株式会社
取締役COO

(モデレーター)
湯浅 エムレ 秀和
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ
ディレクター

(リングサイド席)
及川 厚博
株式会社M&Aクラウド
代表取締役CEO

後藤 正幸
三栄商事株式会社
代表取締役社長

森川 照太
株式会社カケコム
代表取締役社長

森口 拓也
株式会社Mellow
代表取締役

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1.ビズリーチ、ラクスルが登場! B2Bマッチング・プラットフォームを語り尽くす

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2.プラットフォーマーの“ニワトリ卵問題”、需要と供給、どちらを先に取り組むべきか

本編

後藤 N:Nを5:Nなどに変えるという点で、多田さんの今までの話ではそれぞれ、1,000万円以上の求人と商社に目をつけたのだと理解しました。

ラクスルの場合、それをどう見つけるのかが重要だと思いますが、各事業で、どういった基準で「5」や「10」を選ばれたのでしょうか?

ラクスルは「基準のN」をどのように設定したか

福島 基準はやはり、トラフィックを作れるかどうかです。

もう一つ、多田さんのお話(Part2参照)で大事だなと思うのは、良質なブランドを作るための、良いトランザクションであることです。

ビズリーチの場合は高年収の求人を、ビズリーチ・キャンパスの場合はOB/OG訪問に協力的な大学、良質なプラットフォームを作る要素を押さえたということでした。

先ほど(湯浅)エムレさんがおっしゃったような、質のコントロールは、プラットフォームの果たすべきもう一つの役割です。

この、トラフィックの量と質の2つをきちんと担保することが大事です。

ラクスルは名刺から始めて、チラシに領域を拡張しました。

チラシは単価が高いですが、デザイン作成は1回の入稿で済むので、EC化へのハードルが低かったのです。

営業の人たちはやはり営業活動がしたいので、時間的コストが下がるのであれば、チラシのコストが多少上がってもアウトソースにしたいというニーズが強かったため、チラシのサービスも立ち上げました。

今は色々なサービスを手がけていますが、始まりは「500円、ワンコインの名刺」と「1枚1.1円のチラシ」という、田部(現 ラクスル株式会社 取締役CMO兼 ノバセル株式会社 代表取締役社長)さんが考えた2つのマーケティングのキーワードで、これで勝ち切ったのが印刷のラクスル事業です。

ノバセルは、新しいコンセプトで、テレビCMの効果を可視化し、効果検証・運用型のテレビCMを行うというサービスだったので、比較的エデュケーションが難しい領域でした。

運用型マーケティングに慣れているのは、デジタルマーケティングに積極的に取り組まれているスタートアップ企業様だと考えたため、そのような企業様をターゲットに据え、スタートアップ企業様が多く集まるICCサミットのメインスポンサーをするところから始めました。

▶編集注:ICC KYOTO 2020より「ノバセル BY ラクスル」の名前でダイヤモンドスポンサーとしてご参加いただいています。

一方、ハコベルの場合はスタートアップ企業様やSMB(中小企業)だけかと言うと全く逆で、良質なトランザクションは大きな権威を持つ企業様が大量に持っており、そこがクオリティ担保の鍵にもなっています。

ですから、伝統ある大企業様に使って頂き、他の企業様からも「あの企業が使うなら…」という安心感を持って利用検討頂くというブランディングにも重きを置いています。

今回、ネスレ様にご利用頂いたので、「ネスレが使うなら、安心できるプラットフォームだろう」と、思ってもらえるだろうということですね。

顧客満足度100%などと言っても、さすがにB2Bの伝統的な物流業界では信じてもらえません。

ラクスル、ネスレの飲料出荷業務で再配達コストをゼロに(日本経済新聞)

例えばネスレやナショナルカンパニーなど、サービスのクオリティを外部に対して担保してくれるブランドにご利用頂き、物量なりトランザクションを起こす、つまり量と質を担保して立ち上げていくことが、次のフェーズで思いきり成長する1つのパターンです。

立ち上げフェーズを切り抜けようと思ったら、無理やりにでもトランザクションを集めて、「売上が上がりました」と言えますが、本当にスケールすることを考えたときのファーストフェーズには、量と質の両方の担保が必要です。

そうしなければ、その後のスケーリングの中で薄いプラットフォームになり、スケールが止まってしまいます。このタイミングにおいて、プラットフォームを初めて立ち上げる人と、立ち上げるのが3回目の人との一番の違いは、ブランディングや質に圧倒的にこだわることができるかどうかだと思います。

ビズリーチが耐えた4年間

多田 今日は1時間15分を2人で話さないといけないので、福島さんと「頑張ろうね」と言っていたので(笑)、私も話を広げますね。

ビズリーチが最初、年収750万円以下の求職者の方の登録をどうしていたかですが、転職市場では、年収500万円前後の転職希望者が、圧倒的に多いです。

もちろん企業は、年収400万円の人も500万円の人も採用しているわけです。

ということは、ビズリーチが会員獲得のために、マーケティング費用をかけているのに、年収600万

円や700万円の求職者が登録できないのは、もったいないと感じますよね。

しかし、最初の4年間は年収750万円以下の求職者にサービスを開放せず、年収750万円以上の求職者しかサイトに登録できない仕組みになっていました。

いわゆるニッチ戦略の王道で、年収の高い求人を求める求職者のみを集めていましたが、そういう人の割合は小さいですし、単価が高くてもトラフィック量は少ないので、スケールはできません。

創業してから2年が経った2011年頃、企業向けに営業を始めました。営業はお客様から「高年収の人よりも、もう少し年収の低い人を探している」と言われるので、会社に戻って、年収750万円未満の求職者にもプラットフォームを開放しましょうよ、と訴えるわけです。

しかし、きちんとしたサイクルを確立しなければいけない、とこだわって、2013年頃に本当に少しずつ開放し始めました。

その背景には、高年収帯の求人と高年収の求職者によるトラフィックがなくなれば、我々のサービスは、他社と同様のデーターベースになってしまうという危機感がありました。

ですから、高年収帯の求人と高年収の求職者がきちんとマッチング、成約しているかは現在も気にするようにしています。

それらが下がってしまうと、独自性のないプラットフォームになってしまうからです。

福島 質にこだわることの難しい点は、数字に出ないのでクオリティという概念をVCに説明ができないことです。

なぜなら、売上しか出ないからです。

事業家や起業家だけがこだわらなければいけないポイント、矜持だと思いますが、それを証明できないことが難しさです。

より多くのトラフィックを得られる選択肢があれば、それを取る方が、先3カ月、6カ月の売上は必ず伸びます。

しかし、それにもかかわらず、クオリティを担保することを優先するのが、このフェーズで事業家だけが持ちうるこだわりであり、スケールのための大事なポイントだと思います。

湯浅 “ニワトリ卵問題”を解決するには、力を持つ側から攻めるべきということと、その中でも熱量の高い、希少性の高いセグメントがあるのでそこを見極めて、ある意味我慢しつつ、開放範囲は広げすぎずにクオリティを担保するべきということでした。

この戦略は、立ち上げのフェーズで見えていたのでしょうか?

つまり、最初から明確にあったのか、それとも取り組みながら探索して結果的に見つかったのか、どちらでしょう?

ビズリーチの戦略は最初から明確だった

多田 私が入社する前ですが、ビズリーチの場合は、優秀なヘッドハンターを集めることから始めていました。

一方、企業向けには、開放していませんでした。というのも、企業が求職者をスカウトするという文化がそもそも、外資系企業の一部にしかなかったからです。

ヘッドハンターをまず集めて、その後に高年収帯の求職者を集めるという戦略は、間違いなく、最初から厳格にありました。

当時、人材エージェント向けのデータベースは世の中にたくさんありましたが、それらは基本的に法人契約にのみ対応していたのです。

契約をすると会社ごとにアカウントを付与されて、その会社内では誰もが使えるというイメージです。

しかしビズリーチの場合、契約自体は同じように法人契約ですが、その会社のヘッドハンターの中でも、当社独自の審査基準を満たすヘッドハンターのみにアカウントを付与していました。

つまり、優秀なヘッドハンターに良質な求人が集まる、という原理原則を明確に見定めていました。

求職者からすると、どのヘッドハンターに会ったらいいか分かりません。全ヘッドハンターと面接をし、「この人なら、ビズリーチを利用する求職者に伴走し、キャリアの選択肢を広げられる」と思える、きちんとした対応をしてくれる人にしか開放していなかったのです。

ですから、戦略は最初から明確でしたね。

湯浅 なるほど、ラクスルはいかがでしょうか?

需給の仮説は、新規事業の場合たいてい外れる

福島 我々は、いきなり物流事業に取り組むなど、新しい産業に入っていくタイプです。

ビズリーチの例は、人材事業についての解像度が高かったので、比較的、戦略が見えやすかったということだと思います。

ラクスルでは3事業あるので、例えばノバセルを始める際、田部は広告事業をずっと担当していたので、ストレートに戦略を見つけたと感じます。

しかし、印刷事業と物流事業を始めた際、プラットフォームについては理解していても、対象となる産業については理解できていなかったので、比較的、探索をしながらでしたね。

例えば、物流事業の場合、ドライバーが足りずに物流クライシスと言われている状況下だったので、ドライバー側に課題があるだろうというのが最初の仮説でした。

ドライバー側が強いと思っていましたが、結果的には荷主側の方が強かったのです。

産業への解像度が高まるまでは、探索しながら戦略を見つける必要があると思います。

多田 最初、無料で各大学別の専用サイトを開設すれば自然とトラフィックが生まれるだろうと思いましたが、実際は想定以上の反響がない状態でした。

まさに福島さんが言った通り、私は中途採用の経験はありましたが、新卒採用のことは分からなかったのです。

そこで、新卒事業を立ち上げるタイミングに、大手企業で新卒採用部門の責任者だった人を口説いて、ビズリーチに入社してもらいました。

今その社員は事業部長です。

彼は10年以上も新卒採用に関わっていたので、その業務に非常に詳しく、新卒採用は中途採用とは違う文化があることを知っていました。

ですから、社員でなくてもいいですし、業務委託の形でもいいかもしれませんが、対象領域に非常に詳しいアドバイザーのような存在がいないと、立ち上げに結構時間がかかると思いました。

そういう人は、その領域にはどういう人が働いていて、誰がどういうことをしているなどについて非常に詳しいので、センターピンを見つける際には重要な存在だと思います。

福島 需要と供給、どちらが強いかというのは、2分の1の確率で当たるものなのですが、新規事業の場合、たいてい外すのですよね(笑)。

逆だと思ってしまうことが往々にしてあります。

湯浅 領域についての解像度が高い場合は見つけやすく、場合によっては探求しながら見つける必要もあるということですが、それでも正解はあるということですよね。

B2Bではネットワーク効果が需要と需要の間で起こる

福島 今の話を聞いていて、面白いなと思ったことがあります。

一般的にネットワーク効果は、需要と供給の間に起こるものですが、B2Bにおいては、需要と需要の間に起こるのかなと感じました。

多田さんのおっしゃった、ある会社を落とせば他の会社も落とせるということですね。

NNのNを増やす際には、特に初期の場合、その連鎖の方が効くことが多い気がします。

ですから、例えば「ネスレさんが利用したから」など、影響力のある会社との契約という事実からさらに需要が増えて、プラットフォームが立ち上がっていくパターンもあるのではないでしょうか。

多田 その意見には共感します。

2011年に企業向けサービスを立ち上げた際、最初は無料で利用できたため、1年間で800社ほどのアカウントが開設されました。

しかし1年後、履歴を見てみたら、ログインした企業は100社もない状況でした。そこで、料金形態も戦略も変えることになったのです。

最初は、外資系とスタートアップをメインに、日系大手企業は「攻めない」と決めました。

攻めないところを決めるのも非常に大事です。

海外ではスカウトサービスは当たり前で、外資系企業からの反応は「やっと出たか」という感じでした。

外資大手のIT企業様と、クチコミサイトを運営するITベンチャー企業様の2社が非常にビズリーチを活用してくださったので、セミナーに登壇いただいてビズリーチの良さを語ってもらい、お客様を集めることができました。

それで、外資系企業とITベンチャーから少しずつ広げていくことができたのです。

また最初にCMを放送したのは2016年2月ですが、その当時は、ターゲットを日系中小企業の社長に設定しました。

なぜなら、日系中小企業の利用がほとんどなかったからです。

しかしCM放送後、少しずつ日系企業が使ってくれるようになりました。さらに、一部の大手企業も使ってくれるようになったので、その後のCMでは、ターゲットを大手企業にし、シーン設定も大手企業にして制作し、プロモーションをしました。

今となっては各業界でご利用いただくサービスに成長しましたが、企業向けサービスを始めた5年ほどは特定の業界で盛り上がる形で、そこから少しずつ各業界に広がっていきました。

湯浅 ありがとうございます。“ニワトリ卵問題”、盛り上がりますね。

レガシー業界向けプラットフォームを立ち上げるには

多田 レガシー業界について回答していませんが、印刷業界はまさにそうではないですか?

福島 レガシー業界向けプラットフォームを立ち上げるためのステップについてお話ししますね。

レガシー業界の特徴は動かないことであり、これはつまり、例えば、EC化率が現在3%だとした場合、2年後も5%程度にとどまるということです。

エデュケーションコストがものすごくかかるのが、レガシー業界のDXの難しさです。

その中で、一番デジタルフィットのスイッチが押すのが簡単そうなもの、もしくはスイッチした時のメリットが一番大きいものが何かをきちんと見極め、その領域でまず事業を行うことが大事だと思います。

繰り返しになりますが、名刺はものすごく簡単に発注できて、500円なので失敗するのが怖くないものだったので、ECでトライするには良い入口になったのです。

次に、一番コストが下がるのがチラシで、レガシー印刷会社の提供価格の3分の1にできたため、EC化のメリットが大きかったのです。

これは、集約すると、印刷方式に規模の経済が働くからです。

ですから、スイッチがしやすくメリットがあるところを切り取って始めることが、大きなレガシー産業をDXする時の大事なポイントだと思います。

(続)

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続きは 4.ビズリーチ、ラクスルはオペレーションをいかに構築したのか  をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成/大塚 幸

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