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9月2日~5日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2019。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、ICCサミットに2016年からご参加いただき、2019年京都では2日間にわたって8セッションで大活躍いただいたユーグレナ 取締役副社長 / リアルテックファンド 代表の永田 暁彦さんのICCの1日に密着しました。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
永田さんのICCサミットの1日を追う
永田さんは、一言でいうとカッコいい人である。
頭の回転が速く、理路整然とした爽やかな弁舌に、運動神経のよさを感じさせる立ち姿は実行力も感じさせる。尊敬する人へのフォロワーシップと熱血リーダーシップを併せもち、決して傲慢にはならず、常に謙遜している。しかもそれが嫌味ではない。
本気の人でもある。純粋な子どものように高邁な理想を、情熱的に、照れもなく公言する。
決して威張らないが、初めて会う人にも一目置かれるに違いない存在感がある。誰に対しても態度は変わらず、ICCサミットに参加する方々からも、運営スタッフからも尊敬され慕われている。
そのうえすらりとした見た目まで、カッコいいのである。
ICC小林 雅も深く信を置く経営者の一人であり、ICCサミットのDAY1〜DAY2で、審査員も含めて8セッションの登壇を依頼していた。信頼を越えた、酷使といってもいいぐらいのオーダーに、永田さんは2つ返事で快諾してくださった。
ユーグレナ副社長とリアルテックファンド代表を兼務する永田さんは、当然ながら超多忙な人である。以前にユーグレナのオフィスの取材に伺ったときも、ない時間を絞り出していただき、登場したときも、取材が終わったときも小走りで次のアポへ向かっていった。
そんな永田さんのICCの1日を、スタートアップ・カタパルトから、この日最後のラクスルTVCM プレミアム・パーティ内「インベスター・ラウンドテーブル」まで追った。多忙を極める永田さんが、なぜここまでICCにコミットしてくださるのか知りたい。
そしてエクストリーム・カンファレンス中のエクストリームなスケジュールで、永田さんのカッコよさに破綻が出ることはあるのか、ふと素顔が見える瞬間はあるのか、単純に興味をもった。率直に言えば、この人は隙がなくて出来すぎじゃないかと、まったくもって失礼な話だが思っていた。
1日追いかければ何かのヒントが得られるかもしれない。
9:30〜 Session1A「スタートアップ・カタパルト」 審査員
「スタートアップ・カタパルト」の審査員からスタートしたこの日、会場に入ってきた永田さんに、映像チームとともに1日密着の旨を伝え、挨拶をする。早速登壇する企業へのメッセージを聞いた。
「一緒に未来を変えましょう!」
実は前回のカタパルト前にも、永田さんは同じことを言っていた。この日、永田さんは「一緒に」と、いろいろな場所で口にした。信念であり、言うことで想いを強めているのだろうか。率先して立ち上がるリーダーだが、自分一人の力を過信していないという印象も受けた。
カタパルトが始まるまで、同じく審査員のグロービス・キャピタル・パートナーズの今野 穣さんと話をしたり、知り合いの顔を見つけてあいさつしたりと、永田さんは忙しい。プレゼンが始まると、真剣に聞き入っている。想いを同じくして、本気で一緒にやれる人を探すような眼差しだ。
「スタートアップ・カタパルト」が終わると、次はスピーカーとして登壇のセッションだ。誘導スタッフに呼ばれるまでもなく、永田さんは自ら足早に控室へ向かっていった。
9:30〜 Session2A【完全オフレコ】「組織の壁(シーズン5)~過去の失敗から学んだこと~」登壇
ここでの永田さんはすごかった。
モチベーションクラウドの導入企業が、自社の「組織の壁」を越えるべく、どういう試みや改善をしているかという内容を議論するセッション。オルビスの小林 琢磨さん、サツドラホールディングスの富山 浩樹さんに永田さんというスピーカーに、リンクアンドモチベーションの田中 允樹さん、プロノバの岡島 悦子さんがモデレーターとなり、話を聞き出していく。
ユーグレナの社外取締役も務める岡島さんがいることもあって、永田さんはかなり確信的に、赤裸々に語った。この1年でCFOという立場からユーグレナ副社長となり、全ての組織に自らの意思を持って改革できる立場となってからの初の登壇となる。組織変革の1つとして、4ヵ月前からモチベーションクラウド(※)を導入したそうだ。
▶モチベーションクラウドは組織の健康診断である【F17-9F #5】
「ベンチャー企業の事例を共有できればと思っています」
オフレコ前提で話しているために詳細までは書けないが、会社でやること370項目の偏差値すべてを70にしたいこと、働いていて不幸なのは自分の能力が上がらないことと考え、社員にそれが可能な環境を作ろうとしていることなどを、永田さんは畳み掛けるように語った。本気だらけのエピソードに、他の登壇者も興味津々だ。
岡島さんも目を通しているというが、昨年から3ヵ月に1度、社員に向けて、「手紙」を書いているという。その分量はときに1万字を超えるそうだ。
「聖書の力を信じていて、文字には力があると思います。下線を引いたりして行動の規範にしていく」
自分が発したメッセージが届いているかどうか確かめるため、毎週10人単位で社員とランチもしているのだそうだ。永田さんと少人数ランチ。この切れ味だと、社員の人たちは食べたものの味もわからないのじゃないだろうか。しかし、理想だけでは足りないという。
「夢だけじゃ腹はふくらまないし、筋肉もつけたい」
収益を上げ、事業をストレッチし、さらに展開する力もつけたい。やりたいことは山積していて、そこには組織のカルチャーもにじむ。
「安定しているユーグレナだと1秒で辞める。そういうスタンスなので、それをわかってほしい」
今まで経営面といっても、CFOとしての登壇や戦略の話を求められることが多かった永田さんだが、組織についての登壇は初めて。しかし「ストレスのない組織変革はない」と言い切り、そこから生じるストレスを変革主として一身に受け止めている。
「それを越えられるかどうかは、手法論や方法論もあるけれど、覚悟と、その先に見ている世界のでかさに、かかっていると思う」と、永田さんは言い切った。
ステージを降りると、何人もの人が永田さんを待ち受けている。その一人がソラコムの玉川 憲さん。永田さんは社員への手紙を、実際どう書いているのかと聞いていた。
この次はランチを挟んで、ナビゲーターを務める「リアルテック・カタパルト」の登壇。A会場司会の三輪開人さんと手順を確認してから、A会場を後にした。
13:00〜 ランチタイム
会場は出たものの、永田さんは長身で目立つせいかいろいろな人に呼び止められている。一緒に登壇したリンクアンドモチベーションの田中さんに、永田さんについて聞いた。
写真右・リンクアンドモチベーション カンパニー長 田中 允樹さん
田中さん「組織を通じて世の中に影響を与えたいという会社を、僕らはパートナーとして選びたいと勝手ながら思っています。理念に基づいて本気の会社作りをされたいということでモチベーションクラウドを導入いただいたので、貢献したいと思っています。
ユーグレナは熱い本気の会社ですよね。リアリティのある経験をお話しいただいたので、みなさん食い入るように聞いていました。
3ヵ月に1回のペースでエンプロイーエンゲージメントサーベイもしていますから、確実に偏差値が上がっていくと思いますし、改善のスピードも早いと思います。ユーグレナ、熱いです!」
話の終わった永田さんがやってきた。
永田さん「熱いのはリンモチでしょ!」
田中さん「ユーグレナが熱いです! ファンになっちゃいました。1万字の手紙とか、370個の課題とか」
そこへ、リンクアンドモチベーションの麻野 耕司さんと、アセットマネジメントOneの岩谷 渉平さんが通りがかった。
麻野さん「ユーグレナのチャートの動きについてレクチャーを受けていたんですよ」
岩谷さん「リンモチのガーッとやっているときの動きと、ユーグレナのチャレンジは…(以下オフレコ)」
永田さん「機関投資家がいるなら、違う話を用意したのに(笑)」
麻野さん「ユーグレナは、先を行っていてすごいと思います」
永田さん「何を言ってるんですか! 僕、リンモチ愛、相当強いですよ!」
麻野さんの手には、すでに飲みかけの「飲むミドリムシ」が握られていた。「基本的にナチュラルローソンに行ったらこれですよ。僕もユーグレナ愛が半端ないです」と言う麻野さんに、永田さんは爆笑している。
永田さん「京都駅に着いてから、僕も買いました。基本的に自社商品を店で見つけたら買いますよ。絶対てんちょも買うでしょ!」(と、通りかかったヤッホーブルーイングの井手さんに話しかける)
井手さん「買いはしないよ。だって家に自社のビールいっぱいあるもん。でも商品が裏側を向いていたら、全部表向きにする。ちょっとわざとらしいけど手に取って『あれ〜なんかこれいいな!』とつぶやいて立ち去る(笑)」
談笑して会場を出ると、AROMASTICの藤田 修二さんに遭遇。永田さんは、藤田さんがスタートアップ・カタパルトに登壇したときからAROMASTICの大ファンで、この日も首からホルダーを下げている。新しいカートリッジの香りを確認したり、藤田さんの新しい展開についていろいろと話し込んでいた。
▶ソニーの“香りのウォークマン”「AROMASTIC」は、嗅覚を通じて本能を刺激し、社会と人々の心を豊かにする(ICC KYOTO 2018)【文字起こし版】
永田さんは人気者ではあるが、みんなでワイワイというよりは、実はシャイで、知っている人と少人数で話をする印象だ。ランチ会場ではDrone Fundの大前 創希さんを見つけて、牛丼を立ったままかきこみながら話している。その後は、ラクスルのコーヒーブースへ向かった。
コーヒーの列に並んでいるときも、通る人にさり気なく道を空けたり、ただコーヒーをもらうだけでなくブースの中の人に声をかける一方、こちらの質問にも答えてくれる。いい人である。
「ICCは2016年9月の京都から参加しています。そのころからの変化としては、根本で大切にしていることは変わらないけど、多様性が出てきていると思います。ベンチャーといえばITというところから始まって、ベンチャーの多様性から大企業へと広がったし、たとえば華道家の方とか、いろいろな立場の方が増えています。
社会を構成している要素はたくさんあるので、その数だけ人が増えたら新しい産業も増えていく。Industry Co-Creationですが、すでにカルチャーがある人が混ざって、Co-Cultureみたいに、もっと視野を広げられるのではないかという気がしています」
いつの間にか永田さんは、次の登壇用にリアルテックファンドのポロシャツに着替えていた。
14:30〜 Session3A「REALTECH CATAPULTリアルテック・ベンチャーが世界を変える」登壇
リアルテックファンドの代表である永田さんは、このカタパルトでナビゲーターを務める。2017年の福岡に始まり、今回で6回目を数える。キーノートスピーチも行う。
会場に入ると、審査員席に満面の笑顔で永田さんを迎える2人がいる。小橋工業の小橋 正次郎さんと、ムスカの串間 充崇さんだ。
永田さん「(小橋さんに)同い年なんだよね」
小橋さん「裸の関係です(笑)」
どうやら、かなり親しい間柄のようだ。串間さんは、前回リアルテック・カタパルトで優勝した昆虫テック、”エリート・イエバエ”で作る究極の循環システムを提案するムスカの取締役だ。
▶ムスカは、“エリート・イエバエ”による究極の循環システムで地球の健康を守る!(ICC FUKUOKA 2019)【文字起こし版】
永田さん「串間さんは、レベルが段違いにすごいんですよ」
串間さん「何をおっしゃいますか。福岡で優勝させていただきまして、あれが最後のピッチでした」
永田さん「もうピッチする必要ないもんね。次のスピーチはノーベル賞ですよ! でも、僕らユーグレナも似たようなもので」
串間さん「そうなんです。うちは本物の虫ですけど。近いうちに何か一緒にできればと思っています」
永田さん「有機物、無機物から自然の力で有価物を作る。めちゃくちゃ似ています」
串間さん「大先輩の後ろをついていきます」
永田さん「似た領域で同じような苦労をしてきた。考えていることは全部わかりますね」
串間さん「永田さんには人の紹介で、登壇前にお会いしていたのです。あの有名な永田さんに会えると、ドキドキしました」
永田さん「最初にムスカの話がリアルテックファンドで出たときに、最初にみんなが『ハエ〜?』という反応だったので、僕は怒りまくりました。僕らが15年前に、ミドリムシという名前で受けた差別をお前らがするな!と。
そういうふうに人は、真実、真価を見逃してしまうんですよ」
串間さん「その時に『俺のムスカ』と言っていただいて。非常にうれしかったです」
永田さん「リアルテックの特徴は、出資関係がなくても、世界が変わればいいと思っていることです。だから出資していないムスカも応援しているし、めっちゃ成功してもらって、ユーグレナを買収するぐらいになってほしいですね。小橋さんもね」
小橋さん「うちも買収してください(笑)」
串間さん「とんでもない(笑)!」
楽しそうに話す3人。いい意味で「狂った人たちが仲良く集合している」と言うと、永田さんは「いや、僕らが狂っていると見えるなら、そう見える社会が狂っているのかも」とあっさりと言い、登壇の準備に入っていった。小橋さん、串間さんが見る永田さんは、どんな人なのだろうか。
串間さん「正しい人ですよ。地球を正しくする人」
小橋さん「正義の塊。ですよね?」
串間さん「そのとおりだと思いますし、できないことをできないと言わない。できないことはないと言う。そういうことを言うイメージがある。そして世間一般は難しいとか、ええーっと思うようなことでも、やろうぜって言う」
小橋さん「まあ一言で言うとエロい人ですね。つまり」
小橋さんの冗談めかした口ぶりに、串間さんは大受けしながらも真面目な顔に戻って、
串間さん「セクシーだよね」
小橋さん「魅力しかない」
永田さんは、同じような立場の経営者たちからもモテモテなのである。
リアルテック・カタパルトの優勝者が発表され、ナビゲーターとしての役割が終わると、永田さんはステージ担当の運営スタッフに近づいていった。
「高木さん、ペンをどうもありがとう」
永田さんは、2月の福岡のICCサミットから、運営スタッフのスカラシップを個人的に支援している。毎回対象者2名の旅費を一部負担いただいていて、高木友貴さんはそのうちの一人。今回会場のステージ担当をしていて、登壇中に彼女からペンを借りていたらしく、半年前のことなのに名前をちゃんと覚えていた。
今回のICCサミットでも、永田さんは新たな2人のスタッフに直筆のメッセージを書いたカードを直接渡している。
手書きのメッセージを受け取る、今回永田さんのスカラシップに選ばれた濱田さんと豊島さん
「あなたが10倍成長すれば、社会が1,000倍良くなる、そういう人になりましょう」
「いつか語り合いましょう」
受け取った2人、まだ大学生の濱田 凛さんと豊島 里香さんはその言葉に大感激し、宝物にすると言っていた。この言葉がどれだけ心に響いたかを、後日、2人はFacebookに投稿したりして仲間に伝えている。
一方、永田さんは「いつもスタッフの方には丁寧に尊敬してもらっている。いくら努力しても結果に結びつかないことだってある。時代が変われば、僕と彼らは逆の立場かもしれない」と言った。「こういう支援がもっとみんなに広がって、普通になればいいと思っています」
「何年後くらいに一緒に登壇できそうですか?」と、2人に問いかけたという。それはお世辞ではなく、2人を鼓舞するために言ったのでもなく、おそらく本気である。そしてそれは2人にも伝わっているはずだ。永田さんはそういう人なのである。
16:15〜 Session 4F「ユニコーンを生み出すためにVCはどう変わるのか?」登壇
永田さんは周りもよく見えている人である。リアルテック・カタパルトが終わり、次のセッションに向かうときに、永田さんはふと、自分に向けられたレンズの主に気がついた。
「あれ? この前のカタパルトで、泣いていたカメラマンさんじゃないですか?」
そのとおりであった。永田さんが審査員をしていた1年前のHonda Xcelerator カタパルトで、プレゼンに感動して号泣しているカメラマンに気づいていたのだ。カメラマンに「Facebookに投稿していいですか?」と了解をとりながら、自分の携帯でカメラマンと自撮り。カメラマンも満面の笑顔だ。
▶Hondaと協業できるのは誰か?「世界に負けない、日本の底力を感じる」Honda Xcelerator カタパルト日本初開催!【ICCサミットKYOTO 2018レポート#8】
次のセッションは朝から続く4連投の4番目。登壇前のスタジオ撮影では、自ら盛り上げ役となって謎のポーズをとってみたり、ICCポーズをしてくださいとお願いすると必ず繰り出す”猫手”でポーズ。そして立ち見も出るほどぎっしりと埋まったF会場へと向かっていった。
ディスカッション中の永田さんは、他の登壇者の話に耳を傾けるか、自分が次に言うことをじっと考えているかのどちらかで、ムードメーカー的盛り上げなどはしない。そして真剣に議論するために力を蓄えて、一気に放出する。それがスパークしたのはこの発言だ。
「僕が一番注力していてユーグレナでやっているのが、資本主義における重要指標を変えていきたいということ。僕は主要KPIを、経済性から社会インパクトに変えられるのではと思っています。
ちょっとだけ話していいですか? 持論があります。
世の中で僕らの経済活動に参加しているのは、経営者以外に3種類。投資家、消費者、労働者です。
そのなかで、これから一番変化していくのは労働者です。あと5年もすれば世界の労働人口の75%がミレニアルに変わっていく。その人たちの選択理由が『経済性』より『社会性』に向いていくのは間違いないと思っています。
現在の投資家のほとんどは我々より上の世代で、今までの『経済性』の流れのほうが強くて当然です。消費も、日本の消費活動も同様で、そこに対して『社会性』のメッセージは主要な選択要素にはまだ成り得ないと思っています。特に日本では。
環境に良いものを売るとか、ESG投資(※)を進めていきましょうと僕らが言うのは、その人たちに訴えているのではないのです。企業を支えるのは人です。その働く人々の世代が企業を選択する要件が変わっていくんです。僕はユーグレナやリアルテックファンドをやりながら、それを痛感しています。
▶編集注:社会的責任投資。環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のこと
優秀な人材ほど社会インパクトが企業選択理由となっていく。そこで選択される会社を作るということは、優秀な人材が集まっている会社にもなる。それはつまり経済性においても強くなるわけです。『社会性』は『経済性』すらも含有する最重要指標になっていくことができるのではないかと思っています」
そう断言した永田さんに、登壇者たちが大きく賛同する。本田技術研究所 執行役員の杉本 直樹さんからの質問「グローバルに勝つユニコーン企業を生むには?」にも全力で回答して、セッションは時間いっぱいとなった。
真剣な議論が終わると、一挙にリラックスした表情になったのは、この日の最後のセッション登壇が終わったせいだろうか。会場を出たところで、永田さんは久しぶりに再会する人を見つけて「今どこにいるの?」と、歓声を上げている。
会場でのやりとりから、かなり親しそうな杉本さんに聞く。
杉本さん「永田さんに名指しされたので、何か質問しないといけないかなと思いまして(笑)」
永田さん「僕はめっちゃ見ていましたよ。杉本さんとは相思相愛のはずです! Hondaは日本で一番愛している会社のひとつです」
杉本さん「日本で一番愛しているVCの一人です!」
相思相愛であった。
18:00〜 休憩時間の立ち話(ミニインタビュー)
4連続のセッションが終了して、永田さんはようやく雑談ができるような余裕ができた。軽食スペースに置かれた冷蔵庫から「飲むミドリムシ」を取り出して、飲料担当のスタッフに声をかけている。
そこへKANDO田崎 佑樹さんが来て挨拶している。
そのうちSmartNewsの西口 一希さんを見つけ、ラクスル田部 正樹さん、コーポレイトディレクション占部 伸一郎さん、グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮 慎一さんも加わり、楽しげに話し始めた。他の人が去ったあとも、西口さんと熱心に話し込んでいる。
話が終わったところを見て、永田さんに今日の登壇の感想を聞きに行った。
ーー4連投終わりました。西口さんと話し込んでいましたね。
永田さん「西口さん、めちゃくちゃ好きなんです。日本の企業が海外で勝つためにはという話で、ほとんどの企業が失敗するという話をしていました。一般論的に、グローバル企業が日本に進出するとき、カルチャーや現地ビジネス感がない状態でトップを選ぶと、間違いが起こりやすいという話をしていました」
ーー西口さんとはいつからお知り合いなのですか?
永田さん「ICCの企画です。ありがとうございます!(とお辞儀) 本当にリスペクトしています。僕、人生において出会った経営者はほとんどICC経由です。引きこもりなので、本当に全部ICCですよ」
ーーICCではコミック『キングダム』ネタが熱いのですが、永田さんも『キングダム』で盛り上がっていたという噂を、他の登壇者の方から聞きました。
永田さん「キャラクターなら昌平君だと言われたんですけど、僕が好きなのは信です」
ーー言うことが一貫していますし、熱いところは確かに信ですね。
永田さん「信って何もないところからスタートするじゃないですか。僕はまだ昌平君と言えるほど、自己評価が高くないんです」
ーー周囲からの評価は高いのに、なぜそう思うのですか?
永田さん「だって僕、まだ何も成していないじゃないですか。上場したし売上は成長してきましたけど、ユーグレナの食品はもっとポテンシャルがあるし、まだ(バイオ燃料で)飛行機も飛ばしていない」
ーー無理だと思われるようなことでもやる、と言い切って、全力を尽くされています。高い目標を掲げて、これをやりたいと言い続けることですら、難しかったりしませんか。
永田さん「何があってもミドリムシと言い続けられるほうがすごいですよ。出雲(充さん、ユーグレナ代表取締役社長)はすごいと思います。でも、うちよりすごい会社はいっぱいいて、僕らが何をいくら言っても、経営者は会社の成果がすべての指標だと思っています。
言うだけなら、簡単です。誰でも言える。実績を出しているすごい人達が、世の中にたくさんいます!」
ーーICCサミットの最近の特徴としては、社会貢献色の強い企業が増えてきたように思います。永田さんたちの影響も強いのでは?
永田さん「みんな、やる気が出てきましたか(笑)。そういうことを言わないと恥ずかしい雰囲気にしていきたいんですよ。僕は基本的に、ICCに参加している目の前の人をまず変えたい。
それに、約20万円払って参加しているので、話を聞いて、満足して帰ってもらいたいんです。
前夜祭のあった昨日も先輩に飲みに誘われていましたが、行けないんですよ、性格的に。登壇するときのパフォーマンスを最大化したいので、その準備をするのと体調を整えるために」
ーー話は変わりますが、夏に公開された、ユーグレナの18歳以下のCFO募集や、永田さんがインタビューした「未来の大人たちに聞いてみた。」の映像は衝撃的でした。
永田さん「子どもたちに言わせた、みたいに見えるかもしれませんが、そんなことはなくて、25人ぐらいインタビューをしたうちの4人の映像です。普通の子どもらしいことを言う子もいましたが、『未来を私たちにください』というの、あれはグッときますよね」
ーーTwitterを拝見すると、最近ユーグレナでファンイベントをされたとか。イベントでは何をされているのですか?
永田さん「今の時代はモノを直接売らないので、誰が自分たちを支えてくれているのかわからないことが多い。買ってくれている人たちとお会いする機会で、大切にしています。
まず古典落語ーー出雲がいつも話すバングラデシュの話を出雲がします。古典落語って、何回聞いてもいいじゃないですか。出雲がいつもする、何回聞いてもいい話をします。
あとはみんなでご飯を食べて、縁日みたいな作りで、各事業をしている人たちが想いを伝えたり、実際ミドリムシを触ってみたりします」
ーー会社に踏み入れた時点で、泣き出す人もいるというのがすごいですね。
永田さん「うちのファンは、そういうふうにエンゲージメントが高い人が多いんです。とくに出雲愛が半端ないです」
ーーそれを一番近くで支えているのが永田さん。
永田さん「出雲が主演俳優ならば、僕は監督とか脚本側でいいなと思うんです。みんなが出雲さん!となっているのが一番うれしい」
19:15〜 ユーグレナ出雲充さんのコメント
この日、出雲さんは最後のセッション5F「起業家よ、大志を抱け! 社会課題を解決するビジネスを創るための『志』とは?」に登壇をしていた。永田さんに見に行くかどうか聞いたところ、出雲さんが話す内容はわかっていると答えた。
「映像的に必要があれば、行きますよ」という親切な申し出をいただいたが、ここは登壇後に出雲さんにコメントを聞くことにした。永田さんがいかに出雲さんを尊敬し、好きなのかは取材中に伝わっていたが、出雲さんはそんな永田さんをどう思っているのか。
出雲さん「永田がどういう存在か。
間違いなく私にとって、大切な大切な存在です。いちばんわかりやすくいえば、私の最高の理解者です。
私は、世界で一番ミドリムシのことをよく理解しています。永田はもしかすると、私よりも僕のことをよく理解してくれているんじゃないかと思います。
大切な仲間であり、パートナーですね」
ーー永田さんから、出雲さんにほれこんでいるという話をうかがいました。
出雲さん「そんなうれしいことはないですよ。
私はミドリムシにほれて、ミドリムシが大好きで、そんな私がやりたいことを、常に誰よりも理解して、実現に向けて取り組んでくれる永田が好きだと言ってくれる。こんなにうれしいことはないですね」
出雲さんは、迷いも照れもなく、言い淀みもせず、はっきりとそう答えた。
22:00〜 「インベスターズ・ラウンドテーブル」出席
ホテルでのプログラムがすべて終わり、残すはパーティのみとなった。フォーチュンガーデン京都には、レッドパスの参加者が集まっている。カタパルトの登壇を終えたプレゼンターたち、審査員たち、登壇者たちがにぎやかに交流している。
その中でも「インベスターズ・ラウンドテーブル」は、別のフロアで、4つの関連セッションに出席した登壇者たちが集まり、着席形式で食事をしながら議論を続けようという企画だった。かなり雰囲気は異なるが、本日5番目の出番である。
にぎわう別フロアとは違い、落ち着いた雰囲気で、永田さんもリラックスした表情だ。
やがてパーティも終わりに近づき、2次会へと流れる人たちが出てきた。永田さんに今日一日を振り返る映像コメントをお願いする。「ちょっと酔っちゃったけど、大丈夫かな〜」と笑っているが、そこはもちろん大丈夫、むしろ冴えているほどだった。
永田さん「僕は本当にICCで人生が変わりました。ユーグレナという会社で世に出るのは出雲充だと思っていたのですが、ICCに機会をもらいました。そのおかげで人に認められることも、やれることも増えて結果的に自分の人生が変わっている。だからICCへの恩返しをし続けたいという気持ちが強いです。
ユーグレナもリアルテックファンドも、まだ口だけで成果は出せていません。思考、アクション、一貫性でICCに評価をいただいているのはありがたいのですが、自分としては変化の過程。結果を示すのはこれからだと思っています。
ICCに参加し続ける理由は、新しい出会いがあったり、アウトプットすることで自分の学びにつながることもありますが、自分が何かを刈り取ろうというより、参加、登壇する人との共通知だったり、お金を払って参加する人にお返しするという気持ちのほうが強いですね」
ICCサミットの1日を振り返って
ーー登壇したセッションをまずは「スタートアップ・カタパルト」から、1つずつ振り返っていただけますか?
永田さん「一番大きな変化は社会性です。何を成し遂げているのかという文脈が年々強くなっていると思います。ついにリアルテックファンドが出資しているところがスタートアップ・カタパルトに出たり、リアルテックとインターネット領域の融合がだいぶ進んでいて、経年の変化を感じました」
ーーSession2A【完全オフレコ】「組織の壁(シーズン5)~過去の失敗から学んだこと~」。
永田さん「ICCに出るようになってから、自分自身もCFOから副社長へ変わりましたし、明らかに見る範囲や組織に対する考え方も変わりました。もしかしたら一番、自分の中で経営者としての変化が出やすいセッションだったのではと思います」
ーーSession3A「リアルテック・カタパルト」。
永田さん「自分の司会としては点数低いですが、主役はプレゼンをするベンチャーです。
リアルテックファンドとしての出資先は半分ぐらいいて、社会を変える技術が育つという、理念を中心としたアクションにどんどん移行していると思いますし、審査員の方々の目がより向いてきてくれていると感じて、やっている意味があるなと思います。
このまま発射台(カタパルト)として、日本でのディープテック、リアルテックの投資や人の移動が進むなら、本当に意味があるなと感じます」
ーーSession 4F「ユニコーンを生み出すためにVCはどう変わるのか?」。
永田さん「終わった瞬間に、UBSの武田さんがよかったと言ってくれたのですが、みんなも資本主義の壁を感じているタイミングなのだと思います。そのなかで自分自身が新しい価値観や資本主義の指標を見つけようというのに理解、共感してもらえたのはすごくよかったと思っています。
世の中と違うことをやろうとしているわけではなくて、自分が信じていることを、今の社会の中で実現しようとしているところ、社会の許容度が上がってきている感じがして、一緒に登壇していた方々も応援的なことを言ってもらえて、世の中がよくなっていく気持ちに改めてなれました」
ーー今日はどんな一日でしたか。
永田さん「自分が語る場は2セッションだったので、正直まだまだ出せる感じがあります。自分がやれることをやって、みんなが少しでも変化があって、社会が変わることが自分のバリューだと思っているので、明日も頑張りたいと思います!」
その言葉どおり、永田さんは翌日も頑張った。幹部採用、ファイナンス戦略のセッションは惜しみなく語り、レジェンド経営者には、教えを請う生徒のように質問していた。連続登壇の疲れなどみじんも見せなかった。与えなければ得られないというが、永田さんは得られるものすら固辞して、与え続けようとする人である。
翌日のセッション「レジェンドが語り尽くす! メガベンチャーを創るための経営者の仕事とは?」レノバ千本さんと
正しい方向はこれ、それを頭を振り絞ってやるべきだ、そのやり方はこうだと考える、永田さんは常に断言する。
その話題は苦手、今日は疲れている、質問したいことはない、永田さんはそんなふうに逃げない。
こうあるべきと思うことを、つねに全力でやろうとし、やりきることがミッションだと硬く信じる正義漢である。
唯一難癖をつけるとしたら、どのセッションでも言っていることが同じだが、これは信念が一貫しているからで、ぶれていないからで、当然といえば当然である。
どうしたらそんなにぶれずにいられるのかと、カメラのスタンバイを待つ間に聞いた。
永田さん「ぶれないことが幸せだと知っているからです。それに気づいたのは31歳ぐらいの時です。
それまで僕は、コンプレックスだらけの人生だったんです。他人と比べたり? 軸によっては今でもありますよ」
それが嘘でも謙遜ではなく、リアルに聞こえるところが、永田さんをカッコいいだけで終わらせないのである。
以前の運営スタッフ向けのイベントで、永田さんは「25歳まではコンプレックスだらけ。信じられることを自分で見つけられず、ミドリムシに熱中している人に乗ってみた」と言っていた。
▶登壇者たちも迷い、模索していたことを告白!スタッフ打ち上げ恒例「自分の人生をどう生きるか シーズン3」【ICCサミット運営チームレポート】
コンプレックスを克服するにはパワーが必要だ。直視することはつらいし、自分の客観的な分析は至難の技だ。
コンプレックスだらけの自分、熱中できる目標を自分で見つけられなかったことを、内心マイナススタートだと思っているのかもしれない。しかしそこからプラス転化しようと、必死の努力と思考を続けているからこそ、永田さんは、今は何者でもない若い運営スタッフたちの心を震わせることができるし、同時代の起業家を惹きつける。
そこに痛々しさを感じないのは、今の事業に目標とやりがいを感じ、社会を少しでもいい方向に変えようと熱中することで、自分が心から幸せになり、楽しいから。
だからどんなに多忙でも時間を作り、自分の経験を惜しみなく共有して「一緒にやりましょう」と呼びかける。社会を変えるのは一人でできることではないと知っているし、何よりここには未来を一緒に変えたい仲間とその予備軍が大勢いるからだ。
自らを「社会不適応者ですよ」と言いながら、その社会を変えたいと思っている。究極の自己中ともいえるが、究極的な社会の正義を、愛する家族のために、未来のために、事業を通じて達成したいと願っている。
育児のために時短中というが、永田さんは今できることを全力で、仕事でもプライベートでも、ひたすら幸せを求めて真剣に向き合っている。本気でやれば、どこまでできるか。言葉に熱が込もるのは、毎日が真剣勝負だからだ。
真剣すぎて面白くなることさえあった。映像コメントの収録で、長いコメントを噛むことなく理路整然と話しきり「すばらしい」と自画自賛したが、しばらくして「なんかきれいすぎるんだよなぁ」と言い始めた。逆に説得力に欠けると、どこを崩すべきだったか悩んでいる。どうやら力の抜きどころがわからないらしい。
スマートでカッコいい見た目に、すっかりうがった目で見ていた。永田さんは、むしろド真面目で猪突猛進の人だった。向かうゴールが明確で、責務を感じていて、そこに早くたどり着きたくてたまらない。だから少々せっかちで、自分も周りも焚きつける。「普段は今日の10倍忙しいから、今日は楽勝」というのは、あながち冗談ではないだろう。
「まだ何も成していない」と何度も言ったが、永田さんの頭の中の「成す」は、どれだけ大きいのだろう。
「ICCが広がるためなら、何でもしますよ!」と、この日、最初に永田さんは言った。そこまで言ってくださるのは、恩を感じていただいているのもあるが、永田さんが「ともに学び、ともに産業を創る。」というICCのビジョンの先に、10倍、1,000倍よくなった社会が見えているからに違いない。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成
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