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ICC KYOTO 2022のセッション「世界の偉人伝 (シーズン4)」、全8回の⑦は、デュシャンが問題提起したことについて、Takram渡邉さんが解説します。当時下品で不道徳とされた作品を発表して単なるアンチテーゼにとどまらなかったインパクトは、「強い影響力を持つ20世紀のアート作品」1位に輝いていることからも明らか。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜9月7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
本セッションのオフィシャルサポーターはリブ・コンサルティングです。
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【登壇者情報】
2022年9月5〜8日開催
ICC KYOTO 2022
Session 7F
世界の偉人伝 (シーズン4)
Supported by リブ・コンサルティング
(スピーカー)
石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事
丸 幸弘
株式会社リバネス
代表取締役 グループCEO
山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長
渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授
(モデレーター)
井上 真吾
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン
パートナー
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「強い影響力を持つ20世紀のアート作品」で堂々の1位
渡邉 いや待て、ショッキングな人かもしれないのは分かったけれど、そもそもデュシャンは偉人なの? と。
どうでしょう、世の中ではこういうふうに評価されています。
例えばですが、京都在住で美術の本をたくさん書いている小崎 哲哉さんは、デュシャンは100年前から「現代アートとは何か」を考え抜き、現代アートのルールをすべて作った、なんていうふうに表現していますね。
そして、そもそもイギリスの権威あるTurner Prizeという賞があるのですが、デュシャンの『泉』は、イギリスのアート専門家500人が選ぶ「最も強い影響力を持った20世紀のアート作品」として堂々の1位です。
これはピカソを抜いて1位で、ピカソの「アビニヨンの娘たち」が2位です。
▶Entertainment | Duchamp’s urinal tops art survey(BBC NEWS)
覚えてください、デュシャンです。
デュシャンが起こした「リチャード・マット事件」
井上 どうしてこうなるに至ったかのストーリーを聞きたいですね。
渡邉 あっ、いいですね。ではその話をしましょう。
デュシャンはフランス人で、小さい頃から絵を描いていて、家族も絵を描いていました。
家族で芸術観がだいぶ違っていたので、鬱屈した思いを抱えながら、全然自分の絵がフランスで認められない状態でアメリカに渡ります。
そうすると、アメリカでは受け入れられて、ヨーロッパの最先端のアーティストが来たみたいに扱われます。
これは「泉」を作る前です。
なぜか知らないけれど有名人になり、お金持ちにフランス語を教えるなどして生計を立てていました(笑)。
その後、「リチャード・マット事件」と呼ばれている事件につながります。
時代としては、第一次世界大戦中の1917年、ニューヨーク・アンデパンダン展という独立美術家協会の第1回の展覧会がありました。
アンデパンダン展の定義は、審査なし、賞なしで、誰でも入会金1ドルと年会費5ドルの出展料を払えば展示できるという場でした。
誰でも出品できるはずのこの展示に、デュシャンは応募しました。
日曜画家も専門家の作品も、みんなここに並ぶというのがルールでした。
「泉」は美術作品なのか?
渡邉 デュシャンは何をしたかと言うと、 諸説あるのですが、J.L. Mottという配管材メーカーのショールームで小便器を購入したと言われています。
それに、「1917 R. Mutt」とサインして、角度を変えて、「泉」と名付けて、これをレディ・メイドと呼びました。
「泉」は、美術作品ではないと理事会が展示を拒否して、結局のところ展示されませんでした。
理由は、下品で不道徳、人のものだし剽窃(ひょうせつ)、単なる水回りの製品に過ぎない。
丸 だめじゃないですか。
渡邉 (笑)
山内 常識的な反応ですよね、当時の。
丸 僕も最初見た時に、同じことを思ったもの。
全然だめ。こんなのはもう失礼だ! この業界には失礼だ、と。
渡邉 ドクター・マルは、アートの良心を体現しているのかもしれません。
井上 このアンデパンダン展は、もともと売れない画家を救おうみたいな、通常の概念のアートを展示するためのものだったわけですか?
渡邉 もともとは、超権威主義的だったヨーロッパ的、歴史的展覧会からは独立したい、もっと平等主義でいこうという目的で立ち上げられました。
だから、プロも日曜画家も平場で出品するという場だった。
井上 なるほど。小便器が出されるとは思っていなかった。
渡邉 誰も思っていなかった。そして拒否されてしまった。
井上 …まあそうですよね。
渡邉 ちなみに時代背景でいうと、まだ1917年なので、便器は結構スキャンダラス、今より更にスキャンダラスで、公然わいせつ的なものです。
アートかそうでないかにかかわらず、便器とか、そういう話を人前でできないので、新聞で酷評されました。
酷評されたのですが、新聞に「便器」という言葉は1回も出てきていません。
山内 ああ、その言葉を書くのも…
渡邉 はばかられる。
丸 水回り製品?
渡邉 水回りの備品を出品みたいな(笑)。ぼかした言い方です。
結局展示をお断りされたので、自由を掲げている展覧会なのにその前提が崩壊した、偽善性が暴かれたという指摘もありました。
何が受け入れられ、何が受け入れられないかを、リトマス紙的に示したともいえるかもしれません。
デュシャンは炎上マーケティングの先駆者?
渡邉 さらに言うと、そもそも展示されていないのだったら、誰にも知られないから、問題になりようがないはずですよね?
ですが、直後に、これが展示されなかったのは問題だという抗議文を、デュシャンは雑誌で発表しました。
井上 匿名だったけれど。
渡邉 デュシャンが書いたと言われているし、この小便器もデュシャンが出したと言われていますが、本人は1回も認めていません。
丸 …狂っていますね。
渡邉 狂っている(笑)。
石川 えっ、デュシャンは、自分が出したと認めていないんですか?
渡邉 認めていないんです。
山内 ここまで含めて仕込みというか、構想というか。
これも計画通り、みたいな感じなんですかね?
渡邉 この抗議文は事件の後にスパッと出さないとタイミングが悪いですから、出品が断られることは分かっていたんでしょうね。
丸 断られることを前提に、ということですね。
えっ、委員に入っていたの? デュシャンは。
渡邉 そうなんですよ、そこが…
丸 もうやらせですよね。
自分で出品を止めて、自分で抗議文を出したんじゃないの?
渡邉 現代に例えると、 YouTuberが自分で炎上させているようにも思えますよね。
丸 そうですね。すごい!
井上 まさに炎上マーケティングですね。
渡邉 言ってみれば、炎上マーケティングの先駆者ですね。ただ、彼自身は出品に反対したわけではないと思います。他の理事が反対した。
丸 すごいなあ、世の中にこんなことをやる人がいるんだ。
(続)
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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美