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6.今なお見る人を困惑させる「泉」の作者、マルセル・デュシャン

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ICC KYOTO 2022のセッション「世界の偉人伝 (シーズン4)」、全8回の⑥は、Takram渡邉 康太郎さんがマルセル・デュシャンを紹介。現代アートの礎を作ったといわれるデュシャンの問題作「泉」について、当時の時代背景も含め解説します。そもそもよいアート作品とはどんなものなのか、ぜひ登壇者と一緒に考えてみてください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜9月7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションのオフィシャルサポーターはリブ・コンサルティングです。


【登壇者情報】
2022年9月5〜8日開催
ICC KYOTO 2022
Session 7F
世界の偉人伝 (シーズン4)
Supported by リブ・コンサルティング

(スピーカー)

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

丸 幸弘
株式会社リバネス
代表取締役 グループCEO

山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授

(モデレーター)

井上 真吾
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン
パートナー

「世界の偉人伝 (シーズン4)」の配信済み記事一覧


井上 ここで満を持して、渡邉さんの登場です。お願いします 。

 デュシャンですね。

渡邉 はい。今の(石川)善樹さんの、結局SDGsも経済ベースじゃないですか、というお話は、本当にそうだなと思いました。

丸 そうですよねえ。

渡邉 1960年代に、ジョン・F・ケネディ(1917〜1963)の弟のロバート・F・ケネディ(1925~1968)が、スピーチのなかで言った言葉があります。当時はまだGDPではなくGNPの時代でしたね。

ロバート・ケネディは、GNPで経済は測れるかもしれないが、我々の人生に必要なものは何も測れていないというスピーチをしています。それどころか、GNPを高めることの弊害にも触れています。

REMARKS AT THE UNIVERSITY OF KANSAS, MARCH 18, 1968(JOHN F. KENNEDY

PRESIDENTIAL LIBRARY AND MUSEUM)

GNPでは、ナパーム弾の生産も、装甲車の生産も、強盗が鍵を壊す時に使う工具も含まれます。

これを高めることが、必ずしも良いこととは限らない。

一方で、これでは、 知恵も学識も、思いやりも、国への献身も測れない。私たちの平和を測ることはできない。

こんな指標を使っていてはだめだと、ロバート・F・ケネディが言っています。

 素晴らしい。

【Takram渡邉さん選】現代アートの礎を作ったマルセル・デュシャン

渡邉 それでは、測らなくてはいけないのは何か? Well-beingや文化などの部分をどうやってやっているのかという、20世紀の考え方の礎を作って、価値観を揺さぶりまくったのが、デュシャンです。

(フランス語の発音で)マルセル・デュシャン(1887〜1968)。

マルセル・デュシャン – Wikipedia

そして、デュシャンって誰?

(会場に)もう1回聞いていいですか? デュシャンを知っている方は?

 結構いるんですね、僕は逆に全く知りませんでした。

石川 名前は知っているけれど、顔は分からないですね。

あの作品は、思い浮かびます。

渡邉 イケメンです。

 やっぱりそうなんですよね。

渡邉 そうなんですよ。メルヴィン・カルビンさん(Part.3〜4参照)くらいイケメンです。

顔を見せておくと、こんな感じです。

 おー、イケメンだ。

渡邉 見てください、ツァーリ(皇帝)みたいなファーを羽織っていますよ。

デュシャンは20世紀に活躍した人で、フランス生まれですが、ニューヨークで活躍しました。

現代アートはややこしい?

渡邉 デュシャンは現代アートの礎を作りましたが、現代アートって、基本、なんかちょっとややこしいイメージがありませんか?

なんだかよく分からないし、例えば、基準は何なのか?みたいな。

こちらの写真は、現代の作家ジェフ・クーンズ(1955~)の作品です。

存命の作家で最高額の、約100億円で作品が取り引きされたりしていて、やばいです。

現存アーティストの過去最高額を更新。ジェフ・クーンズの《ラビット》が約100億円で落札(美術手帖)

意味が分からない。

なんとなく見るけれど、よく分からない。

何によって評価されているの?と。

その評価軸をバシッと作ったのが、デュシャンだったとも言えそうです。

なので、今日覚えてほしいのは、デュシャンとカルビンです(笑)。

(一同笑)

ビジネスカンファレンスでアートを取り上げる理由

渡邉 さて、なぜビジネスカンファレンスで「アート」なのか?

ちょっと振り返っておきます。

アートはストーリーが芯にあるので、コピー可能なスペックだけでつくられてはいない。

また、ヘンリー・ミンツバーグ(1939~)が言うように、良い経営とは、「アート」と「サイエンス」と「クラフト」という三位一体でつくられるものです。

 間違いない、これは間違いない。

渡邉 あと、そもそも経済自体も「役に立つ」から「意味がある」にどんどんシフトしていく流れがあると、山口周さんが言っています。

ただ単に機能を満たすだけでは、コピーされてしまいますから。

井上 この「価値がある」へ、「意味がある」へという流れは、先ほどの話とも通じますよね?

渡邉 ですよね。

あと、ルールや法律に則っていれば、何をしてもいいのかというと、そういうわけでもなくて、中身を考えないといけない。

また、歴代ノーベル賞受賞者を調べてみると、受賞者は一般的な人より圧倒的にアートへの興味関心が高いという謎の統計があります。

ノーベル賞を獲る人になぜか共通する「趣味」  アートと科学の意外な類似点とは一体何か(東洋経済オンライン)

だから、ノーベル化学賞を2回獲ろうと思ったら、たぶんアートです(笑)。

みんな頷いている(笑)。

 これは間違いないと思う。

そもそも、よいアート作品とは何か?

渡邉 そもそも、よいアート作品とは何か?

皆さん、なんとなく想像してください。

皆さんの思う、よいアートの定義がイメージできれば。

どうでしょう? (石川)善樹さんにとってよいアートとは、どんなものによって構成されているのでしょうか?

これを満たしていたら、よいアートかなというのは?

石川 まずは、いい美術館に飾られている。

渡邉 そうですね、これは面白いですね。

石川 あと、訳が分からない。

(一同笑)

渡邉 ああ、何か問いを持っているとか、アートワールドに評価されているとか。

例えば、こういうふうに言う人がいるかもしれません。

その人にしか作れないオリジナルな作品を0→1で生み出して、その技術力や完成度みたいなものが際立っていて、人を感動させる力がある。

こう言う人はいるかもしれないですね。

マルセル・デュシャンの超問題作

渡邉 けれども…

デュシャンが作ってしまって問題になった作品というのが、これなんです。

山内さん、これは何でしょうか?

山内 これは僕でも知っています。

渡邉 はい。

山内 「泉」という作品名なんだけど…。

渡邉 うむ。

山内 「どう見ても便器だろう?」というのですよね。

渡邉 そうなんですよ、男性用小便器ですよね。

山内 そうですよね、なめてんのか?みたいな(笑)。

渡邉 そう。

山内 当時非常に問題になったんですよね?

渡邉 そうなんです。

 これ、アート作品なんですか?

渡邉 イエス!

山内 一生懸命に絵を描いたり、彫刻とか、アート作品をみんなが出品しているのに、「泉」とか言ってこれを持ってきたら、「お前なめてんのか?」って、最初はなりますよね。

 今、完全になめてんのかと思いました。

(一同笑)

山内 しかもなんか使った形跡が…、中古感があります。

 とりあえずその辺から持ってきた感がありますよね。なんか文字が書いてあるし。

渡邉 ああ、だから結構デュシャンは仕事をしていますよ。

 文字を書いた…?

渡邉 ほら、文字(R. Muttと1917の文字)を書いています!

山内 自分の作品だと表している。

渡邉 あと、よくよく見てください。点々の穴があります。

あれはおしっこを流すところですよね。

だから、角度を変えているんですよ。

山内 あ、ほんとだ(笑)。

渡邉 これは、普段だったら上から見下ろしている角度でしょう?

角度を変えてしまっているんですよ。

……すごくないですか?(笑)

先ほど言っていた、「よいアート作品とは?」と照らし合わせると、まあ全部クエスチョンマークなんです。

オリジナルという点では買ってきたものだし、0→1って?

石川 ゼロじゃない。

渡邉 技術や完成度って? 

これで感動させるの?などなど。

 なるほど。

渡邉 驚きですよね。

山内 これはでも、意味論というか…、「芸術」というと美しく、何か造形物を作るとか、そういう時代がずっと1,000年単位で続きました。

それに対するアンチテーゼというか、大きな問いの投げかけだとか、そういう話をちょっと聞いたことがあるのですが。

渡邉 お、かっこいいですね。ありがとうございます。

そういう話に展開してまいります。

山内 あっ、すみません。ありがとうございます。

渡邉 いや、嬉しいですね。

そういうことなんですよね。

(続)

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美

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