「見えるものだけが真実ではない」春光院 川上(全龍)隆史 さん、HLAB高田さんが想像する文章の背景 | 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION

8. 「見えるものだけが真実ではない」春光院 川上(全龍)隆史 さん、HLAB高田さんが想像する文章の背景

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「大人の教養シリーズ『読書』〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン2 )」全9回シリーズ(その8)は、春光院 川上(全龍)隆史さんと、HLAB高田 修太さんが自分の読書を紹介。禅僧の仕事は「すべてを疑う」ことといいますが、そんな川上さんが面白いと感じる1冊とは。マジシャンでもある高田さんは、今の景色から過去に思いを馳せる1冊を紹介します。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット KYOTO 2020のプレミアム・スポンサーとして、Lexus International Co.様に本セッションをサポート頂きました。


【登壇者情報】
2020年9月1〜3日開催
ICCサミット KYOTO 2020
大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン2 / 90分拡大版)
Supported by Lexus International Co.

(スピーカー)
嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員/株式会社博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授

(ゲスト)

川上(全龍)隆史
宗教法人 春光院
副住職

琴坂 将広
慶應義塾大学
准教授(SFC・総合政策)

高田 修太
一般社団法人HLAB/株式会社エイチラボ
共同創設者COO / プロマジシャン

丸 幸弘
株式会社リバネス
代表取締役 グループCEO

大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン2)の配信済み記事一覧


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最初の記事
ビジネスパーソンにとっての読書とは? シーズン2も本を語り尽くす!

1つ前の記事
仕事も趣味もひたすら多読、慶應義塾大学 琴坂さんの血肉となる読書

本編

春光院 川上さんの読書のポイントとは?

 では、川上さんお願いします。

渡邉 研究者的なスライドですね。

川上 ただネットの自分のサイトにあるものを貼っただけですが。

私は禅僧です。

  • 仏に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺せ(臨済義玄)
  • 「教本は釈迦や過去の名僧の実在のとらえ間違えばかり。釈尊ですら捉えられなかった実在を凡夫の我々が捉えられるはずが無い。」(至道無難禅師)
  • 書いてある事をそのまま信じるな!

読書のポイントを少し坊さんっぽく書きましたが、先ほども申し上げた通り、書いてあることを鵜呑みにしないということです。

私は、本を読みながら「ここ違うよな」など色々と頭の中で考えていて、結局全く内容を覚えていないのです。

なぜかというと、私は禅僧なので、疑うことから仕事が始まるからです。人が「これ、いいよね」と言ったことに対してケチをつけるのが僕の仕事なのです。

ですから、ベストセラーやトップ10の本は、本屋でペラペラめくってみます。

そして、今みんなはこういうことを欲しているのかなとか、こういう本を読んで気持ち良くなろうとしているのかななどと考えます。

だいたいそういう本って、最近だと簡単にクリアに書いてあります。僕は、そのように結論や答えが書いてある本は一切読みません。

「それは誰かの解釈であるわけであって、あなたの解釈じゃないよね」と。

宗教法人 春光院 副住職 川上(全龍)隆史さん

逆に、丸さんがおっしゃっていたように、“分からない本”を読まなければ意味がないのではないでしょうか?

「ふむふむ、そうだよね」という本は、結局、自分の分かっていることが書かれているということだから、自分の枠から出られないと思うのです。

ですから読書のポイントは、「書いてあることを信じるな」です。

そう言うと、だいたい怒られるのですが(笑)。

琴坂 本というものは、信じるものではないですからね。それは重要ですよね。

川上 そしてやはり、言葉では完全に物事を捉えることはできません。

私たちの業界には、不立文字(ふりゅうもんじ)という言葉があります。

曹洞宗ではよく使う言葉で、「文字に頼るな」「本を読むな」ということです。ここで言うと怒られるかもしれませんが。

「本を読むな、本に頼るな、もっと直接的な経験から学べ」といった意味もあります。

でも、やはり本を読むことによって他者の捉え方を学ぶことができると思います。

ポイントの2つ目ですが、至道無難という臨済宗の僧侶が、「釈迦ですら捉え間違いをしている、現実の捉え間違いをしているのだから、我々が捉え間違うのは当たり前だ」と。

でも、その捉え間違いから学ぶことは、自分たちにも重要だし、そこから自分たちも捉え間違えることはするんだから、それを肝に銘じていなさいと。

「これで分かった」「これで完璧だ」と思った瞬間に、固定概念ができてそこから成長できなくなるという教えです。

 分かったつもりが一番危ないですね。

川上 そうですね。

川上さんが明の時代の処世術の本を読む理由

川上 これは原本では読んだことがありません。注釈本しかありません。

渡邉 これはすぐには買えないのでしょうか?

川上 いや、買えます。解釈本はたくさん出版されています。

琴坂 この書名、『菜根譚』はどう読むのですか?

川上 「さいこんたん」です。中国、明の時代の処世術の本です。

現代版の処世術は読みませんが、このような本を読んでいます。

なぜかというと、歴史が好きだからです。

この本は明代の終わりに書かれたものです。明王朝が滅んでいき汚職が広まっている時代です。

そういう時代にこうして生きたらいいのではないかなど、結構当たり前のことがたくさん書いてあり、しかも矛盾もたくさんあるのです。

例えば、「大衆に媚びるな」って書いていたと思えば、「大衆の言うことを聞こうよ」という話も書いてあったりします。そういう当たり前のことがたくさん書いてある。

僕がなぜこのような本を選んだかというと、結構、専門書ばかり読むタイプの人間で、周りが見えなくなるからです。

だから敢えてこういう本を読んで、「ああ、やはりこういうことを気にしないと駄目なのかな」と考えたり、ごく当たり前のことが書いてあるから、日めくりカレンダーの感覚で読んだりしています。

今も400年前も、人は同じ矛盾や悩みを抱えている

 分かります。先ほど、相反することが同じ本に書いてあるとおっしゃっていましたが、相反する言葉を堂々と使えるようになると、“真”に近づくんですよね。

例えば「ゆっくり急げ」のような言葉がありますよね。

これはその意味をどう捉えるかということが重要で、この言葉にある矛盾こそが、実はすごく大事なのです。

まさに「信じるな」と言っているのと一緒で、この矛盾に実は、人間の性というかグラデーション、つまり白か黒、右か左ではない世界があって、このような本には必ず出てくるのです。

川上 そうですよね。

 それが面白いですよね。

琴坂 深いですよね。

川上 それこそ、石川 善樹さんや、北川 拓也さんや、井上 浄さんと一緒にやったセッション(※)に「動的平衡」という言葉がありましたが、まさしくこれが「動的平衡」です。

▶編集注:セッション「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン2)(全9回)」中の「平穏無事が最善なり」京都・石清水八幡宮の世にも珍しいおみくじとはで言及。

極端な考え方を行ったり来たりして、我々の真理ってここらへんにあるのかな?と思っても、捉えたと思った瞬間にずれているというような感じです。

 実は生命の細胞の中には常にその動的平衡があるので、ずっと矛盾した状態があります。

ですから、生命科学の本を読むと「そうだよね」となるのです。

川上 先ほどの本(丸さん著書の『Deep Tech』)、買います。

 もう買ったのですか?

川上 2万円の方(『THE CELL(細胞の分子生物学)』)も買います。

 作詞家の松本 隆さんも、「好きよ、嫌いよ」や「嘘よ、ほんとよ」なんて、まさに動的平衡的歌詞をたくさん書かれていますね。すごく、戦略的に。

琴坂 そういう意味では、言葉で表現できない時間には結構需要がありますよね。

作者の言語的な限界でもあるし、人間の、例えば日本語の限界でもあるし、それを補完する自分の感情を大切にして読むことが、本との対話で必要なのではないかという気はします。

高田 クリティカル・リーディング(※)には「そのまま信じるな」というのもありますし、矛盾した表現が中にあって、「これはつまり何を言いたいのか」と作者と対話しながら読むことが求められますよね。

▶編集注:書かれたことをそのまま受け入れるのではなく、読み手の基準で検討、反論、考察する姿勢、建設的な批判をもって読み進めること。

琴坂 そうですね。

川上 『菜根譚』は、400年前に書かれたものですが、これを読むと、人間が全く変わっていないことを感じます。

今も昔も同じ悩みが書いてあって、それが面白い。

既にKindleに入れていますが、紙の本も本棚の隅っこにあって、日めくりカレンダー感覚でペラペラ見ています。

 ありがとうございました。次は、高田さんです。

HLAB高田さんの読書遍歴

一般社団法人HLAB/株式会社エイチラボ 共同創設者COO / プロマジシャン 高田 修太さん

高田 HLAB(エイチラボ)の高田と申します。よろしくお願いします。

教育の会社をやっています。

 そして、プロマジシャンでもあるんですよね?

高田 そうです。ICCのパーティでもマジックをやったりしていますが、今日持って来た本は、マジックでも教育でもないような話のものです。

私はそんなに量を読む方ではないのですが、定期的に読書ブームがやってきて、結論から言うと、その時の読みたい欲求に従って読んでいます。

中学生時代には、日本近代文学を読み漁りました。小説のストーリーが面白いからだけではなく、何よりも文明開化直後の時代で、彼らが新しい文学を作ろうとしていたのに惹かれたからです。

文体がどんどん進化していったり、派閥同士で罵り合ったり。白樺派は、逆から読んだら「ばからしい」だと言われて批判されたりと、対立があったそうです。

「主要な文学思潮」 近代文学の種類がわかる(きょうも読書)

また、夏目漱石や森鴎外などのメジャーな人の本を読んでいるときも、「なぜ、急にこの人、このジャンルになったのだろう?」「なぜこういう書き方になったのだろう?」と、その変遷を楽しんでいました。

彼らの写実的な表現にも、「世の中がこういう風に見えているんだ」と思って、少し憧れました。

私は悲しい時には「悲しい」くらいにしか思わないので、自分もそういう風に見たいなと思いました。

悲しいことをいかに写実的に表現できるのかに憧れて、そこに辿り着きたいと思って読んでいました。

もちろん、そんなに簡単に辿り着けるわけはありませんが、その背景を楽しく読むというブームがありました。

実用本でも、背景を想像しながら読む

高田 大学生時代にはやっとマジックでお金をもらえるようになって、マジックで稼いだお金はマジックに使うと決めていたので、新しいネタを買ったり本を買ったりしていました。

マジックの本にはネタが書かれてあるだけでなく、「こういったスタンスで臨みなさい」や、「姿勢はこうしなさい」などと書かれている理論書もあります。

そのような本もいろいろ読んでいると、アメリカやスペインのマジシャンは、他のアートからどんどん引用してきていることに気づきました。

それで、「じゃあ、そちらも読まなければな」ということで、マジックがうまくなりたい一心で、演劇、絵画、建築の本なども読んでいました。

そして今はまさに「人材育成」ブームです。

私の専門は土木工学で、教育と全く関係ない分野にいました。ですから、教育についてはきちんと勉強していないというコンプレックスもあり、本しか頼れるものがないものですから、先人にすがる気持ちで本を読んで人材育成について勉強しています。

 読むときのスタンスみたいなものはあるのですか?

高田 そうですね……マジックの本には結構多いのですが、同じようなプロット、ストーリーがあるのです。例えば、トランプが消えて、またどこかから出てくるといったように。

でも、それを全く異なるアプローチでやっている人がいると、「なぜこの人はこのやり方に至ったのか?」と、背景についてかなり想像しながら読みます。

もちろん良い本や分かりやすい本にはその理由が書かれていますが、小説などでは自分で読み取るしかありません。

僕は本を読む速度がすごく遅いのですが、それは本当に想像、妄想しながら読んでいるからだと思います。

 ありがとうございます。

『見えがくれする都市』の見えないものを分析的に見る眼

高田 私がお勧めする本は、『見えがくれする都市』です。

色々なジャンルに手を出している感じがしますが、私のように土木や都市工学などを専門とする人には、結構読まれている本です。

著者は建築家の槙 文彦先生です。有名な所だと幕張メッセや東京青山のスパイラルホールなど、そしてSFC (慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)のキャンパスも槙先生の設計ですね。

その方が1980年に、研究グループのメンバーと一緒に書いた本です。

引用にもありますが、東京という街が、今こういう状態であるのには何か理由があるということです。

人間集団の持つ深層意識や時間を超えた造形であるのならば、その深層意識が都市に現れているはずで、日本、特に江戸の民たちがどのような想いで暮らしていたかなどを、今の街から読み取るというのです。

槙先生が「奥性(おくせい)」があったのではないかとおっしゃったのは有名で、この本はその辺りについて語られています。

失われつつある「奥」を求めて~ 槇文彦 『見えがくれする都市』とヒルサイドテラス<前編>~(zeitgeist)

何が面白いかというと、やはり普段何気なく見ている街からこれだけのことを読み取る人がいるという点と、ハウツー本ではありませんが、見えないものを分析的に見ているという点です。

この本は、私に土木や都市の町づくりの勉強をしていこうというきっかけを与えてくれました。

琴坂 アマゾンにあと10冊あるそうです。

高田 10冊ありますか。これはかなりのベストセラーです。2,000円と安いのにとても面白いです。

 (下を向いている渡邉さんに発言を促す)

渡邉 僕も今、『見えがくれする都市』を注文せねばとアマゾンを開いてました!

(一同笑)

買っている場合じゃない? その場で買うのが大事かなと(笑)。

 ホストだからね(笑)。

琴坂 早速、私の本選びのポイントを実践していただいているということで(笑)。

(続)

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続きは 「本屋B&B」を作った嶋さんが勧める、「効果効能を求めない読書」の愉しみ をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成/フローゼ 祥子

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