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ICC KYOTO 2023のセッション「大人の教養シリーズ「美食」について語りつくす(シーズン7)」、全8回の④は、LURRA°の宮下さんが紹介するレストランの歴史とトレンドです。海外のレストランで研鑽を積み、作り手側にいるからこそ語れる説得力ある内容に、美食家たちも興味津々です。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2024は、2024年2月19日〜 2月22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは ノバセル です。
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【登壇者情報】
2023年9月4〜7日開催
ICC KYOTO 2023
Session 9E
大人の教養シリーズ「美食」について語りつくす(シーズン7)
Supported by ノバセル
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▶「大人の教養シリーズ「美食」について語りつくす(シーズン7)」の配信済み記事一覧
レストランが始まったきっかけはフランス革命
宮下 ここからは、レストランのトレンドの推移について、僕なりの解釈を話したいと思います。
フェーズは5つに分かれると思っています。
もっと細分化すれば、イタリア料理の流れなどあると思いますが。
フランス革命によって、街場にレストランができたのが大きいと思います。
もともと宮廷のお抱え料理人だった人たちが、フランス革命で抱えてもらえなくなって街場に出て、宿のような場所を作り…本当の意味でのオーベルジュかもしれませんが、そこでスープを出したのがレストランの始まりの一つと言われています。
レストランの“rest”は「休む」という意味です。
これが、街の人が普段とは違う食事をすることになった最初のきっかけだと思います。
フェーズ2は、フランス料理が体系化され始めた時期です。
宿場だったものがホテルとなった時、レシピをきちんと残していこうという動きが生まれました。
カレームや、皆さんもご存知かもしれませんがエスコフィエという人が、ホテルのレストランのヒエラルキーをきちんと作り、体系化に近づけたことでガストロノミーに近づきました。
「ブリガー・ド・キュイジーヌ」とは、シェフがいて、その下にスーシェフがいて、さらに部門シェフがいるシステムで、この頃にできました。
フランスに関連するレストランは、この流れを汲んでいるなと思います。
僕は、早くこれを壊したいと思っているのですが。
西井 日本でも、同じような仕組みなのでしょうか?
宮下 日本でもそうですね。
毒舌のゴードン・ラムゼイとかご存知かもしれませんが、日本に限らず、レストランにおける暴力や、力がどうしても上に集まってしまうのは、全てこのシステムが原因だと思っています。
▶飲食店業界に蔓延する肉体的・心理的・性的な暴力(THE BIG ISSUE online)
僕がフランスにいた時もそうでしたが、何を言われても返事には、”Oui, chef”という言葉以外の選択肢はないのです。
何を言われても、”Oui, chef”なのです。
それが本当に僕は嫌いで、日本に帰ってきても嫌いなので、お店を会社に例えれば僕は一番上の役職ですが、僕の普段の仕事は皿洗いです。
一番下の仕事をできる限りやり、日々、いわゆる既存の形を壊していこうとしていますね。
榊 フランスの”Oui, chef”について、一番理不尽だと思ったことは何ですか?
宮下 僕が全く触っていない仕込みについて、めちゃくちゃ怒られた上に、「明日の朝までに完成させておけ」と深夜12時に言われ、朝7時半に朝食担当の人が来るまでずっと、カエルの足を処理していたことがあります。
食材としてのカエルは、生きたまま仕入れます。
1回冷やして仮死させるのですが、その状態でお腹を切って、これを何百匹分もしました。
切られたカエルは朝になると動き始めるので、「うわぁ~」と思いながら…これはみんなやりたくない作業なので、日本人である僕に仕事を振られたなと思いました。
誰よりもきれいに処理しましたけどね(笑)。
2000年代頃、レストランは五感に訴えるものに変化
宮下 先ほども「エル・ブジ」が出てきましたが、フェーズ3では、食が少し違った領域に進出しました。
▶スペインの「世界一のレストラン」が閉店、料理研究所へ(2011年7月31日 AFPBB News)
今までは食べるためのレストランだったのが、体験をするため、五感に訴えるためのものに変わったのが、2000年代くらいのことだと思います。
長谷川 まさに、液体窒素が出始めた頃…(笑)。
(会場笑)
西井 ちなみに液体窒素とは、真っ白の煙が出る、ふわーっとしたあれです。
宮下 液体窒素をディスっておきながら、なんですが…。
僕は今32歳で、レストランをやりたいと思ったのが17歳の頃でした。
その頃ちょうど、液体窒素がめちゃくちゃ流行っていました。
僕がこの業界に入ったのは、エル・ブジの本を手に取ったからです。
西井 そうなんですね。
宮下 僕は小中高エスカレーターのお坊ちゃま学校に通い、僕以外はみんな大学に進学しました。
何かしたいなと思っていた時、偶然手に取った本がそれで、料理はめちゃくちゃかっこいいと思いました。
アート関連の仕事をしたいと思っていましたが、レストランを作れば全てが集約されるなと思ったのです。
でも世界的に見ても、時代を変えたなと思いますね。
ちなみに、スライドの下にもある通り、このタイミングで「世界のベストレストラン50」が始まりました。
▶THE WORLD’S 50 BEST RESTRAUNTS
これが、世界の食の幅を広げた感じがしますね。
西井 僕は登壇者のこの3人に聞いてみたいのですが、なぜスペイン料理だったのでしょう? 色々な料理がありますよね、例えば昔から言われている世界三大料理とは、中華、フレンチ、トルコ料理です。
でも、今の料理の流れは全てここから出てきている気がしています。
なぜ、スペインだったのでしょう?
宮下 結構明確な理由があり、スペインはヨーロッパの中でも貧しい国なので、食文化によって人を呼ぶためにはか新しいことをしなければいけなかったようですね。
西井 なるほど。
宮下 あと、サン・セバスチャンもそうですが、食文化を学ぶという文化があり、食に対する愛がすごくあった地域なのです。
結局、ガストロノミーレストランは、その国の人だけでは成り立たないのです。
フランスとイタリアが横にあれば、普通にしていては勝てないので、こういう新しいアクションが生まれたのが必然だったのかなという気がしています。
スライドの左はエル・ブリ、そして、食文化というイメージが全くないイギリスで、「ファット・ダック」という店ができました。
▶映画『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』公式サイト
▶映画『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』公式サイト
オーナーであるヘストン・ブルメンタールは、2年前にセクハラで一気に評判を落としました。
スライドの下の写真の料理は、「Sound of the sea」といい、シーフードの料理ですが、左上の貝殻にiPodが入っていて、そこからさざ波の音が流れてくるので、その音を聴きながら食べるというものです。
食べるだけではなく、もう一つアクションを加えたような料理です。
あと、この2つの店はR&Dという機能をレストランに入れ込みました。
こちらは2002年から2021年までの世界のベストレストラン50の上位3位のリストですが、フランスのレストランはほとんど入っていません。
この「世界のベストレストラン50」ができて食文化が広がりを見せてから、新しさや面白さを求める流れが生まれ、それが色々な国に波及していると感じます。
「Noma(ノーマ)」はデンマークのレストランですが、デンマークに美食なんて、誰も思っていませんでしたよね。
それが、世界のベストレストラン50ができたことによる、良いことだと思っています。
北欧では美食を国の政策とした
宮下 2010年頃からがフェーズ4です。
Nomaが生まれてフォーカスされがちですが、実は北欧は国単位で、美食を政策としたのです。
クラウス・マイヤーというプロデューサー、そしてシェフはレネ・レゼッピですが、レネ・レゼッピは25歳でNomaを作っています。
その際、きちんと「新北欧料理マニフェスト」というものを作り、それにサインをした人たちが、新北欧料理を一斉に広げました。
国としてそれを行ったのが強かったと思います。
▶ニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)とは・意味(IDEAS FOR GOOD)
地方性、それぞれの国にしっかりフォーカスしよう、自然環境が大事であるなど、読めば当たり前のことが書かれているのですが、きちんとマニフェストにしたことに価値があります。
今までになかった動きだと感じますね。
こちらはnomaの写真です。
少し前まで、エースホテル京都でNoma Kyotoが行われていましたが、13万円くらいで1日130人10週間を全部満席にしたので、やはりなかなか集客力があるなと思いました。
▶1席12万円超え。話題沸騰レストラン「ノーマ(noma)京都」を自腹でレポート!(ELLE)
僕らは2カ月、おこぼれをめちゃくちゃもらっていたので、頭が上がりません(笑)。
西井 その期間中、Noma Kyotoに来た人が併せてLURRA°にも行っていたのですね。
宮下 レネも毎週、顔を出してくれました。
めちゃくちゃ良い人ですが、ピリッとした時はめちゃくちゃ怖いです。
京都の色々なお店にも世界中のVIPたちが来ていたので、日本中の食が動いたのではないかと思いますね。
Nomaは2015年にアリを使った料理がニュースになったので、アリの店みたいになったのですが…今回のNoma Kyotoでもアリを使っていましたね。
すごく変わったと思ったのが、誰も、アリが乗っていることをフォーカスしなかったことです。
▶えびの背中にアリをトッピング 映画で明かされる「世界一のレストラン」の秘密とは?(FORZA STYLE)
食材が食材として評価されたというのは、彼らの大きい功績だと思います。
次のフェーズは南米? アジア?
宮下 2020年代から、また次のフェーズに入っていると思っています。
コロナ禍もあったので時代が変わった感じもしますが、今後は何料理というジャンル分けが難しく、次のフェーズは何だろうと、今みんなが模索している状態だと感じます。
去年1位を取ったのは、ペルーの「Central」というレストランでした。
Centralのシェフは2年前くらいに、東京に「MAZ(マス)」をオープンしました。
次は南米と言う人もいれば、日本を含めアジアの時代だと言う人もいて、みんな、次どこに向かうのだろうとトレンドを模索していると思います。
僕は建築関係の本が好きでよく読むのですが、建築用語として使われる「ヴァナキュラー」という言葉があります。
もともと文化人類学や民俗学で使われる言葉だと思いますが、例えば、その土地で自然発生した言語や、台風の多い沖縄では2階建が少ないという事実もヴァナキュラーです。
食については今後、なぜその土地でその食材が発酵されたか、どう貯蔵されたか、または、限られた作物しか採れなかったからこういう料理になったというようなことがフォーカスされる時代になっていくのではないかと、僕は最近思います。
世界中のヴァナキュラーをみんなが深掘りしていくのが、食のトレンドの次のフェーズなのかなと思いますね。
すみません、長々と話してしまいました。
西井 めちゃくちゃ面白かった、すごく勉強になりました。
長谷川 今回は宮下さんが来るということで、みんなアワードの話をしたがると。
西井 そうですね。
榊 いや、でも本当に、このセッションで、「大人の教養シリーズ」の香りが初めてしましたね!
(一同笑)
西井 初めてしましたね!! 今までは、ただのお笑いでしたから(笑)。
榊 今までのものは何だったんだろう(笑)。
長谷川 歴史の話もしてたでしょう(笑)?
榊 ありがとうございます。
西井 あとどれくらい、時間がありますか?
榊 あと30分ですね。
(続)
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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成