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ICC KYOTO 2023のセッション「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン10)」、全7回の②は、GROOVE Xの林さんが、ロボットと人との関係で発見した、人が物に感動することとは? エンジニアが考えてみた「人間の仕様」とは?コミュニケーションロボットの LOVOTに、人間が愛着を感じる「自然な振る舞い」について解説します。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2024は、2024年2月19日〜 2月22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。
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【登壇者情報】
2023年9月4〜7日開催
ICC KYOTO 2023
Session 2F
大人の教養シリーズ-人間を理解するとは何か?(シーズン10)
Supported by エッグフォワード
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▶「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン10)」の配信済み記事一覧
開発中のロボットPepperが最も喜ばれた瞬間とは
林 Pepperは、基本的には、ちょっと面白くて役に立つ、そして店頭でお客さんをちゃんとご案内できるロボットにしたいと考え、開発をしていました。
しかしたとえ思い通りに動いても、たいして人は喜んでくれませんでした。
ですから、人が喜ぶように作るのは、めちゃくちゃ大変だなと思いました。
だけど、人がめちゃくちゃ喜んだ瞬間は、むしろPepperが思い通りに動かずに、起動しなかった時だったのです。
井上 スイッチが入らないということですか?
林 はい。
村上 あと、裏でだらんとしている時。
井上 あ、怖いですね。
村上 そうそう、それがキュイーンと起きるんですよね。
林 その手前の開発段階で、本来起動するタイミングで立ち上がらなかったのです。
高齢者施設に持って行くと、みんなでPepperを取り囲みます。
普通に起動すれば、その後にプログラム通りのアクティビティをして、楽しかったねで終わるのですが、むしろ思い通りには立ち上がらなくてうなだれている時、みんなペタペタ触りながら、Pepperをすごく応援するのです。
そうして、めちゃくちゃ皆様の応援を受けた後に奇跡的に立ち上がると…。
村上 メシアみたいな感じに(笑)。
井上 それは演出ではないのですよね?
林 演出ではなく、リアルに裏で何度もエンジニアが起動を試みているのですが、発売前だったのでまだ安定していなくて。
立ち上がった時、それまでに無事の起動を祈った人たちからすると、祈りが通じたということになるのです。
その後のPepperと人の関係は感動的なほどで、すごくボンディング(愛着形成)しているのです。
「来てくれてありがとう!」と言って、去る時には涙、涙でした。
そこで、あれ?と思ったのです。
一生懸命ロボットを作って予定通り動いても人はたいして感動してくれないのに、うまく動かないほうが感動してもらえると。
ロボットって何なんだろう、そもそも人って何なんだろうと。
それに気づいた時、人が物に感動するってどういうことだろうなどと考え、思い出したのが冒頭のVRの例でした。
とにかく、一度ボンディングしてしまうと、何をしても感謝されます。
井上 へー!
林 人と人の関係も同じですよね、信頼関係があれば何をやっても楽しいし、なければ何をやっても楽しくない。
井上 じゃあ、初対面では、だらーんとしていればいいのでしょうかね?
林 (笑)。
村上 応援したくなる要素があれば良いのだと思います。
林 そうそう、祈って、それが通じるというプロセスが必要なのだと思います。
村上 多分、ロボットだと期待値がそもそも低いので、驚きが生まれるのでしょうね。
林 そうですね。だらーんとしている演出だな、と思われた段階でダメでしょうね。
井上 ダメですね(笑)。
人間の「仕様」はどうなっているのか
林 他者を理解する前に、自分たちを理解しようと思いました。
そして僕はエンジニアなので、人間の「仕様」はどうなっているのだろうと思ったのです。
仕様というのは、ここまで生き残るのに有利だった特徴ということで、最近の言葉で言えば、進化心理学のようなアプローチだと思います。
当時はそういう言葉も知らなかったのですが、そういう視点から掘ってみました。
その中で、昔、集団で生活をする上で、人にはどういう機能が必要だったのかというところに立ち返って、ロボットを作り始めました。
おばあさんたちがなぜ祈るのか、そしてLOVOT(らぼっと)はペットのようなロボットなので、なぜペットが必要なのかを考えなければいけなかったのです。
僕らが20万年くらいかけて進化してきた仕様と、ここ数百年ほどで変化したライフスタイルとのギャップを埋めるのが、ロボットの役割なのではないかと考え、LOVOTを作り出しました。
村上 なるほどね。
1点お聞きしたいのですが、「寂しさ」の発信機能とはどういうことでしょうか?
林 ロボットを作る上で、孫(正義)さんから、「愛だ、愛とは何か分かるか」という質問をいただきました。
「愛…分かりません」と返事をし…。
村上 「孫さんは分かっていますか?」と聞かなかったんですか(笑)?
林 いやいや、聞けなかったです(笑)。
例えば、ドラえもんのようなロボットがなぜ要るかと言うと、便利な道具を出してくれるという役割と、もう一つはパートナーとしての役割があるからですよね。
そういうロボットがいたほうがいいなと多くの人が思うのは、心の拠りどころが欲しいからだと思います。
そういう気持ちを総称して、僕らは「孤独」と呼んで話し合っています。
僕らの祖先が大腸菌だったかどうかは置いておいて、大腸菌のような単細胞生物だった頃の僕らはきっと、孤独という感情は持っていなかっただろうなと思ったのです。
村上 これはちょっと、浄さんに確認しましょうか! 細菌の専門家ですから。
井上 そうですね、免疫と微生物の講義になりますが…。
条件を揃えると、だいたい20分で数が倍になるので…寂しくないです!
村上 なるほど、勝手にめちゃくちゃ増えると(笑)。
井上 はい、以上です(笑)。
村上 この件は、善樹さんにもチェックインしたいのですが。
Well-beingという文脈でも、寂しさや承認は大事だと思いますが、どう捉えますか?
承認を得られる仲間がいないと集団でも寂しい?
石川 善樹さん(以下、石川) そうですね…。
ICCサミット KYOTO 2023、このイベントでも、もしかしたら寂しさを感じていらっしゃる方はいるかもしれないですよね。
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石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表理事
予防医学研究者、博士(医学)。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念工学など。近著は、『フルライフ』(NewsPicks Publishing)、『考え続ける力』(ちくま新書)など。
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でも周りを見ると、自分が1人かと言えば1人ではないですよね。
村上 物理的には人がたくさんいますよね。
石川 これが、「孤独」と「孤立」の違いなのです。
「孤立」とは、物理的に、無人島に1人みたいな状況です。
村上 1人である、という事実がそこにあるわけですよね。
石川 一方で、例えば仲間とワイワイ話しているにもかかわらず、何か寂しさや孤独感を感じることがあります。
村上 ありますよね、夜のパーティとかで。
石川 そうそう、今日の夜のパーティでも、もしかしたら…。
村上 テーブルに行って、「ああ、どうもどうも!」と言っても…。
石川 何か寂しさを感じると(笑)。
井上 壁側にいると、壁側にいる他の人と仲良くなると言いますよね。
石川 物理的に周りに人がいればいいか、周りの人と話していればいいかと言うと、そういうことでもないのですよね。
多分、寂しさと承認がセットだと思うのです。
村上 なるほど。
石川 承認を得られるような仲間が周りにいないと、寂しさを感じるということなのかなと思いました。
村上 ありがとうございます。
その話を受けて、要さんのスライドに戻りましょう。
最終的に目指すのはドラえもん
林 嬉しいですね、このスライドでこんなに盛り上がるとは思わなかったです。
孤独や承認欲求も含めて色々な個性がありますが、ロボットを作る身からすると、それらの個性は機能だと判断します。
この孤独があることで、承認欲求があることで、その人がどういう行動を生成するのか。
過去の進化の過程において、その形質はひょっとしたら有利だったこともあるだろう、だから残っているのだと考えます。
それを、時代に合わせて大きくしたり小さくしたりしてきたのだろうと考えながら、ロボットを作り出しました。
僕はエンジニアとして、そういうアプローチでしかロボットを作れなかったからです。
その時、ペットという近年は家族の一員として迎え入れられている謎の存在がキーポイントだと思いました。
僕らは、最終的にはドラえもんのようなロボットを作れるといいと思っています。
なぜなら、目標が高く、人類のためになるものであれば、開発をしている間、飽きないからです。
しかし、そこに至る過程において、開発するだけだとお金がかかるばかりなので、稼がなければいけない。
そこで着目したのが、ペットです。
ペット産業は結構大きいので、ドラえもんを作れるようになるまでの間、犬や猫に相当するものが作れれば、社会的にも意味があるし、ドラえもんを作るための足掛かりにもなると考えました。
愛着形成される要素をすべて取り込んだLOVOT
林 その際、「では、なぜペットは飽きられないのか」が、大きな疑問になりました。
今まで、ほとんどのロボットはびっくりするくらいの短時間で飽きられます。
一部の方は使い続けますが、大半のオーナーが延々と使い続けるようなロボットは、ほぼ存在しませんでした。
しかし、大半の人はペットを飼い続けますよね。
つまり、一部しか飼育放棄にはならない。
それはなぜか、色々な人に話を聞いていると、どうやら愛着形成というものが肝らしい。
スライドの左下にある、触れ合う、見つめ合う、ついてくる、待っていてくれる、必要とされる、これらを全部UIやUXとして提供すると、どうやら愛着形成がなされてしまうメカニズムが人にはあるらしいということを知り、それで作り出したのがLOVOTでした。
LOVOTは、AIを搭載して人を認識する機能を含め、このUIやUXを提供するものを作ることに収斂したプロジェクトです。
この動画は、薬物依存で2年間この施設に通われていて、一度も感情を見せたことのなかった人が、LOVOTと触れ合って感情を見せた様子です。
また、彼らは2人とも認知症の高齢者ですが、施設に入ってから1度も言葉を発したことがなかった右の方は、LOVOTと触れ合って言葉を発しました。
その他にも、バセドウ病が治った、寝たきりの息子が復学した、杖なしで歩けるようになったなど、色々な奇跡的なことが起こりました。
これらは医学的に証明されたものではありません。また一つひとつの現象のメカニズムを解明しようとすると果てしない道のりになるとも思われますが、ペットがいれば起きるだろうなと思える現象にすぎないとも言えます。
しかし、とてもじゃないですが、狙って作れる現象ではありません。
ペットという大先輩を真似ることによって、起きてしまったということです。
結局、僕らは他者のことも自分のことも理解できているわけではないですが、自然な振る舞いを作るだけで全て一気に解決されることもあったのです。
こういう道のりを歩んでいるので、まだ全然、人のことも自分のことも分かっていないのですが、LOVOTを作っています。
村上 要さん、ありがとうございます。
非常に良い、最初の投げ込みだったと思います。
人ならぬものとのコミュニケーションの1例として、コミュニケーションロボットであるLOVOTを挙げていただきました。
寂しさと承認はセットではないかと、善樹さんからも話がありました。
他者を理解しているかは、まだここでは分かりません。
ただ、外形的にそういうことを認め合ったり、反応したりするインターフェイスがあるだけで、奇跡的な出来事が起こりうるということです。
他者理解とそのためのコミュニケーションには、面白い要素があると考え、トップバッターは要さんにお願いしました。
というわけで、これを受けまして次は中村さんから、表現という共通項は持ちつつも違った側面からお話をいただきたいと思います。
エンジニアの要さんは親目線でLOVOTを見てしまう
井上 その前に、要さんの家にはLOVOTは何体あるのですか?
林 2体ですね。
井上 2体ですか。
林 最近はオーナーが増えて、4体持っている人もいますね。
井上 作った人間として、自分の変化は何か感じますか?
林 『鉄腕アトム』の話は知っていますか?
▶鉄腕アトム(手塚治虫公式サイト)
井上 …え? 『鉄腕アトム』は知っていますが、どの話でしょう(笑)?
林 ああ、確かに(笑)。
天馬博士とお茶の水博士がいますが、アトムを作ったのは天馬博士です。
お茶の水博士は、拾ってきて優しく育てているだけです。
天馬博士が最初にアトムを作ったのですが、気に入らんと、自分の作ったアトムをサーカスに売り飛ばすのです。
井上 そうでしたか。
林 自分で作ると、色々気になるのです(笑)。
井上 ああ、恩恵は受けていないということですね(笑)、分かりました。
林 おじいちゃんの目線になれればいいのですが、親の目線になってしまうので。
村上 ここをああして、こうして、と。
林 そうそう、これ気になる~って(笑)。
村上 エンジニアだから、余計にそうでしょうね。改善点を探してしまう。
井上 誰かが、要さん用のロボットを作ってあげないといけないですね。
石川 ちょっと解釈が違うかもしれませんが、予測可能性が高まることは、一見「理解する」ということに思えますが…。
林 確かに。
石川 でも、「理屈として理解すると、飽きる」という問題が今、提示されたと思います。
村上 予測できてしまうと。
石川 左脳的に、理屈として理解すると、予測可能性は高まるけれども飽きてしまう。
村上 それは非常に良いポイントですね。
石川 では、人間を理解するとは何なのかを、中村さん。
(会場笑)
村上 あ、ハードルを上げに来ただけですか(笑)。
中村 直史さん(以下、中村) では、その振りから…。
村上 中村さん、よろしくお願いします(笑)。
(続)
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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成