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ICC KYOTO 2023のセッション「Well-being産業の今後(シーズン3)-」、全5回の③は、Well-beingの決定要因から議論がスタート。人によって異なり、定義ができないものとありましたが、そんな個人的なものに、産業側からWell-beingに貢献できることがあるとするならば? ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2024は、2024年2月19日〜 2月22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは住友生命保険です。
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【登壇者情報】
2023年9月4〜7日開催
ICC KYOTO 2023
Session 8E
Well-being産業の今後(シーズン3)
Supported by 住友生命保険
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▶「Session 8E-Well-being産業の今後(シーズン3)」の配信済み記事一覧
Well-beingの決定要因とは?
石川 こちらが重要なスライドで、Well-beingの構造の話です。
「Well-beingとは?」と問われたら定義は多様ですが、測定法は生活に対する自己評価です。
生活は、過去・現在・未来という時間軸の中における生活ということですね。
「これまでの生活はどうでしたか?」「今の生活はどうですか?」「5年後、将来の生活はどうですか?」という質問をして、例えば10点満点で高く自己評価する人はWell-beingな人という定義です。
こうやって測定するのが完全かと言われたら僕はそうは思いませんが、この測定法はWell-beingじゃないよねという人は多分ほとんどいないので、今はこういう方法です。
Well-beingの決定要因は何かというのは、グローバルで見た時、文化、宗教、ジェネレーション、ジェンダーなど、いろいろな違いがありますよね。
違いを乗り越えて何が共通しているのかというと、とにかく生活に対する自己評価の高低には選択肢と自己決定が強烈に効いています。
ですから、働いたり生きる上で選択肢があって、自己決定できる状況がWell-beingにつながります。
では、どうやって社会として選択肢を広げて、自己決定を促すのかという時に3つ要因があって、1つは「経済成長」で、経済成長して単純に給料が増えれば選択肢は広がりますよね。
2つ目が「民主化」で、当然民主国家のほうが非民主国家に比べて自己決定はしやすいですよね。
3番目がDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)みたいな話です。
社会にこんな生き方、あんな生き方があるんだというように、いろいろな働き方、生き方に対して同等に価値があるとなったら、そこを選びやすくなります。
これらがWell-beingの構造です。
Well-beingへの貢献とは「選択肢を提供する」こと
石川 では、Well-being Transformationとは何か?
Well-beingが何なのかは人それぞれでいいのですが、どう貢献するのかと言われたら、生活者の人生に選択肢を提供するモノ、サービスのことです。
例えば、サントリーのビール事業は、完全にWell-being Transformationをビール業界に起こしたと思います。
昔は、キリンとアサヒとサッポロしか選択肢がなかったところに、サントリーはビールに新しい選択肢をということを明確に掲げて、何十年も赤字を続けながら、ようやくザ・プレミアム・モルツという選択肢を提供するに至りました。
このように、人々の生活や人生に新しい選択肢として魅力的なものを加えることができたら、それはもうWell-being Transformationなのです。
ヘルスケア分野で最近僕が本当にそうだなと思ったのが、大正製薬が糖尿病治療薬でフィルムタイプを出しました。
糖尿病は薬を飲み続けるのがすごく大変で、みんなやめてしまうのですが、この薬は口に入れると、水を飲まなくてもすっと溶けて飲めるのです。
介護者の場合だと、例えば石山さんに僕が糖尿病の薬を飲ませようとすると、今だったら、普通の錠剤なので、舌に乗せて水を入れて飲ませるのは非常に大変です。
(石山さんが、薬を飲んでむせるふり)
そうそう、そうなるんですよ(笑)。
これがフィルムタイプなら、すっといきますよね。
糖尿病治療薬に新しい選択肢を大正製薬は作ったので、それはまさにWell-being Transformationです。
ですから、選択肢という観点で考えてもらえると、Well-beingの貢献の仕方がすごく整理されるのかなと思います。
選択肢の良い提供の仕方とは
石山 洸さん(以下、石山) すみません。パンとパン食い競争に例えて聞いてみたいのですが。
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石山 洸
株式会社エクサウィザーズ
Chief AI Innovator
2006年4月、株式会社リクルートに入社。2015年4月、リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年3月、デジタルセンセーション株式会社取締役COOに就任。2017年10月の合併を機に、株式会社エクサウィザーズの代表取締役社長に就任。2023年4月より取締役、同6月より執行役員(Chief AI Innovator)。東京大学未来ビジョンセンター客員准教授、静岡大学客員教授を歴任。
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お米だけ食べている人がパンを提供してもらえるようになったら、お米だけではなくパンも食べられて選択肢が広がると思うのですが、ただパンを食べるだけよりも、パン食い競争でパンを食べたらすごく楽しいみたいな、供給されたものに対する需要や消費の仕方の多様性みたいなものというのは、例えば消費者側のクリエイティビティみたいのなものもありそうな気がします。
それは、例えば先ほどの左側から3つあったような因子のうちの、どの要素に盛り込まれてくるのかなみたいなことが、今、突然パン食い競争につながってしまったのですが(笑)。
石川 選択肢は多ければ多いほどいいというものでもなくて、多すぎると逆に自己決定しづらくなるので、適切な数の選択肢が大事です。
例えばパンもそうで、最初パンが出てきた時は、米とパンの選択がありますが、だんだんパンばかりになってくると、米がもう選択肢から外れてしまいます。
そうすると、パンしかない状況だとまたWell-beingが感じられにくくなるので、適切な選択肢を出す中にパン屋で売っているパンとパン食い競争もありますよという選択肢を出すということだと思います(笑)。
藤本 選択肢のところでもう少し解像度を上げたいのですが。あらゆる商品を出すと、一応それは新しい選択肢になるじゃないですか。
例えばビールだったら、ビールを炭酸で割るビアボールという新しい飲み方がありますよね。
あれは、あまりまだそんなには広がっていないと思うんですが、広がらないと選択肢にならないということですよね?
石川 そうです。それが選択肢なのであるというふうに人々に知覚されないと意味がないのです。
藤本 ほうほう、なるほど。
石川 例えば皿一つとっても、本当は選択肢はたくさんありますが、立派な皿を知覚できるだけの知識もなければセンスもない僕みたいな人だと、皿を選ぶ時の選択肢は大してなくて、高いか安いかみたいなものでしかないのです。
藤本 それは知覚されないものは存在しないのと同じということだと思いますが、企業側の立場からいくと、前シーズンで善樹さんが言った、生活者の視点へアップデートすること(シーズン2)だとすごく想像しやすいのですが、消費者に知覚される新しい選択肢を提供しようと言っても、結構何からやっていいかとか、結構難しいですよね。
結果的にそれが選択肢として知覚されるかどうかという結果論になってしまうので、そのときのヒントは何かあるのでしょうか?
石川 僕は素人ですけれども、今の時代、正直、一見商品サービスがあふれすぎているように思うので、それぞれの商品、サービスのメリットや特徴を連呼しているだけだと、多分選択肢として知覚されないのです。
ですから連呼するのではなくて、どうやって選択したらいいのかという選択する時の軸というものを提案しているところが、今のマーケティングだと勝ちやすいのかなとは思います。
藤本 今日の善樹さんの話を聞いていて思ったのですが、その軸をどういうふうに企業が定義するのかと考えた時に、IMP(Impact Management Platform)がインパクトの評価を、Well-beingとサステナビリティに決めましたというスライドがありましたよね。
サステナビリティのほうは、温室効果ガスの測定であるとか、企業がどういうふうにサステナビリティに対してインパクトを与えるか可視化をして、一定程度、価値創造モデルの中で示しています。
石川 例えば保険で話をすると、日本の生命保険の歴史を見ると、すみません、僕が間違っていたら教えてほしいのですが、どうやって売ったのかというと、保険は貯蓄の一つですという言い方を確かしたと思うのですね。
日本人はサラリーマンが増えて、もらった給料をどうするのかという時に、銀行に貯蓄することしか発想になかった時代に、いや、でも生命保険という貯蓄の方法もありますよという選択肢を提示して、それで広まったというのがあるのですね。
今はそれに加えて、NISAもありますよ、確定拠出型年金もありますよというふうに、お金をどう使うかの選択肢を広げてあげているのが、多分今の状況だと思います。
藤本 企業側が自分たちの事業をどう定義するかというところの再定義が結構重要で、例えば生命保険で今事例がありましたから申し上げますと、生命保険を日本に紹介したのは福澤 諭吉で、『西洋旅案内』でしたかで、紹介をされました。
その時に生命保険をどう訳したかというと、福沢 諭吉は「生涯請合」と紹介しました。
本来であれば「生涯請合」だから、人生を支えるとか、人生の保険のはずでした。
ところが、それを生命保険と訳してしまったから、命に関わるものとなって、病気や死に対する保障という形になったのです。
もともとの意味でいくと、ライフ・インシュアランスの意味は人生の保険だったので、どうやって人の一生を支えるのか再定義したら、多分サービスは非常に広がると思います。
そういう再定義をしたほうがいいということですか?
選択肢が多すぎると幸せにならない
深井 龍之介さん(以下、深井) ちょっといいですか? めちゃくちゃ刺激されていろいろ考えて、まだ結論が出ていませんが、まず選択肢をたくさん提供するのは本当にその通りだなと思いつつ、一個人のWell-beingについて1回還元して考えた時に、善樹さんも言っていましたが、選択肢がたくさんあってもあまり幸せにならないじゃないですか。
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深井 龍之介
株式会社COTEN
代表取締役 CEO
複数のベンチャー企業で取締役や社外取締役として経営に携わりながら、2016年に株式会社COTENを設立。ミッションに「メタ認知のきっかけを提供する」を掲げる。約2500年分の歴史事象を体系的に整理し、人類の叡智を網羅的に探求できる世界史データベースの開発に取り組む。「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」を配信。Japan Podcast Awards2019 で大賞とSpotify賞をダブル受賞。Apple Podcastランキング1位を獲得。NTT「ナチュラルな社会をめざすラボ」顧問。2022年3月に「世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する歴史思考」、同年6月に「教養という視点」を出版。
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今までの市場経済は、それこそ選択肢をたくさん提供しているのです、要は……
石川 あり過ぎると自己決定できないから、幸せにならない。
深井 そうそう。結局何が起こっているかというと、自分は何が嫌かはすごくわかると思うのですが、自分にとって何がベストかはわからないのですよね。
だから、みんな人生に迷うみたいな現象が起こりますよね。
先ほどの、Well-beingとGDPが比例している時代から比例していない時代も、僕も歴史を勉強していて非常に思うのですが、「先進国における」という限定付きですが、先進国における一般的な人に関しては、悩みが形而上下、要はこの世の中の物質的世界から、非常に概念的なところに移り変わっているなと思っています。
基本的には、自分の世界観をそのまま保持していいかどうかで、すごく悩んでいる感覚はあるのですよね。
あらゆる世界観を持っていいと言われているのですが、世界にはまさにこうやってグローバルスタンダードを作ってくる人たちがいて、それと自分の世界観はコンフリクトしていて、自分の世界観を持ち続けないと自分らしさみたいなものが出ないけれど、どうすればいいんだろう?みたいな、そういう悩みを持っているような感覚があるのですよ。
そこまで考えた上で、こういう人たちに選択肢を用意しようとすると、僕はすごい西洋哲学と東洋哲学の違いに、まさにここが突入するなと思っていますが、選択肢は結局その人の心の中の話だなと思っています。
だから、事業の再定義になるわけですよね。
要は概念上の問題なわけですよね。
絶対的に違うものみたいなものがあって、それが絶対的に違いますよという感じではなくて、あなたの考え方次第、捉え方次第で変わるのですよ、と。
その捉え方がこうなったらあなたは幸せになるし、こうなったら幸せになれないよ、つまりWell-beingというのは外部要因ではなくて、あなたの内部要因で決まりますよという話に、結果的になっていく気がしました。
それはそれで選択肢だなと思っているのですが、「それをどうする?」って思いました(笑)。
サステナビリティとWell-beingのトレードオフ構造
石山 ある人のWell-beingが上がると、ある人のWell-beingが下がるような、選択式の意思決定によって、トレードオフが生じる時は、どうなっているのでしょうかね?
石川 実はそこが今、トレードオフとおっしゃったのはすごく大事で、まずはポジティブサイドからすると、トレードオフが生じるところはチャンスです。
そこに対してイノベーションを起こしたら、すごい市場が出てきます。
これからの時代でいうと、人間のWell-beingと地球のWell-beingがトレードオフになってしまっているところがあります。
藤本 そうですね。
石川 人間のために環境が犠牲になる、あるいは地球のために人間が犠牲になることも起きています。
このサステナビリティとWell-beingというのは、実は業界もかなり違っていて、コミュニティが違うので人の交流もあまりないのが現状です。
Well-beingとサステナビリティのトレードオフ構造を、いかに乗り越えていくのかということが、今一番求められているところです。
何がWell-beingの選択肢たりえるのか
藤本 先ほどの話に戻ってしまいますが、価値創造モデルの中でサステナビリティについては企業も定義して出していると思います。
今後、Well-beingのインパクトみたいなもの、我々の事業はこの世の中のWell-beingにこういうふうに貢献しているんだ、こういう価値創造をしているんだみたいなものを考え直して、社会に出していく際に、その事業の再定義をしていく中でWell-being Transformationが進むのではないかと、今の話を聞いていて思ったのですが。
石川 Well-beingを考えるときにはまず、これまでの自分たちの活動を、特に選択肢を定義できていたのかという観点から、もう1回振り返ってほしいのです。
例えば人事施策で、リモートワークもOKですというのは、明らかに選択肢を提供しています。
「ああ、あれはWell-beingな人事施策だな」というふうに、まず自分たちがこれまでやってきたことを、Well-beingというレンズ、選択肢の提供というレンズでもう1回見てみることです。
そうすると、例えばサントリーのビール事業は、結局Well-beingの貢献だったねという、まずそこの気づきがすごく大事です。
藤本 面白い。
石川 その上で、では、これからどうするのかというところですよね。
これについては、選択肢が今少ない人たちをターゲットにするとわかりやすいです。
例えば、「障がいを持って生まれてきた子には、特別支援学校という道しかないのか?」ということです。
「他にも道があるのではないか?」というふうに、選択肢が今少ない人たちに対して、何かWell-beingを考えるのが一番わかりやすいですね。
深井 先ほどの話の繰り返しになりますが、障がい者の話でもそうだなと思ったけれど、選びたくない選択肢を選ばなくていいという…
石川 そうそう。それは選択肢ではないですから、そもそも。
深井 心理的な状態みたいなものを実現していくようなサービス展開の仕方をすることが、Well-beingにめちゃくちゃつながるというのは、本当にそうだなと思いましたね。
(続)
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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成