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4. 組織がカリスマモデルから脱却するには

ICC FUKUOKA 2024のセッション「組織のコミュニケーションの課題について徹底議論(シーズン2)」、全5回の④は、スープストックトーキョー松尾 真継さんが、創業者からいかに経営を引き継いでいったか、その際に社内にどんなコミュニケーションをしたかについて語ります。組織のフェーズや環境でそれをどのように変えていったかなど、非常に興味深いエピソードが続きます。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは フロンティアコンサルティングです。


【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 10C
組織のコミュニケーションの課題について徹底議論(シーズン2)
Sponsored by フロンティアコンサルティング

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

井手 直行
ヤッホーブルーイング
代表取締役社長

後藤 翔太
識学
ラグビー元日本代表 /ラグビー解説者/識学マネジメントコンサルタント

松尾 真継
スープストックトーキョー
代表取締役社長(肩書は登壇時当時のものです)

(モデレーター) 

石田 真康
A.T.Kearney
Specialist Director, Global Space Group Leader

「組織のコミュニケーションの課題について徹底議論(シーズン2)」の配信済み記事一覧


松尾 後藤さんのお話は、共感することばかりでした。

僕の自己紹介はこちらです。

スープストックトーキョーというブランドについてはお話ししたとおりですが、1枚のスライドに、これまでの20年をまとめてみました。

創業期から第一成長期、独立期、第二成長期、規模拡大期、今みたいな感じで書いているのですが、私が創業したわけではなくて、遠山(正道 現・代表取締役会長)という創業者がいて、スープストックトーキョーというブランドを、三菱商事内で社内ベンチャーとしてスタートしました。

ブランド人格に惚れ込みスープストックの経営者に

松尾 ちょっと話が行ったり来たりしますが、遠山が作り上げたブランドには人格が規定されています。それは擬人化された人物像になっていて、スープにちなんで名前はつゆさん、秋野つゆさんという人物がそれです。

後々マーケティング業界の人たちから、ペルソナマーケティングですか?と言われましたが、全然違います。

こういうお客さん像に向けて商売しようといった規定をしているのではなくて、もし我々のブランドが一人の人間だったらどういう人なのかを詳細に表しているものです。

例えば、人のことはあまり気にせず個性的で、人と同じことは恥ずかしいと思っているタイプなのだとか、プールに行ったらいきなりクロールしている、だから化粧とか気にせずバシャッっと泳ぎますなどとても具体的です。

私は、このスープストックトーキョーというブランドの人格に惚れたところがすごくありました。

なので、創業者である遠山自身もとても面白く興味深い人ではあったのですが、遠山のようになりたいとかミニ遠山であろうと思ったことは一度もありません。

以前働いた会社では、カリスマ創業者の喋り方とマネジャーたちの喋り方がそっくりで、それゆえに徹底力があるなあと感心する部分と、そのような組織の中では個性や個人は輝きづらいものだなと感じるところがあったので、自分がジョインするスープストックトーキョーには開かれた自由を求めていたと思います。

創業者の遠山はそれを実現させるリーダーであり、変な気負いの人だと感じたのも良かったと思います。 ナンバーワンになるぞとか、シェア1位を取りに行くぞとか、そういうことも全く掲げていなくて、鼻息が荒くない人なのですよ。

他にも共感するところはたくさんあって、資本主義にまみれていないというか。例えば、スープを安くしようと思ったら原価を安くするために添加物をたくさん入れてしまえば楽に安くなるのだけれど、遠山は自分の子どもがアレルギーに悩まされていたので、こんな飽食の世の中に新しいブランドを作るのだったら無添加でやりたいと、無添加食べるスープとして事業をスタートしていました。

そこはファミリアな部分があるのだけど、ブランドの人格と自分個人は切り離していて、ブランドには秋野つゆさんという人物像を規定していたのです。

僕は入社前にお店でたまたまスープを食べて、その本物さにほれ込み、これはすごく大きくなる、伸びると思ったのですが、秋野つゆという人物像に触れたときは、これはすごいと思いました。遠山におもねるのではなく、この人格と向き合い、実際にそういう人格にブランドを育てるのが仕事だと思えたのですよね。

商社、ユニクロを経て、27歳の時に遠山に会った僕は、開口一番このブランドを僕に経営させてくださいと言って、それを遠山が面白がり、任せますと言われたのがはじまりでした。

カリスマモデルからの脱却

松尾 しかし、実際に入社してみると、毎週月曜にやっている朝礼では、その週の遠山のスケジュールを確認することがメインになっていて、2004年のことなので、当時は今のようなITツールがなかったというのもあるのですが、あれ?カリスマに頼るモデルなのかなと思って、違和感を感じたのを覚えています。

その後に参加するようになった店長会や幹部の会議では、遠山が現状に厳しいことを言うとみんなシュンとして聞いていて、言い返すこともない。カリスマである遠山が帰ると突然みんなワサワサとそれでは会議を始めましょうなどと言い出す感じで、ビジネスのセンスやクオリティはいいのに、組織としてはギクシャクしているところがあるなと感じました。

当時、自分とあと2人、遠山からすると一回りぐらい違う若者だった3人で、このビジネスを創業者のカリスマへの畏怖や依存でやっていったら潰れてしまうよね、ではどんな経営体制がいいのだろうと、毎晩夜中に3人で語り合って、チームで経営していくことを目指し、遠山も交えて経営理念を定め、その上で、「5感」という行動規範も規定しました。

先ほど行動規範が5個も10個もあると覚えられないという話が出たばかりですが、「5感」では、お金がないから低投資だけれど感度が高い仕事をしようとか、絶対誠実であろう、それから作品性、これは遠山自身が現代アートに強くインスパイアされて事業を作ったので、自分のサインができるような仕事でなければダメだということです。

あとは、主体性を絶対持とう、そしていい仕事ができたら仲間同士を絶対賞賛しようというものです。

この5つは、その当時いた社員たちみんなで、うちらしいカルチャーとか、もしくはうちらしいと言われるカルチャーをこれから作っていくのだったらどういう言葉だろうねと、みんなから募集した言葉から決めたものです。

未だに残っていて、20年ずっと使っています。

経営理念を定め、「5感」を作ってから、新卒採用を始めたり、組織づくりを始めて、ある種の脱カリスマみたいなことを進めていきました。

創業者にカリスマ性を求めすぎると、あまりいいことはありません。例えば、ある時店舗デザイナーから、前に遠山さんが灰色は嫌いだと言っていたと聞いたので、なるべく使わないようにしていますと聞いたので、直接遠山に後で聞いてみたところ、ん? 灰色が嫌いだなんて言っていないよと笑って返されました。それなのに、伝聞でのカリスマへの畏怖からファサードに灰色を使うのはNGみたいな文化が勝手に生まれていた訳です。

そういうのがおかしくなってしまうところなので、理念と規範を作り直して、元々ブランドに定められた人格と一人一人が向き合うように組織を変えていったら、ビジネスの成果が上がっていくようになりました。

スープストックトーキョーとして独立

松尾 長くなるのでなるべく省略してお話ししますが、資料における、図中の青い箇所が新しい枠を作ったり、ルールの規範を作った時期です。

緑は、それによって上手く回っていった時に、今度はビジネスを思いきり深掘りして、ドライにやらなければいけないことをやった時期だったり、危機を乗り越えた時期です。

1個目の緑の時期、2008年に三菱商事からMBOをして独立した後は、スープストックトーキョー以外のビジネスもたくさん手がけて多角化した結果、新規事業こそ一番この会社で価値があることで、スープストックトーキョーはもう十何年やっているから既存事業でしかないみたいなカルチャーが社内に生まれ始めて、社内に溝ができ、空気が悪くなり退職者が出るようになってしまいました。

当時の新卒採用で、うちでは若いうちから新しい事業を実現できますよという募集の仕方をしたのにも問題があったと思いますが、結果として既存事業側といわれるスープストックトーキョーに配属されるのが嫌だと、20人採った新卒の半分が1年で辞めてしまいました。

そこで、一回会社のカルチャーを変えようと、スープストックトーキョーを他の事業とは切り分けて分社し、子会社化し、その会社の理念を「世の中の体温をあげる」に変えました。スープストックトーキョーの事業だけを純粋に愛し、入社時からこの理念が大好きで共感しているという人たちの集まりにすること、その一体感で危機を乗り超えようと考えたのです。その時に社長に就任しました。

以来、ずっと、この「世の中の体温をあげる」という言葉を使っています。

「5感」も残っているのですが、5感よりも何よりも、この一文にはすべてが込められていて、あなたにとってどういう意味なのかという問いでもあるし、体温を「あげる」ということはさがっている人が存在するということで、そこに思いを馳せるということでもあります。

もちろんもう1つ、物質的に温かいスープで体が温まるというのもあるし、色々な言葉がかかっていて、本当に色々なコピーライターやブランディングをやっている方から羨ましいと言っていただける言葉になりました。

全振りで理念経営をやってきた結果が今出始めています。コロナを乗り越えてさらなる成長へと向かうパワーを持てているのも、分社して理念をぐっと絞って、これに共感する人間だけの集合体にしたというのが強かったと思います。

コロナ禍を乗り切り起きた変化

松尾 最後になりますが、創業者の遠山自身は自分をカリスマ化したかった人ではありません。常にセンス良く、自由で、縛られていない人。ブランドには作品性を込めて人格を創って羽ばたかせた人です。それでも、望まぬカリスマ化が起きたのは、創業者をあがめて指示待ちになったり、神輿に祭り上げてしまう人がいたからです。僕はそういう文化が嫌いだから、開いたつもりでした。

社長になったとはいえ、開いたのですから、今度は理念に持っていって、自分にベクトルが向かないような組織を作ろうと思ったつもりでした。しかし、それでもコロナの時は井手さんも言った通り本当に経営危機だったので、結局強いリーダーシップを発揮していくことになりました。自分が何とかする!全員ついてこいとばかりに、何事も即決裁で対応していました。

パートナー(アルバイトのこと)の給料も、東京都の緊急事態宣言が出た翌日ぐらいに、1円たりとも縮小しないと決めて、全店を休業のために閉めた2カ月間、コロナ前の勤務実績に応じた給料を1円も減額せずに、そのまま全員に支払うと独断で決めました。

#STAYATHOME 臨時休業を選ぶこと。(Soup Stock Tokyo【公式】note)

僕が全部トップダウンで決めて、それによって危機を乗り越えられたのですが、今、僕はジレンマと、やはり次の経営体制にもって行かなければという思いを抱えています。

本当はなりたくなかったけれど、危機によって僕はトップダウン型のある種カリスマ的なリーダーになってしまった訳です。その余韻が強く後を引き、今幹部たちと会議をやっていても、どうしても僕の顔色を見てくる人が多いのですよね。

僕が何て言うかなとか、これでいいですか?と答え合わせをされているような会議が多く、それがすごく嫌で、経営会議自体を廃止した時期もあります。僕が出した結論としてはここでリーダーを変わろうかなと思っています。

▶編集注:2024年2月登壇時の発言。スープストックトーキョーはセッション開催の翌月3月1日付で社長交代を発表。

スープストックトーキョーが経営体制を刷新。2024年4月1日付で取締役の工藤萌が社長に就任します。(PR TIMES) 

でも、社長というのはリーダーで、リーダーというのは役割だと思っています。

例えばサッカーでもラグビーでも、ポジションがありますよね。

攻撃的な選手がボランチに回ったりとか、全然あるわけですよね。

組織にとって何が一番大事かというときに、自己顕示が大事なわけではなくて、チーム全体が勝つとか、ビジネスであれば理念を絶対に実現することが大事であって、そのために必要な組織やそのために必要なリーダーシップはどういうものかを、その都度考えていくと、自分のポジションすら動かす必要があるというふうに、ずっと思ってきたのですよね。

だから、今それを実現していくことでさらなる成長を遂げたいし、次にリーダーになる人にはまた違う、もっとフラットに聞く耳を持ってやっていって欲しいと思っています。

コロナを越えて今度は平時に戻っていくので、より社会性を持ったブランドを目指すといった、次なるビジョンを示して、またみんなで余白を作って成長していくというループを回したいというのが、僕が強く思っていることです。

井手 聞いていて思ったのは、コミュニケーション課題、コミュニケーションのテーマなんだけれど、やはり2人とも共通するのが、行動規範の前提をそろえないといけないとか、経営理念をちゃんと分かりやすく伝えないといけないということで、やはりそこに行き着きますよね。

その前提が整っていないとコミュニケーションだけ取ろうと思ってもうまくいかないと共通して話されているのが印象的でした。

石田 若干記憶が曖昧ですが、井手さんも前回のセッションで、採用の時に2つ基準があって、確か1つは理念に共感できそうかどうか、もう1つが独自の基準で優秀かどうかということだったと思います。

井手 はい。採用の段階でこういうところはある程度開示しているし、説明会でも言っているから、ここのベースがそろって、経営理念に高いレベルで共感する、ちゃんと理解するというところは仕組みとして入れています。

ここが合っていないと、コミュニケーションしようとしても「何ですか?」みたいになります。後藤さんの話で出た、私辞めていいんですかみたいな、そんな話になってしまうので、大事ですよね。

素敵なアドリブが生まれ続けるような組織 

石川 「世の中の体温をあげる」は、社内の景色を変えた言葉だと思うのですね。

それまでは既存事業か新規事業かで見ていたのが、体温をあげる事業なのかどうなのかという見方にガラッと変えたと思うのですよ。

ただ、今は体温をあげるかどうかではなくて、松尾さんがどう思っているか否かというところがまた気になり始めているということですね?

松尾 そうですね。だから、そういう存在にはなりたくないですね。

僕は組織を引っ張ってきて、「世の中の体温をあげる」という理念が浸透した時に、ものすごく嬉しかったのです。

どういう時がどういうシーンなのかみたいなことは、みんなにも色々共有していました。

これはトップ、宗教でいうとメシアが起こした奇跡ではなく、皆の活動が作り上げていった実話のシーンの共有です。

現場で体温があがる体験をされたお客様から頂いたメッセージなどをみんなで共有し合うことで、これが僕たちの仕事だなというプライドを作っていきます。

これは1年に1回提供している七草粥です。

これを提供する時に、僕らはただのスープ屋ではないのだから、一言お客さんの心の体温をあげられるアドリブ的なセリフをみんなで言おうと言って、7年前から始めています。

最初は、今年も1年健康でお過ごしくださいと、ほぼみんなが同じことを言っていたのですが、僕が指示することなく、毎年少しずつ変わっていきました。

今年の2月のある日、会社に一番近い中目黒店で、「寒いので温まっていってくださいね」と、会ったことのないアルバイトから言われたので、「どうしたの? こんなこと言うようになったの?」と聞いたところ、毎年1月7日に「今年も1年健康でお過ごしください」というだけではもったいない気がして、みんなで話し合った結果、2月も何か一言添えたくなって、そうすることに決めたというような返事でした。

体温をあげるというのはこういうことだよねと、感動してしまいました。

まず最初は規範的にみんなが言える、劇で言えばセリフをしっかり決めています。

でも本当に一番大事な目的は、目の前にいる人の体温をあげることだし、それは1月7日だけではないから、そうやって考えていくと、何て伝えるべきだろう? 今はどうだろう? マスクをしている人には、お腹の大きい方には何て言ったほうがいいかなと、考えて自走できる組織になっていました。

現場はそうなっているのに、僕の一番近いところにいる経営幹部には僕の顔色を見てしまう人がいるので、すごくダメだなと思いました。

現場に合わせるべきで、なぜなら、理念を定めて会社の景色も変えているけれど、僕らは結局お客様を喜ばせているのですよね。

僕らはスープ屋ではなくて、心の体温あげ屋なので、井手さんの会社とすごく似ているなといつも思っています。

井手さんも、自分たちをただのビール屋ではないと思っていると思います。

素敵なアドリブが生まれ続けるような現場が、今1,300人のパートナーと社員300人で回っていますが、当社の経営理念を知らない仲間は1人もいないということは、はっきりと言えます。

2,000人になっても5,000人になっても1万人になっても、そういう組織であり続けたくて、あり続けさせるためのリーダーシップや経営陣はどういう形であるべきかを追求したいと、すごく考えています。

井手 松尾さんの今のお話で、顔色を見るという言葉が何回か出て、そこについてちょっとお話していいですか?

(続)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美

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