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5. 難しい議論をするために、雑談は大事である【終】

ICC FUKUOKA 2024のセッション「組織のコミュニケーションの課題について徹底議論(シーズン2)」、全5回の最終回は、”てんちょ”井手 直行さんが、よなよなエール流コミュニケーションマップを紹介します。ここまで見てくると、各社とも組織のカルチャーが事、周囲の人々や事業、サービスにまで如実に反映されることがわかります。最後までぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは フロンティアコンサルティングです。


【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 10C
組織のコミュニケーションの課題について徹底議論(シーズン2)
Sponsored by フロンティアコンサルティング

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

井手 直行
ヤッホーブルーイング
代表取締役社長

後藤 翔太
識学
ラグビー元日本代表 /ラグビー解説者/識学マネジメントコンサルタント

松尾 真継
スープストックトーキョー
代表取締役社長(肩書は登壇時当時のものです)

(モデレーター) 

石田 真康
A.T.Kearney
Specialist Director, Global Space Group Leader

「組織のコミュニケーションの課題について徹底議論(シーズン2)」の配信済み記事一覧


よなよなエール流コミュニケーションマップ

井手 こちらは、コミュニケーションや組織文化の話をする時にお見せしているコミュニケーションマップです。

コミュニケーションにおいて、前提条件が大事だというのは、後藤さんと松尾さんのお話から分かりましたよね。

私がこれからお話する話はそこに一切関係ない話なので、ちょうど役割分担でいいなと思います。

横軸は、右に行くと人数が少ないコミュニケーション、左に行くと大人数のコミュニケーションです。

縦軸は、上に行くと質が高くなります。例えば、「侃侃諤諤、議論!」して売上をどうするかとか、今期の戦略をどうするかというようなものです。

下に行くと、量を増やすものです。

「ワイワイガヤガヤ、気軽!」というのは、今日素敵な服を着ているねとか、昨日昼ご飯に何食べた?とか、そんなどうでもいいような話をするときに、僕らがとても大事にしているのは、あえて下のコミュニケーションを取ろうということです。

社内用語で書いてあるので意味が分からないと思いますが、コミュニケーションを各個人のスキルに委ねたらダメだと思って、仕組みとして、この4象限がまんべんなく、みんなこういう環境になるような仕組みを一つ一つ作ったのです。

「雑談朝礼」という話を、僕はよくします。

大人数で量を増やし、我々はもう十数年毎日朝礼で雑談を30分しています。

その雑談では仕事の話はしないで、さっき言ったような、昼に何を食べたかとか、今日早く上がって映画を見に行くとか、今晩会社のチームの飲み会があって、みたいな雑談をしています。

以前は全員一緒にやっていたのですが、さすがに人数が多くなったので、数人から10人くらいの島を作ってやっていて、こんな感じで基本爆笑なんですね。

楽しいことを話そう、朝から元気になったみたいな、そういうコミュニケーションをすごく大事にしているのですが、これは、さっきの顔色を見るということと実は関係しています。

コミュニケーションマップの下にある、例えば挨拶とか雑談というのは仕事に関係ないけれど、こういうことを毎日8時間労働の中の30分を使ってやっています。

それで何が起きるかというと、僕にも普通に朝から、「てんちょ、昨日そんなの食べたんですか?!体に悪いですよ」みたいに、雑談でお互いの近況を知ることができ、入りたての新人も、うちのてんちょはこんな人間味があるんだなと知ることができるのです。

要はお互いに自己開示することによって、その人が何を考えていて、この人はこんなキャラクターなんだと、心の距離がすごく近づくのですよね。

こういう雑談をもう十数年ずっとしていると、顔色は多少は見ていると思いますが、ここ数年よく言われている「心理的安全性」が取られているから、遠慮せずに「いや、てんちょね、そうは言っても違うんじゃないですか」「いやいや、てんちょはそう言っているけれど、僕はこっちのほうがいいと思いますよ」みたいに、言うことができます。

難しい議論をするために、雑談は大事

井手 それが当たっているかどうかは分かりませんが、気軽に言える関係を構築するために、下に書いたコミュニケーションをたくさん取っています。

でも、そういうことは大事かなとは思っているけれど、やっていない会社がほとんどで、コミュニケーションマップの上のほうの、売上をどう上げるかとか、戦略をどうするかみたいな話だけしたいのですよ。

特に外資系などでは、ドライに効率重視で、売上を上げるやり方、戦略のところを侃侃諤諤やればいいと言います。

そうすると何が起きるかというと、やはりトップの顔色を見て、トップの意見に反論せずに忖度を働かせたり、トップの意見に納得していないけれど黙っていて、会議が終わった後に裏で、上は分かっていないとか、どうせうまくいきやしないとか不満を言ったり、誤解が生まれたりするのです。

でも例えば、僕と日頃雑談をよくしていたら、僕が会議で、いやそれはこうじゃないかと色々言った時でも、「てんちょがああいうふうなことを言っている時は本当に心配している時だから、もうちょっと相談してみようか」と思うわけです。

それが、仮に僕とよく話をしない人だったら、会議でいきなり僕がああだこうだ言うと、「うわ、あんな面倒くさいこと言って、うるさいから言われたままやろう、だけどきっと違うと思うんだよね」という受け止めになります。

そうすると、結局納得がいかないから、実行力が弱まったりするので、僕らは上にある難しい議論をするコミュニケーションを取りたいがために、下をすごく厚くします。

一見無駄に見える雑談みたいなコミュニケーションを色々な人と取っていると、上の議論がすごくスムーズにいくのです。

石川 雑談をずっとしていて、「これ、意味ないですよね?」「無駄ですよね」と言うような人は、そもそも入社していないということですか?

井手 今はそういう人は入社していないですが、その辺りの説明をよくできなかった頃には、入社後に、「えっ、何ですか、これ? 意味があるんですか?」と言う人もいました。

そういう時には、上のほうのコミュニケーションをする時に、下が大事なんだよという話を毎回しました。

だって、中途社員でも新卒社員でも、理不尽な議論で上手く説明できないからシュンとしたり、先輩が言っていることに反論すると怒鳴られるみたいな経験をしたことは絶対皆さんあるじゃないですか。

そういうことを例に出して、「君も上司に発言して、色々議論する機会はあったでしょう? その時は、絶対下の心理的安全性が取られている時なんじゃない?」と言ったら、みんなそこは人生経験で納得するわけですよね。

だから、そういうふうに、雑談が大事だからではなくて、雑談がなぜ大事なのかをセットで説明すると受け入れられるし、今は雑談に疑問を持つ人がそもそもいないという感じですね。

こんなことを、気をつけてすごくやっています。

石川 人には、「何者かである自分」と「何者でもない自分」があって、自分の中に色々な自分がいると思います。

危機下だと、特にリーダーは何者かであり続けるから、その時間が長くなると、周囲が顔色をうかがうようになるという構造になりやすいのだと思うのですよね。

井手さんのお話で、思うところ、感じるところはいかがですか?

新卒採用者の親に自ら出す手紙

松尾 全く同意で、本当にその通りだなと思います。

僕のパートの話では、自分の内にある思いをそのまま赤裸々にお話ししたから、ちょっとドライに見えているかもしれませんし、うちでは朝礼こそやっていませんが、本当に同じように、社員一人ひとりを家族だと思って仕事をしています。

分社して会社化する前に新卒が入社して辞める理由は何だろうかと深く掘り下げていったら、実は家でのコミュニケーションにも課題があるなと思ったことがありました。

母親と同居している社員が、夜遅くまで働いて疲れて帰宅した時に、こんなに遅くまでかかるような仕事だったらやめなさいと言われたとか、コロナだったら色々な人と接触するわけでしょ、怖いでしょとか、飲食業界で本当にやっていきたいの?とか。

そもそもいい大学まで出たのだから、親としては飲食なんて行ってほしくなかったとか言われてしまうケースもあって、それだと本人がどんなに会社の理念に共感していても、一番身近な人の共感が得られずに折れてしまうのです。

そこを何としても繋ぎたかったから、2017年に分社した初年度から、次の新卒採用をするときに自分にルールを課して、親御さん一人ひとりに全部文章を変えて手紙を書くようにしました。

そうすると親御さんから、うちの娘はこうやって育ちましてと、手紙が返ってくるのです。

その親御さんに、僕らは世の中の体温をあげる会社で、単なるスープ屋ではありません、ご両親の体温もあげてみせますから、ぜひお店に来てください、娘さんの晴れ姿を現場に見に来てくださいと言うと、本当にすごく応援してくれるのです。

先ほどお話ししたように(前Part参照)、分社前の年に、多角化してスープストックトーキョー以外の事業にアサインするよと言っておきながら、スープストックトーキョーへのアサインが多かった時に、人がたくさん辞めました。

でも、分社して理念を定め直して、余白を作り直して、コミュニケーション取り直して、コミュニケーションの中でも一番アキレス腱になりそうなところまで真剣におさえにいったら、2017年に入社した17人は偶然全員女性だったのですが、2年間1人も辞めませんでした。

だから変えられるなと思っています。

そういうコミュニケーションのあり方もそうだし、井手さんの会社の朝礼も、多分最初の頃は何なの?と言っていた人もきっといたはずだと思いますが、どうしても獲りたい果実というか、実現したい理念のためには、自分が自分にルールを課してでもやりきるみたいなことは、リーダーの仕事だと思います。

先ほどお話ししたように(Part.3参照)、場合によっては、その輪を壊していく人を追いやることもリーダーの仕事かもしれないし、コミュニケーションリーダーであるリーダー、トップというのは、理念を絶対に実現するために、自分の仕事を徹底して行う人だなというのは強く思います。

スタッフの家族がヤッホーのファンに

井手 ちなみに、親の問題で悩む人はいるのです。

うちの会社ではファンイベントをしょっちゅうやっていて、コロナが明けたので、2023年から再開したのですが、ファンを呼んでビールを飲みながら色々なコンテンツで喜んでもらうイベントに、スタッフの家族がすごく来てくれるのです。

夏の間長野県の醸造所で、事前申込制のブルワリー見学ツアーを開催するのですが、一般のお客様と同じように申し込みをしてスタッフの親御さんもたくさん来てくれます。普通の会社ではあまりないかもしれませんが、僕もめっちゃ会話をしています。

会社の雰囲気や僕の考えを直接知ることで親の不安は吹き飛ぶのか、うちのスタッフの親御さんでうちのファンになってくれている方はとても多いですよ(笑)。

石川 来るということは、家で話しているということですよね?

井手 話しているんです。

今回のICCサミットに登壇した方の会社で、うちのスタッフのお姉さんが働いていて、そのお姉さんは、勤めている会社でうちのビールの話ばかり宣伝していると言っていました。

僕はそのお姉さんとも、イベントで何度も会っています(笑)。

社員は実家で会社の理念を語っているか

石川 社員が実家で会社の理念を語っているかどうかは、重要な指標ということですよね。

僕の友達がホストクラブを経営しているのですが、ホスト業界も最近人が採用できないらしくて、それこそ「ホストなんかするなよ」と親が言うのです。

最近はうちでしっかり預かりますと挨拶に行くらしいのですが、その際に親だけではなくて、墓参りもするらしいですね。

石田 はー。

石川 ご先祖様にもご報告しに行くという(笑)。そこまでしないと人が採用できなくなっているんですね。

逆に言うと、そこまですると安心してファミリーになると言っていましたね。

井手 めっちゃいいホストクラブですね。

(一同笑)

超レアですね。

石川 超レアだと思います(笑)。

後藤 僕は今ラグビーの解説の仕事をさせてもらっていますが、解説は実況とペアなので、すごく仲良くしていただいている実況の方がいらっしゃって、よく話を聞きます。

その方は、実況アナウンサーを養成する会社を社長として経営していて、そこに、今務めている会社を辞めて実況スポーツアナになりたいという希望者が来るそうです。

でも、入社させる条件があって、親、家族すべての人を納得させてからこっちに来てくださいという条件にしているらしいですね。

その社長は親御さんとは話していないですけれど、ちゃんと家族とコミュニケーションを取って理解してもらってから、こっちの勝負の世界に来いというところは言っているようです。

松尾 退路を断つということですね。大事ですね。

石田 実はもうセッションの終了時間になっております。

良いセッションとは、モデレーターが何も話さなくてもスピーカーが勝手に話し続けるというのが一番分かりやすい指標であると僕はよく聞きます。

今日は私が特に何もしなくても、皆さんがどんどんお話ししてくれたので、良いセッションだったのかなと思います。

石川 今日、組織のコミュニケーションの結論が出たんじゃないですか。

社員が実家で会社の理念を親に話しているか、これに尽きるんじゃないですか(笑)。

石田 皆様、社員の方にぜひ聞いてみていただければと思います。

グッドマネージャーとグッドリーダーの違い

石田 最後に僕から、皆さんのお話を聞いていて思ったことがあって、一言だけお話しします。

昔の同僚に米国陸軍のトップだった方がいました。

僕は当時30歳ぐらいでマネージャーだったのですが、グッドマネージャーとグッドリーダーの違いが分からなくて悩んでいました。

マネジメントとリーダーシップは何が違うのか、周りの人に色々聞いたのですが、誰も明快に答えてくれる人がいなかったので、その人に聞きに行ったのです。

そうしたら瞬時に答えてくれて、今でも覚えていますが、“Management is getting things done. Leadership is taking care of people.”と言ったのです。

要するに、物事を効率的に前進させるのがグッドマネージャーなんだけれど、リーダーの仕事は人をケアすることであると。

補足したのは“taking care of people”の“people”というのはソサイティであり、チームであり、仲間であり、最後は自分をケアしなさいというふうに言われました。

井手さんのコミュニケーションマップを見て、彼の言葉を思い出したのですが、マップの上の会話は、場合によってはマネジメントのような物事の議論にどんどんなるのですが、マップの下の階層は社員を人間として見ているから必ず発生するファンダメンタルなことだなと思います。

戦略の実現や色々な業績の実現を我々はやらなければいけませんが、今日皆さんとお話ししていて、最後の最後はやはり人として向き合っているなとすごく感じました。

正解がないから難しいとは思うのですけれど、そこを真摯にやり続けている企業やチームがやはり強くなっていくというか、生き残っていくというか、そのような感じをモデレーターとしては受けました。

最後は私の感想になりましたけれども、会場の皆様も色々持ち帰っていただけることがあったかと思います。

最後に、今日とても素晴らしいセッションをしてくださったスピーカーの皆様に向けて拍手をしつつ、終わらせていただければと思います。

皆様どうもありがとうございました。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美

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