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6.中国の起業家たちはイーロン・マスクに勝つつもりで事業をしている【終】

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ICC KYOTO 2022のセッション「ITスタートアップにおけるグローバル展開のケーススタディ」、全6回の最終回は、「なぜグローバル展開するのか?」から議論がスタート。アジアで事業展開するなかで、誰を、何を目標としてやっていくのか、どこに勝機があるのか、時間いっぱいまで語り合います。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜9月7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションのオフィシャルサポーターはネットプロテクションズです。


【登壇者情報】
2022年9月5〜8日開催
ICC KYOTO 2022
Session 3D
ITスタートアップにおけるグローバル展開のケーススタディ
Sponsored by ネットプロテクションズ

角元 友樹
恩沛科技股份有限公司(NP Taiwan, Inc.)
董事長/總経理

久保 恒太
Ubie株式会社
代表取締役 エンジニア

十河 宏輔
AnyMind Group株式会社
代表取締役CEO

中島 克彦
株式会社ビービット
取締役副社長

(モデレーター)

井上 真吾
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン
パートナー

「ITスタートアップにおけるグローバル展開のケーススタディ」の配信済み記事一覧


井上 各社、かなり濃い内容でお話しいただいたこともあり、パネルディスカッションの時間がないので、論点をしぼって進めたいと思います。

最初に議論したいのは、そもそもなぜグローバル展開なのか?ということです。

Jリーグの中で戦って勝てばいいという考え方もあると思いますが、皆さんどういう思いがあるのでしょうか。

例えば久保さんの場合、海外でビジネスをするという気持ちが先にあって、進出してから方法を考えていたようですが、何がモチベーションだったのでしょうか?

そもそも「なぜグローバル展開するのか?」

久保 GoogleやFacebookなど世界規模で戦っているスタートアップがある中で、日本にはそういう企業がなかなかないという状況でしたし、一方、サービスを提供するなら世界中の人に使ってもらいたいという気持ちもありました。

日本における医療は、世界の中でも平均レベルよりも水準が高いです。

ソフトウェアサービスだけで戦うハードルは高いと私は思っており、また、グローバルで戦うとして、日本に強みのある、成長している領域はどこだろうと考えた上で、私は医療という領域を選んだのです。

医療水準の高い日本であれば、AIを育てていけると思い、かつ、そのマーケットを獲得している企業は世界にもなかったので、始めました。

井上 社会課題解決というか…。

久保 日本に強みがある領域なので。

中国の起業家たちはイーロン・マスクに勝つつもりで事業をしている

井上 なるほど。中島さんはいかがでしょうか?

中島 これを話すと、今日いらっしゃっているマネーフォワードの金坂(直哉)さんに笑われてしまうのですが…(笑)。

以前、金坂さんにはお話ししたのですが、イーロン・マスクに負けたくないのです。

この時代に生きて、起業をしているわけですが、世界No.1としてイーロン・マスクが色々なビジネスをしているのを見ると、あれくらいできるのではないかと思うのです。

この思いを持つに至ったのは多分、10年ほど過ごした中国で、中国の起業家ネットワークに入れたからだと思います。

中国の起業家たちはみんな、イーロン・マスクに勝つつもりでビジネスをしているのです。

僕は、それでいいのではないかと思っていますし、日本のスタートアップの優秀な皆さんには是非、そのマインドでビジネスを行ってもらいたいと思っています。

僕は、マインドを持つだけで終わり、失敗するかもしれませんが(笑)。

サッカーの話を少ししましたが、この時代に生まれて、リオネル・メッシに負けたくないと思わないでサッカーをするとしたら、それはサッカーを志した意味がないのではと思います。

井上 なるほど、ありがとうございます。

十河さんは最初から海外でしたが、その立場から見て、日本のスタートアップに対する思いはありますか?

東南アジア展開は今がチャンス!

十河 めちゃくちゃありますね。

まだまだ日本人も日本企業も色々なことをやれるよ、とお伝えしたいです。

中国やUSではプレイヤーがどんどん増えてハードルが高くなっていますが、少なくとも僕らが展開している東南アジアに関しては、日本人のプレゼンスはまだ高いです。

社長が日本人だということが強い採用力につながることもありますし、パートナーシップ構築やBiz Dev(事業開発)もやりやすいです。

ただ、5年後、同じ状況かどうか分かりませんが、今はまだ大きなチャンスがあります。

日本には、良いテクノロジーやサービスを持つ会社が多いので、チャンスは今しかないのではと思いますね。

井上 タイミングとして、東南アジアにチャンスがあるということですか?

十河 そうですね、東南アジアはまだめちゃくちゃ市場が伸びていますし、プレイヤーもそこまで多くないです。

インドネシアやタイ、ベトナムは親日国ですし、他の地域に比べると、難易度は若干低いのではないかと思います。

やはり、失敗したくないじゃないですか。

最初の海外展開で大きく失敗してしまうと、その他の国への展開はなかなか難しいですよね。

成功確率を上げるという意味でも、東南アジアはおすすめですね。

井上 角元さんは、まさにこれから東南アジアに挑戦するタイミングだと思います。

先ほどの、私からの質問も含めて、思うところはありますか?

角元 我々もまさに、チャンスだらけだと思っていますし、日本を超えるくらいの勢いで展開していきたいと思っています。

個人的にも、海外で働くのは刺激になって純粋に楽しいので、モチベーションを高く保って働けると思います。

井上 中島さんから、社長を超えるのではないかというコメント(Part.4参照)がありましたが…。

角元 そうですね、それくらいを目指したいと思います(笑)。

井上 素晴らしい。ありがとうございます。

グローバル展開成功の鍵はチームづくりに尽きる

井上 皆さんのお話には、共通項も結構あったと思います。

グローバル展開の成功の鍵は何かという点については、中島さんがお話しされたように、やはり創業者が現地に行くべきであること、角元さんのような、経営者マインドを持った優秀な若手が行くべきだということでしょうか。

また、現地採用をするか、もしくはM&Aを活用してでも、Jasonさんのように、現地の優秀な人材を採用することですね。

角元さんは、現地に権限移譲をし、裁量を持たせるべきだともお話しされていました(Part.2参照)。

プロダクト開発については、バリューチェーンのどこでローカライズ、もしくはグローバル化するかは、「グローカルビジネス」なのか「グローバルビジネス」なのかにもよるので、選択肢があるように感じました。

「成功の鍵は何ですか?」という問いに対して、皆さん、コメントはありますか?

十河 やはり、各国のチーム作りに尽きるかなと思います。

例えばベトナムで事業を行うとしたら、ベトナム語で完結しなければならないので、日本人一人で対応するのは難しいです。

ですから、ベトナムに、めちゃくちゃ優秀なBiz Devチームを作れれば、成功確率は上がると思います。

グローバルにおいても、グローバルで戦えるチーム作りが結構重要ではないかなと思いますね。

井上 既に13カ国に展開しているAnyMindがそう言うと、発言が重いですよね。

プロダクトはグローバル統一だけれど、現地の人材がめちゃくちゃ重要だということですね。

中島 今の話に関連する質問をしてもいいですか?

Go-To-Marketストラテジーとして、経営人材を採用するためにM&Aを活用すると考えていらっしゃいますか?

十河 その場合もありますし、既に進出していても、事業を展開するにあたって足りない部分を補うためにM&Aを活用することもあります。

中島 ケースバイケースなのですね。

十河 そうです。

インドのケースはまさにそれで、M&Aをきっかけに進出しましたが、現時点でバンガロール、ニューデリー、ムンバイの3拠点で事業展開しています。

中島 Ubieは、M&Aは行わないのですか?

久保 考えてはいます。

可能性はありますが、我々としては、USではこれから拠点を作っていくという段階なので、そこからGo-To-Market、つまりサービスを展開していくので…。

中島 十河さん、サイバーエージェント時代は、VCとして、東南アジア進出をしたのですか?

十河 いや、僕は事業会社としてでした。

中島 そうなんですね。でも、結構M&Aを多く行われていますよね。

Ubieもそうだと思いますが、M&Aを行えるというのは、一つのケーパビリティだと思います。

我々も、Jasonが投資会社出身だったので、M&Aにトライしました。

十河 うちも、CFOが投資銀行出身だったので、M&Aのケーパビリティを持っていました。

あと、シリーズAでジャフコから15~16億円の資金調達をした際、担当者から、どんどんM&Aをしていこう!と背中を押してもらったということもありました。

グローバルで戦う会社の間で、特に東南アジアでは、M&Aマーケットは盛り上がっていますよね。

中島 ビジネスの一つの手段として使っていますよね。

十河 ですから、グローバル展開をするにあたり、最初からM&Aを選択肢から外すという選択は、しませんでした。

資金調達ができて、投資家もサポーティブで、M&Aができるケーパビリティを持つCFOもいたので、色々な要素が揃っていたという状況でしたね。

中島 M&Aのケーパビリティと言うと、買うことよりもむしろ、一番辛いのがPMI(M&A後の統合プロセス)だと思いますが、そこまで含めてのケーパビリティを持っていたということでしょうか?

十河 そうですね、そこは僕がしっかりと入り込んで、ハンズオンでPMIをしていきました。

というのも、PMIは創業者同士の話になりますよね。

僕らの場合、Acqui-hireが目的なので、買った後、先方の創業者に引退してくださいと言うのではなく、現金や株式交換を使いながら、AnyMindの大きな船に乗って、一緒に事業を立ち上げましょう、IPOを目指しましょうというアプローチです。

ですから、自分自身でPMIを行いました。

中島 では、それをサポートしてくれる投資家をきちんと見つける方が…。

十河 投資家と、エグゼキューション(実行)がしっかりできるCFOが重要ですね。

中島 久保さん、僕らも頑張りましょう。

M&A後のプロセスを成功させるには?

久保 十河さんに質問してもいいですか?

創業者をM&Aを通じて採用した後、これまでに離反は起きていないのでしょうか?

十河 最初から「引退したいです」と言っていた創業者との取引が1件ありましたが、それを除くと、創業者はM&A後も全員残っています。

我々は買収時、100%キャッシュでは買っておらず、半分は株式交換などという形にしています。

そうなると彼らも半分はAnyMindの一部となり、今は未上場のAnyMind自体の、IPOなどのExitを一緒に目指すようになります。

井上 PMIについて、買収した会社のバリューアップを実現したとお話しされていましたが、カルチャーや組織の融合も自分で行ったのでしょうか?

十河 ドラスティックに行うとキーマンの離脱のリスクもあるので、時間をかけながら行いました。

コロナ禍の間はできていませんでしたが、我々は毎年、全社総会を行っています。

そういった機会をうまく活用しながら、子会社親会社という関係ではなく、グループの垣根を超えて、みんな仲間だというコミュニケーションを意識しています。

井上 中島さんも、Jasonがビービットに溶け込むための橋渡し役をされたのではないかと思いますが…。

中島 しましたね。

これはUbie向けのアドバイスですが、PMIは、アジアでは本当に行いやすいと思います。

なぜかと言うと、日本企業の経営者になれるというのは、アジアのスタートアップの経営者にとっては、とても特別で、名誉なことなので、引き込むことができます。

しかし、欧米ではそうではないので、欧米の経営者には通用しません。

ですから、アジアで鍛えて、強くなってから欧米に進出することをおすすめします。

ただ、アメリカのマーケットが大きいということも理解できます(笑)。

久保 プロダクトを作るならアジアがいいと思っているので、非常に参考になります。

井上 ありがとうございます。

今回は先行事例から学ぶというセッションでしたが、角元さん、色々な話を聞いてみて、成功の鍵として、持ち帰ることのできる情報はありますか?

角元 学ぶことは多かったです。

我々として、どこを一番大事にし、どこを現地に合わせ、どういう組織構造で進めるべきかが、今後の成功のためのポイントになると思います。

採用も含め、各国で一緒に行うパートナーを見つけるためにM&Aという手段があるということは、とても勉強になりましたので、しっかり考えてみたいと思います。

ビジネスが好きなら、グローバル展開へ挑戦を!

井上 残り5分となりましたので、まとめに入りたいと思います。

今回のセッション、とても学びの多い内容だったと思います。

他にもグローバル展開に挑戦、成功している企業があると思うので、そういうスタートアップにどんどん登壇、シェアしてもらい、学びについてディスカッションできる場がもっとあるといいですね。

今日は全然時間が足りなかったので、是非またこういうディスカッションがしたいと思います。

最後に一人ずつ、これから世界に挑戦するスタートアップに向けて、今回のまとめやメッセージをお願いできますか。

中島 プレゼンで話したこと以外ですと、角元さんも話されていたように、グローバル展開はめちゃくちゃ楽しいです。

PESTを考え、戦略を立て、実行し、結果がどうだったか、というプロセスですが、自分の立てた戦略で成功した時の快感は何物にも代えがたいです。

ですから、ビジネスが好きで、起業家で良かったと思っている人がいたら、めちゃくちゃ楽しいので、是非、挑戦してほしいです。

もっと大きな世界があることが分かると思うので、皆さんも是非、挑戦してください。

井上 他のセッションで、「最近、ゼロから1を行ってきた創業メンバーが若干くすぶっている」という話を聞きました。

日本でゼロから何かを立ち上げた人に、海外展開を挑戦させるというのは、選択肢として絶対にありますよね。

中島 絶対にあると思います。

面白さのレベルが全く違うので、くすぶっている暇はなくなると思います(笑)。

井上 ありがとうございます。

十河 大事なことなので、繰り返しになってしまいますが、個人的には、日本から海外、世界に挑戦する会社が増えていかなければいけないと思っています。

色々な起業家コミュニティがありますが、少なくとも東南アジア、アジア圏にはまだまだチャンスがあり、日本でうまくいっている事業であれば、東南アジアでも通用する可能性が大いにあると思うのです。

僕の中では、チームジャパンでアジア市場を盛り上げていきたいという思いが、めちゃくちゃ強いです。

失敗経験から学ぶことも多いですし、コミュニティが日本のスタートアップ界をより良くしていくことになると思います。

もちろん失敗もあるかもしれませんが、成功した時のリターンも大きいので、僕らも引き続きチャレンジしていくので、是非、皆さんにチャレンジしていただきたいです。

井上 チームジャパンのキャプテンとして、よろしくお願いします!

久保 我々はまだまだこれからで、我々自身がチャレンジャーだという気持ちで取り組んでいます。

過去、起業しようとしていた自分にアドバイスをするとしたら、「ゴチャゴチャ言わず、海外進出しよう」と言いますね。

投資家やさまざまなステークホルダーから、「日本の事業にフォーカスしてほしい」「競合がたくさんいるけれど、どういう戦略を持っているのか」などと止められることもあります。

しかし、世界のマーケットはめちゃくちゃ広いので、少しでも差分があれば、我々も持っているように、競争優位性や独自性を持つことができます。

それらを活用して突破すれば、戦えるマーケットはどんどん広がっていくのではないかと思います。

角元 世界に挑戦することで日本の外にいる優秀な人材を獲得できますし、それによって、世界という市場の中で自社プロダクトを磨くことができ、結果、日本市場に対しても良い影響を与えることができます。

これが、海外進出する魅力だと思っています。

我々もそれを目指していますし、そういうポテンシャルが十分あるのではないかと思うので、是非、挑戦してほしいと思います。

海外進出も共創して挑戦を

井上 ありがとうございました。

皆さんの話を聞いて、本当に今がチャンスだと思いました。

まず、コロナ禍が落ち着き、海外進出にチャレンジできるタイミングになってきたこと、そして東南アジアの存在ですね。

コロナ禍によって日本ではEC化率が上がりましたが、東南アジアでは日本以上に進化しており、リープフロッグ現象(※) が起きています。

▶編集注:リープフロッグ現象(leapfrog)とは、新興国が先進国から遅れて新しい技術に追いつく際に、通常の段階的な進化を踏むことなく途中の段階をすべて飛び越して一気に最先端の技術に到達してしまうこと。既存の技術を導入する前にさらに新しい技術を導入すること(シマウマ用語集)。

その中で、皆さんの行っているビジネスが、かなり適合する可能性が高いと思います。

また、海外マーケットにチームジャパンとして進出するにあたっては、まさにICCサミットのような場で出会える仲間と、知識を交換したり、協力し合ったりしながら挑戦できるのではないかと思います。

そして、このセッションがそのきっかけの一つになれたらいいなと思いました。

本当にありがとうございました。

今一度、登壇者の皆様に拍手をいただき、終了とさせていただきます。

ありがとうございました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸

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