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4. スタートアップは「1人あたりの生産性」に注意せよ

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ICC KYOTO 2023のセッション「現場が奮い立つ、一流の事業計画(予算策定)とは?」、全5回の④は、スピーカーたちが口を揃える「1人あたりの生産性」について。事業計画を考えるときに、スタートアップであってもなぜそれを気にするべきかについて説明します。一方、成長戦略としてM&Aを積極的に行っているじげんが徹底していることとは? ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションのオフィシャルサポーターは ログラスです。


【開催情報】
2023年9月4〜7日開催
ICC KYOTO 2023
Session 4A 
現場が奮い立つ、一流の事業計画(予算策定)とは?
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「現場が奮い立つ、一流の事業計画(予算策定)とは?」の配信済み記事一覧


布川 永見さん、PLとしてはrule of 40%という考え方があると思いますが、バランスシートに関しては何かポリシーがありますか?

SaaSビジネス成長ペースの基準「40%ルール」(CORAL)

SmartHRで言えば、バーンマルチプル(資金の燃焼効率を示す指標)やキャッシュの残高、ランウェイ(企業がキャッシュ不足に陥るまでの残存期間)がどのくらいかとか、あると思いますが。

資本効率を意識すべきタイミング

永見 未上場の時は、キャッシュバーン以外にバランスシートについてあまり考えないと思いますが、上場後は考えることが必要です。

これは未上場の時もあるかもしれませんが、一番分かりやすいのは、資本効率という概念が発生することです。

ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)について、「今は低いけれど、どこまで高くなる事業なの?」と聞かれて議論になりますので、意識する必要が出てきます。

例えばラクスルの場合、タイムラインはコミットしていないが、中期でROEやROIC 20%を目指すとしていました。

それは株価の支えにも一定なりますし、会社が引き締まる要素にもなると思います。

あと、じげんほどではないですが、これからM&Aを考えており、その資金をどうプールしておくかについて取締役会で頻繁にディスカッションになります。

理論上、のれんの減損(M&Aの失敗による損出)リスクはあるので、どのくらい純資産を持っておくかについても、取締役会でいつもディスカッションになりますね。

布川 ありがとうございます。SmartHRでは、どうでしょうか?

倉橋 我々は未上場で赤字なので、ROIC等は計算しようがありません。

一度も計算したことがなく、上場するとそんなに大変なのだなと今、話を聞いていて思いましたね。

未上場スタートアップでシンプルなビジネスなので、BSではバーンレート(資金燃焼率)とランウェイしかほぼ気にしていません。

布川 御社の場合、既に社員数もものすごい数になっているので、固定費が分かり、ARRによる入金とのバランスである程度未来が見えると思います。

市況を考えると、ランウェイのコントロールやデット(銀行借入)をどう組み合わせるかは議論のポイントになります。

予算リソースについて、どこからお金を持ってくるかについてはシビアな議論になるのではと思っているのですが…。

倉橋 状況としては、我々の場合、リソースの限界を決めているのはBSではなくPLです。

「黒字化を目指すために、40億円しか投資できない」みたいな感じです。

幸いキャッシュはあって、それがボトルネックにはなっていないため、BSに関する議論はあまりないです。

これは、資金を潤沢に調達できたからこそできることだと思っていますが、もしそうではなかったら、ランウェイやキャッシュ残高ばかり気にしていたと思いますね。

スタートアップは「1人あたりの生産性」に注意

永見 BSの話から少し離れますが…未上場のスタートアップでも一つだけ気にした方がいいと思うのは、1人あたりの生産性ですね。

倉橋 それはそうですね。

永見 1人あたりの売上でも粗利でもいいのですが、改善せずにひたすら人材を採用し、状況が悪化しているスタートアップが結構あります。

すぐには改善しない指標ですが、悪化すればするほど給料も払えなくなりますし、逆ザヤだと全然利益の出ない事業になってしまいます。

自分がエンジェル投資をしているスタートアップには、ここは気をつけておいた方がいいと伝えています。

倉橋 めちゃくちゃ大事だと思いますね。

PL寄りなので、そこはめちゃくちゃ管理しています。

上がっていく売上に対して、どれだけ固定費と変動費が増えているかはしっかり追っています。

売上アップに対して、固定費は下がらなければいけません。

グラフ上で、これらの角度が平行だと…。

永見 一生黒字化しない。

倉橋 その通りです。ですので、そこは結構管理しています。

布川 1人あたりARRが上がっていけば、そうなりますよね。

倉橋 そうですね。

布川 ありがとうございます。

じげんでは、税引き後の利益を元手にM&Aにどんどん投資していると思いますが、全額使い切っているのでしょうか?

じげんがM&Aで拡大再生産を続けるために徹底していること

平尾 前CFOの寺田(修輔)さんが、財務方針や規律の礎を作ってくれまして、それを開示しています。

単年度の当期利益から年間配当金額を引いて、それを全てM&Aに使い切ると宣言しています。

使い切れなかった場合は、翌年度にその金額を自社株側に機械的に回すというルールで、これを守って運用しています。

あと、のれんがあるので、「のれん対資本倍率」と親会社所有者帰属持分比率を管理しています。

寺田さんの退職後は、それぞれのM&A案件を帰納的にまとめて分析しています。

それを型化し、価値の拡大再生産に活かすようにしています。

例えば、ネットメディアだとPMIのノウハウも豊富にあり、早ければ2年程度で回収できたこともあります。

それは決して割安で買っているからではなく、PMI(買収後のマネジメント)が鍵になっていると考えています。

我々と同じ事業モデルだとノウハウの差分があるので、それによってPMIがうまくいきます。

人材系だと管理会計は改善しても財務の改善は結構遅いとか、B2B事業だとこうだとか、分類しながら徹底的に分析しています。

M&Aはリスクが大きいので、成功の確度を上げていくことに努めています。

布川 ありがとうございます。

残り30分になったので、M&Aと新規事業について話していきましょう。

SmartHRも新規事業を始めていますが、予算上、織り込まれていますか?

新規事業の予算や売上をどう考えるか?

倉橋 新規事業はまだまだ、すごくアーリーフェーズなので、SmartHRの売上を100とすると、グループ会社全ての売上を合わせても1です。

ですから、成熟しているSmartHR事業と同じ予算策定や予実管理は、新規事業には求めていません。

新規事業にはゆるく、「資金をこれくらい渡すから、ここまで成長させて」とお願いして、費用を使い終わったら報告してもらう感じです。

フェーズに合わせたマネジメントをしています。

永見 ちなみにラクスルでは、完全な新規事業は、コストだけ予算化して売上は予算上ゼロです。

初年度はPMFすることが大事なので、売上はどうでもいいです。

売上目標を持たせるデメリットの方が大きいと考え、そうしています。

布川 じげんでは、新規事業はどう管理されていますか?

平尾 個別で、一つひとつ管理しています。

いつから売上を立てていくのかは各事業計画で確認していますので、個別判断ですね。

布川 倉橋さん、「資金をこれくらい渡すから、ここまで成長させて」と自走させるとのことでしたが、とはいえ、どこかで芽を出して欲しいという思いはあると思います。

それが本体のスプレッドシートにいつ頃表れるかについて、計画や考えはあるのでしょうか?

倉橋 そうですね…SmartHRの5%くらいの規模になれば、同じレベルの管理を求める気がします。

布川 ありがとうございます。

本体事業の計画は、KPI別に細かく作っていくと思いますが、新規事業はどれくらいの粒度で計画を作っていますか?

「広告宣伝費、人件費、トップライン、以上」みたいな感じでしょうか?

永見 初年度はそんな感じですね。

倉橋 我々も同じですね。

グループ会社の経営者はもっと細かいところまで管理していると思いますが、私が把握している範囲は、例えばSmartHRのKPIが100としたら、新規事業のKPIは2、3ですね。

布川 ありがとうございます。

100%達成できるような目標は作らないで

布川 では、次の質問です。

予算のストレッチ度合いについて、皆さんの見解を頂きたいと思っています。

絶対必達の倉橋さんから、お願いします。

倉橋 昔から、「70%は達成できるくらいのストレッチ目標を作ってください」とお願いしています。

SmartHRで言えば、初期はそれで良かったのですが、最近は50%くらいなら達成できるという自信度の目標に落ちていて、それを良しとしています。

布川 それは、20部署あれば10部署しか達成できないということですか?

倉橋 それもありますし、1つの部署のリーダーに「何%達成できる自信がある?」と聞くと「50%」と答えられるレベルが、ちょうど良い予算になってきています。

組織が大きくなって人数も1000人ほどになっているので、みんな外してはいけないというプレッシャーで保守的になっているからかなと思います。

でも実際、50%と言われた予算で進めると、半年後にぴったり達成するのです。

ですので、最近は50%くらいなのかなと思っています。

ただ、トップダウンで各チームに予算を落とした後にせめぎ合いが起こる場合、事前に50%とか70%の数字を伝えておくのは良いと思います。

一番大事なメッセージは「100%達成できるような目標は作らないで」ということなので、それだけ伝えられればいいかなと思っています。

布川 期初の予算策定時点では50%くらいしか達成できなさそうだと悲壮感を持って作っている目標でも、いざ取り組み始めると100%達成するということですよね。

倉橋 そうですね。

布川 なるほど。ラクスルはいかがですか?

計画を100%達成できなければ経営者失格

永見 いつも試行錯誤していますが、今は、そもそも100%達成という水準にしています。

かつては丈さんのように計画を2つ作る運用をしていましたが、今は全社での計画は1つにしています。

事業部によっては、よりアグレッシブなケースを作っていることはあります。

なぜそういうところに落ち着いたかと言うと、100%達成できる水準にすると、結果は当然それを超えるので、そこで出てきた余剰の利益を、再配分、再投資するというPDCAを期中で回しているのです。

それが非常に良いサイクルで回っており、徐々に増加する成長を期中に作れています。

めちゃくちゃハイレベルな達成基準にしてしまうと、投資もするので、利益が厳しくなってきますよね。

それだと、トップラインを達成できなくなった時に利益確保が難しくなるので、結果的に余分な再投資ができなくなり、期中にやりたいことが出てきてもなかなか叶わなくなります。

そういう悪いサイクルに陥った年があったのです。

ですので、今は100%達成し、それを超えた分は本社が一度吸い上げて、戦略的に再投資を行うようにしています。

倉橋 それは、永見さんが100%達成できると思う予算なのか、事業部長が100%達成できると思う予算なのか、どちらですか?

それとも、そこにはギャップがないのでしょうか?

永見 まず、僕が100%達成できると思う予算です(笑)。

倉橋 ですよね(笑)。

その予算は、事業部長は100%達成できるとは思っていないですよね(笑)?

永見 ただ、資本市場からの期待値も含めて、100%達成しないとそもそも経営者として失格だという水準にしています。

倉橋 はい(笑)。

永見 それは、外部アナリストの評価やコンセンサスも見ながら決めている水準です。

倉橋 ストロングですねえ~(笑)。

ストロングスタイル、好きだわ~(笑)。

布川 ストロングすぎるので、事業部長が会場にいらっしゃったら…。

永見 いや、丈さんの方がもっとストロングなので(笑)。

平尾 いやいや、永見さんはストロングで良いですね。

じげんも、上場企業なので公表予算は外せません。

やはり90%くらいの打率を想定した予算を出しています。

現場の状況は、倉橋さんがおっしゃったように、50%くらいを中央値として上に行ったり下に行ったりを繰り返しています。

低いと暗くなるけれど、高いと浮ついてきます。

社員の皆さんが頑張ってくれて、結果的に達成に近づく結果になったという感じが理想ですね。

(続)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成

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