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3. 成長と利益の舵取り、ラクスルが「Quality Growth」を掲げる理由

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ICC KYOTO 2023のセッション「現場が奮い立つ、一流の事業計画(予算策定)とは?」、全5回の③は、グロースとプロフィットの関係について。両輪で成長していきたいところを、市況や事業の成長を鑑みて、いかに計画に落とし込み、説明するのか。ラクスル永見さんが「Quality Growth」について、じげん平尾さんは「Profitability」について解説します。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションのオフィシャルサポーターは ログラスです。


【開催情報】
2023年9月4〜7日開催
ICC KYOTO 2023
Session 4A 
現場が奮い立つ、一流の事業計画(予算策定)とは?
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「現場が奮い立つ、一流の事業計画(予算策定)とは?」の配信済み記事一覧


布川 SmartHRはトップライングロース(売上高の成長)に振り切っているということですが、予算上のリソース配分はどのように決定しているのでしょうか?

また、営業利益率とグロースレートをどうコントロールするかは、冬の時代と呼ばれているスタートアップ各社は、めちゃくちゃ気にしているだろうと思っています。

グロースとプロフィット、どちらに意識を向けているのでしょうか?

ラクスルが「Quality Growth」を掲げる理由

平尾 「Quality Growth(利益とキャッシュ・フローを伴った成長モード)」の永見さんの話から、ぜひ。

永見 絶えず変わっていくキャピタルマーケットの状況は、常にチェックしています。

2021年は、完全にグロースに寄っているマルチプルでした。

収益性と成長性との相関を証券会社に出してもらっていますが、2021年は国内テック企業でも、収益性との相関は全くなくて成長性にしか相関がありませんでした。

2022年には一旦、そもそも赤字の会社のマルチプルがかなり下がりましたが、今はrule of 40%の指標との相関が一番高くなっています。

自分もそれは何となく想定していたので、「Quality Growth」という分かりやすいネーミングをした方がいいだろうと、「現時点では成長率は20-30%を維持する、その上で利益も拡大することを重視」ということを、Quality Growthという言葉を使って社内外に伝えています。

このようにネーミングをすると、資本市場で、「きちんと利益を出してキャッシュフローを回しながら成長する会社である」と理解されるので、これはすごく良い点です。

その説明に時間がかかると、それだけでIR活動が大変になりますが、「Quality Growthの会社」と認識される時点で、キャッシュフローも気にしていると理解してもらえます。

社内においても、Quality Growthという言葉は結構使われており、「これ以上投資して資本効率が落ちると、Quality Growthにはならないですよね」というような会話が、結構なされるのです。

ですから、ネーミングをして良かったなと思っています。

成長を完全にギブアップすると死んでしまうので、20〜30%の成長を継続的に維持することと利益を拡大していくことに振り切っていますね。

布川 ありがとうございます。

永見 

我々は、外部にベンチマークを持っています。

リーマンショック時、Salesforceは成長率を落とし、キャッシュフローとマージンをめちゃくちゃ改善したのです。

その後、時代が成長投資を許容するタイミングになると、もう一度赤字状態に踏み込んでいます。

本質的に強い事業であれば継続的に成長するはずなので、一時的に収益性に振り切ったとしても事業自体は強いままだと思っています。

ですので、去年はこういうポリシーを出しました。

Quality Growthに振り切るタイミングは?

布川 凄まじく面白い話だと思いました。

今日は会場にスタートアップの方々がいらっしゃっていると思うので、目線を少しスタートアップに寄せると、Quality Growthに振り切るべきタイミングはいつなのでしょうか。

例えばSaaS事業の場合、ARRが1億円の時にQuality Growthというのはおかしいと思います。

永見さん、トップラインがどのくらいのレベルになると、Quality Growthの議論にシフトして良いのでしょうか?

永見 変に無理せず、40%の成長率が続いているのであれば、別に赤字でもいいのではないでしょうか。

これは資本市場データにおけるファクトですが、テック企業でも、40%の成長率が続いている上場企業はほとんどありません。

マネーフォワードは、40%を継続していて素晴らしいと思います。

成長率が40%、30%、20%とあると、10%ずつしか違わないと思うかもしれませんが、実はセンシティビティがめちゃくちゃ高いです。

例えば、成長率が継続的に30%を超えている間は収益性を一定ギブアップしてもいいと思います。

布川 ありがとうございます。

倉橋さん、SmartHRは資本市場との対話が増えているのではないかと思いますが、今のQuality Growthについて、何か考えていることはありますか?

倉橋 我々はもうかなりレイトステージになります。

Quality Growth(質の高い成長)のSmartHR版を語るとすると、まだ赤字状態ですので、黒字化を期待されています。

ですので、例えば「この年までに黒字を見せる」という約束をベースに、その約束を果たすため最大限の成長を維持するという感じですね。

ラクスルは、成長率20%超で利益を最大化としていますが、僕らは「この年までに黒字化」と利益をピン留めした上で、成長率を最大化するようにしています。

布川 ありがとうございます。

今の話は、「トップライングロースが40%で利益率がゼロでも、rule of 40%が守られている」ということだと思います。

では、使ってもいいコストの中でのリソース配分は、経営者としてどう見極めているのでしょうか?

平尾さん、18事業部と戦っている中での知見をぜひ、教えてください。

じげんは「Profitability」を打ち出す

平尾 永見さんのQuality Growthについてのパワーポイントがめちゃくちゃかっこよかったので、私たちは「Profitability」という言葉にしました。

倉橋 (笑)。

永見 良いじゃないですか!

平尾 ラクスルとは逆なんでしょうね。

じげんはフロー(売り切り型)の事業が多いですが、皆さんの場合はクライアントがストックされる(継続的に収入を得られる)事業が多いです。

私たちもクライアント側はストックですが、ユーザー側がフローなのです。

ですから、プロフィット起点のユニットエコノミクスを作った上でグロースが大事というバランスなのです。

ラクスルの「グロースの中での利益の話」と、じげんの「利益の中でのグロースの話」は前提が違うのかなと思います。

でも、Quality Growthという名前がかっこいいですよね。

永見 投資家と話す中で、理解されやすい言葉だなと思っています。

平尾 私たちは「Profitabilityって何?」と言われています。

永見 いやいや。

平尾 あと、面白かったのはSmartHRの人員コストの話です。

じげんでは、コストは広告費と人件費がメインです。

人件費は若干固定費化しますが、売上に連動するライン側は変動費化できているので自由度が高いです。

自由にしすぎたゆえに組織上の課題が出ることもあるのですが、経営者を育てるためにそうしています。

事業責任者達には、「成長するなら投資すればいいし、成長していないならその理由を聞いていく」と伝えていますね。

本当は、伸びる事業に人件費を使った方がいいのですが、縦のラインの事業部からは異動させたくないというインセンティブが働いています。

倉橋 確かに(笑)。

平尾 油断すると硬直化して大企業病になる構造なので、育成観点で優秀な人材は別の部署に異動させるようにしています。

基本的に各事業はボトムアップです。各事業はヒトモノカネのヒトモノを活用し、カネはM&Aをメインにトップダウンで使っていくという役割分担にして、任せていますね。

倉橋 逆に言えば、利益だけコミットしてもらって、リソースコントロールはあまりしていないということですか?

平尾 極論を言えばそうですね。

じげんは様々な事業に適合性が高い人材が多いですが、領域がバーティカルなものが多いので、リソースアロケーションをしても割と難しい場合もあります。

倉橋 なるほど。

スーパー人材はミッション面談後にトップダウンで配置

永見 明日も、組織に関するセッションで丈さんとご一緒するので、その時に聞こうと思っていたのですが…。

このマトリクスにおいて、人やエグゼクティブが取り合いになった際は丈さんが最終的に決めていると思いますが、どういう基準で意思決定をしているのでしょうか?

平尾 私には、事業の数が多いほど優秀な人を確保できるという仮説があったので、そういう会社が強いと考えていました。

コングロマリットは、資本市場では弱いかもしれないが、会社経営は強いと思っていました。

社員数1,000人弱の会社ですが、全事業を把握できるリーダーはなかなか出てこないです。

そのような人材はやはり取り合いになるので、私や役員達がミッション面談やキャリア面談をして、トップダウンで配置しています。

永見 本人の意思も聞きますか?

平尾 聞きます。

永見 なるほど。

平尾 意思を聞き、それを上回るようなキャリアパスを私たちが作るという感じです。

永見 それはめちゃくちゃ大事ですね。

撤退事業をどう判断するか

布川 予算策定時、事業の撤退タイミングを検討することもあるのではないでしょうか?

平尾 私はこれまで会社を経営していて大きな赤字を経験したことがありませんでしたが、コロナ禍によって、旅行事業などが赤字になってしまいました。

下方修正はしたものの撤退はしませんでした。

コロナ禍というマクロ環境があり、飛行機が飛ばない状態でしたので、ワーストケース、ワースケース、通常プラン、ベターケース、ベストケースと5段階のプランを作って、ワーストケースを3度下方修正しました。

最終的には個別議論をし、今はありがたいことに数十%のマーケットシェアを獲得しています。

同業他社もM&Aでご一緒することができたので、冬の時代は2、3年続きましたが、ほぼ元のベクトルに戻りました。

株式会社ティ・エス・ディの株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ 2022/12/07(じげん)

これは取締役会においても、どうするのかとかなり紛糾した議論になりました。

既存の経営指針を超える議論になっていたので、個別協議を相当重ねました。

永見 ちなみに、じげんの過去の歴史において、撤退は一度もないのでしょうか?

平尾 小さな事業や証券事業に参入しなかったなど、やり始める前にやめたというケースは結構あります。

永見 なるほど。

倉橋 事業として成り立ったものがダメになったことはない、ということですね。

平尾 そうですね、それが良いことかは分かりませんが。

倉橋 すごい。

平尾 撤退や損切りは大事ですが、経営としてきちんとした説明ができるのであれば事業継続して良い時もあるのではないかと私は思っています。

倉橋 ラクスルも、今までの事業では外していないですよね。

永見 ハコベルについては、事業自体は伸びているのですが、去年ジョイントベンチャー化してマイノリティになりました。

セイノーホールディングスとラクスルが、ハコベル事業をジョイントベンチャー【ハコベル株式会社】へ 2022.6.10(ラクスル)

ストラテジックパートナーに入ってもらった後、めちゃくちゃ伸びています。

先ほどの丈さんの図で言えば、成長率が30%前後で赤字という事業です。

この件は、取締役会レベルで、かなりディスカッションをしました。

最終的には事業の成長が一番重要なので、そのドライバーが何かをディスカッションした結果、ストラテジックパートナーとのアライアンスだろうという結論になり、結果的にマイノリティになりましたが、これを資本上の撤退と言うならば初めての撤退かもしれませんね。

M&A成功の秘訣は撤退の見極め

永見 これは余談ですが、先日おざーんさん(小澤 隆生さん ヤフー前社長)と食事をして、学びがめちゃくちゃありました。

ヤフーは、M&Aをたくさん行っていますよね。

M&Aの成功の秘訣を聞いたのですが、いくつかあるポイントのうちの一つが、撤退が上手いことだとおっしゃっていました。

きちんと見極めて撤退ができる、素直に失敗を認められる経営者は、大きな火傷をせずに大きな成功を後から得られるということで、孫(正義)さんはまさにそうだなと思います。

スタートアップを経営していると、撤退や売却はほとんど考えないと思いますが、先日のおざーんさんの話を伺って、それは本当に良いことなのだろうかと思いましたね。

平尾 じゃあ私は、撤退していないダメな経営者ですね(笑)。

永見 そのリソースを他に割けるということですよね。

平尾 リソース最大化という意味ではそうですね。

キャッシュを活かしてM&Aをして、それがまた違う形で成長事業を生み出すためのプロセスになるという二段階式で考えています。人材の流動性を高めづらいというのが今の悩みでもあるのでそれがうまくいくのであればもう少しチューニングしたいと思っています。

(続)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成

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