スタートアップ・カタパルトは、社会を映す鏡。起業家たちが「人生をかけた7分間」で産業の進化に挑む姿を見た【ICC KYOTO 2021レポート】 | 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION

スタートアップ・カタパルトは、社会を映す鏡。起業家たちが「人生をかけた7分間」で産業の進化に挑む姿を見た【ICC KYOTO 2021レポート】

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9月6日~9日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2021。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、ICC KYOTO 2021の全プログラムのなかでも最も人気の高いセッション「STARTUP CATAPULT スタートアップの登竜門」の模様、登壇を控えたチャレンジャーたちの登壇前後を追いました。15人のチャレンジャーが自らの事業、人生をかけて7分間のプレゼンに挑みます。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2022は、2022年2月14日〜2月17日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


今回、ICC KYOTO 2021のメイン会場は大きくレイアウトを変えた。従来ならばカタパルトの行われるA会場から、オープンなCo-Creationスペースも含むD会場まで、4つのセッション会場があったスペースを3つの会場と展示場とし、D会場は3階に移動した。

いつも満員御礼となるA会場は後ろの壁を取り払い、今回初開催となる「マルシェ」企画の展示会場と一体としたため、広々としたスペースとなった。とはいえ、初日の一番目で、参加者たちが最も期待するプログラム(選択率41.7%)であるため、その緊張感は変わらない。

後方のマルシェ展示会場とつながったカタパルト会場

「人生で何回あるかというチャンス」

早朝7時半が集合時間の登壇者たち。それよりも早く会場入りしたのは、Lansmartの眞壁 雅彦さんだ。自身が前職の上場企業で月間30名の業務委託で働く人たちを管理していた経験から、副業・フリーランスの人たちとの契約・請求書の管理の煩雑さを解決するクラウドサービスを立ち上げた。

「ステータスの変更だけでも頻繁な更新と管理で苦労しました。企業と外部スタッフの双方の導入により、最小限の入力での自動化や分散した情報を集約できて、従来の約1/4に業務が削減できます。

この日のために、2〜3カ月前から準備してきて、昨晩も寝る直前まで練習していました。人生で何回あるかというチャンスを活かしたいです!」

ドキュメンタリー映像取材に答える眞壁さん

段ボール箱いっぱいのおもちゃを小脇に抱えてやってきたのは、トラーナの志田 典道さん。早速運営スタッフたちと、どうやってこの箱を審査員に見てもらうかを相談している。

異色の登壇者、代表取締役僧侶が到着

雑然とした会場の中に、異彩を放つ二人組がやってきた。InTripの伊藤 東凌さんと金髪の同僚、松谷さんだ。伊藤さんは、両足院副住職だが、今日は禅とサウンドメディテーションアプリを提供するInTripの代表取締役僧侶として登壇する。

現在アプリはiPhoneのみの提供のため、Androidユーザーにもアプリをと伝えると、伊藤さんはすまなさそうな顔で「開発が遅れていて申し訳ありません」と言う。この姿からの言葉に驚きつつ、この前夜に退蔵院での坐禅体験の取材をしたばかりのため、アプリの禅ではどんな体験ができるのか尋ねてみた。

登壇準備中のInTrip伊藤さん

「実際の体験価値には勝てないと思いますが、それだけが禅ではありません。聴覚に集中して想像力を広げる、問いと向き合い思考力を深めるといったことは、アプリで実現可能です。毎日お寺に行くことはできませんし、電車の中でもできるようなもので、パーツとして生活に役立つものを落とし込みました」

そもそもどういった理由で、アプリを提供することになったのか聞くと、

「情報過多でマルチタスクに追われ、心を落ち着けられる所が現代では少なくなっています。加えてコロナで外出もできず、本来の感性を発揮できません。ですから、家の中でも感性や思考の枠を広げることが、今は昔よりもどんどん必要になっていると思うのです。

一番怖いのが、不機嫌になって、コミュニケーションが雑になり社会がどんどんよくない方向へ向かっていくこと。SNSなどもそうですよね。そこに今一度、禅は貢献できるのではないかと思うのです。

最初はビジネスマンの方々が受け入れやすいかなと思っていたのですが、主婦の方で、子育てですぐ怒っていたのが、禅で一旦踏みとどまって違う考え方に変えようと思った、という声をいただいたりして、それがとっても嬉しいですね」

と、微笑みながら癒やしのボイスで言う。人前で話をするのは慣れているが、こういったカンファレンスでのプレゼンは初めて。そして登壇にあたり気になることがあるという。

「話すのはハンドマイクでしょうか? プレゼン中に、チーンと音を鳴らしたいのですが」

本番では穏やかながらいそいそと、合図の音を鳴らした様子は、ぜひ動画でご覧いただきたい。

「プレゼンから、僕の人生を見てほしい」

シコメルの西原 直良さんは、食品工場一筋で20年やってきた。特に焼肉屋に特化していたというが、過重労働といわれる飲食業界のDXに立ち上がり、「食の仕込み」をセントラルキッチンとアプリで実現する。店側はミールキットを発注して袋を開けて温めるだけ、盛り付けるだけで料理が完成するため、営業時間前後の仕込みの手間や、フードロスも削減できる。

「レストランは朝から晩まで、完全に人力に頼った業界だったので、絶対にDXが必要だと思っていたのです。料理の仕込みはお弟子さんがしているものなので、標準化できるだろうと。それに下積みをしないとえらくなれないといっても、時代が変わっています。それをシコメルでサポートしたい」

提供されたレシピから試作をして、平均で3回ほどのやりとりで完成させるシコメルの仕込み料理は、お店の味を再現していると西原さんは胸を張る。すでにオリジナルの仕込み商品は800以上あるというが、緊急事態宣言の連続で、一番伸びているのはスピーディーな調理が求められるUberのデリバリーだそうだ。

ゆくゆくは、シコメルの仕込み料理を飲食店だけでなく個人にも公開して、レシピを提供したシェフやお店に収益が入る形を実現したいという。つまり東京にいながら京都の名店の味や、パリのミシュラン店の味が、自宅で楽しめる日が来るかもしれないということだ。それを夢ではなく、実現するという熱意を西原さんから感じる。

「そうするとシェフの収益が上がって、もっと休むことができて、もっといいレシピが生まれますよね。僕は工場の人間なのでプレゼンをしたこともないですし、営業もしたことはないのですが、今まで僕がやってきた人生を見てほしい、というつもりで話します」

チャレンジャーたちに登壇直前インタビュー

今の仕事が自分の本当にやりたいことなのかわからない、転職は決まっていないけれども信頼できる人に相談したい、という気持ちによりそうサービスを提供するのは、ポジウィルの金井 芽衣さん。あまり緊張しない方だというが、前夜はあまりよく眠れなかったという。

ポジウィル金井さん

「私は元々転職エージェントでした。でも転職しない限り、働く人がどこに、誰に相談すればいいのか、その場所がないなというのが立ち上げたきっかけです。これからの時代は、転職が理由だけではなく、個人が必要なときに、必要な情報をとれるようにしないといけないと思ったんです。

今まで相談相手は同世代の友だちや親兄弟だったりしましたが、どうしてもバイアスがかかってしまうので、あまり解決はしません。私たちは、アドバイスというより専用のフレームワークを使って、その人が本当にやりたいことを引き出して、整理して考えていくお手伝いをします」

金井さんの隣で、出番を待っているのはsacriの大谷 パブロ 具史さん。前職の社内ベンチャーで作った街の個人商店とのつながりから、パン屋の「作って客を待つだけ」客にとっては「行っても売り切れ」という、需給バランスの課題に気がつき、それを解決するアプリサービスを立ち上げた。

「焼き上がったタイミングでお知らせするので、お客様はほしいパンを取り置きできます。事前決済だから雨でも取りに来てくれます。今まで、パン屋は天候リスクも大きかったのです。

オンラインで買えるから、店のトレイに載り切らないほど買うこともできるし、夜中の3時に4,000円分のパンが売れるということも起こっています。事前に売れるものがわかれば、パン屋も増やして作ることができるし、お客様は買えないことがなくなります」

確かに雨の日にバリッと焼けたフランスパンを買いに行く気にはならないかもしれないが、注文する日がそうでなければ、注文するかもしれない。通知が来れば取り置きができ、行ってもほしかったパンが売り切れと落胆することもない。売上分析もきっと変わってくるだろう。今までの形はいかに機会損失しているかを思い知らされる。

今回も「マルシェ」で参加いただいている、パンフォーユーとタッグを組んだら、日本中の地域の個性あふれる美味しいパン屋さんは勢いづくのではと勝手に想像せずにはいられない。

「パンフォーユー」は、独自の冷凍技術で、拡大するパン市場と供給ギャップの課題に挑む(ICC FUKUOKA 2021)

ギリアの清水 亮さんとTENTIALの中西 裕太郎さんが隣り合わせに座っている。IVSに2011年に登壇してから、10年ぶりの登壇となった清水さんは、リハーサルでは一風変わった動画を画面に流していたが、どんなことをプレゼンするのだろうか?

清水さん「僕の昔と今の話をします。わからない? フフフ……だからいいんじゃないですか。10年前にプレゼンした、その続きをしますよ」

不敵に笑う清水さんだが、最終日に尾原 和啓さんとの登壇セッション「AIの最新ソリューションや技術トレンドを徹底解説」もある。「そんなに登壇者いないの?」と冗談めかして言ったが、実績も十分ある清水さんが、スタートアップの登壇者席にいること自体がちょっと変である!

清水 亮(東洋経済)

左からギリア清水さん、TENTIAL中西さん

TENTIAL中西 裕太郎さんは、ICC界隈に突然わき起こった空前のゴルフブームから、ほんの少しだけ?恩恵を受けている人である。足の裏と指にしっかり力が入るインソールをICC小林 雅が激賞したために、試してみようと購入する人が増えているそうだ。

TENTIALは元々アスリートや人体の構造のエビデンスに基づくスポーツ情報のメディアを運営していたそうで、効果もエビデンスも玉石混交のスポーツウェアやグッズがピンキリで並ぶEコマースの状況を変えようと、強いマーケティング力を武器にウェルネスブランドを展開している。

中西さん「人間の身体は20万年変わっていないので、本当にいいものをマーケティングでしっかり伝えていきます。健康に意識の高い方、自分の健康に投資する方をターゲットに商品展開をしています。アスリートの方から認めていただいているので、逆に変なものは作れません」

スタートアップ・カタパルトのリハーサルに来ていた方の中でも、最初から視点がグローバルだったのがestieの平井 瑛さんだ。落ち着いていて、リラックスしているくらいに見える。

平井さん「アメリカの不動産投資の仕事をしていて、東京でアメリカのデータが手に入るけれども、東京で東京のデータが手に入らないという体験をして、これではグローバルマネーが入ってこないわけだと思いました。それを解決しようと、日本のオフィス賃料のデータベースを構築しています。

たとえばアジアでAPACの本社をどこに構えるかとニューヨークで話題になったときに、シンガポール、香港、オーストラリアがわかっても、日本は賃料はおろか、東京でも丸の内、渋谷、六本木どこがいいのかすらわからない。いくらが適正なのかもわからなくて、候補にすら上がらないのです。

そして都市の競争力が落ちていくと、それが国の競争力に直結する。だから業界のDXを進めていって、経済を押し上げたい。テーマ的に全然キャッチーでないのが悩みなんですが(笑)」

プレゼンは最近はオンラインばかりだったそうで、リアルが久しぶりと意気込んでいる。

リハーサルを終えたカケコムの森川 照太さんは、オンラインによる法律相談サービスを提供している。それで思いつくのが、弁護士ドットコム法テラスといったオンラインやリアルの無料サービス。今どきはちょっとした質問ならば、ポータルサイトのQ&Aサービスで詳しい人が教えてくれたりもする。どこが違うのか?

森川さん「今まで無料相談というのは、受任の入り口という部分もあったのですが、なかなか受任
までつながりませんでした。そうなると回答のスピードや質も下がっていってしまい、弁護士の存在がより遠くなってしまうという悪循環がありました。

カケコムは10分の相談を2,000円で、事前決済するサービスを提供します。その日のうちに相談に乗ってもらえます。弁護士に相談するのは、今まで敷居が高いうえに都市に集中していて地域格差の問題もありました。コロナ禍でオンライン相談が出てきたので、一気に盛り上げていきたいと思っています」

法律トラブル市場は約4兆円のうち、約8割が法律家にたどり着けていないというから、ブルーオーシャンである。ちなみに今の所相談案件として多いのは、プライベートな問題が多いのだそうだ。

森川さんは、このプレゼンの準備の過程が今までで一番学びが大きかったと教えてくれた。ICC小林とのプレゼンのメンタリングで事業戦略にもブレイクスルーがあり、その成果をやりきりたいと、力強い言葉で締めくくった。

「この最高な緊張感は、人生でなかなか体験できない」(前回優勝フィッシュバイオテック右田さん)

心もとなく登壇を待つチャレンジャーたちの姿は、いつ見てもドキドキする。そこへ、前回の優勝者、フィッシュ・バイオテックの右田 孝宣さんがやってきた。おなじみのサバ色のジャンパーではなく、なんとパリッとしたスーツ、ネクタイ姿である。

右田さん「優勝して一番変わったのは……僕がスーツを着たっていうことですかね! 優勝賞品としてFABRIC TOKYOさんにいただいたもので、ユニホームも持ってきていますけれど、こういう立派なスーツを着られるようになりました(笑)。

事業はいろいろやってきた中で、前回のICCに出させてもらったことで、まず自分たちのやっている事業のストロングポイントをものすごくまとめることができたので、どういう会社で事業なのかというのを、多くの方に伝えるプレゼンテーションが上手になったと思います。

それによってICCで優勝させていただいて、いろんなお問い合わせもいただいて、いろんな方との接点も増えた中で、より自分たちのジネスをPRできるようになったので、スピードはすごく上がりました」

今回のチャレンジャーたちにエールをとお願いすると、すでに懐かしそうな表情でこう言った。

右田さん「前回の福岡で登壇したときは、多分今のこの時間、ぶつぶつぶつぶつ、『7分で終わらん』とか言いながらやっていました。この最高な緊張感は、なかなか人生で経験できないと思います。その中で自分たちをどうアピールしていくか、いいきっかけにもなるし、結果はどうあれすごく大きな自信にもなると思うので、楽しんでほしいと思います!」

「ギガコーンになるスタートアップの第一歩が見たい」

チャレンジャーたちの懇親のプレゼンを受けて立つ、審査員の声も聞いてみよう。グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの今野 穣さんは、どんな企業、事業に注目しているのだろうか?

グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 最高執行責任者 今野 穣さん

今野さん「一言で言うと、ギガコーン、時価総額一兆円に将来なりそうな会社の第一歩みたいなところですね。

何かの機能というよりも、この業界全体の一番にならなきゃギガコーンにならないから、産業のリーダーになりそうなところが僕は一番興味がある。たとえばヘルスケアといえばM3だよねみたいな、「○○と言えば」みたいな会社になりそうな市場の大きさと起業家の爆発力があるか?みたいな」

プレゼンから、そういう企業、起業家の特徴・資質は見て取れるものなのだろうか?

今野さん「正解かどうかわからないですが、感じとることはできると思います。と言うのは、今そうなっているような会社さんも当然こういうステージがあって、例えばビジョナルの南(壮一郎)さんが、創業期にどんな人だったかというのは、ある程度記憶しているところがあります。

足元に緻密な戦略があって大きなビジョンもある、そのどちらかだけではなくて両面を持っている人はやっぱり強いなぁって思いますよね。やっぱり大きくなる会社って、創業初期の仮説からあまり変わらないんです。要は最初から(仮説が)合ってるんですよ。

逆に言えば変わらないぐらい広いマーケットがあるということです。大きな機会があって、その幅の中で進めていくということはあんまり変わらなかったりするし、そういうスペースを見つけられた会社っていうのはすごく強い。

第一歩が狭くても例えばマーケットシェアが取れれば、次はこんな可能性がありそうだねっていうのが我々側が感じ取れれば、そこは今はイメージがなくても、起業家と僕らが一緒にやっていける部分はあるかなっていう気がしますね」

この2年で、スタートアップの業界に生じた変化で、今野さんはコメントを締めくくった。

今野さん「一昔前はこういうカタパルトに出るところって、シードステージとかプロダクトを出したばかりみたいな感じがありましたが、この1年、2年で業界は大きく変わって、そういうステージもブリッツスケーリングじゃないけど垂直に成長させようという気運、業界になってきました。

だから、ステージを一足飛びに超える可能性もあると思うんですよね。それだけの飛躍の一つの機会になる可能性があると思いますので、ぜひいい機会にしていただいて変曲点を作ってもらいたいです」

会場は後ろの方まで立ち見が出るほど

スタートアップ・カタパルト開幕!

ナビゲーターを務めるICC小林

withコロナでのリアルカンファレンスは、これで4回目になる。今年2月までは、参加者・スタッフ共々マスクとフェイスシールド両方を着用して開催していたが、今回は登壇者の近くで話しかけるスタッフや、着用希望者を除いては不織布マスクのみの着用というルールになった。

これは開催前に、参加する方々、スタッフ含めて開催2週間前のワクチン接種率が全体の約8割となったからである。過去3回の開催を通して、把握するかぎりではクラスターはなかったものの、今回のルール変更には、ワクチン接種が心理的にも大きな安心材料となった。

これは参加者の皆さんにお声がけをして、ICCでも1,000人規模での職域接種を行ったからだが、澤山 陽平さん率いるCoral Capitalではなんと2万人規模で、投資先のスタートアップ企業に職域接種をするという例にならったものである。ICC小林が澤山さんに敬意を表することから、スタートアップ・カタパルトは始まった。

【職域接種完了】ワクチンの職域接種@ICCパートナーズオフィスを実施しました

ここに集まる企業の多くは、かつてスタートアップだった。最初の時代は、昼夜なく健康も顧みずに働き、夜を徹して語り合っていたのに、今はそれができない社会になっている。そんな彼らにCoral Capitalはいち早く安心の糧を、少しでも全力を尽くせる環境を用意して成長を支援した。それはICCも深く共感するところで、リアルイベントとして開催し続ける理由でもある。

登壇者のプレゼンテーション

今回登壇したのは15名。個性も事業もそれぞれ異なるチャレンジャーたちが精一杯のプレゼンを繰り広げた。

それぞれのプレゼンは、ぜひ動画でご覧いただきたい。

投票と集計が進む間は、スタートアップ・カタパルトのスポンサーであるノバセルの田部 正樹さんによるプレゼン。ICCの参加者にはもはやおなじみとなった、運用型テレビCMのノバセルのサービスに加えて、BtoBの仕組みを変えるラクスル社の4つ目の新しいサービス「ジョーシス」を紹介した。

これは代表取締役の松本 恭攝さんが久々にゼロイチで立ち上げた事業で、オフィスのPCなどITデバイスを安く購入できるサービスだそうだ。 ラクスルはICCにご参加いただいてから3年で、2つの新規事業を発表、売上が30倍にまで成長しており、いまだ攻めの姿勢が続く。今回登壇した企業にとってロールモデルとして写ったに違いない。

審査員たちの感想は

入賞結果をご覧いただいてもわかるように、今回のカタパルトは同率入賞が2組いて、合計7組が入賞した。その集計作業の時間を使って、ICC小林が審査員からのコメントを聞いていく。地道に努力を続けてきた登壇者たちにとっては、ここで名前が上がると非常に励みになるそうだ。

まずは同時間帯の別セッションの登壇より、スタートアップ・カタパルトを希望してこの場にいる、マネーフォワード金坂さんから。

金坂さん「estieとエンペイ、sacriとWASDが気になりました。平井さんには素晴らしいニーズをとらえていらっしゃるので、前から出資させてほしいと言っています。エンペイの保育園の送迎の写真は、自分もまさにそうなので、すごく共感できます」

今野さん「審査員は4社選ぶことになっていて、毎回5社ぐらいから選ぶのですが、どこもよくて今回10社ぐらい候補があった。シリアルアントレプレナーも増えてきたので、スタートアップ業界として層が厚くなってきたのを嬉しく感じます」

ユーグレナ永田さん「全体的には、ちょっと昔に戻った印象。今までのスタートアップ・カタパルトの変遷としては、グロースしそうなものからテック系、ソーシャルグッド系という流れがあって、今回はみんなめっちゃ儲かりそうだなと思いました。

僕はテクノロジーとソーシャルグッド系を追い続けているので、シコメルさんとInTripに入れました。シコメルさんは、仕込む人の苦労や、フードロスという課題解決をどれだけソーシャルインパクトがあるかというところまで言ってくれたら、より素晴らしいサービスになるかと思います。

InTrip伊藤さんのプレゼンは、ゆったりとして人生で一番長い7分間に感じました。これ、悪い意味じゃないです! 逆の意味ですごさを感じました」

岡島さん「前回までBtoBのSaaSが多かったけど、今回はtoCが多いと思いました。月謝袋を止めたいというのは私も切実な悩みなので、エンペイさんにはとても共感します。代表取締役僧侶という役職名(InTrip)にも相当ビビッときました」

澤山さん「被ってしまいますね。まさかプレゼンの中で禅をやるとは。海外でも人気あるので、行けるのではと思いました。Lansmartもよかったです。自社でもメディアにも力を入れていて、僕が実際請求書を作っていたりするので、副業のSmartHRみたいになれば面白いなと思いました」

吉田さん「sacriさんがダントツに共感しました。パン屋さんがお客さんを待っている姿から、店舗にいない人が買うようになり、全国通販になっていく、そのストーリーがめちゃくちゃワクワクして、素晴らしいなと思いました。

結局ユーザーに思い入れがあれば一貫してサービスをやり続けるし、最終的にすごいことになる。シコメルさんも課題にすごく思い入れがあり、コロナでバックヤードが軽くなる飲食のあり方ってすごく重要だと思うので、気持ちが届きました」

ーー

既報の通り、優勝は「estie(エスティ)」、第2位は「トイサブ!」(トラーナ)、第3位「シコメル」(シコメルフードテック)と「enpay(エンペイ)」の同率、第5位「カウシェ」、第6位は「InTrip」と「FastLabel」の同率入賞となった。

【速報】“業界DX”で巨大市場が動く!商業用不動産データプラットフォーム運営の「estie(エスティ)」がスタートアップ・カタパルト優勝!(ICC KYOTO 2021)

今回も緊急事態宣言下での開催で、直前キャンセルが予測されたため15組の登壇となったが、結果的にキャンセル企業はゼロ。そのため残り時間がわずかとなり、優勝賞品の贈呈セレモニーは手短に行われた。終了後に、estie平井 瑛さんに改めて感想をうかがった。

「巨大な業界、産業として次に進化させていきたい」

平井さん「朝はすごく緊張していたんですけれども、終えた今は、びっくりしてまだ気分がすごくふわふわしています。

ICCの小林さんにピッチの練習に付き合っていただいて、何カ月も前からブラッシュアップをしてきて、昨日まで本当に悩んだりしていたんですけれども、今日はかなり気持ちよく伝えられてすごく良かったです。

僕らがやっている不動産業界は伝統もありますし巨大な産業で、そこを業界の人たちと一緒に、産業として次に進化させていくというところは、まさにICCのコンセプトと同じ、共通する部分かなと思っています。

それが今日の優勝を通じて業界にも通じればいいですし、不動産業界と少し距離の遠い、このスタートアップの業界の中でも、そういうふうに重い産業を前に進めていくのだっていうところで一緒に皆さんとやっていけたらいいなと思っています」

ブラックボックス化していた情報をテクノロジーで見える化して、大きなお金が動く市場に出るという力強いプレゼンの最中から、優勝の匂いがプンプンしていた。都市の競争力を上げることは国益につながるという訴えは、政治家のどんな言葉よりも今、信じられるものだったのではないだろうか。

「自分がやらないと誰もやらないから、やる」

優勝があれば、2位もある。この日の午後に、会場のホワイエのソファにおもちゃの箱を抱えているトラーナの志田さんを見かけた。カタパルト中に、審査員席に回覧していた箱である。

プレゼン中に回覧されたおもちゃの入った箱

「この箱のシールで、お子さんは認知しているみたいです。2カ月に1度、楽しいのが届いた!とテンションMAXになるみたいな。大人だってECで届くと楽しいじゃないですか。お子さんにとっても同じ体験です」

志田さんはピッチコンテストでは優勝することが多かったそうで、2位という結果に少し落胆しているように見える。社員に結果を伝えると「いいじゃん!」と言われたそうだが、プレゼンの自己採点は80点。もう少しこのサービスについて話したらよかったかな、と振り返っている。

「(優勝した)estieの平井さんは、今朝、たまたまに向かいの席に座っていて、頑張りましょうという話をしました。追いかけているマーケットが本当にすばらしいし、頑張ってほしいなと思います。だから気分的にはすっきりと終われました」

初参加のICCサミットは、想像以上に緊張感が高かったという。普段はフルタイムの社員がリモートのため、おもちゃのメンテナンスを行うパートタイム女性9割という環境で働いているそうで、男性が多い環境に戸惑っている様子だ。「日本の構造的な課題なのかな」とポツリと言った。

登壇前の映像インタビューに答える志田さん

カタパルト登壇後は、リーダーシップをテーマにしたセッションや、伊藤羊一さんのワークショップ(Zアカデミア 研修体験プログラム「Lead the self」)に参加。現在の組織や事業に活かせるものをと選んだという。

「今まで、根本的な何かを、テコで変えていくというのが好きなんです。伊藤羊一さんのワークショップで自分の人生を振り返ってみたのですが、根源的な体験に家族があり、それと今やっていることがつながっていると認識できました。私がやらないと、誰もやらないんだなという想いで、事業をやっていこうと思います」

月額制おもちゃのサブスクサービスを展開するトラーナだが、子どもがおもちゃを使う時間は短く、その時期が過ぎれば忘れてしまうような課題でもある。気づいた人が変えない限りは、永遠に「買って捨てる」が繰り返されるが、それが変われば、ものを大切に使う心を持った子どもたちが育っていく。

大きくなる会社は創業初期の仮説からあまり変わらないと、グロービスの今野さんが言っていたと伝えると、「そうだといいんですけど」と志田さんは笑い、

「私と同じような想いを持っている人間をどう増やせるか、という話だと思うんですよね」

と真剣な顔で言った。産業を変えたい、もっといい世の中を作りたい、これでいいわけがない、その強い想いは、起業家たちを動かして社会を動かす。今回の順位に関係なく、事業の正当性を心から信じて磨き、未来への執着がある人たちが、未来のルールを作っていく。

◆  ◆  ◆

半年前のスタートアップ・カタパルトで、ユーグレナの永田さんが言っていた「カタパルトの登壇企業を見て因数分解したら、次に来るキーワードが分かる」というのを念頭に置いて、今回のカタパルトを見たところ、まったく永田さんと同じ印象を持った。

前回までは、明らかにソーシャルインパクトや目的が社会性に根ざした企業、このような世界を実現したいと未来を描く企業が多かったが、今回は永田さんのコメントにもあったように「少し前のトレンドに戻った」のだ。つまり、事業として着実に大きくなりそうな企業が多く登壇した。

これは、現在の社会をそのまま反映しているものだろう。どの企業もこの1年で起業したわけではないが、手堅く成長するポテンシャルを秘めた企業が改めて浮上してきたという印象だ。

開始前にICC小林と談笑するユーグレナ永田さん(写真中央)

コロナの2年間で、ワクチンや治療薬といった希望が見え隠れしながらも経済が停滞するなかで、反撃に出るような、力強い成長で”化ける”可能性のある企業に希望を託したい。そんな社会の声に応えるような、確かな実力を持つ企業がスタートアップ・カタパルトには数多く登壇した。時代に求められることも、企業の成長には大きく影響する。

その一方で、今回のICCサミットで印象的だったのは、前回優勝者であるフィッシュ・バイオテックの右田さんも登壇したソーシャルグッド・カタパルトである。前々回あたりから他のカタパルトでも顕著になってきた、ダイバーシティとインクルージョン、人間らしさや持続可能な社会の実現を推進する事業者たちが集結したこのカタパルトは、この2日後に同じ会場で悲痛な叫びを上げた。

乱暴にいってしまえば「コロナだから、儲からないからといって、後回しにしないでくれ、絶対に社会に必要だ」という叫びである。世の中に少しずつSDGsの流れが生まれてきた今、長年やってきた自分たちが次の時代を作るのだという熱い想いは、もはやスタートアップ・カタパルトと並ぶほど強くなっており、どちらが凄いというのではなく、どちらも必要で、共存する未来を確信させた。

競争という形をとった、未来を作る事業が共存する場。カタパルトは今回、SaaS、グランプリ、リアルテック、クラフテッド、ソーシャルグッドに、このスタートアップという6つのカテゴリーで開催されたが、回を重ねても驚くほど素晴らしい事業者がまだまだ日本中にいる。

このスタートアップ・カタパルトは、特に勢いがあり、新しいアイデアにあふれたカタパルトで、社会を映すような側面を持つ。次回はどんな企業が登場するのか、ぜひご注目いただきたい。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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