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3. 研究が進む生物学的年齢の巻き戻しと、人生100年時代に考える「老い」の価値

ICC FUKUOKA 2024のセッション「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン11)」、全5回の③は、リバネス井上 浄さんが登場。生物学的年齢と、老いを巻き戻せる可能性について、最前線の研究を紹介します。アンチエイジングスタートアップがホットな領域となりつつある今、注目のトピックをぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。


【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 2F 
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン11)
Supported by エッグフォワード

(スピーカー)

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

井上 浄
リバネス
代表取締役社長CCO

中村 直史
五島列島なかむらただし社
代表 / クリエーティブディレクター

福田 真嗣
メタジェン
代表取締役社長CEO

(モデレーター)

村上 臣

「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン11)」の配信済み記事一覧


村上 (石川)善樹さんの話を受けて、もう少し科学的に老いを理解してみようかと、(井上)浄さんにマイクを渡してみます。

井上 はい。

老いに科学的にアプローチする免疫学者、井上 浄さん

井上 このリンパ組織論を覚えている方、いらっしゃいますかね(笑)?

振り返りをしていたら、4年も経つのかと少しびっくりしました。

村上 検索すると、記事が出てくると思います。

▶️10. 人間を理解するためのリンパ組織的考察〜僕らの境目〜

井上 とんでもない発見をしてしまったのです、僕らの境目というタイトルで発表したのですが…。

村上 論文を公開する前に、ICCサミットで発表してしまったのですよね(笑)?

井上 そうそう。僕は免疫学者ですが、この写真の左にリンパ節があります。

皆さんも、リンパが腫れることがありますよね。

その一部を切り取って切片を作って染めてみると、緑や赤にきれいに染まりますが、これはT細胞やB細胞がいるところなのです。

緑と赤の境目がはっきりしていたと思います。

境目がはっきりしていると、強い免疫反応が起こるのです。

免疫システムが最も活発なのは10代後半の若い頃だと言われているくらい、免疫細胞が生まれる器官はどんどん退化します。

境目があることが重要なのは、研究していると分かります。

この写真の左と右の違いが分かりますか?

左はすごくはっきりと緑と赤が分かれていますが、右は少し混ざっていて、境界が曖昧になっているのです。

これは、若いネズミと年をとったネズミです。

右の状態になると、免疫反応がいわゆる教科書に書かれている正常な反応ではない反応が主になるのです。

結論から言うと、境目が曖昧になると不具合が起こるというのが、この時に発表した内容です。

村上 そうですね。

井上 このセッションの時、僕は「皆さんの組織は大丈夫ですか」と聞きました。

「強い反応が起こるようにしっかりと境目を作って、外に出る時は目的を持って何か物事を動かすために出ていますか? ふらっと、コワーキングスペースなどに行っていないですよね?」と提唱していたと思います。

村上 そうですよね。

そのバックグラウンドとしては、当時オープンイノベーションブームみたいなものがあり、組織を作って何でもかんでもオープンイノベーションにするみたいなノリがあったのです。

その空気に警鐘を鳴らしたのが、浄さんのこちらの…。

井上 そうなんです、これがリンパ組織論です。

皆さんには今日覚えて帰っていただきたいのですが、やたらめったら境目が出れば良いわけじゃない、と。

僕は論文を発表していませんが、免疫学的には、ただただ外に行っているだけだと組織が老化しているということをICCサミットの場で紹介させていただきました。

これには続きがあり、免疫老化という言葉も、実はずいぶん前から登場しています。

年をとると増えてくる細胞があり、それを見ると、免疫反応が起こせるようになる年齢が分かりそうです。

色々データを検証すると、線が引けるので、物差しができそうだと考えていました。

一方で世界的な流れを見ると、老いとは何かという今回のテーマにおいては、生物学的年齢をしっかり理解する必要があります。

これが、老いに対して僕が投げたいトピックです。

老化を正しく知れば、生物学的年齢を巻き戻せる

井上 老いというテーマは、とてもタイムリーです。

生物学的年齢という言葉を聞いたことがある方はいらっしゃいますか?(挙手を促す)

あ、何人かいらっしゃいますね。

例えば隣にいる人と同じ年齢であっても、自分の体が若いか若くないのかが分かるようになるという論文が今、量産されています。

どうやってそれを見るか。

このテーマがタイムリーだと先ほど言ったのは、リバネスはepiclockというプロジェクトを、Rhelixaという会社と立ち上げたからです。

▶参考:日本人に最適化されたエピジェネティック・クロック生物学的年齢測定検査を共同開発、日本で初めて市場導入へ | 株式会社Rhelixaのプレスリリース(PR TIMES)

ゲノムは一生変わらないと言われています。

ゲノムからタンパク質が作られる際、メッセンジャーRNAというものができますが、その手前で、転写というプロセスがあります。

どんな遺伝子設計図をもとにどんなタンパク質を作るかは、いくつかのマーカーがついていて、外的要因によって遺伝子からタンパク質を作るか作らないかを決めるのです。

この学問領域を「エビジェネティクス」といいます。

これは、後天的に変化が起きます。

加齢と共にそれが変化していくことが、論文として発表されています。

エピジェネティックな変化の度合いを見ると生物学的年齢が分かるようになるのではないか、ということが分かってきたので、それを検査する会社が海外では立ち上がっています。

日本のベンチャーでは、このRhelixaという会社が牽引しています。時間という概念を超えるエピジェネティック・クロックのすごいところは、書いてある通り、老化を正しく知ることができれば生物学的年齢を巻き戻せるということです。

これは人類の、非常に大きな発見です。

先ほど老化を止めたいという話が上がっていましたが、フレームワークとしてしなければいけないのは、生物学的年齢を知ること、科学的根拠に基づく計画を立てること、それによって行動を変えること、そしてその行動が結果に表れるよう可視化することです。

こういうフレームワークをこれから世界的に動かしていこうということで、ヘルスケア分野において老化はとても注目されています。

なぜなら、生物学的年齢を巻き戻せそうだからです。

加齢に伴って疾患が出てくるのは皆さんご存知だと思いますが、代表的な例がこちらです。

アルツハイマーやがんもそうですが、高脂血症、血管系、心臓系の病気の罹患率は大きく上がります。

これは事実です。

ファクトとして、こうなります。

おそらくここにいる方々も、こうなります。

これを予防したり回避したりできないかについて、生物学的年齢と老いの関係から探っています。

厚生労働省が「老化」を「病気」に改訂

井上 世界的な動きがあります。

病気の種類である国際疾患分類を、厚生労働省が30年ぶりに改訂しました。

国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が公表されました(厚生労働省)

30年ぶりですよ。

何が起きたかというと、新しい病気のコードとしてつい最近、加齢関連というコードが新設されたのです。

村上 ほら、タイムリーでしょ。

井上 タイムリー!

村上 知ってた(笑)。

井上 なぜこうなったかというと、エビデンスが積み上がったからです。

生物学的年齢をしっかりと理解していかなければいけない、ということです。

そこで、老化科学です。

GeroScienceです。

日本の抗加齢医学会も…。

石川 Gerontology(老年学)ですね。

井上 Gerontologyです。

なぜ疾患分類されたかというと、病であるからです。

つまり、これまで確実に起きる不可逆的な加齢と認識されていた現象は、実は予防できる、巻き戻せるという概念が出てきて、パラダイムシフトが起こっているのです。

常識が覆ったと言ってもいいかもしれない、という現状です。

石川 年を重ねることが病気になってしまったということですね。

井上 そうなんです。

石川 ということは、誕生日を祝おうなんて、狂気の沙汰であると(笑)。

井上 そうです。

石川 何やってんだと(笑)。

村上 病気を祝ってますからね(笑)。

井上 待って、待って、老化の価値はどこに行っちゃった?

村上 経験が積み重なることと、生物学的年齢は別であると。

井上 120歳に見えるなんて言ったらもう、疾患の塊ということになりますね。

村上 まさに去年、日本でもこの領域に飛び込もうと高橋祥子さんなどが…。

▶️不老長寿テックスタートアップを設立しました(高橋祥子note)

井上 そうそう、まさに。

村上 その少し前に欧米でもアンチエイジングスタートアップが立ち上がったので、ホットな領域になってきたと思っていましたし、僕も個人的に興味を持っていました。

ですから今回、老いというタイムリーなテーマを設定したわけです。

生物学的年齢を正確に知り、老いを祝う文化を創る

井上 研究と医療の世界においては、老いに関して、フワッと何かしようよということではなく、エビデンスベースで予防できたり治せたりするのではないかと考えられているのが現状です。

ここから100歳まで生きるには、皆さん、このGeroScienceが重要です。

行動して若返ったことをデータで示すことができれば、老いの世界はさらに発展するのではないかと思います。

タイムリーなトピックとして、我々リバネスはRhelixaと一緒に、「エピクロック共創プロジェクト」というものを立ち上げようとしています。

▶参考:リバネスとレリクサ、日本初の「エピクロック®︎共創プロジェクト」を開始 ー 科学的に生物学的年齢を測定し、老いを恐れない社会の実現を目指す ー <3/8-9超異分野学会2024東京・関東大会で発表> リバネス (lne.st)

多分、これはまだ話してはいけないのでしょうけど…。

(一同笑)

村上 またそれ(笑)?

井上 また入れちゃってるんですよね(笑)、次行きましょう!

まあ、そういうプロジェクトを立ち上げるので、もし興味のある方がいれば、一緒にできることがあるのではと思っています。

自分たちの生物学的年齢を正確に知り、それによって老いを祝うような文化を創っていくという両輪が必要だと思っています。

石川 海軍体操が良いとかね(笑)。

村上 エビデンスとして出てくるかもしれないですね。

石川 かもしれないですね。

井上 それには、朝4時に起きて海軍体操をするグループを100人くらい集めて比較しないといけません。

僕は、海軍体操をしないコントロールグループに入ることになりそうです(笑)。

中村 この考え方を、長寿村の人たちはどう思うのでしょうか?

つまり、 長寿村の人たちは、老化すること自体にも価値を認めているのか、元気で長生きすることに価値を認めているのか…。

石川 それは、目尻のシワをどう考えるかと同じです。

良いものと捉えるのか、良くないものと捉えるのか。

若いということに価値が置かれすぎてしまう社会では、年寄りはますます生きづらくなります。

中村 うんうん。

石川 さらに老化を巻き戻せるとなると、年をとっているように見える人は生きづらいですよね。

村上 外見と内臓の生物学的な部分は、また別かなと思います。

井上 文化形成としては、シワを取るのではなくシワを入れにいく…。

村上 かっこいいシワを入れにいくということですよね。

井上 そうそう。

福田 その捉え方とは、何に左右されて変わるのでしょうか?

若いということに価値があると捉えるか、年をとっていることに価値があると捉えるか。

石川 自分の身の回りでどういう人がもてはやされているか、ということだと思います。

先ほど話した長寿村は、都市部から隔離されているので、たまには都市部に買い物に行かなくてはなりません。

山岳地帯から都市部に買い物に行く際、代表者は必ず長老です。

井上 へー。

石川 長老が買いに行って、戦利品を持ち帰ってくるので…。

井上 かっけー!

石川 かっけー!ってなるのです(笑)。

(一同笑)

井上 長老になりてー!

福田 なるほど。

井上 ヒーローですね。

石川 例えば、80歳にならないと飲めない日本酒があるとか、年を重ねることに価値があるという社会の仕組みを作った方が、みんなが生きやすいです。

福田 肉体的に若いから山岳地帯から下りて上がってくるのではなく、年をとって色んなことを知っているから良いものを持って帰れるということで、そこに価値があるのですね。

石川 そうそう。

村上 超かっこいい自動運転車なんて、良いかもしれないですね。

70歳にならないと乗れないとか、免許返上した人しか買えないとか(笑)。

井上 確かに(笑)。金ではないと。

中村 最近、日本はすごくそうなっていると思うのですが…社会全体でパフォーマンスオリエンテッド、つまりビジネスでパフォーマンスを出すことが価値として重んじられていると、”老害”がクローズアップされてしまうと思います。

社会が、ビジネスパフォーマンスを重んじるのか、それとも人生を生きることに価値を置いているのかという、文化の違いも関係していそうですね。

井上 ということで、これを学会(超異分野学会2024 東京・関東大会)で来月、大々的に発表します。(2024年3月8日・9日に開催済み)

「ライフテック」という新しい領域を立ち上げ

井上 そして僕はもうひとつ、すごいものを立ち上げようと思っています。

ベンチャーを支援しながら科学技術の集合体で世の中の課題を解決する、TECH PLANTERという取り組みをずっと行っていて、11年になります。

生きることや老化に関するテクノロジーは散在してしまっていて、領域自体がないのです。

ありそうでなかった、生まれてから死ぬまでの人の生命、生活、人生を豊かにしていくテクノロジーが集まる場を作りたいと思って、「ライフテック」という領域を新たに立ち上げました。

もし、我こそはという方がいらっしゃれば、「生きる」を豊かにしていくテクノロジーを組み合わせて、一緒に面白いプロジェクトを作りませんか?

特に、GeroScienceに一緒に取り組みたいと思っています。

具体的には…ほら、右下に知っている人がいますね?

村上 おっ。

福田 はい、参加します。

井上 ライフテックという領域はありそうでなかったので、そもそも何をするのか分からないという声をたくさん頂きました。

(一同笑)

そこで、ライフテックに取り組んでいると思われる方々とオンラインセミナーを行います。

エピクロックを作るRhelixaの仲木(竜)さんも第2回のセミナーに登壇してくれますので、もしよかったら聞いていただきたいです。

老いについても、この場で話したことをリファレンスにして話してみようと思っています。

村上 ありがとうございます。

では、いつもの決めのスライドを…。

井上 はい、何はともあれ…「さぁ研究だ!!」ということで、まだまだ研究を続けていきますので、よろしくお願いします。

以上です。

村上 浄さん、ありがとうございます。

長寿村では年をとることにこそ価値があるという、長寿に関する文化的な背景を共有いただきました。

長老が買い出しで戦利品を持って帰ってきたら、それはもうヒーローだと。

そして、最近の研究では老いは疾患の1つであるという投げかけがなされており、それがある程度コントロールできるようになる日が実は近いということでした。

実際、数年前から欧米ではアンチエイジングスタートアップが立ち上がっており、日本でもその動きが出てきています。

また、ジーンクエストの高橋祥子さんも今年その領域に関する発表をしましたし、これからどんどん盛り上がっていくのかなと思います。

ただ、やはり若い方が、シワがない方が良いという文化は根強いです。

パフォーマンス重視だと人生のピークが20代や30代になってしまいますが、先の見えない世の中では、経験や学びがあるからこそできる、質の高い意思決定は経営においてすごく重要だと思います。

このバランスをどうとるかについて、引き続き議論ができればと考えています。

では研究発表に続き、腸内細菌原理主義者の福田さんから…。

(続)

編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美

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