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5. 日本でスタートした「街のWell-beingの指標化」

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ICC KYOTO 2022のセッション「Well-being産業の今後」、全6回の⑤は、良いヘルスケアサービスとは何かを問い、病気になった後の健康づくりを支援する「PREVENT」の萩原 悠太さんの話からスタート。加えて現在本格化している世界・日本でのWell-beingの研究や取り組みについての話題も語り合います。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2023は、2023年2月13日〜2月16日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2022 プレミアム・スポンサーの住友生命保険にサポート頂きました。

「Well-being産業の今後」の配信済み記事一覧


萩原 改めまして、PREVENT代表の萩原と申します。

今日は、このようなご高名な方々に挟まれながら(笑)お話ができる、貴重な機会を頂きました。

藤本 圧が強いですよね(笑)。

萩原 私はWell-beingの専門家でもなんでもないので、会場の皆さんの代表になったつもりで、お二方に話を聞きたいと思っています。

私は、ヘルスケア領域でサービスを提供しているスタートアップという立場にいますので、Well-beingをどう捉えているのかという、限局的な話をしていければと思います。

病気になった後の健康づくりを支援するPREVENT

萩原 今、スライドのタイトルにある「一病息災」が、うちの会社のテーマになっています。

我々はヘルスケア企業ですが、変わっているのが、病気になった後の方の健康づくり支援をしている点です。

私たちはもともと、名古屋大学医学部から立ち上がった、大学発のスタートアップです。

脳卒中や心筋梗塞になった後の方の健康づくり支援をすることによって、再発予防やより良い人生を作ることができないかと考えていました。

つまり、無病息災、病気をせずに長生きすることは勿論大事ですが、病気になってしまったらゲームオーバーかと言うとそうではないです。

病気になった方も、病気とうまく付き合っていくことで、健康に生きていく社会の実現ができないかと考えている会社です。

先ほどのWell-beingの話を踏襲すると、病気になった後でも、人生において、選択肢を持って豊かに暮らしていけるように支援をしていくことができないかと考えている会社です。

私はもともと、理学療法士というリハビリテーションを行う専門職をしていました。

私の専門領域は心臓リハビリです。

もともと病院で働いたり研究をしたりしていた人間で、そこから派生したのが今のサービスです。

左から、健康な方がメタボになって、生活習慣病を発症して、どんどん病気が進行していきます。

左にいる、健康な方や健康への関心が高い方をもっと健康にするサービスは結構たくさんありますが、一度病気になった後の方をより健康にしていくサービスはまだまだ少ないのが現状です。

スライドを見ると、それは医療の領域でしょう?と思うかもしれませんが、医療は基本的には、病気になって人生を満足に送れない方のマイナス部分をゼロにするところまではカバーします。

しかし、病気の人が健康の貯金を作っていく、つまりゼロをプラスにしていくところは、医療保険は適用されないのです。

ですから、ここを支援しようと進めているのが我々です。

企業の健康保険組合や生命保険会社、自治体と一緒に、生活習慣病を抱える方に、遠隔で健康づくり支援を提供し、彼らが健康になって、喜んでくれるというところからマネタイズしている会社です。

こちらは、運動や食事、健康づくり支援に医療専門職の方と一緒に取り組んでいくサービス(Mystar)です。

簡単に我々の事業を紹介させていただきました。

良いヘルスケアサービスとは何か?

萩原 今日のテーマに絡めると、我々がよく考えているのは「良いヘルスケアサービスとは何か?」ということです。

我々はここに、Well-beingをどう考えているかという問いがあると思っています。

先ほど石川さんも「良いとは何か」という話をしていましたし、最高ではなく最適というポイント(前Part参照)もありました。

ヘルスケアという市場は、取り組んで悪いことはありません。

皆さんが健康になるためなので社会的意義もありますし、キラキラしているので色々なプレイヤーが参入してくる中で、良いヘルスケアサービスとは何かが分からないのです。

ですから、玉石混交になっているのです。

そこで、一つの考え方として、マイケル・E・ポーターという有名な経済学者が2010年に『The New England Journal of Medicine』に寄稿した、「Value-Based」というものがあります。

Michael E. Porter: What Is Value in Health Care?  N Engl J Med 363: 2477-2481, 2010.(The New England Journal of Medicine

ヘルスケアにおける価値について、1つの公式を出しました。

医療の世界においてこれが引用されていくのですが、この考え方を使って、ヘルスケアや医療サービスを比較できるのではないかと提言されたのです。

分母にコスト、分子にアウトカムという式です。

ただ、上にあるアウトカムが曲者です。

これまでは、アウトカムの測定はバラバラでした。

何が良いのかというのは人によってバラバラで、目指す方向性の測定が非常に難しく、適切な指標がない、ステークホルダーが多いという市場だったので、なかなか価値が定まらなかったのです。

先ほど、Well-beingは北極星になるかもしれないという話(Part.2参照)が出ました。

Well-beingは定量的に測るものではなく、バラエティや色や深みを探っていくという話もしましたが(Part.3、4参照)、それ自体が価値として、ヘルスケアという限局的なサービスにおいて、一つの方向性を示すのではないかと私自身は感じています。

ですから、この公式で考えることで、これまでの「良いヘルスケアサービスとは何か?」論争に対して、Well-beingというものが一つの示唆になるのではないかと現場では考えています。

Well-beingの本格研究が始まる

藤本 面白いですね。

アウトカムを測るにあたって、誰にとってのWell-beingかが、結構難しそうな気がしています。

個人なのか、医療関係者なのか…あるいは、パレートの20/80の法則に基づくと、医療費の削減のためには、医療費の80%を使っている上位20%の健康ではない人を状態改善するほうがいい。

でも個人を見ると、健康ではない人の中には、改善したいと思っていない人もいますよね。

好きに食べて飲んで、多少はいいんだ、気にしない、みたいな。

誰にとってのWell-beingかが難しいと思うのですが、いかがでしょうか。

萩原 スタートアップとしての考え方をすると、一度に全員を助けるのは難しいので、やはり、誰に届けるかを明確に定義する必要があると思います。

それぞれに、Well-beingの幅もありますし。

我々が助けられるものもあれば、住友生命のVitalityのサービスで助けられるものもありますから、全部を1つで賄うのは難しいと思います。

石川 これについては、指標ができてくるだろうと思っています。

個人名を挙げると、ハーバード大学にタイラー(Tyler VanderWeele)先生という方がいます。

僕らの公益財団も、彼に助成しています。

彼が今、アウトカムのWell-beingの指標を定量化してくれています。

統計学の専門家ですが、敬虔なクリスチャンということもあり、Well-beingに興味を持ち始めたようです。

今まで、心臓病と同じくらいの真剣さでWell-beingが研究されたことはありません。

20世紀に最も研究された病気が心臓病で、100以上の要因が見つかりました。

それと同じくらいの真剣さ、厳格さを持って、きちんとWell-beingを研究しようと始めたのが、タイラー先生です。

世界で初めて、Well-beingの因果関係を明確に解明する国際研究を、タイラー先生がちょうど始めたところなのです。

だからこれは、もう少しすれば、こういうものではないかという標準形が出てくると思います。

藤本 個人のWell-beingは三次元、四次元で考えないといけないから数値化はできないけれど、集団のWell-beingは数値化できるということですか?

石川 個人の話です。個人のWell-beingを5つの分野に分けて、表現しようとしています。

藤本 色ではなく、その指標で表せるようになるということですか?

石川 まあ、それを色に変換してもいいですけどね。直感的に分かりやすいですものね。

藤本 そうですね、なるほど。丸さん、いかがでしょう?

 すごい会社があるんだなあと思いました。

ベンチャー起業家を見るような感じで、すごく良いポジションだな、なるほどと思って聞いていました。

石川 社会のレベルでWell-beingを定義しているのは、OECDです。

OECDが、11分野の「Better Life Index」というもので、社会のWell-beingを定量化しています。

それを個人レベルにしているのが、タイラー先生たちです。

藤本 (Better Life Indexは)個人や組織ではなく、社会のWell-beingですね。

日本でスタートした街のWell-beingの指標化

石川 日本でも、デジタル田園都市国家構想というものがちょうどスタートし、街のWell-beingを指標化しているので、これから公開されていくと思います。

デジタル田園都市における地域幸福度指標(Well-Being指標)に関するアンケート/先行調査の結果を公開しました(デジタル庁)

藤本 「Liveable Well-Being City指標」ですね。

石川 まさに、南雲さんたちが取り組んでいる、それです。

南雲岳彦さんが参与に就任「スマートシティは市民の暮らしやすいまちづくり」(鎌倉市)

藤本 社会のWell-beingを考える時、社会のWell-beingは基本的には2種類あるような気がします。

松岡 正剛先生(日本の実業家、編集者、著述家)が、「稼ぎと務め」と言っています。

昔の日本人にとって、仕事には「稼ぎと務め」の2種類があったということで、外に行って金を稼ぐのが「稼ぎ」で、村に戻ってきて、村落共同体で、屋根の修理をしたり祭りの準備をしたりするのが「務め」です。

これら両方ができて一人前、という考え方でした。

ところが現代の日本人は、「おつとめはどこですか?」と聞かれると、「住友生命です」など、稼ぎの場所を答えます。

それは単にお金を儲けるところであり、現代の日本人にとっては「務め」の場所はないから、半人前だという論を展開されていました。

「新しい公共」オープンフォーラム 議事録(内閣府)

社会や組織のWell-beingを考える時、Well-being経営などと言われながらも、コミュニティや地域などのWell-beingはあまりスコープに入っていません。

Well-being産業として、会社のWell-being以外にも、社会や地域のWell-being、コミュニティでのWell-being度合いをどう上げていくかが、関わってくる気がしています。

世界的には、コミュニティや地域などのWell-beingについて、そしてそれらの度合いを上げるためのサービスは、考えられていないのでしょうか?

石川 そこを誰が担当するかと言うと、どうしても政府になりますよね。

藤本 自治体などですか。

「幸せを感じる力」を個人で高めていくことが重要

 なぜWell-being度を上げたいのかが、やっぱり分からないんですよね。

そこが気持ち悪いです。

石川 まあ、上げるのか、深めていくのか、ですね。

  僕は上げるという概念が、ない。

石川 それは、僕もそう思いますね。

 年をとっていけば体にガタがくるし、それを受け入れる力も必要です。

ですから、より良く生きていくには、時間軸と…、「これでいいんだ」と認めていく力を個人が増幅していけば、死ぬ時にきっと幸せなのです。

これはトレーニング可能であり、マインドフルネスとは、トレーニング方法です。

フルにしていけばいいだけであって、みんなネガティブだから幸せのボルテージを下げてしまうのですが、自分で上げるくせをつけて、戦争下でも、どんな状況下でも維持できることがすごく重要です。

年をとって、とったなりの諦めができる状態において、「幸せを感じる力」を個人で高めていくことがすごく重要です。

トレーニング方法をきちんと学べば、どんな状況下でも楽しいと思えるのです。

藤本 なるほど。負の解消ではなくて、ゼロからプラスにするのは、上げるという意味ではなく…。

 たまっているものがあるけれど、日々そこから抜けていっているのです。

ですから、そこに液体のようにたまっているものを、適切に、適当に、ずっと保持しようとするためのトレーニングをしておくと、どんな環境下でも保持できるようになります。

でもみんな抜けてしまう生き方をしているので、どんなことがあっても、例えば金持ちになれたとしても、抜けていってしまうのです。

ですから、金持ちになって始めるのが、禅などマインドフルネスを学ぶことです。

あれはトレーニング方法であり、どんな状況下でも一定のものを…。

石川 何かを深める時はゼロです、無に向かって行くのです。

だから、ゼロは通過するものであり、立ち返るべきものです。

マイナスもゼロに、プラスもまたゼロになります。

まずゼロというポイントがあり、振り子のようにプラスになったり、マイナスになったりしているということです。

 僕の場合いつも、ぽわーんとした、液体っぽいものになっています。

液体はわーっと色々なところに散っていますが、それが宇宙に行くと、ふわーっと徐々に戻ってきて、ぽぽぽんと集まって一つになり、それが保持される、みたいなイメージです。

石川 オノマトペが多いですね(笑)。

 だから、記事にするといつも、僕の発言は長いんですよ。

石川 ふわふわとか、ぽわんとか。

 でも、ここで聞いている人は、僕が言っていることが分かるでしょう?

話を戻すと、大元のWell-beingも、きちんとトレーニングされていれば維持できるものではないかと思います。

(続)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸

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