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2月17日~20日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。本レポートでは、DAY2(2月19日)の午後に開催されたテーマ特化型カタパルト「ソーシャルグッド・カタパルト」の様子をお届けします。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページのアップデートをご覧ください。
▶ICCサミット FUKUOKA 2020 開催レポートの配信済み記事一覧
気鋭の起業家が事業ピッチを繰り広げるICCサミットの人気コンテンツ「カタパルト」。“スタートアップの登竜門” スタートアップ・カタパルトをはじめとした定番セッションに加えて、毎回、いくつかの「テーマ特化型カタパルト」が開催される。
本レポートでは、今回のICCサミットの2つのテーマ特化型カタパルトから、DAY2(2月19日)の午後に開催された「ソーシャルグッド・カタパルト」の様子をお伝えする。もう一つの「AIカタパルト」については、別レポートを参照されたい。
▶注目AIスタートアップが集結!新企画「AIカタパルト」に見た起業家たちの“Co-Creation”【ICC FUKUOKA 2020レポート】
新たなカタパルト企画に、5名の社会起業家が集結
ここで、本セッションに登壇する5名の社会起業家を紹介したい。
今回がICCサミット初参加の長坂 真護さんは「代表取締役美術家」の肩書を持つアーティストだ。
アフリカ、ガーナのスラム街の貧困問題への取り組みをご紹介いただく。登壇前の取材に対して「今日は、ペインティングをしながらプレゼンします。ドキュメンタリー映画も作製していて、少しでも僕らの活動を伝えられればと思います」と話した。
Homedoorの川口 加奈さんは、ICC FUKUOKA 2019 カタパルト・グランプリ 3位入賞の社会起業家だ。大阪市北区を拠点に、ホームレス状態の人たちの就労・生活支援事業を展開する。
「最近は、ネットカフェやファストフード店で夜を過ごす“見えざるホームレス”と呼ばれる状態の人たちが増えてます。ICCサミットの皆さまにもこの問題を知っていただき、ご協力いただける方を一人でも多く増やせたらなと思います」と意気込みを語った。
ボーダレス・ジャパンの田口 一成さんは、ICC KYOTO 2019の高評価セッション「ソーシャルビジネスが世界を変える!」に続いてのICCサミット登壇となった。
国内外の社会課題の解決を目指して、年間100社の創出を目指すボーダレス・グループの取り組みをご紹介いただく。
e-Educationの三輪 開人さんは、本セッションのプレゼンター兼ナビゲーターであり、ICCサミットの運営スタッフとしてこのB会場の共同統括も務める。三輪さんといえば、動画再生回数71万回超の「カタパルト・グランプリ」の優勝プレゼンテーション。
そしてラストバッターは、「子どもが売られる問題」の解決を目指すかものはしプロジェクトの村田 早耶香さん。ICC KYOTO 2018 カタパルト・グランプリでは準優勝に輝き、本日午前に開催された今サミットのカタパルト・グランプリでは審査員を務めた。
事前の取材に対して、「今回のカタパルト・グランプリでも、“社会にどう貢献するか”がベンチャーの皆さまの評価軸の一つになっているなと感じました。そうした方々のビジネスと、私たちのような寄付型のNPOがお互いに連携すれば、もっと色々なことができるのではということを、本日は伝えたいです」
社会起業家たちの、14分間のプレゼンテーション
ナビゲーター兼プレゼンターを務めた e-Education 三輪 開人さん
三輪さん「一つ前の時間帯で開催された『AIカタパルト』に続き、本セッションが今回のICCサミットの最後のカタパルトになります。テーマは『ソーシャルグッド』です。プレゼンターの一人として、テーマ特化型ならではの“深さ”にワクワクしています。
この『ソーシャル』には二つの意味があると思っています。一つは、文字通りソーシャル・イシュー、すなわち社会課題をテーマにしているプレゼンターが集結していること。そしてもう一つは、ソーシャル・ネットワークです。
インターネットを使って、人と人がつながる時代です。今まさにこの瞬間、このセッションの模様はICCのウェブサイトから世界中に向けてライブ中継が配信されています」
そう言って、三輪さんはライブ視聴ページのQRコードをステージ後方のスクリーンに表示した。
三輪さん「皆さんがこのURLをSNSでシェアすることで、本セッションはこの会場だけでなく、福岡から九州へ、九州から日本全国へ、そして世界へと届きます。
私たちの声が、どこまで届くのか。ぜひ皆さんの力を貸してください。そして、皆さんの大切な人と一緒に、ソーシャルグッドを考える時間になれば幸いです」
◆ ◆ ◆
ここでは、各プレゼンターのピッチ内容をダイジェストでご紹介したい。ピッチ動画の一般公開を承諾いただき、それぞれの末尾にYouTubeリンクを挿入している。あわせてご覧いただきたい。
スラム街の貧困を“サステイナブル”に解決する「MAGO CREATION」
MAGO CREATION 株式会社 代表取締役美術家 長坂 真護さん
「今日は僕のソーシャルビジネスのすべてを、14分にまとめて話したいと思います」
そういう長坂さんがスクリーンに映し出したのは、ガーナの国旗を模した一枚のアート作品。
これらは全て、ガーナのスラム街“アグボグブロシー”に捨てられた電子廃材を画材として用いている。長坂さんは、こうしたアートを先進国で販売し、その収益を現地に還元することで人々を貧困から救うことを目指す。
それらの収益でスラム街に無料で通える学校を開校し、観光客やメディアを呼ぶミュージアムを建設した。
長坂さんは途中、一編の映像を紹介した。
これは、長坂さんの活動を紹介したドキュメンタリー映画のトレイラーだ。エミー賞授賞歴のあるカーン・コンウィザー氏が監督を務め、2020年の公開を目指す。
長坂さんがこうした活動を通じて訴えるのは、彼の考える「サステイナビリティ」の構図だ。キャンパスに「文化」「経済」「環境」の三要素を描き、彼が追求するサステイナビリティを解説した。
いわゆる企業のCSR活動は「経済」で得た利益を「環境」に投じることが中心だが、そこに循環はない。一方、長坂さんが挑むのは「文化」→「経済」→「環境」→「文化」の循環だ。
スラム街から生まれたアートは先進国で経済的価値を生む。アートが作られれば作られるほど、スラム街のゴミは減る。アートが収益を生むことを知った若者たちは、より文化的な活動を通じて生活の糧を築くことを知る。彼はこれをCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造 )だと説明する。
現在、東京のスタジオを拠点に、ロサンジェルス、大阪、滋賀、の三箇所でギャラリーを展開する。今期は5億円の売上を目標とするとともに、プレゼンテーションの最後には、映画の製作費をクラウドファンディングで呼びかけた。
ICCサミット終了後、3月中旬に募集を終了したプロジェクトは、目標金額の150%超となる総額3,100万円を達成した。
▶MAGO CREATION 長坂さんのプレゼンテーション動画(YouTube)
ホームレスからの“脱出”を6つのステップで支援する「Homedoor」
「ええか、あんた、絶対に新今宮の駅は降りたらあかんよ」
「えっ、なんでなん?」
「なんでもや」
川口さんがホームレス問題に興味をもったのは、14歳のときに母親と交わしたこんな会話がきかっけだった。“あいりん地区”とも呼ばれる大阪・釜ヶ崎は、日本で一番ホームレス状態の人たちが集まる場所とされる。その最寄駅にずらりと並ぶブルーシートを見て、14歳の川口さんは疑問に思った。
何でホームレスになっているのだろうか? 川口さんの心のどこかに「頑張らなかったから、勉強しなかったからではないか」「自業自得なのでは」という思いがあったという。炊き出しのボランティアに参加しながら、施設の方にその疑問をぶつけてみた。そこで返ってきた答えは意外なものだった。
若者ホームレスの10人に1人が、児童養護施設出身者。さらに3人に1人が、母子・父子家庭出身者。その他、病気や怪我、虐待、介護離職など、自分ではどうにもできない理由が貧困を招き、ホームレス状態に陥る原因となっていることを知った。
2010年に川口さんが設立、今年10周年を迎えるHomedoorは、そうしたホームレス状態の人たちの就労・生活支援を行う認定NPO法人だ。
Homedoorでは、「路上脱出」の高い壁をホームレスの人たちが着実に乗り越えられるよう、6つのステップに分けて支援する。
Homedoorウェブサイトより
1つ目のステップは「届ける」こと。ネットカフェにポスターを貼ったり、「夜回り活動」を通じて、路上生活する方々に食事を手渡ししながらチラシを配り、情報を届ける。。2つ目のステップは「選択肢を広げる」こと。チラシなどを見て訪れる相談者一人ひとりにあわせて、今の生活から脱出する方法を提案する。3つ目のステップは「暮らしを支える」こと。5階建てのビルを借り上げ、18の個室を擁する宿泊施設を提供し生活のサポートを行う。
そして4つ目のステップが「働くを支える」こと。ホームレスの人の7割が得意とする自転車修理のスキルを活かしたシェアサイクル事業「HUBchari」を通じて雇用を生み出した。その他、駐輪管理等の仕事を企業・行政から受託して、彼らに提供する。
5つ目のステップは「再出発に寄り添う」こと。居宅生活への移行をサポートする。そして6つ目のステップは、そうした活動を講演やワークショップを通じて「伝える」こと。
川口さんは、こうした活動の必要性を「貧困から抜け出せない負のトライアングル」で説明する。
ホームレス状態から脱出するために、お金を稼ぎたい。しかしそう思っても、そこには「仕事に就くにはお金や住まいが必要」というパラドックスが存在する。面接のためには身なりを整え、電話をかける必要がある。仕事が見つかったとして、賃金が振り込まれるまで交通費や食事代を負担する必要がある。携帯電話の契約、銀行口座の開設、年末調整などの諸手続きには、住所が必要だ。
家を借りるにも当然初期費用がかかるため貯金が必要だ。そればかりか「住民票」を求められるため家が借りられない。こうした負のトライアングルを断ち切るために、Homedoorは「とりあえずここに駆け込んだら、何とかなる」、そんな場所を目指す。
川口さんは、支援を必要とするホームレスの方々を“おっちゃん”と愛称で呼ぶ。あるおっちゃんは、路上脱出できないまま、最後まで名前を知ることもないまま、知らぬ間に亡くなっていたのだった。
今年度の相談者数は前年度の2.3倍となる748名に達しており、Homedoorの運営を逼迫しているとのこと。Homedoorの活動は、毎月1口1,000円からの寄付で支援することができる。プレゼンテーションの最後、川口さんは会場に向けて「おっちゃんサポーターになってください」と呼びかけた。
▶Homedoor 川口さんのプレゼンテーション動画(YouTube)
社会課題解決のため、年間100社創出を目指す「ボーダレス・ジャパン」
株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役社長 田口 一成さん
「ボーダレス・ジャパンは、一言でいうと『ソーシャルビジネスしかやらない』会社です」
ピッチの冒頭でそう言い切った田口さんは、25歳で大手製造・流通企業のミスミから独立し、ボーダレス・ジャパンを創業した。
現在、世界12ヵ国でグループ会社33社が独自の事業を展開し、その売上はグループ全体で約49億円に及ぶ。その事業ポートフォリオで唯一共通しているのは、「ソーシャルビジネス」すなわち社会課題を解決するためのビジネスであるという点だ。
規格外野菜の販売網をつくり「フードロス問題」に取り組む事業、企業で不要になったPCのリユース事業を通じて「難民雇用」に取り組む事業、ミャンマーの貧困地域での「マイクロファイナンス」の取り組みなど、そのバラエティは多岐にわたる。
ボーダレス・ジャパンのソーシャルビジネスの例(同社ウェブサイトより)
精神・発達障害がある方が活躍できる場の創出を目指すUNROOFプロジェクトでは、障害のために継続した就労に難しさを感じる方々が一流の革職人としてステップアップする機会を提供し、財布・名刺入れなどの革製品を販売する。
田口さんは壇上から、UNROOFの理念に共感し、そうした活動を広めるUNROOFアンバサダーへの参加を会場に呼びかけた。
UNROOF(アンルーフ)紹介動画(YouTubeより)
田口さんがこのように複数のソーシャルビジネスを展開するのは、「社会起業家の数が増えたら増えただけ、解決される社会問題の数が増える」と考えるからだ。そのために、ボーダレス・ジャパンでは「年間100社が生まれる仕組み」の創造を目指す。
その一つに、社内における新規事業創出と事業支援の仕組みがある。社会起業を目指して入社した社員は、グループ会社での修業期間を経て、事業プランを提案してそれがグループ社長会から承認されれば、新会社の社長として新規事業を担当することができる。
特徴的なのはここからだ。事業が単月黒字になるまでの間は、“スタートアップスタジオ”と呼ばれる専門部隊がマーケティング支援に入り、プロモーション、ブランディング、デザイン、システム開発などのサポートをすべて無償で受けることができる。
さらに、“バックアップスタジオ”と呼ばれるバックオフィス機能の部隊の支援が入り、人事・労務、総務・法務、経理・ファイナンスなどの経営支援を受けることもできる。黒字化後はグループ会社社長が4人一組となり、各々の経営課題を共有して共同解決を試みる。
こうした仕組みの根底にあるのは、田口さんが「恩送り」と呼ぶ相互扶助システムの考え方だ。
グループ企業各社は採用・報酬・投資に関して独立経営を行う一方、グループ全体を「共同経営体」とし、各社で生じた余剰利益はグループで共有される。スタートアップのための資金やスタートアップスタジオ、バックアップスタジオが可能なのはこのためだ。
新しい事業が伸びれば伸びるほど、共通のポケットは大きくなり、さらに新しい事業が立ち上がる。新たな仲間が増えれば増えるほど、グループ内でのアイデア・ノウハウが共有されてゆく。
しかし、田口さんは「これだけでは社会課題の解決には足りない」と話す。そのためのもう一つの取り組みが、社会起業家を目指す社外の人材を集め、ソーシャルビジネスの芽を育てる「ボーダレスアカデミー」の取り組みだ。
一平ホールディングスの村岡 浩司さん、ファクトリエの山田 敏夫さんら、ICCサミットでもおなじみの起業家が講師となり、4カ月間にわたって事業プランを磨く社会起業プログラムだ。
授業料は20万円と決して安くない金額だが、無事起業することができれば、その授業料は受講生に全額返金される。田口さんはプレゼンテーションの中で、ボーダレス・アカデミーの取り組みを「完全に社会活動としてやっている」と話した。
「世の中には社会課題を解決するためのいいアイデアがたくさんあるのに、そうしたいいアイデアは広まらない。それこそが社会課題だ」とする田口さん。
「『年間100社が生まれる仕組み』をどうやってつくり、実現するかを考えながら、僕たちは頑張っています。よろしければ、ボーダレスアカデミーに、皆さんのご協力をいただければうれしいなと思います」と締めくくった。
アジア最貧国に、最高の授業を届ける「e-Education」
特例認定NPO法人 e-Education 代表 三輪 開人さん
冒頭、今日のプレゼンテーションの3つの目的を挙げたe-Educationの三輪さん。
「バングラデシュという国の可能性を、知っていただきたい」
「私たち、e-Educationの新しい取り組みを知っていただきたい」
「仲間になっていただきたい」
Homedoorと同じく2010年に創業したe-Educationは、今年で丸10年。当時アジア最貧国と呼ばれたバングラデシュから全ては始まった。大学に行くために、深夜の街灯の下で勉強する若者たち。その姿に感銘を受けた三輪さんは、“バングラデシュ版の東進ハイスクール”をつくった。
首都ダッカの予備校街を探して出会ったカリスマ講師の映像授業をDVDにして貧しい農村に届けた。1年目、奇跡は起きた。e-Educationの教材を使った生徒の一人が、バングラデシュの最難関大学ダッカ大学に合格を果たしたのだ。その後、e-Educationは10年間連続でダッカ大学合格者を輩出し続けている。
バングラデシュの教育大臣からの表彰、第1回デジタル教育国際会議の開催と順風満帆に見えたe-Educationの活動だが、2016年に予想外の転機が訪れる。
日本人8人が死傷したダッカ・テロ事件だ。犯人とされる若者たちの中には、現地のトップ大学の卒業生も含まれた。「勉強をして、現地の有名な大学に行けば、彼らの夢がかなえられる」そう信じて活動し続けてきたのに、なぜ彼らがテロリストになることを止められなかったのか? この葛藤は、三輪さんを悩ませ続けた。
プレゼンテーションの途中、2018年に放送されたNHKのドキュメンタリー番組「明日世界が終わるとしても」の動画が紹介された。
テロ事件の翌年、再びバングラデシュに赴いた三輪さんは、現地の学生3,000人と対話を重ねた。テロ事件の加害者すべての出身大学にも赴いた。e-Educationの元生徒とともに再開し、隣国ミャンマーとの国境に集まるロヒンギャ難民の支援活動を通じて、そこに新たな希望を見出す。
その希望とは、他ならぬバングラデシュの若者たちだ。
三輪さんは「彼らは誰かの命を奪う存在ではなく、何万人、何十万人という人たちの命を救うことができる人間です」と語る。
今年4月にバングラデシュで予定されていたe-Educationの共創型カンファレンス「Society Co-Creation」は、残念ながら新型コロナウイルス感染症の拡大により延期の運びとなったが、三輪さんなら必ずやこの事態からも這い上がり、バングラデシュの希望を次世代につなぐに違いない。
子どもが売られる問題に挑む「かものはしプロジェクト」
2002年、20歳の時にかものはしプロジェクトを創業し、18年間にわたってアジアにおける児童の人身売買問題に挑む村田さん。現在のインドでの取り組みの原点となるカンボジアでの活動は、2004年にスタートした。
2000年代初頭のカンボジアでは、売春宿に従事する女性のうち、実にその30%が18歳未満の児童だったという。その数字は、様々な団体の活動の甲斐あり、2015年にはわずか2%にまで激減した。
どのような取り組みを行ったのか? 一つは、「売らせない」ための活動だ。被害女児の多くは農村の最貧困家庭から来ていることが判明した。そこで農村に雑貨工房をつくり雇用を生み出すことで、貧困が原因で子どもが売られない仕組みを築いた。
もう一つは「買わせない」ための活動だ。カンボジアでの児童買春を解決する上での一番のボトルネックが、加害者逮捕が適切になされていないことだった。そこで、かものはしプロジェクトでは警察による取り締まりを強化する研修をカンボジア政府と提供することで、加害者逮捕件数の増加を実現した。
かものはしプロジェクトが次なる活動先として選んだのはインドだ。インドでは、子どもと大人をあわせると、性的搾取を目的とした人身売買の被害者は100万人近くにも及ぶとされる。
インドにおいても、かものはしプロジェクトは二つの側面から問題の解決を図る。一つはサバイバーつまり被害者の支援だ。州政府などの行政サービスと繋げる支援やカウンセリング提供、または裁判の支援を通じて、被害者が村での生活を取り戻せるようにサポートする。そこでは、過去に支援を受けた方々が、現在の被害者のサポートに回る、そんな好循環が生まれている。
カンボジアと同様、「買う側」の取り締まりの強化にも力を入れる。広大な国土を持つインドでは、州ごとの自治が強く、そのことが州をまたいだ加害者逮捕のハードルとなっている。そこでかものはしプロジェクトとインドのパートナー団体が目指したのは新法の成立だ。
新しい法律をつくり、インドの中央警察に特別部署をつくり、どの州に対しても被害者の保護と加害者の処罰ができるような制度変革を目指した。そう声を挙げたのは、他でもない、かつてかものはしの保護を受けて、今新しく保護される被害者たちの支援を行うサバイバーたちだ。
法案は2018年8月にインド下院を通過するも、残念ながら法案成立には至らなかった。彼女たちは、次の国政選挙までに新しい法案をつくるとしている。
村田さんは「子どもが売られる問題をなくすために、日本からできることがあります」と、かものはしプロジェクトへの支援をよびかけた。
実は、すでにICCサミット参加者からの支援の輪が広がりつつある。昨年のICCサミットで行われたソーシャルビジネスのセッションによると、dofの齋藤太郎さんが法人として、FiNC Technologiesの溝口勇児さんや、メルカリの小泉文明さんが個人として支援をされているそうだ。
▶かものはしプロジェクト 村田さんのプレゼンテーション動画(YouTube)
ICCサミットに見た“ビジネス”と“ソーシャル”の交差点
全てのプレゼンテーションが終わると、5名のプレゼンターは再び壇上にあがり、ナビゲーターの三輪さんがクロージングの言葉を述べた。
三輪さん「改めまして、本日はソーシャルグッド・カタパルトにご参加いただきありがとうございました。私たちが取り組む社会課題は、こうして人から人へと伝わることで、少しずつ解決に向かっていきます。よろしければ、ぜひ今日のセッションで知ったこと、感じたことを大切な人に伝えてもらえたら嬉しいなと思います。本日は本当にありがとうございました !」
セッションの終了後、プレゼンターの皆さんに登壇を終えての感想を伺った。
長坂さん「僕が本日お話しした『サステイナビリティ』に対する取り組みは、よく慈善事業とか社会環境活動とか、“悲しいこと”を題材にいしてるとか言われるのですが、そうではなくて、そこにビジネス性を持ち込んでしっかりと解決して行こうというのが僕のマインドです。貧困地がどれだけ大変なのかは、もちろん身を持って知っています。でもそれを指を加えて眺めてるんじゃなくて、その問題を解決することが、本来我々経営者の必要必須項目だと思っています。皆さんにもそうした概念、サステイナビリティの精神性をもってお金を稼いで欲しいと思っています」
川口さん「偶然ではあるのですが、直前で話されていた長坂さんがアーティスティックに表現された『サステイナビリティのトライアングル』が、私がまさにお話した点に通じる部分があるなと思い、ちょっと驚きました。
長坂さん以外にも、ソーシャルイシュー、ソーシャルグッドという面以外にも、同じように伝えたいところがあり、共通項を見つけたような気がしました 」
三輪さん「他のプレゼンターの方たちの話に聞き入ってしまって、珍しいことに自分の話すことが少し飛びそうになったぐらいでした。こうやって一緒の舞台に立って、同じ社会課題というものに向かっていることを確かめることができ、力をもらいました。まだまだ頑張らなければいけないです」
◆ ◆ ◆
今回5名の社会起業家のプレゼンテーションから感じたのは「継続性」そして「持続性」の二つの言葉だ。
言うまでもなく、貧困や児童虐待などの社会課題を解決するには、年単位の継続的な取り組みが必要だ。課題の規模が大きければ大きいほど、村田さんがカンボジア、そしてインドへと活動の場を広げたように、物理的にも膨大な時間を擁する。しかし田口さんがピッチで語ったように、継続することでその声に呼応する仲間は増え、ノウハウは蓄積し、解決に要する労力は少しずつ低くなってゆく。三輪さんが困難の中で希望の光を見出したのも、かつての生徒や仲間の存在があったからだ
似たような言葉ではあるが「持続性」の重要性も強く感じた。運営費が底をつき、継続中止を余儀なくされたり、単発の取り組みで終わってしまうNPOも少なくない。社会課題の解決に、どのように持続性(サステイナビリティ)を取り込むのか? 一つの明確な答えは「ビジネス」だ。長坂さんや田口さんが取り組むように、連続的に収益を上げ自律自走できる仕組みを構築することは、ソーシャルグッドに求められる大切な要素の一つであろう。
ビジネスカンファレンスであるICCサミットには、よりよい社会実現のために、こうした社会起業家の声に耳を傾け、“ソーシャル”と“ビジネス”が積極的に交わる土壌ができつつある。今回の「ソーシャルグッド・カタパルト」は、まさにその交差点であるように感じた。
(続)
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/蒲生 喜子/戸田 秀成
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