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9月4日~7日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、ICCサミット最終日に開催され、「病児保育」のサービスを伝えるグッドバトンの園田 正樹さんが優勝を飾ったソーシャルグッド・カタパルトの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2024は、2024年2月19日〜 2月22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
ICCサミットの3日目といえば、ソーシャルグッド・カタパルト。今や最終日の目玉カタパルトというだけでなく、7つあるカタパルトの中でも人気コンテンツに成長した。
今回はスタートアップ・カタパルトで審査員を、リアルテック・カタパルトで特別ゲストとして毎回スピーチをするユーグレナ / リアルテックファンドの永田 暁彦さんが特別ゲストとして参加する。ICC代表の小林 雅が一緒に食事をしているときに「ソーシャルグッドにも来ませんか?」と聞いたところ、二つ返事で引き受けてくださったそうだ。
永田さんはICCでは経営やファイナンス系の登壇が多いものの、この7月からヘラルボニーの経営顧問に就任。パタゴニアのプロセールス(自然環境保護活動などを行う個人に登録を認めるプログラム)であり、ユーグレナを立ち上げる際の出雲さんや、すぐには結果が出ない研究者を支えるリアルテックファンド、ご両親はソーシャルグッドに現在も従事しており、そういう人たちを幸せにしたいと働く、根っからの”こっちの人”である。
▶6期目を迎えるヘラルボニー、ユーグレナCEO 永田暁彦が経営顧問に就任。「福祉実験ユニット」から「福祉実験カンパニー」へ(PR TIMES)
過去の優勝者であり、今は優勝賞品提供者として登壇するヘラルボニーの松田 崇弥さんと偶然のペアルックを披露しながら、3日目の会場にいる姿は新鮮で、リラックスした表情だ。
今回は運営スタッフにもソーシャルグッド・カタパルトを愛する”初参加”メンバーはいて、荒木 珠里亜さんとともにWナビゲーターの1人を初めて務める安藤 輝人さんは、過去の伝説回となったICC KYOTO 2021のカタパルトの中継映像を、事あるごとに見返して自分に発破をかけているという。
▶「逆風の中で、声を掛け合って支え合い、励まし合おう」心が震えた“伝説の”ソーシャルグッド・カタパルト【ICC KYOTO 2021レポート】
カタパルト登壇者は、朝の7時半に会場に集まっている。壇上のリハーサルを終え、思い思いのスタイルで準備をしている登壇者の方々に話を伺った。
課題を知り、友人になると、放っておけなくなる
Sunda Technology Globalの坪井彩さんは、アフリカの課題解決に取り組むNPOで働くICCの運営スタッフ、川島 綾香さんの友人。ウガンダで安全な水を確保する課題に取り組んでいる。そもそもなぜアフリカなのか?
坪井さん「元々そのアフリカでソーシャルビジネスをしたいと思い、日本から遠隔医療など色々考えていたんですが、なかなか解像度が上がらなかった。やるのであれば現地に行かなければと反省し、ウガンダに1年間JICAの協力隊で行ってきました。川島さんとはその時に出会いました。
現地で実際に色々とお話をして、井戸の維持管理問題を知りました。アフリカに実は井戸はたくさんあるのに、維持管理のための料金回収ができておらず、足りていない。回収できると思って私も実際やってみたんですが、本当に難しい。定額で現金回収する仕組み自体が原因だと思いました」
その解決策はプレゼンで語られている通りで、ウガンダ人のエンジニアと共同創業し、日本の技術で装置を作り、日本とウガンダが対等なタッグを組んで取り組むことがうまくいくコツなのだという。前述の友人の川島さんしかり、坪井さんはなぜ頑張れるのか。何がモチベーションなのか。
「国際協力の世界だと、男性より女性が多い印象です。女性のほうが環境に適応しやすいのかもしれませんね。 でも現地に実際に行って話を聞き、友人になってしまうと、多分誰でも、どうしても放っておけなくなるんじゃないでしょうか。
現地は欧米人が圧倒的に多くて、中国の方は大きな道路を通したり、通信環境をバーっと整備するなどインフラ系が強い。私達のやっているような住民と密なコミュニケーションが必要な細かいサービスや生活に関するものは、日本人が得意とすることなんじゃないかと思います」
▶持続可能な井戸管理で、アフリカに安全な水を届ける「Sunda Technology Global」(ICC KYOTO 2023)
緊急事態を知らずにいるのは、無視しているのと同じこと
このカタパルトは、世の中のさまざまな課題が対象となり、ICCサミットのなかでも最も国際色がある。Alazi Dream Project下里 夢美さんも、アフリカのシエラレオネで課題解決に取り組んでいるが、そのきっかけは「偶然テレビで観て課題を知ったから」。それだけで行動できるような人たちが、ここには集まっている。
下里さん「貧困によって自力で学校に戻れない社会構造があっても、女の子たちは日本人と変わらず夢を持っています。看護師になりたいとか。自分には赤ちゃんがいるので助産師になりたいとか。
▶妊娠で6人に1人が退学、西アフリカの女の子が夢を持ち努力できる社会を創る「Alazi Dream Project」(ICC KYOTO 2023)
シエラレオネは私が生まれた年から約11年間内戦をしていて、昔は世界で一番寿命が短い国と言われていました。アフリカの貧困は昔から常態化しているように見えるかもしれないけれど、子どもが学校に行けないのは緊急事態。そういうことを知らずにいるのは、世界が無視しているのと同じこと」
そう言って下里さんは「YouTubeで配信されて、活動を知ってもらえるのはすごくラッキーです。話すのが楽しみです!」と微笑んだ。下のリンクで紹介するnoteには、下里さんと同じ名前を持つ子どもが2人もいることが紹介されている。無視せずに向き合ってくれる人がいることを、下里さんが向き合う人たちは知っている。
▶「世界で一番優しい人々」への恩返し(note)
偏差値では得られない、生きる力を「越境」で養う
それに比べるとはるかに恵まれている日本だが、現在の教育に過去のカタパルト登壇者も多くの疑問を投げかけてきた。地域・教育魅力化プラットフォームの尾田 洋平さんもその1人である。
尾田さん「地方に面白い高校がたくさんあって、都会の子どもたちがいわゆるコンクリートジャングルの中だけではなく、五感をフルに活用して高校時代を過ごすことにより、生きる力みたいなものを育む。都会から生徒が来ることによって、地域の生徒にとっても良い関係を作る。そんな事業を全国110のエリアで展開しています」
多感な時期に、地方のユニークな学校で五感の学びを得る。沖縄や北海道の離島にある高校や、焼き物の里にある高校、全国の魚好きが集まる水族館のある高校……確かに面白そうだが、いい大学に進学したいと考える子どもや親は、実際行こうと考えるのか?と、意地悪な質問をしてみた。
尾田さん「都会だと親と学校の先生と塾の先生と同質的な中で育ちますし、偏差値という物差し1つしかない中で育まれるので、そこから漏れてしまうとやっぱり自己肯定感が落ちてしまうんですよね。
自分が自分でいいんだというのを違う環境でも体験、体感するみたいなことがこれからの時代はすごく大事だと私自身思っていて、地域留学を検討する人が 2011年に1,000人だったのが、2022年は5,000人まで増えているんです。社会的ニーズは高まってきているように感じています」
尾田さんは、偏差値で進学先が決まり大企業に入るというルートに違和感を感じ、社会人になったときに生き生きと働く同僚の背景を見て、生きる力を育むには「一歩踏み出すような経験で、違う社会に触れるのが大事」と2018年に事業を始めた。地域留学を経て輝く子どもたちを見ると、心から嬉しくなるという。
▶国内「越境」留学で意志ある若者を育み、持続可能な地域・社会を創る「地域・教育魅力化プラットフォーム」(ICC KYOTO 2023)
自分たちだけで頑張るには限界があるから、みんなで
「あのあと先生に会いまして、頑張ってこいと言われました(笑)」と言うのは、ウィーズの光本 歩さん。7月に開催した登壇者向けのイベント「カタパルト必勝ワークショップ」で、メンターたちに「恩師に会ってコメントをもらってみたら?」とアドバイスされていた。
「家庭環境に悩む子どもの支援について、7分で伝えたいことがたくさんあったのですが、最終的には皆さんにこれからお見せするスライド、プレゼンに残ったものが、私の伝えたい全てというのを、作っている過程で自覚しました。
▶生い立ちで生まれた負の感情を癒やし、応援して伴走する人がいることを伝える「ウィーズ」(ICC KYOTO 2023)
実は結構、自分たちで内部で頑張ってきたことが今まで多かったんです。でもそれだけでは限界がある。皆さんの得意分野のお力を借りながら、ぜひ一緒に取り組んで、ともに作る未来につなげていきたいと思っています。
家に居場所のない子どもたちに、応援しようという大人がたくさんいるとわかってもらえたらいいなと、ちゃんと関心を持っている大人がいると伝えること、言葉なのか声なのか何でもいいですし、もしかしたら寄付なのかもしれないですが、ぜひ力を貸してほしいと思います。
今まで人前でお話しする機会や、いろんな方にお会いする機会はあったんですが、ICCは群を抜いて熱い。小林さんをはじめ、スタッフさんも、参加者も、登壇者もそうだし、みんなが本当に熱くて、学びが多い場所だと感じています。
メディアで見てる方とかもたくさんいらっしゃって、ずっと活動を聞いていたけど、知りたかったことをプレゼンを通して学べたり、昨晩のCo-Creation Nightもすごく和気あいあいと対等な雰囲気で、私は初めてなのに皆さんお話ししてくださって、新たな出会いもたくさんいただいて、名刺がすぐ無くなってしまいました」
国や社会が取り組むべき課題を、1人でもやる
グッドバトンの園田 正樹さんを探したが、登壇者が待機する席にはいなかった。会場を見渡すと、入り口のバリスタブースの横を行ったり来たり歩いており、このくらいの距離まで近づくと、聞こえるくらいの声を出して、ひたすらプレゼンの練習をしていることがわかった。
「働くお母さんが最も困ることは子どもの急病時の仕事の調整です。そういったお子さんが…」
と言ったところで、こちらに気がつき笑顔を向けてくれる。産婦人科医の園田さんはいつもにこやかで、こういうお医者さんならば、小さなことでも相談できそうという安心感を与える人だ。
園田さん「家族だけで子育てをするんじゃなくて、もっと社会全体で子育てをするっていうことを当たり前にしていきたいというのを『あずかるこちゃん』のサービスで伝えたい。『病児保育』ををまず知ってほしい。知らない人が本当に多くて、実は僕も産婦人科医なのに7年前まで知らなかったんです」
▶地域の子育て支援の専門家と家族をつなげる「グッドバトン」(ICC KYOTO 2023)
この数年、園田さんをはじめ、医療関係者はなかなか大人数が集まる場に来ることはできなかったし、いまだに多くの病院が飲み会などは禁じられているそうだ。そんななかで働きながら小さい子どもを抱える親を思い、「急な発熱などの病児を預かる」保育所にはできない解決策が地域にあることを伝えたいと言う。
まさにソーシャルグッドのど真ん中、しかしなぜこれを国や地域が呼びかけないのか?と思ったが、すぐに今日登壇する全員がそうであると気がついた。
話を聞く時間はなかったが、若者がシニア世代の相棒となり相互の人生を豊かにするAgeWellJapan、海の環境変化をモニタリングするMizLinx、生物多様性のため「環境保全」を儲かる事業に転換したバイオーム、学びの多様性を実現するeboard、75歳以上の”ばあちゃん”が働く会社を作ったうきはの宝、児童虐待対応の意思決定をAIでサポートするAiCANなど、どれも公的に取り組んでもおかしくないようなもの、しかしそれができていないものばかりだ。
▶海中データを取得する「MizLinx Monitor」で、藻場再生や持続可能な水産業の実現を目指す「MizLinx」
仲間がいることの心強さ
なぜ公的にできていないのか、社会に正しいことに取り組む彼・彼女らに共感や理解はできないのか。せめて誰もやっていないことに取り組む人を応援できないのか。このカタパルトの定番となっているオープニングスピーチのユーグレナ出雲 充さんの怒りはそこにある。
出雲さん「若い起業家の皆さん、お帰りなさい。世界で一番1年間ひどい目に遭った皆さんが、こうやって京都のICCに、生き残って帰ってこられたことを心から歓迎したいと思います。
今年広島でG7のサミットがあり、岸田総理が政府専用機で羽田から広島に行ったときのバイオジェット燃料は我々が作りました。でも記者の人は何も言わず、記事にしませんでした。
初フライトではないし、G7がらみのものは宣伝になってはいけないから記事にしないそうです。地球温暖化対策になるのに、です。とにかく『社会起業家に冷たい国』というのは全く変わっていないです。
私ですらそうですから、皆さんのほうがもっと、もっともっと大変だったと思うんです。でも、これからのビジネスで一番大事なのは、この京都の地で生まれた、京セラ創業者の稲盛 和夫さん、いつも言ってましたよね。『動機善なりや、私心なかりしか』。
ここにいる人たちは全員自信持って言えるんですよ。『動機善なり、私心無し』。
日本を、社会を良くするために頑張ってる挑戦者が今日、この後プレゼンテーションします。生き残ったことを、そして皆さんが成し遂げてきたことを、今日はもう徹底的に拍手で、最高の応援者として激励をして、みんなでお互いを称え合って最高の1日にしたいと思います。
称え合うってね、すごい力が出るんですよ。僕には最高のパートナーがいるんです。彼がいつも、いいね、面白いねって言ってくれるから、こんなに楽しく仕事をさせてもらっています。今日はそれを皆さんにも見ていただこうと思って、一緒に来ました」
永田 暁彦さん「ソーシャルグッド・カタパルト、そして社会起業家の皆さん、はじめまして。ユーグレナの永田です。いつもは、別のセッションに行っているので呼ばれなかったんですけど、ついに来ました。出雲とは出会ってから17年、ユーグレナとしては16年。本当に何も無い更地のところから一緒にやってきました。
僕は、出雲を嘘つきにしたくない。それで誰よりもハードワークして、社会に実装することを目指してやってきました。『永田さんはオーナーでもないのに、なんでそんなに頑張れるんですか?』といつも言われるんですけど、理由は本当にないんですよね。たぶん皆さんあんまり理由は無いと思うんです。
どう言われてもやっぱり優しくて、前に進む人です。だから僕は一緒にやっていこうと思えます。誰に何を言われようと、この僕たちの想いは奪えないと思うんですよね。それがある限り、一緒にやる人間がいることが前に進む力になっていると思っています。
今日プレゼンテーションする皆さんも不安があったり、いろんなことがあるかもしれませんが、今あなたが持っている、心の中に持っていることは誰にも奪えない。それが最強の武器ですし、1人でも肯定する人がいれば、10数年続けていれば前に進めるんです。
今日のプレゼンテーションで1人でも多くの応援する方を獲得して、今日登壇する人の数だけ、今日会場にいる人の数だけ、また社会が前に一歩進めればと思っています。一緒に社会を良くしていきましょう!」
前回優勝者のHelloWorld株式会社の冨田 啓輔さんを中央に挟んで、こんなに全身で嬉しそうな出雲さんは見たことがない。称え合える仲間がいることの心強さ、嬉しさを目の当たりしながら、今回のソーシャルグッド・カタパルトは始まった。2年半前のICC FUKUOKA 2023は1社しかいなかった賞品提供も、現在は仲間が増えて8社となっている。
12組の気迫に満ちたプレゼン
11組のプレゼンターと、富田さんも含めた12組のプレゼンは、以下のリンクから見ることができる。司会の阪上 結紀さんがMizLinxの野城 菜帆さんのプレゼン前に、この日が野城さんの誕生日であることを紹介するなど暖かな雰囲気もありながらも、人生を賭ける事業を気迫を込めて伝え、12組すべてが本当に素晴らしいプレゼンだった。
「ここにいた皆が大きな学びを得て、自分に活かすことができる。拍手は皆さん全員へのものだと思ってほしい」
「全部自分ごとだと感じられました。このカタパルトを子どもたちに聞かせる機会があればいいなと思います」
「こんな社会課題があると知ってしまったが、この人が取り組んでいると知れた」
「今日の結果が終わりではなく、いかに持続可能で世の中に広がっていくかがすべて」
「自分も挑戦者の1人。孤独を感じることもあるが、ここに来て仲間がいることに感動した」
「観客がどんどん増えていて感激した。知った者の責任がある。社会を変える共犯者になってほしい」
「この正しいことがなぜもっと広がらないのか怒りを感じるが、この数年で皆さんは確実に風穴を開けている。大企業や役所が話を聞いてくれるようになっている。それは大きな変化」
審査員たちから語られた感想だ。経営者であったり、かつては登壇者側にいた彼ら・彼女らは、壇上に並ぶ11名に「全力で応援する」「一緒に社会を変えましょう」と呼びかけた。
「何もわからなくても自分はできるんじゃないか?と始めた」
既報の通り優勝したのはグッドバトンの園田さん。ソーシャルグッド・カタパルトは審査員のコメントが熱くて長いのが特徴だが、そこですっかり感動してしまったそうで、優勝が発表されると驚いて言葉に詰まり、しばらく絶句していた。それを会場の温かい拍手が包み、ようやく園田さんは話しはじめた。
「医師として課題を見つけたときに、もしかしたら自分はできるんじゃないかと思い、大学院を休学して、ビジネスも何もわからないうちに始めて……それが7年前のことです。
医療のことしかわからなかったので、顧客である施設の人を待たせてしまい、本当に大変なことがいろいろあって、やっとリリースできたらコロナ禍が来て…。正直この半年ぐらい結構しんどくて、代表として起業家として本当にふがいなくて、一緒にやっているメンバーに迷惑をかけて……。
でも、ICCで出会った皆さんの視座やいろんなものに刺激を受けて頑張ろうと思い、最後までこのプレゼンにかけてやってきたので、涙が出てしまいました。
今日は『病児保育』という言葉、業界の課題を知ってもらえたと思いますが、『産後ケア』についても知っていただきたくて、少しだけお時間をください。
日本では毎年、お産のとき亡くなってしまう以上の人数の方が、産後1年以内に産後うつによって自分の命を断ってしまう。そういったことを防ぎたい。今日は元気でも明日ガラッと変わってしまうのが産後です。そういう方を『産後ケア』で子どもを助産婦さんにお預けして、しっかり休んでもらう事業があります。
▶産前・産後サポート事業ガイドライン産後ケア事業ガイドライン(厚生労働省)
妻が利用した初日に、理由はわからないけれど涙が出たといいました。でも利用のためには市役所に紙を提出しにいかないといけない。これが子育て支援の残念な現状で、本当にいい方たちが素晴らしい支援を作っているから、それを私はちゃんとつないでいきたいんです。
これは僕らだけではできない。皆さんが応援してくださるのを痛感したので、今後ぜひよろしくお願いいたします」
半年前のこのカタパルトで、Kids Public橋本さんも訴えていた「産後うつ」の問題を園田さんは伝えた。こうして繰り返し伝えてもらえることで聞く側も教育されてくる。良い仕組みがあっても活用できていないことはおそらく世の中にたくさんあり、それを使えるものにしていくのは社会にも担える役割である。
8社の賞品提供者たちは、今日のプレゼンを見た感動を止まらぬ言葉で伝え、出雲さんも永田さんも冒頭以上のテンションで、自分たちも社会を変える仲間であることを伝えた。それぞれが事業を止めずに、半年後の再会を約束するおなじみの「ボン・ボヤージュ」も忘れていない。
ここに戻ってくる場所があること、挑戦する仲間、応援し合う仲間がいることを知り、社会起業家が少しでも癒され、力を得ることができるならば、このカタパルトは存在する意味がある。そしてこの盛り上がりは今、どのカタパルトより力強く、産業というのか、新しい流れを創りそうな気運に満ちている。
「これまで以上に頑張ろうと素直に思えた」
カタパルトが終了すると、園田さんは真っ先に審査員席のyuniの内橋 堅志さんに駆け寄った。内橋さんは園田さんのプレゼンのフィードバックを頼まれ、直前に変えられることを2点、伝えたそうだ。
カタパルト・グランプリで優勝したサグリの坪井 俊輔さんのメンターでもあった内橋さんは謙遜しているが、結局今回2人の優勝者のサポーターとなった。かねてから登壇者を助けたいと発言していたが、これからも「当然やります」と言った。よりよい未来を創るために、出し惜しみをしない仲間たちがここにはいる。
内橋さんにお礼を言ったあとは、次から次へとさまざまな人達に祝福されていた園田さん。プレゼンの感想を聞くと「記憶がないなかでプレゼンをしたのは初めて」と言う。
「最後は本当に自分の言いたいことが、無意識に言えた気がします。
自分の中でもやりきったなっていう想いで終われたのでよかったです。今まで長かったし、今日で何かが変わったわけでも何でもないと思うんですが、自分の中では大きな1つの区切りになる時間でした。
何より審査員の方々の言葉が僕にとっては本当にもう大きくて、あれで順位とか関係なくなって、自分の中では良かったなって思っていました。うん、これまで以上に頑張ろうって、素直に思えました」
◆ ◆ ◆
ソーシャルグッド・カタパルトに登壇する人たちは皆、人がどうあるべきか、私たちが生きる世界をいかにあるべき姿に近づけていくかという、最も難しく、本質的な課題に取り組んでいる。社会が大きくなればなるほど難易度は上がるが、いつも使命感をもつ人が取り組んでいる。
出雲さんが毎回、登壇者たちへの応援を促してきたが、このカタパルトは実際右肩上がりに集客を増やしており、終了後のアンケート評価は常に高い。まだ6回目だが、審査員のマザーハウス山崎 大祐さんが言ったように、少しずつ社会の風向きが変わってくるのが感じられるようにもなってきた。
この後、出雲さんはソーシャルグッド最先端の国連に出向くと言っていた。日本の歩みは遅々たるもので、この場を離れれば登壇者たちは厳しい現実に再び向き合わなければいけない。それでも仲間を得て、力を得て、続けることに挑み続けなければ、心優しき社会起業家の心を持った人たちが主役となる社会は作れない。
起業家たちは日々、誰かの不可能だったことを可能にするために努力している。「そんなことは無理だ」「やっても意味がない」と思うかもしれないが、彼ら・彼女らのほうが課題について熟知しており、はるかに想いは強い。それを信じて応援することが、少しでも早く、よりよい未来に近づくのではないかと思うのである。
(終)
編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成
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